最終話 決戦5「エストが世界を滅ぼす」

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「君が鑑定される1か月前……私は3人の人を作った」


 ”3人の人を作った”……とは? 訳が分からず、一瞬疑問に思ったが、すぐさま答えが分かった。


「そう、クリムとリーゼとトート。仲間が多い方が、すぐ信じてくれると思ってね。思春期男子にはうってつけの設定でしょ?」


 古びた建物の中で、過去のレッドさんが文字通り3人の人を作っていた。


《創造魔法》


 何もない所から、粉が舞いあがる。その粉は徐々に人間の形になっていき、身体が出来上がっていく。といっても真っ白な人形だ、とてもここから人間になれるとは思えない。


「うーん、リーゼは身長を高くしてもいいかな」と言うと、少年の身体は高く細くなった。


「代わりに、トートを女の子にして……」と言うと、少女の身体は女の子らしい体つきになった。


「クリムに筋肉をつけるか!」と言うと、少年の身体に筋肉が着いていく。


 人を作る時のレッドさんは楽しそうにしていた。笑みを抑えられず、若干笑い声も漏れている。


「過去の私は3人を作ったあと、すぐに本当の作戦を伝えた。彼ら……最初のうちは、その作戦通りに動いていたのにね」


 ”最初のうち”……と彼女は言っている。徐々に彼らは反抗していったのか、僕の知らないところで。


「正直あの3人は不安だったし……スパイとしてミライを作ったの。適当にそこらの女の子を誘拐して洗脳したのよ。顔も変えて戸籍も偽造してね。直ぐに王国に察知されたけど」


 ミライ……鑑定式の時にもいた。結界魔法を使っていたのも、彼女だった。15歳の少女を誘拐して洗脳した……とても非道なことを彼女はしていたのか。


「他の3人をあえて創造魔法で作ったのに……ダメね」とあの3人を罵るような口調で続ける。


「すぐに私の作戦の裏に気づき、私を裏切ろうとした。だから殺した」


 ……殺したのはレッドさん? いや、僕の記憶の中では、リーゼさんは兵士に刺されて死んだ。トートさんはコンパスの爆発に巻き込まれて死んだ。彼女が下せるものではなかったはず。


 気づかぬうちに、背景が変わっていた。


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 僕の目の前に、金髪の女性が独りで突っ立っている。


「これが私だよ」と彼女が呟く。僕の身体は動かない、一切抵抗ができない状態に置かれていた。


 彼女はSランクのはず、Sランクなら身体の成長が止まっているはずなのに、目の前にいる女性は……レッドさんの面影はあっても、とても15歳には見えない。何か、子供を産んでいてもおかしくない歳にも見える。僕の母親の少し下くらいかな。


「この頃は鑑定制度なんてない世界かな。私には魔法でもない、ある能力が使えた。それは『時の石に触れることで、未来が見える』ってやつ。命からがら時の石を発見し、未来を見た。そこにはこう書かれていた、『Sランクと鑑定されたエストが世界を滅ぼす』ってね」


 エスト……僕の名前だ。Sランクと鑑定されたエストなんて、僕しかいないだろう。僕が世界を滅ぼす? 僕は世界を滅ぼす気なんてない。世界、ランセル王国を救うために、彼女に着いて行った。ランクが低いだけで殺されなきゃいけない、そんな酷い世界を変えなきゃいけないって----


「あ、あれ嘘だから。王さんは自分の意思で殺してない、全部私がやった。彼は言ってたよね、『SランクやGランクには洗脳が効かない』って。正しくは『Sランクには効かない』だけ。で、Sランクは君以外に存在していない」


 沢山の新事実が発覚するにつれ、僕の脳は疲弊する。私がやった……って? 王は自分の意思で殺してないって……意味が分からない。


「そう、つまり君には洗脳魔法がかけられなかった。それにクリムたちにもかけられなかった、魔法の産物だから仕方ないけど。じゃ、どうしたか。君以外の全てを洗脳した。もちろん手が届かない範囲だってある。それらは消した、君の目に入らないように」


 僕は言葉を失った。何も発せないまま、彼女は更に続ける。


「エスト……って人を探すだけで、何回もやり直した。他の世界に行っちゃうこともあった。でも、アセシナート村でエストという人物が生まれたことを知った。同姓同名の可能性もあったけど、強いシンパシーを感じた。君だ、やっと出逢えた」


 アセシナート村、僕の生まれた村。今までもそこに暮らしていた。彼女は僕が赤子の頃から、僕の存在を知っていたのか。


「その時、私は側近の子に生まれていた。時の石も王の手元にあったし、警備もざらでいつでも触りに行けた。でも、見える未来は2つしかなかった。片方はさっき言った、もう片方は『エストが創造魔法を使い--』って。何十回見ても、2つしか見えない。1つ増えただけでも進歩かな」


 目の前に立っていた歳をとったレッドさんの姿は徐々に変わっていき、やがてよく見ている少女の姿になっていた。


「で、私がSランクと鑑定され、国から追放されたってのも嘘。全部私が作った設定、同じ被害者がいた方が共感しやすいでしょ。私はBランクと鑑定された後、普通に城から帰った。でも『国から追放された』っていう設定を作りたかった私は、裏で王や側近を殺し、証言できる者を全て消し去った」


 背景では彼女が斬られた時の映像が流れている。胸の傷が付けられた、あの日のこと。しかし、その背景も徐々に消えていく。残ったのはレッドさんだけ。


 背景の兵士も、胸の傷も彼女が創造したものだった。僕は胸の傷を触った時に過去を見せられたと思っていたが、実際は過去でも何でもなく、ただの彼女の創造した空間でそれらしきものを見せられていただけだった。


 ダメだ。自分の言葉で自身に説明しようとしたのに、一切納得ができない。意味が分からない。もう何が何だか。


「それもこれも世界を滅ぼすため、何百年と時間をかけてよかった。でもSランクに洗脳が効かないなんて思わなかった。計画は狂ったけど、終わり良ければ全て良し……って言うからね。別の世界では」


 最後に大きな事実が発覚した。

 彼女の目的は「世界を滅ぼす」といったものだった。どういうことだ、世界を滅ぼすためだけに、僕を利用したのか。僕が世界を滅ぼす鍵になるのか、意味が分からないけど、彼女は何で世界を滅ぼしたいんだ。考えても考えても分からない。


「世界を滅ぼす……のは何でですか?」と、間髪入れずに彼女に尋ねた。


 僕自身、落ち着いてはいられなかった。心の中で考えるだけでは理解が追いつかない。だから、彼女に対して直接聞いてしまった。滅ぼす理由など普通は思いつかない。だから、聞く。


「世界を滅ぼす理由は……まだ言わない。いつか会えた時に言うよ。その時はもう遅いけど」


 彼女の回答は意外なものだった。今じゃダメなのか、今会っているのに……今ではダメなのか。会うというのは誰と? 僕とじゃない?いや、僕とだろう。じゃ、今でいい----


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 ここは……王の部屋か。いつの間にか気を失っていたみたい。現実世界に戻ったのか。クリムさんは端で眠ったままだ。レッドさんは僕の前で時の石を握っている。


「じゃあ、クリム。バイバイ」とレッドさんが言うと、クリムさんがミライ……とかいう人に斬られた。血も部屋中に染み出てゆく。が、すぐその血が偽物であることが分かった。

 クリムさんの遺体は塵になって消えてゆく。その場には大きくて太い剣しか残っていなかった。


「ミライもありがとね」

 ミライ……という人もそのまま塵になって消えていった。代わりに、見知らぬ少女が現れた。おそらくミライの元になった、誘拐された少女だろう。


「次は……君の番」

 時の石を持ったレッドさんは、また僕の目の前に立った。


 まだほとんどのことが判明していない。どうやってリーゼさんとトートさんを殺したのか、そもそもコンパスを探す旅って必要ないのにも関わらず何故したのか、僕が世界を滅ぼすというのはどういうことか。ほとんど分からないのに、彼女は僕のことを殺そうとする。


「さてと、この石で人を殴ると……どうなるか分かる?」

 彼女は謎の質問を僕にした。


「いや、分からないですよ」と僕が答えるや否や、彼女はニヤッと口角を上げた。


「答えは……飛ばされる。じゃあね」


 そう彼女が言うと、僕は緑色に光る石を握った彼女に思いっきり腹を殴られた。内蔵が全て飛び出しそうなくらい、強く。


 パリンッ……と、また、ガラスの割れる音が聞こえた。


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 僕はレッドさんに殴られた後から何も記憶が無い。殴られた後……緑色の光に包まれた所までは若干覚えているが、問題は今居る場所。


 ここはどこだ?

 周りを見渡すも、何もない。ただどこまでも平原が広がっている。木もほとんどない。この緑色の地面は、どこまでも続いている。終わりがない。


「誰かいませんか! 誰か!」と大声で助けを呼んでみるも……自分の声のみが響き渡っているだけで、人がいる気配は特にない。


 レッドさんに何をされたのか……。僕は理解に苦しむばかりだった。何故彼女が世界を滅ぼそうとしているのか、何故僕が世界を滅ぼす……という未来になっているのか、何一つ理解できていないままである。




「貴方は……誰ですか?」

「怪我は大丈夫か?」




 女性の声が聞こえた。よかった……人がいた。女性だけでなく、クリムさんのような、茶色の髭を生やしたガタイのいい人もいる。

 現状自分の顔面を確認できないが、顔面や腹部は何度と殴られ蹴られでボロボロなはず。


「見ない顔だな、お前は……どこの村の出身だ? ”セルバー村”の生存者か? それとも……”強制労働所”の収容者だった人間か?」と、ガタイのいい男の人に聞かれた。


 強制労働所? セルバー村? どちらとも聞いたことがない。その質問に対して更に質問を重ねようとした次の瞬間、僕の耳の近くで、またガラスの割れる音が聞こえた。


 パリンッ……!!


 今度は何かが違う。今までの記憶が一気に僕の脳内に流れ込んできた。生まれてきてから、レッドさんに会うまでの記憶。幼馴染が死に、3人に出会い、信頼していたはずの彼女に裏切られた記憶も。


「Sランク……レッドさ……エス……ラン……王国----」


 バタッ……と派手な音を立てて、僕は頭から地面に倒れた。


「大丈夫……?」

「しっかりしろ! おい!」


 僕のことを心配する声が薄らと聞こえるが、起き上がる力もなく、そのまま深い眠りについてしまった。


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