第13話 決戦4「君は利用されていた」
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はぁ……
はぁ……
僕は王の城に何回も来ているが、中の構造が分かっているかと聞かれるとそうでもない。未だにどこになにがあるのか分からない。まるで迷路のようだ。ずっと歩き続けているが、未だに爆発音があった方向に近づいている気すらしない。果てしなくただただ音の方向に向かって歩き続けている。
このままでは……【何かの隊長】のソルトに見つかってしまう。彼の方が城の構造には詳しいだろう。
ドゴーン!
そうこうしているうちに、また爆発音が響き渡った。次は……近い!彼に気づかれないように……早めに行かないといけない……。
よくよく廊下を見てみると、ところどころ血が付いている。もしかしたら……レッドさんかクリムさんがここで戦っていたかもしれない。なら、もう少しで会える……!
僕は走り出した。この不安からどうにか脱出したい。この城からも、この現実からも。
「レッドさん!」
王の部屋……だろうか。金箔が多く貼られており、大量の宝石が飾ってある。前の金庫にあった程ではないが、こちらも沢山ある。
その部屋の中にはレッドさんがいた。僕は思わず叫んで名前を呼んでしまったが、それ以上に信じられない光景が僕の目の前に広がっていた。
「レッドさん……それって」
レッドさんは王冠を手にしていた。その横で……横たわっている王の姿が。あれは間違いない、王だ。
そして部屋の隅には……クリムさんがいたが、縄のような物で拘束されている。しかも気を失っているのか、その場で座り込んでいる。
「レッドさん……クリムさんが!」と僕が慌てて叫ぶが、彼女は笑みを浮かべたまま動こうとしない。
「じゃあ……何で助けないんですか!」と言い、彼の縄を解こうとすると……後ろから足音が聞こえた。まさか、ソルトか?
いや、ソルトの横にいた、あの女の人だ。危ない……早くクリムさんを助けないと……。
というか、何故レッドさんはクリムさんを助けないんだ……?
その女の人が手をかざすと、薄水色の薄っぺらい壁が立ち上がった。
《結界魔法》
結界……と言うのか。この水色の壁は入口と窓を塞いだ。これくらいの壁なら抜けられそうだけど……と考えて、指で触れてみようとするとレッドさんに止められた。これに触るのは本当に危ないらしい。それにしても何でここに張る必要があるんだろう。侵入者を防ぐためかな……。
「この部屋には誰も入って来れないわ」とレッドさんが呟いた。それにしても、彼女の行動の意図が分からない。何故クリムさんの縄を解こうとしないのか、何故結界を出した女の人を前にしても何もせずに突っ立っているのか。
「レッドさん……何をして--」
僕が言い終わる前に、背後の女の人が僕の首筋にナイフを当ててこう言った。
「これ以上……話したら殺しますよ?」と。
「ああ、ミライちゃん。そこまでしなくてもいいのよ」
レッドさんが彼女に伝えると、すぐにその女の人もナイフを離した。
ミライ……という名前に聞き覚えがある。この人もソルトと同じ、僕と同じ鑑定式でCランクと鑑定されたあの少女だ。その少女が今僕の首筋にナイフを当て、その上レッドさんの指示に従って行動をしている。
「計画は完璧だった。時の石も手に入ったし、エストくんも無事だったし」
レッドさんはあの王冠を持っている。彼女は王冠に付いている緑色の石を掴み、そのまま引き剥がした。
バリンッ……
僕の耳元でガラスのようなものが割れる音がした。実際、部屋のガラスは割れてはいないし、他の人には聞こえていない様子。
「これで、作戦は終了ね」とレッドさんは高らかに笑いながら言う。
「作戦終了って……この女の人は誰ですか?それに……クリムさんを助けなくていいんですか?」と僕が聞くと、彼女は笑うのをやめて深刻そうな顔つきでボソッとこう言った。
「あぁ……気づいていないんだ」と。
他のSランクが載っていないこと、ミライという少女の存在、今目の前で拘束されているクリムさんを解こうとしない彼女。今、全ての謎が解けたような感触を味わった。
「そ、君は私に利用されていただけ。ほんとは正体を明かしたくなかったけど、クリムに反抗されたから仕方ないね。君はほぼ用済み、後はアダムの所に届けるだけ。でも、作戦の少しくらいは教えてやってもいいかな、君との人生は楽しかったし」
彼女は僕の目の前に立ち、突然僕の顔面を殴り倒した。殴られた衝撃か、魔法を使ったのか、僕は白い光に包まれていった。
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ここは……真っ白な世界だ。もしかして、雲の中か? 周りには何もない、白のみ。分かった、レッドさんと”強い接触”をしたから過去を見ているのか……。
シュッ……
辺りの白い背景が消えていった。そして……年季の入った木造の建物が見えた。今にも剥がれ落ちそうな看板、窓にガラスなどなく、壁もところどころヒビが入っている。
「これは……?」
僕が言葉を発した瞬間、いきなり背後から何者かに思いっきり蹴られた。急いで後ろを振り向くとそこには、レッドさんが立っていた。
「思春期の男の子って大変だけど、少し手を加えれば……順従」とレッドさんが高らかに笑いだした。
蹴られた衝撃でまた頭から地面に激突してしまい、せっかく止まった鼻血もまた滝のように出る。
言葉は出ず、行動で必死に訴えかけるが、彼女は聞く耳を持たず、僕の胸ぐらを掴み……顔を近づけてこう言った。
「まだ気づかないの? 君は私に利用されていただけなんだよ?」と。
そうなんだ、利用されていただけなのか……と納得できるわけない。これもまだ敵が見せている幻影だと疑ってしまう。そうじゃないと納得できない。もしこれが本当にレッドさんが見せているものだとしたら、矛盾点がいくつかある。
「ちょっと落ち着くか、大変だよもう」
レッドさんは僕を強く突き放した。
「そもそも雲だと思っていたものは……ただの建物よ。創造魔法で白い背景を作っていただけ、閉鎖的な空間を作れば人は信じ込むからね」
背景にあったオンボロな建物は急に白く光り、その後消滅した。逆に机や家具のみが残っていた。辺りの森の風景も消えていき、白い背景だけが残る。あとは地面にクッションを創造してしまえば、雲にしか見えない……ということらしい。
実際、僕もその雲に直接入ったことは無い。いつも彼女のワープに同行しているだけで、外から直接中に入ったことはない。
「雲の中に建造物があったら……普通は誰でも気がつくでしょ?」と彼女は罵るように、うずくまっている僕の前に立つ。
「まだ、他にもあるわよ」
心なしか、彼女は微笑んでいるように見えた。
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