第7話 全ての物の未来が見える
----------
”雲”は便利だ。あ、僕が言っている雲は、普通の雲のことではない。僕たちが暮らしている……雲のことだ。
中には何でもある。家もあれば、訓練所もある。あくまでもレッドさんがワープで無理矢理持ってきた物に限るけれども。
とてつもなく便利な空間だが、1つだけ欠点がある。
それは、普通の雲のように動かないことだ。
魔法で無理矢理固めて……と、仕組みは未だに理解出来ていないが、動かないというのは致命的。
今日のような、雲ひとつない空……晴天の時は逆に違和感が生じる。ポツンと、一切動かない雲がひとつ。
もしも今のこの僕なら、試しに一発……その雲に向かって魔法を放つだろう。
----------
「残念ながら、この雲は動かないの。だから、遠くに行くには……自分の足で直接行くしかないの」と彼女は言う。
ならワープ魔法でひとっ飛びは……できないみたいだ。見知らぬ土地にワープはできないらしい。
結局、どこにあるか分からない時の石は、自分たちの足で探すしかないみたいだ。
「でもね、神本の続きに……【石の場所が分かるコンパスも存在する】って書いてあったの……。まぁ、そのコンパスがどこにあるかは分からないけど」とも説明する。
コンパスさえあればその石探しも楽になるとおもうが、そのコンパスを探す作業も大変だ。どちらにせよ世界中から1個のコンパスと石を探さなければならない。
「今回は長旅になるだろうし……二手に分かれて探そう。私とエストくん、クリムとトートで行こう。出発は明後日の早朝ね」
僕は考え直してみた。ランセル王国でさえ広いのにも関わらず、その中にない可能性もある。となれば、世界のどこかにある……はず。それを、たった4人で探し当てることは出来るのか。
いや、そもそも何故レッドさんはあの本を解読出来たのか……。気になって仕方がなくなってきた。
レッドさんがシャワーを浴びている隙に、こっそりレッドさんの部屋に入った。
大事そうに保存されている神本を手に取り、ページをめくった。白紙だ。真っ白。何も書いていない。
が、少し経つと……【S】という文字が浮かび上がってきた。これは……鑑定した時と同じ……あっ。
「何してるの!」
背後から大きな声が聞こえた。レッドさんだ。
「女性の部屋覗きに来たのね……? お年頃だからって」
「違います……ただ神本を……」と言ったが、聞いてもらえなかった。
ここで僕は単刀直入に聞いてみた。
「何でレッドさんは……この本を解読出来たんですか? それに、未来が変わるってなんですか?」
相手の答えを待たずに、重ねて重ねて質問をする。
レッドさんは「教えられない」の一点張りだった。「未来が変わるかもしれないから」と言うが、僕は納得いかない。
「誤魔化さないでくださいよ。何で教えられないんですか? 信頼されてないんですか?」と強く質問してみた。また「教えられない」と返されると思っていたが、返答は意外なものだった。
「じゃあ1つだけ言うと、私は《物の未来を見る魔法》が使えるの。神本でも、君が着ているその服も……全ての物の未来が見える」と。
「ということは、石がどこにあるか……という未来も見えませんか?」と聞くも、彼女は俯き説明しだした。
「いや、まだ見えない。まだ【石を発見することは出来ない】って書いてある。でも、これからよ。石に近づけば……未来が変わることもある……。だから、膝には気をつけてね」
膝? よく理解は出来ていないが、妙に納得してしまった。
----------
今日は出発の日、何とか魔法を詰め込んだ。
一定期間会えなくなるため、今のうちに火炎魔法と剣術を習った。
火炎魔法も……掌から炎を出すことが出来るようになった。どうやらトートさんは出来なかったみたいだ。
剣術も……クリムさんにはもちろん勝てないが、「兵士2人相手なら勝てる」とのことらしい。
「クリムさん……トートさん……また会いましょう」と言う。二度と会えない……というわけではない。またどこかで会える。その間が長いだけ。
「ああ……絶対にな」
「次会う時には……火炎魔法、上達してるかな?」
2人に手を振って、僕らは二手に分かれた。
----------
「レッドさん……もうどれくらい歩いていますか?」と質問する。
「まだ1時間しか歩いてないよ……」と返されるが、体感では丸一日歩いた気分だ。辺りは山、山、山。木もあるが、辺りに人が住む気配は一切ない。人里離れた土地を僕らは歩き続ける。
「あとどれくらいで着きますか?」
「どこにコンパスがあるか……分からないでしょ」
そう軽く返された。
----------
「レッドさん……ここは?」
もう日が暮れる。砂浜で一旦休憩することとなった。目の前の風景が美しい、まるで……金庫の中にあった絵画みたいだ。
そして広がる、青い景色。これが……海?
「海……って綺麗だよね」
ここまでの道のりをレッドさんは覚えている。だから、ここから雲までワープで戻ることが出来る。もちろん距離はあるが、転々と移動すれば……。逆に、今クリムさんやトートさんがいる場所にワープすることも可能らしい。あくまで彼女のみが使用可能で、僕やクリムさんらはそのワープに着いていくことはできない。
シュッ……
ワープ音が聞こえた。戻ってくるのが早い。
背後から大きな声が響き渡ってきた。
「エスト……何している! 急いで戻るぞ!」
振り向くと、そこには何故かクリムさんがいた。
「どうして、ここに……?」と聞くが、急いでいるからか聞いてもらえない。とりあえず、急いで雲へワープした。
僕もクリムさんもワープできないと説明されていたが、何故か使えた。
----------
「トートさん!」
トートさん……だ。トートさんが横たわっている。黒い血が海のように広がっていく。血が止まらない、胸に大きな穴が……。
「何があったんですか?」
「知らねぇよ……爆発音がして、急いで戻ったら血だらけで倒れてやがった……」とクリムさんが代わりに説明する。
「どういう意味ですか……?」
「だから知らねぇって! お前も突っ立ってないで手伝え! 早く回復を……」と言われるものの、何をすれば分からない。とにかく……いや、何をすればいいか分からない。
ゲホッッ……
「コン……つけ…」
ゲホンッ……
トートさんが何かを話そうと……必死に声を出そうとしている。しかし身体は追いついていない。真っ黒な血を吐き出すばかりだ。
「トートさん……! どうしたんですか……?何があったんですか?」
「ア……ス……み……た……」と彼女の微力な声がやっと聞こえた。
あ? す? み? た?
僕は救助を手伝いつつも、その言葉が気になった。僕は少しだけ、トートさんの口元に耳を近づけてみた。
「コンパす……みつ……けた」
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます