第8話各々ノ武器

 牢獄フロアで見せられたのは、斬殺、銃殺、毒殺…。それ以外にも実際の仕事現場で見学したのは、自殺や事故を装う方法など、バリエーションに富んでいた。一口に殺しと言っても、個人個人で得意なやり方が違う。それぞれが使いやすい武器や手法を用いて効率良く行われる殺しは、やはりプロの仕事だった。

 一頻り先輩たちのやり方を見学させて貰うと、アミーゴはその中で自分に向いている、または興味のある殺し方があるか尋ねてきた。どれも簡単な方法ではないと解釈していたが、一番楽なのは『銃殺』だと思った。その事を伝えると、同じくその場にいたチキータは少し興奮気味のご様子だった。確かに彼女が使うのも拳銃だ。仮に銃の訓練をするとすれば、一緒にいられる時間が増えるかも知れない。それに、俺は射的が大の得意でもあった。


「マァ、ソレガ無難ナ選択ダナ。ジャア、チキータ。『武器屋』ニ連レテッテヤレ。ゼータ、俺ガヤッタ時計持ッテケヨ」


 アミーゴと別れ、マンションの7階までチキータに連れられると、そこには大量の武器が陳列されていた。大多数は刀剣や銃器だったが、明らかな拷問器具とかもあった。殺し屋とは別に、拷問を生業とする部門もあるらしい。今更そんな事に驚く必要もなかった俺は、拳銃が並べられているショーケースを物色した。

 何十種類ものラインナップがある事にも面食らったが、これらに関してド素人の俺は、どんな違いがあるのかサッパリ分からない。ここはチキータに先輩としてご教示願おう。


「ねぇ、どれがいいかな??ってかチキータはどんなの使ってんの??」


 銃について俺が質問すると、彼女はウキウキ顔で語り始めた。そもそも銃っていう物は、弾丸を発射させる為の筒でしかなく、使う弾薬(カートリッジ)によって区別されるらしい。因みにチキータが使用するのは9mmの弾で、銃は『コルトマークⅣ70シリーズ』だと言う。

 一般的には9mm口径はパラべラム弾というカートリッジがポピュラーだが、これは威力が強すぎて暗殺には不向きなのだとか。弾薬自体が自社製造可能なこの組織では、各殺し屋向けに炸薬の調合をオーダーできるシステムになっている。チキータは最低限の殺傷能力保った消音効果の高い弾薬とサプレッサー(消音器)の組み合わせで、銃声トラブルを解決している。

 殺しのサポートは組織が全力で行ってくれるが、殺し屋個人ができるだけのカモフラージュはしなければならない。サプレッサーを使用するのは義務の一つで、その関係上リボルバー式の銃はここにはない。

 ある程度の知識を教えてもらったが、だからと言って自分に合う銃を選ぶのはまだ無理だ。俺はチキータと同じ9mmの弾が使える銃をいくつかピックアップしてもらい、その中から気に入った物を選択する事にした。


「SIGのP226、グロッグの17、MPの443、ベレッタの92F……。この辺りかなぁ。わたしのオススメはベレッタだよ!人気のある銃だからアクセサリーも充実してるのッ」


 チキータの助言もあり、俺はベレッタの92Fを選んだ。丁度そのタイミングで武器屋の担当が現れた。銃を使う新人殺し屋の為に『スターターキット』なるセット商品がり、その紹介をして貰った。セット内容は、予備のマガジン二個とサプレッサー一本、そして弾薬一箱。マガジンと弾薬は消耗品で、一度に大量購入すれば割安となるらしい。組織では武器の現物支給など行っておらず、必要に応じて自分のポケットマネーで買い揃えなければならない。

 俺はそんなお金なんか持ってないし、どうしたもんかと頭を抱えていると、アミーゴに持って行く様言い付かった時計の存在を思い出した。恐る恐るそれを差し出しながら、これで何とかならないかと懇願すると、武器屋のお兄さんは時計を持って奥へと引っ込んだ。ものの1~2分で戻ってきた彼は、時計の査定額を告げた。その額なんと80万円。スターターキットを3セット買ってもお釣りが来るほどだ。

 だからと言って武器屋で散財するワケにはいかない。元々この時計は妹の治療費に充てるつもりだったから。その事を分かってくれていたチキータは武器屋のお兄さんに事情を説明し、必要な物だけを包むよう催促した。弾薬は彼女のストックがあるので、それを分けてくれると言うのだ。チキータさまさまですよ。こうして俺は、ベレッタ92Fとサプレッサー、そして現金60万余りを手に入れた。


「おっ、チキータとゼータくんじゃん!お疲れー」


 武器屋での買い物が終わろうとした時、ムラマサがひょっこりやってきた。どうも仕事で刀が刃こぼれしてしまったらしい。彼は愛刀の修理と、代わりの刀を見にきたのだとか。日本男児として日本刀に興味があった俺は、ムラマサの買い物を見学したいと申し出た。快く承諾してくれたムラマサとは対照的に、チキータはあまり良い顔をしなかった。どうやら日本刀は彼女の趣味ではないみたいだ。

 改めて殺し屋にも色々あるんだなぁ、と思いながら、渋々付き合ってくれるチキータに申し訳なさを感じてしまった。こりゃお兄ちゃんとしては減点対象だったかな。でも、日本にいたって日本刀を見れる機会はそうそうないんだ。埋め合わせはちゃんとするんで許してつかぁさい。


 刀剣コーナーはこれまた凄い品揃えで、一般的に思い描かれるベーシックな刀から白鞘、仕込み刀なんかもあった。日本刀以外にもククリ刀や青竜刀など、買うヤツいんのかよとツッコミたくなるほど多岐に渡るラインナップに圧倒された。


「ゼータくんもナイフの一つくらい持ってたら?役に立つ事多いよ」


「あ、それにはわたしも同意かも」


 いくらプロの殺し屋でも、いくら組織のサポートがあると言っても、予測しない事態に陥る事はゼロではない。特に銃を使う者は、弾切れの可能性も視野に入れなければならない。もちろんそうならないよう準備を万全にするのも仕事の内だが、あらゆる状況を想定するならばナイフの携帯はマストだ。

 ムラマサが仕事で使う刀は一振り何百万とするが、折り畳みナイフ程度なら数万で済む。チキータにアドバイスを貰いながらナイフを物色していると、面白い形の物を見つけた。鎌の様に内側に湾曲した刀身で、柄の先には指を通す輪っかが備え付けられた『カランビットナイフ』という代物だ。接近戦で首を掻っ切るのに適した形状で、専門の武術まである正統派の武器である。

 値段も手頃という事もあり、俺はカランビットナイフを購入し、殺し屋一年生として新学期の準備を終わらせた。

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