あの時は無かったモノが今ここにある

「ようやく、仲間が全員揃ったんだね。約束通り全てを教えよう。けど、その前に場所を変えようか。ここじゃ落ち着かないから僕の家に案内するよ。着いてきて!」


 自分の胸のが今、高鳴ってるのがわかる。俺達これから真実とやらを知る事になると思うと少し怖くもあるけど、その真実を知りたい自分もいる。でも、俺一人で聞く訳じゃないんだからきっと大丈夫だ。


 俺達は一歩前に行くフィーネの後を着いて行った。


「あれ? ここは俺が最初にフィーネと出会った街だ」


「 あわわー……大変だ律、骸骨が一般市民に紛れ込んで普通に生活してるぞ」


「いや、お前も骸骨以上にゾンビでありながら人間の時と変わらない生活してるからな」


「そうだった! 僕もゾンビだったんだ」


「えー!! 忘れてたのかよ」


「着いたよ。ここが僕の家だ!」


 って、どんな家だろうって楽しみにしてけど、家っていうよりかテントじゃんかよ?!

これを家として扱っていいのか? 確かに立派な屋根付きで頑丈そうでキャンプには持ってこいのテントだよ。そんじょそこらの安物のテントとは作りが違うのはわかる。わかるけれども……いいのか?


 まぁー、住めば都という言葉もあるし、贅沢は言っちゃダメだよな。それに、このテントを家だと思ってるフィーネが何だか可哀想に思えてきたよ。


「因みにキャンプファイヤーもあるよ」


「やっぱり、キャンプじゃんか!」


「う~ん……キャンプの良さがわからないなんてガッカリだよ」


「ガッカリデス」


KAGUYAカーちゃんまで一緒に乗っかるなよ! でもさぁー、わかってないのは俺だけじゃないと思うよ。皆も多分そうだと思うよ。なっ!」


「皆、キャンプファイヤーの火で温まろうなっ! そしたら、次は音ゲー大会をするぞ!」


「詩さん、この骸骨から出汁でるかな?」


「アリアちゃん、本当にその骸骨お鍋に入れるの? 私もっと美味しいお鍋が食べたいんだけど」


「フィーネさん、あの~マシュマロとかありますか? 俺、一回キャンプファイヤーの炎でマシュマロ焼いてみたかったんッスよね」


 ちょっとめちゃくちゃこいつら馴染んでるよ! 馴染んでない俺が逆に恥ずかくなってくるレベルだよ。


「律、君よりかは皆キャンプの良さがわかってるみたいだね。まっ、そんな事より家の中に入ってくれ」


「いきなり呼び捨てかよ!?」


「一様僕は皆より年上のお姉さんだしね。

それに子供の姿を選んだのは、これが一番

君達に話が伝えやすいかと思っての事だよ。本来の僕はもうこの世界の一部に溶け込んでいていないも同然なんだ」


 なーんだ、子供の姿は俺達に合わせてただけだったんだ。って、俺達そんなにお馬鹿に見えてたって事なの?! それはそれで傷つく事実だよ。


 でも、フィーネが言った世界の一部って何だろう? 考えてもよくわからないからやめよう。それより、ご自慢のテントを拝見しようじゃないか。


「まぁー、きっとテントの中も想像通り何だろな…………って、えええっ!? 」


 あれ、なんか想像してたのと全然違うじゃんか! 家の中の部屋が丸ごと入ってる感じだよ。ベッドも家具もテーブルもあるし、コレ本当にテントなのかって思う程居心地がいいじゃん。


「俺、ってきり寝袋だけしかないテントだと思ってたから」


「甘いね! キャンプは日々進化してるんだよ。さて、ここからは冗談は抜きにして、本題に入ろうか」


「うん」


「まずはあの屋敷みたいな研究所が出来た経緯から順に話していくとしようかな。この研究所がカグヤ、君が人間だった頃のに深く関係しているから話しておかないとね。

 そう、あれは忘れもしない僕がまだ若かりし頃に仲間達と掲げた、多くの人々を病から救いたいから全ては始まったんだ。その思いを形にしたのがローズグレイ社であり、この会社に社長がいないのはその当時仲間だった十人全員が社長だったからなんだ。でも、地図から消されてその真実が無くなってしまったんだ」


「あっ! そう言えば俺、その創業者っぽい人達が写ってる写真見た事ある」


「それって、確か律君が海辺の近くの研究所で見つけた写真の事だよね」


「あれ? 確かポケットにあったんだけど……」


「律様、上着ノ内ポケットニ入レタ筈デハ?」


「そうだった! あったあった」


「懐かしいな……この写真がまだ残ってるなんて思わなかったよ」


 この写真がそんな重要な写真だったとは! いや~、あの時実は俺もそんな感じがしてたんだよな。うんうん……捨てずに取っておいて良かった。


「この左端に写ってるメガネを掛け人がいるだろ。この人が僕達全員をまとめていカズキ・タチバナ博士なんだ。彼は誰よりも優れた医師であり研究者でもあったんだ。でも、僕達は彼の恐るべき本性を見破れなかった」


「うんうん! 人は誰しも心に闇を抱える生き物だからな。僕も心にいる闇をこの邪」


「はいはい、悠音は黙ってようね!」


 危なかった。今、詩が止めてくれなかったら悠音の中二病のスイッチが入る所だったよ。彼奴の中二病の話は今封印しておかないと話がややこしくなっちゃうからほんと危なかったよ。


「フフフ……」


「急にどうしたんだよフィーネ?」


「仲間って良いモノだよな……。君達を見てると何故かそう思ってしまう自分がいるよ。どうやら僕の目に狂いはなかった」


「そうなのか? いや、俺達を見て良いと思うフィーネも大分狂ってると思うぞ」


「分かるッスよ! 俺達ほんと狂ってますよね。ねっ、律さん」


「奏太がそれを言うなよ!」


「律さん叩くなんて酷いッス」


「話がそれたね。戻そうか。

 僕達が研究所で日夜研究に勤しんでいたある日の事だった、研究所に一人の少女の保護の依頼がきたんだ。その少女がカグヤ、君だったんだ。

 君の不思議な力は自分だけの傷の治りが単に早いだけではなく、人々の不治の病も治した。村での君は神の使いとも言われていたんだが、村人はだんだん君に恐怖を覚えていった。何故なら君が不思議な力を使う度に回りのあらゆる生が死んでいった。それは、土地にはじまり草や花や木に動物、そして人間にもね……」


「私ハ一体何者ナノデショウカ?」


「それは残念ながら僕にはわからない。

でも、老夫婦が竹藪に捨てられていた赤子の君を見つけ、その子にカグヤと名前を付け我が子のように愛情を注いだんだ。

 けど、そんな事を知らない村人は君達親子を引き離し、私利私欲の為に君に力を使わせた。見かねた君を保護して欲しいと頼んできたのは、君を育てた老夫婦だったんだ。カグヤこれだけは僕にも言えるよ。君は間違いなく愛されていたんだと」


「愛サレテイタ……。ソレナラ私ハドウシテ、人間ダッタ時ノ記憶ト不思議ナ力ノ事ヲ全然覚エテイナイノデショウカ?」


「君が覚えてないのも無理はないんだ。

 結局僕達も村人同様に君の力を利用した。その代償に君は記憶を失ってしまったんだ。丁度、その頃謎の病が流行ったのを前に言っただろ。その時に君の力が必要になったんだ。僕もそれに加担したんだ。あの時の僕は人々を救う事が絶対の正義と信じていた。それに、助けたいと思う人々の中に僕の娘もいたんだ……。

 僕達はカグヤに数々の人体実験する事で多くの命が救えると思ってたんだ。でも、それが間違いの始まりだった。僕達はあんな化け物を生み出したかった訳じゃなかったんだ」


「化け物って、それってわたし達ゾンビの事?」


「そうでもあるし、そうでも無いだアリア。全ては起こるべくして起きた事なのかもしれない。謎の病からゾンビまでもね。僕達は落ちる所まで落ちた。そして彼、カズキ・タチバナ博士はもっと酷かった。彼の生への執着が全ての理をおかしくした。

 彼はは何らかの方法でカグヤの魂と肉体を切り離し、不老不死の手がかりを得ようとした。そして、そのカグヤの肉体が暴走して二つの世界に隔てた。結果としてこの街だけが地図から消され、時の狭間でさまよう原因になった。そして、その肉体は今でも世界を恨んでいる。魂の場所はね……今律が持っているAIがカグヤの魂そのものなんだ。

 そんな事を少女にしてしまった僕達を君は恨むかい?」


「…………私ハ……貴方ヲ許ソウト思イマス」


「何故だ?! 何故君はあんな事をした僕達を許す事ができるんだ」


「私モ人々ヲ助ケタイトイウ思イハ一緒デシタ。タダ、ソノヤリ方ヤ形ガ違ッタダケダト私ハ思イマス。コウ思エルノモキット私ノ中ニ仲間ヤ私ヲ育テテクレタ人達ガ居タカラ、私ハ私デ居ラレルンデス」


「フッ……本当君達には敵わないな。

君達が何故、あの時過去の世界に行く事が出来たのか今ならわかるような気がする。君達が過去で変えたのはほんの些細な事で、見落としてしまいがちな心を変えたんだ。

彼女自身の心を変えたからこそ、起こるはずのない奇跡が起こったのかもしれない。そう、それは君達のようなゾンビでありながら人の心を持つ者がね。

 …………僕の知る真実はコレで全てだ」


「何なんだそれ……。

KAGUYAの事を思うと全員ぶん殴ってやりたい。でも、こんな事をした奴らをKAGUYAは許したんだ。だから、これ以上俺何も言わない。けど、俺は死ぬほど怒ってるから!」


「あぁ、わかっているよ。本当にすまなかった……」


 フィーネは俺達に向かて深く長い一礼をした。フィーネもフィーネなりに自分の犯した罪を深く重く受け止めているのは見てて痛い程わかる。だから、俺が彼女だけを責め続けるのはやっぱり違うし、何よりスゲー俺自身かっこ悪いし惨めだ。


 俺は……俺のやるべき事を仲間と一緒に進もう!



「フィーネさん……。あのー私、貴方を私の仲間が命を落とした、こことは違う研究所で貴方のホログラムを見ました見た」


「仲間がそこで命を失ったんだね。本当に済まなかった」


「その事はもういいんです。謝られても仲間は還って来ないから……」


「あのホログラムは、僕が居なくなっても研究所を管理出来る様に作ったAIなんだ。彼女は彼女なりに僕に変わって忠実に研究所のデータを外部に漏らさないよう守ろうしたんだ。それだけは、わかって欲しい」


「納得するのは難しいけど、心に止めておきます」


「うん、それでいいと思うよ。

僕の役目はね、ここで起きた真実を伝える事と同時に真実を話すにかどうか価する人間をずっと探していたんだ。いつ会えるかわからなかったけど、ようやく僕の役目も終わりだ……。

 それにもう直ぐ抗ウィルス薬が完成する筈だ。あの子なら……いや、彼女ならきっとやり遂げてくれるだろ」


「それなら、早くカノンさんに会いに行かないと。

 あっ、そうだ! 俺、フィーネには言ってなかったけど、必ずゾンビ事人間を救ってみせる。だから見ててくれよな」


「あぁ……この世界と共に君達の生き様を見ているよ」


「よーーし、皆行こう!」


「うん!」


「そうだ……律。最後に君だけに話して起きたい事があるんだ。それは……」


 フィーネが俺に話してくれた内容は余りにも衝撃的過ぎて、今の俺には到底受け入れられるものではなかった。だけど、フィーネが最後に泣きそうな笑顔で言ったんだ。


「ありがとう……僕は君達に出会えてよかった」


 消えてゆく街とフィーネを背に俺達は、地図から消された街から元の世界へと帰ってきた。

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