この世には、関わっちゃいけない奴が一人か二人は必ずいる

「俺、今普通にゾンビと会話してるじゃん! どういう事なのKAGUYAカーちゃん?!」


「該当データ無シ……。アンナ中二病持チデ音ゲー好キゾンビ、見タ事モ聞イタ事モアリマセン」


「だろうね……。見た目はゾンビでしかもそうとう痛い中二病の持ち主だよ。頭のネジなんかもうとっくの昔に外れちゃってる感じだし、一体何なんだよ此奴は?」


「準備体操は終わった! この世の全ての音ゲーが僕を呼ぶ限り、なんどでも舞おう。さて、次の一曲を舞ってやるか!」


 また、音ゲー始めちゃったよ……。

俺が今まで見て来たゾンビとは明らかに何が違う……いや、違いすぎだろっ!!

ゾンビっていたら普通、人間を襲って食べたりするのが当たり前の姿だよ。この少年は人間の見た目を残しつつ、しかも普通に日常会話を使いこなしてる。こんなゾンビ見た事無い!


本当に此奴ゾンビなのか?

だんだん怪しく思えてきたけど、ただ1つだけ俺が見たゾンビの中で陸上選手という特殊なゾンビもいるにはいたけど……。


いやいや、あの少年に限ってそれはないよな。それとこれとは別だよ。うん、別物別物。だって彼奴、明らかに可笑しいもん! ゾンビなのに音ゲーやってるし、中二病拗らせてるし絶対に有り得ないよな。


だとすると、彼奴の正体が余計に訳わからなくなってくるじゃんかよ。だけど、ただ一つ確かな事がある。それは、彼奴に関わったら絶対にろくなことしか起きない事だけはわかる! 俺の長年の勘が激しくそう言っている。ここから早く逃げなくちゃ!


よし、気づかれないようここは黙って立ち去ろう! 今なら彼奴音ゲーに夢中だし、俺が居なくなった事に気づかないだろう……。


「抜き足、差し足、忍び足っと……」


「そういえば、自己紹介がまだだったな。僕の名前は悠音ゆうとだ! この世の全ての音ゲーを愛するために僕は生まれてきた。だが、僕は生まれつき右目にだけ邪眼の能力が備わっている。この邪眼は全てを見通す力が備わっている。そして、この両手の包帯がぐるぐる巻きなのは、訳あって強大な力が僕の中に封印されていて今は解く事は出来ない。そう、その強大な力とは天空の神々の…………。おっと、いけない。僕とした事が少々喋り過ぎたようだな。で、君の名前は?」


ハッ……?!

今、抜き足差し足忍び足で逃げようと思ったのに、何故この悠音とかいうゾンビは自己紹介しながら俺の方に近づいてくるんだよ?! もしかして、ココから逃げるのは俺には無理ゲーなのか?


そうなのか?!


いや、そんな事はない!

とりあえず、怪しまれないように名前だけはちゃんと名乗っておこう!


「えーっと……律です」


「律という名前か! 良い名だな。ところで律は、僕の過去が知りたいような顔をしてるな。僕にはわかるぞ。そうか、そんなに知りたいか、ならば教えてやろう僕の過去についてだ!」


どうして急にそうなるだよ?!

悠音の過去なんて微塵も知りたくない筈なのに何故か気になるのは否定しないけれども、お願いだから回想なんてしないで早くこの場から帰らせてくれ……。


「アッ、あのポーズは……まさか?!」


悠音ゆうととか言う奴、斜め右上に顔を上げるポーズをし始めちゃったよ。しまった、あれは回想シーン特有の始まる合図じゃんかよ…………。


「そう、あの日はとても良く晴れた朝の事だった。いつもと変わらず僕は音ゲーに勤しんでいた。でも、あの日だけはやけに緊急サイレンの音がうるさくて、人々が何故か荷物をまとめて街を去っていったんだ。あれは、今思うと不思議な光景だった……」


「いや、緊急サイレンが鳴ってるなら、まず何がなんでも荷物まとめて逃げろよな!」


「音ゲーに背を向けて逃げろだと!

そんな事したら闇の炎に抱かれて、僕が死んでしまうじゃないか! これだから素人って奴は……。だがあの時、僕が舞っている最中にも関わらずもの凄く邪魔をして来た観客がいたな。あれは正直ウザかった。仕舞いには噛み付いてきたと思ったら、僕は数分間気を失ってしまったんだ」


「それ、思いっきりゾンビの仕業だよ!」


もう、どうツッコミを入れればいいのやら、だんだん此奴にツッコミするのが疲れてきちゃったよ。けど、俺の考え過ぎかもしれないけど、もしかして悠音とかいうゾンビの会話全てにツッコミを入れたらこれって終わりなのでは…………。


しまった、そういう事だったのかっ!

これはあの悠音ゆうととかいうゾンビの策略で、俺は気づかないうちに片足をどんどん突っ込んでしまっていたのか?!


「僕は、僕は……」


どうやら、あの中二病を拗らせた頭でも事の重大さに気がついてくれたみたいだな!


「そうだよ悠音ゆうと君、君は残念ながらゾンビなんだよ。俺には君を元の人間に戻す方法は知らないし、どうする事も出来ない。だから、この真実は俺の胸の中に留めておく事にするよ!」


「じゃあ、もしかして僕の身体に音ゲーが染み付いて離れられなくなってしまったのもゾンビの力というのか?!

ゾンビとは……なんて恐ろしい奴らなんだ」


「それ、絶対にゾンビと違うから!」


しまった?! つい、俺とした事が我慢出来なくてまた悠音にツッコミを入れてしまった!


「律、僕の事を心配してくれるなんて、なんて良い奴なんだ。ありがとう!

これはきっと、一人ぼっちの僕に神様が与えてくれた友達と書いて親友と読むアレなんだな。律、今日から君と僕は親友だ!」


ちょっと待った! 何をどうしたらそんな事になるんだよ?! ゾンビと親友なんて絶対ありえないし、無理だよ。だって、俺は彼奴らゾンビのせいで初めて出来た大切な仲間達を失った。あんな心を引き裂かれる辛い別れをしたばかりなのに仲良くなんて出来る筈ない。確かに悠音の奴は悪い奴じゃないと思うけど、ゾンビの顔を見る度に辛い記憶が蘇ってくる。


そんな思いをするのはもう沢山だ……。


「俺、そういえば買い物頼まれてたんだった……。じゃあ、そういう訳だから悠音またね!」


その一言だけ悠音ゆうとに言って、俺はその場から逃げるようもうダッシュでゲームコーナーを駆け抜けた。無我夢中で走り、決して後ろは振り向かなかった。


…………よし!

もうここまで来れば追われる心配もない。これで大丈夫だろう!


ゾンビと普通の人間が友達になんてなれるはずないし、これで良かったんだ!

俺はほんの少しだけ悠音の事が気になって後を振り返ってみたけど、追って来る者は誰一人いなかった。


「律様、隣ヲ御覧下サイ」


「隣りがなんだよ……? って、なんでお前がいるんだよ?!」


「隣りに親友がいるのは当然だろ!

それに、僕の方が律より街の事をよく知ってるから、特別にこの僕が街を案内してあげるよう」


「いや、結構です……」


「よし、そうと決まれば一緒に行こう!」


えっ?! 今俺断ったよね。って、悠音の奴聞く耳持ってないし、ゾンビと友達になって、始めてのおつかいなんてそんなの絶対に嫌だぁぁぁぁ!!

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