よすがの宝石

碧野 悠希

第1話

 

 ニンゲンニ ツカマッテハダメヨ


 ニンゲンハ トテモザンコク


 ニンゲンカラ ニゲナサイ


 ニンゲンハ ワタシタチノカラダヲ モテアソブ


 頭の中に声が響く。

 ニンゲンって何だろう。

 

 此処は暖かくてずっと眠っていられるけれど。

 誰かが出なさいって言っている。

 でも、出てしまえば怖いものが待ってるんでしょう?

 だったら、わたしは生まれたくない。


 深い深い人のわけいることのできない森の奥深く。

 特別な宝石の卵があるという。

 生きた宝石。

 生まれてきたそれは、人の形を成すという。

 涙はサファイア。

 怒りで流す涙は赤く。

 恋して泣くのはピンクダイヤ。

 鳥の雛のように、初めて見た者を慕ってしまうということで、それを知る一握りの者は富の為にそれを囲い込む。

 卵のカケラだけでも、陽の光で七色に輝く宝石に加工できる為、大変貴重なものだという。


 分厚い殻に覆われたそれは、まだ小さい卵のうちに、人間に拾われ森から攫われた。


 大きな人間はそれを温室に隠し、その大きな人間の血を継ぐ小さな人間が、大きな人間に内緒で親鳥の様に温め始めた。


 初めは手のひらに乗る位の大きさだったその卵は、不思議なことに、どんどん大きくなり、小さな人間の身体では温められなくなった。

 だから、小さな人間はその殻に触れ、暖められない代わりに話し掛けるようになった。

「語学の勉強の成績がトップだった」

「庭園のロサ・ガリカ・オフィキナーリスが咲いたよ」

「ヴァイオリンで難しい指使いを克服できた」


「いつ生まれるのかな」


 いつも外から楽しそうな声が聞こえ、その鳥の囀りの様な音がそろそろ低く変わりそうになり、数年が経った頃。


「早く生まれておいで」


 楕円の形をした卵にヒビが入った。


 あなたがそんなにわたしも呼ぶなら、生まれてもいいかしら。


 パシッ……



 

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