第27話 お化け

「さっきの反応、何だったのかしら。」


「分からんが、何か調べられるとまずいことでもあるのかもしれんな。」


「でも、悪い人たちには見えませんでした。」


おれたちは客間で休ませてもらうことになった。一応ふた部屋用意できると言われたが、なんとなく6人で固まっておくことにした。そして今は、それぞれ背を向けて身体を拭きながら、先程のリリスの反応について考えていた。あの時の何かを隠したがっている様な違和感は感じたのは確かだが、シルヴィアの言葉を誰も否定はしなかった。


「忘れてた。アカネの予備の服貰ってきてるぞ。」


アカネは、兎に火炙りにあった時の、ぼろぼろになった服を着たままである。しかしお気に入りのローブは何か特殊な素材が使われているのか、こちらは無傷であった。クレオさんに物資の準備を頼んだ時、おれたちの姿を見て、アカネさんにも新しいのが必要でしょうと用意してくれたのだ。


「あら、ありがとう。クレオさん、ほんとに気が効くわね。」


アカネは、嬉しそうに服を受け取ると、その場で着替え始めた。

背後で、シュルシュルと布の擦れる音がきこえる。ミトが生唾を飲み込む音が側で聞こえた。




メキメキと木を薙ぎ倒す音と、獣の咆哮が鳴り響く。

部屋で横になっていたおれたちは、その音を聞いて、急いで起き上がると外に出た。


「……大きいわね。」


「あんなの見た事ないっす。」


空がぼんやりと赤いのを見ると、夕方なのかもしれない。

木々の生い茂る森の中からにょきりと飛び出す、この家より大きい魔獣の影に、おれたちは目を丸くする。


「こちらに向かって来てますよね、あれ。」


逃げてしまいたいが、ここに来るとなると……

そういえば、ユキたちの姿が見えない。家の中にも人の気配は無かった、何処に?そう思っていると、その魔獣が悲鳴を上げて、足元をかにする様な仕草をした。


「誰か戦ってる。まさかオルカさんたちか?」


「行きましょう!」




辺りは血の匂いで満たされたいた。毛のない虎のようなその魔獣は、すでに身体中を傷だらけにしており、それは動きを阻害するほど大きなものではなかったが、的確に動脈をついているのか、どくどくと血が流れ出て、徐々に魔物の体力を削いでいっているようだった。そして、その血溜まりの中、原型が分からなくなるほどぐちゃぐちゃに潰された2体の遺体があった。


「そんな……!」


「遅かったか。」


シルヴィアが小さな悲鳴をあげる。イッセイ一目見て、彼らがすでに手遅れだと察したのか、魔獣に向かい武器を構えた。

魔獣はおれたちが現れたのに気づくと、巨大な牙を剥き出しにして、苛立たしげに咆哮を上げた。

びりびりと空気が振動する。おれとイッセイは、二手に分かれて同時に走りだした。魔獣はチラリとおれを見たが、すぐに魔力を練り出したアカネとシルヴィアの方に視線を戻す。ミトが剣を抜いて視線を遮る様に前に出た。遠目にも足が震えているのがわかる。おれはそれを見ながら、小ぶりのナイフを取り出すと魔獣の首筋にむかって投擲した。


『ギャァアアア!!』


その巨体に対して、小さすぎるナイフが刺さった途端、魔獣が苦しげに声を上げた。激痛を与える毒が塗られたそのナイフを、魔獣が必死に外そうと、前足で掻きむしる。そこへイッセイが、もう一本の前足に向かって鉄棍を叩き込んだ。同時に地面を横へ滑らせたようで、魔獣がバランスを崩して勢いよく倒れた。

すかさずシルヴィアが、下がった魔獣の頭を光の縄で地面に縫い付け、そしてアカネが、周囲に広がる血溜まりへ魔力を流し込んだ。

ザクンッ。と鈍い音とともに、魔獣の頭から赤い槍が突き出した。魔獣は、叫びを上げる間も無く、ビクンと身体を震わせると、そのまま動かなくなった。

アカネはその様子を見送ると、ふぅ。と息を吐いて構えを解く。同時に、ぱしゃりと赤い槍が弾けた。



「見事だな。」


「それに比べて、私たちは。かっこ悪いところ見られちゃった。」


おれたちは、声のする方を振り返り、言葉を失った。

魔獣の血溜まりの中で、ぐしゃぐしゃになった鎧を着たオルカとリリスが何事もなかったように会話している。魔獣の血でドロドロになっているが、潰れたはずの身体はすっかり元に戻っており、調子を確かめるようにゴキゴキと音を鳴らしていた。

どうなってる??まさか、アカネと同じ……


「お化けを見たような顔しないで。まぁ、似たようなものだけれど。」


おれは、2人に集中して能力を使う。


「そうか、鑑定がつかえるか。」



“オルカ”

“リリス”


【種族】

人族、アンデット



「アンデット……」


「あら、バレちゃったわね。」


2人は、血の気のない青い顔を見合わせ肩をすくめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る