第26話 モフモフ
「獣人なんて珍しいっすね。しかもこんなところに?」
ミトが剣を納めながら、猫耳少子を見て言った。
獣人……、確かによく見ると背中の方から尻尾の様なものも覗いている。アカネはその少女に抱きつき、頭やら耳やらを撫で回していた。少女の方も最初は驚いていたが、少しくすぐったいのか、笑い声を上げて喜んでいる。
ほのぼのとする光景であるが、此処は遺跡の深層であり、警戒するに越したことはない。おれは少女を見て意識を集中した。
「お兄さんがエッチな目で見てるです!」
「あんた……」
「みゃうみゃう!」「みゃうみゃう!」
ステータスを見ようとしたおれに冷たい目線が集中する。兎までおれを非難する様に鳴き声を上げた。いつのまにか2匹に増えている。
「そういえば、なんでこのブチウサギ、こんなに懐いているんだ?」
「ユキはテイマーなのです!」
猫耳少女ユキが平な胸を張ってふんすと鼻を鳴らした。
兎を両手に抱えてモフモフやっている。それを見てアカネは微妙な顔をし、シルヴィアが羨ましそうに目を蕩けさせていた。
テイマーの能力か、それで魔獣である兎を手懐けているらしい。
「ユキおねーちゃーん!」
「リク!お父さん、お母さん!」
おれが納得していると、ユキを呼ぶ声がして、黒髪の小さな男の子と、金髪の冒険者風の男女がこちらに歩いてきた。お母さんと呼ばれた女性の冒険者がこちらに視線を向ける。
「あら、お客さんかしら?」
あ、いや……と曖昧な返答をしながら、なんだか緊張感の無い雰囲気に、自分がどこにいるのか分からなくなってくる。
オルカ、リリスと名乗った2人は、キョトンとした顔をするおれを見てクスリと笑った。
「ごめんなさい、驚くわよね。私たちはこの近くに家族4人で住んでるの。娘が、見ての通り変わった見た目をしたいるから、街にいられなくなって。」
少し寂しそうな目で、ユキに視線を送ってリリスが言う。
ファンタジーの定番である獣人であるが、街でその姿を見たことがなかった。棲み分けがされているのか、迫害されているのかは分からない。彼女は娘、家族と言ったが、ユキ以外は皆、人族に見える。弟のリクとも似ていないように思えた。そもそも名前が……、まぁ何か事情があるのかもしれないが、悪い人には見えない。
「疲れてるんじゃない?家が近くにあるの、休んで行って。食べるものも少しなら用意できるから。」
そう言ってリリスは、ユキを抱き上げると歩き出した。
おれたちは少し戸惑いながらも、その和やかな雰囲気に緊張感を解かれ、実際ヘトヘトであったこともあって、彼女の言葉に甘えることにした。
案内されたのは、崩れた石造りの建物を、木材で継ぎ接ぎした平屋建ての住宅だった。家の前には、畑があり、何かの野菜などが実をぶら下げている。
おれたちは勧められた椅子に各々座った。シルヴィアがいつのまにか兎を抱き抱えて、意外とひんやりしているんですね。と感触を楽しんでいた。アカネが恐る恐るというように横からつついている。
テーブルに蒸した野菜や芋などをリリスが出してくれ、有り難く頂いた。
「未踏破区域を目指しているか。若い頃を思い出すな。」
「オルカさんも?」
おれは詳細は省いて、権力者と揉めて街に入れなくなった事を話すと、オルカが遠い目をしてそう言った。
「昔の話さ、今は大切な人が出来てしまったからな。」
そう言ってオルカはリリスを見る。リリスも見つめ返し微笑んだ。昔というほど2人は歳がいってるように見えなかったが、その様子は長年寄り添った夫婦のそれを思わせた。
少し離れたところで、ユキがミトに肩車され、きゃっきゃとはしゃいでいる声が聞こえる。ユキのワンピースの裾から、肌触りの良さそうな白い尻尾が飛び出し、ふよふよと動いていた。
イッセイが近くでそれを羨ましそうに見ている男の子に近づいた。
「リリスさん、リク君の顔色が少し悪い気がする。私は町医者をしてる物なのだが、観てもいいかな?」
「っ! 結構です!!」
イッセイが何気なく言った言葉に、何故かリリスは過剰に反応した。
「あ、いえ。お疲れのところ申し訳ないですから。」
リリスはそう取り繕うと、さっとリクを抱え上げた。
イッセイは急に豹変したリリスに圧倒され、戸惑った反応を見せた後、勝手なことをと、申し出を辞退した。
なんだか変な雰囲気になる。視線をあげると、オルカや、先ほどまではしゃいでいたユキ、リクまでもが、おれたちの方をじっと見ている。その視線が恐ろしく冷たく、生ぬるい汗が首筋を伝う。
「おにいさん、さっきわたしのお尻を……」
「やっぱりあんた……」
見てないぞ!!
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