第16話 レベル

夜明け前、揃って戻ってきた2人の顔を見て、イッセイはホッとした顔をした。


細かいことは省いたが、彼女が血を受け入れたこと。

その際、魅了の能力を無効化したことを説明した。

イッセイは、傷は癒えて血の汚れだけついた左手と、首筋に残された跡をちらりと見て、そうか。とだけ言った。

能力のことを聞いて、彼女は複雑な顔をしたが、視線を上げると、まだまだ修行が足りないのかしら。と軽口を言い、こちらを見て怪しく笑った。

心の中で、十分だよと思いながら、おれは苦笑した。



シズヤ コウイチ


【スキル】

アクセスコード(2):レベルIIの権限を付与



どの段階で上がったのか分からないが、レベルアップをしていた。


「レベルアップって、もっと凶悪な敵とかを倒した時に上がるものだと思ってたのだけど。」


凶悪さでは羽虫に負ける彼女が、少し不満そうに言った。

相変わらず不親切な内容で、これ以上の事は何も分からなかったが、”(2)”の表記から、やはりこれはレベルなのだろうということが判明した。


イッセイの方は、レベルが上がれば扱える毒の数が増えるかもしれないと分かると、次はアルコールかな、などと独りごちた。

それを聞いて、確かに彼の職業柄、消毒液として使えるそれは有用であり、濃度の高いアルコールも手に入りづらいものではあるが……と呆れてしまう。

しかし、とも思った。もしかすると、強力な毒を作ったところで、彼にそれに対しての耐性は無く、安易に扱えないのでは無いか、と。

ちらりと彼の表情を盗み見るが、そこまで考えての事なのかは分からなかった。


アカネは、今後の事を考えていた。

仕事の事であるが、魔力の提供はかなり良い対価が貰えている。だがそれをやると、凄く……疲れるらしい。雑用の仕事だけで続けさせて貰えるかは相談しないと分からないが、そうすると生活が中々苦しくなる。


「コウスケ、一緒に遺跡に潜らない? わたしと。」


彼女はそう提案した。

今の仕事を続けたい気持ちもあるので、週に1度程度になるかもしれないけれど、と付け加える。

集団での採集に一緒に参加する方法もあるが、稼ぎとしては少なくなるし、彼女の能力が、万が一大っぴらになる事もなるべく避けたかった。

おれも表層を歩くだけなら大分慣れてきたところではあるし、深いところまで行かなければ大丈夫だろうと判断して、その提案を受け入れた。


「その時は、おれも一緒に行かせてもらう」


「パーティの結成ね!」


イッセイが同調すると、彼女は嬉しそうに笑い、おれとイッセイも釣られて笑った。



疲れ果てていたおれたちは、診療室で休ませて貰っていたが、昼頃にわらわらと集まってきた子供たちの喧騒によって目を覚ました。

イッセイから、血液の入った小瓶を受け取っていた彼女は、子どもたちを見ると、彼らを無言で抱き締める。

そして、きょとんとする子供たちに見送られて、おれたちは診療所を出た。



「喉が渇いたわ……」


診療所を出たとたん彼女が呟くのを聞き、ギョッとして、おれは後ろを振り返えった。


「……お腹もね。」


うまくいったとばかりに笑った彼女は、お腹をさする。

おれは、それを無視して向き直ると、足早に敷地の外に出ていった。確かに腹が減った。


「ちょっと……。」


待ってよ。と彼女が後ろから追いかけてくる。

そして、2人で並んで、飲食店の並ぶ繁華街へ向かった。

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