第9話 魔力測定
「そんなに私のことが気になったかしら?……自己紹介でもしておきましょうか。アリアと申します。」
引き続き対応をしてくれるらしい彼女は、上から下へとおれに視線を走らせ、胸に付けた名札をチラリと見せてくる。
そして、えっと……と言い淀むおれに、自己紹介を続けようとする彼女だったが、こほんっと、カウンターの奥から年配の女性が咳払いをする音を聞いて、さて仕事仕事と、慌てて新しい資料を取り出し始めた。
「今回は厳重注意に留めますが、今後は構内、街中でもですが、無闇に能力を使用しない様に。」
彼女はそう言いながら近くの壁を指さす。そこには構内での魔術の禁止を謳うイラストの描かれたポスターが貼ってあった。
すみませんでした、と頭を下げると、彼女は子供をしかる教師の様によしっと頷き、そして笑ってくれた。
「魔力の測定をいたしますので……こちらに手を」
アリア先生……アリアは、コードで繋がるベルトのようなものと、掌ほどのガラス玉の付いた測定器を取り出した。
魔力量や魔術の知識についての問答の際に、自分ではよく分からないと答えたこともあるが、個々のパターンを解析し、魔術を使用した犯罪などが起きた時に、その痕跡から個人を照合できる技術があるらしく、犯罪抑制の意味もあって測定は義務である様だ。
指紋を取る様なものか……元の世界では経験ないが、何も後ろめたいことがなくても、ドキドキしてしまう。悪さをすれば簡単に特定されるというのは、力を持つ者への抑止力として、なるほど有効である。
促されるままに手首にベルトを巻く。
アリアが測定器を操作すると、ガラス玉に白いモヤが渦巻き、少しずつ色付いていく。
白……黄色……そして少し橙に近い色になった時、測定が終了した。
測定器の表示を見ると2(-)と出ている。まあ並の範囲ですよ、と優しく言われた。
ざわり、と周囲が騒がしくなった。
アリアがなんでしょうと首をかしげ、おれも視線をやる。すると人だかりが出来始めていた受付の一角に、見知った顔の女の子を見つけた。
同様に魔力の測定をしていたらしい彼女は腕に測定器を取り付けている。そしてそれに繋がるガラス玉はどす黒い赤に染まっていた。
それはこの測定器では上限に近い値を示しているそうで、視線に気づいた彼女はこちらを向くと、ふんすと得意げな顔をした。
おれはシッシッっと邪険にして、すぐにアリアの方へ向き直る。
悲観しなくてもいいですよ、とまるで悲観しなければいけない事があったかのように彼女に言われた。心外である。
最初の方に遺跡に関わる仕事がしたい、と伝えたおれに、戦闘経験が無くても出来ますよと、素材採集の仕事を紹介された。
ギルドの遺跡管理課というところで指導も受けられるらしく、手配をお願いする。
街で使える身分証は後日発行されるらしく、ここでの手続きはそれで終了した。
お礼を行って下がろうとすると、去りぎわに、個人的な話はまた今度でも……と声を掛けられた。
年上好きというわけでは無かったが、綺麗な女性にそう言われて嬉しくないはずは無く、うししと呆けながら歩いていると、正面に人の気配を感じ、急停止する。
そこに仁王立ちしていたアカネは、一歩おれに近づくと、思いきり足を踏みつけた。
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