第3話 新たな世界
ガタンッと大きな衝撃と体の痛みに意識が引き起こさせる。木と少しカビたような匂いを感じながら目を開けた。
「あら、気がついた?」
知らない顔の女の子が上から覗き込んでくる。
黒い艶のある髪がパサリと垂れ、汗と埃と、少しだけいい匂いがした。
頭がぼんやりする。
周囲を見渡すと、木箱が積まれた小さな部屋の隅に寝かされている様だ。始終ガタガタとゆれており、薄い布がひかれただけの硬い床の感触に体が痛む。
身体を起こそうとするが、上手く力が入らない。
女の子に体を支えてもらって、ようやく起き上がった。
「これ飲んで」
渡された、液体の入ったコップを受け取ったところで、激しい喉の渇きを覚え、一気に飲み干す。
少し甘く、冷たい。水分が全身に染み渡っていくのを感じて弛緩した。
それを見た女の子もホッとした表情を浮かべる。
「あなた、街道で倒れていたのよ」
倒れて……
それを聞いてようやく、これまでの……異世界に飛ばされてからのことを思い出した。
例のあの空間で白い光に包まれた俺は、少しの浮遊感の後、気がつくと背の高い草が生い茂る草原にいた。
草の匂いが混じった風が、顔に冷んやりとあたる。
コンビニのバイト帰りのままの、ジーパンに薄手の上着といった服装だが、寒さは感じない。
異世界……か?
見渡す限り茶色い草の群生が続く。空には青みがかった色の太陽が高い位置で強く輝き、近くに大岩が濃い影を作っている。
遥か遠くに鉛色の土が剥き出した山脈、反対を向くと暗い緑をした森が現れる。
とりあえず俺は、近くに落ちていた鞄を拾って、胸の高さほどにもなる草をかき分けながら、大岩に向かった。
大岩は背丈の2倍ほどの高さになり、上に登れば何か見えるかと思ったが、前述と変わらずの風景であり、人気を感じさせるものは何も見当たらない。
大岩の上に腰掛け、天を突くような尖頭状の山脈をぼうっと眺めながら、状況を整理する。
新たな世界で生きよ
あの時聞いた声を思い出す。
テンプレであれば、例の空間でスキルを貰い、異世界に飛ばされたところである。
女神も出てこず、無機質な声のみ。城の地下の様な場所で魔術師に召喚され、おお勇者よ……と迎えられるわけでも無さそうだ。なんとも味気ない。
スマホが圏外になっていることを確認し、電源を切って仕舞っているところで、スキルの事を思い出した。
「オープン」
目の前に半透明のモニターが現れる。
掛け声は色々試したが、なんでもいいらしく、多分念じるだけでも、この“ステータス画面”は出せそうだ。
シズヤ コウスケ
【種族】
*****
【スキル】
******
相変わらず読めない。
……が、やはりひとつは種族か。
予想が当たったことに少しホッとすると同時に、様々な選択があったはずであることを悔む。
そしてスキルが、1つ……
俺はあの時、100pすべてを使用し、1つのスキルを取ることにした。
後悔はない……今のところ。
アイテムでなくて良かったと思った。なんせ消耗したり取り上げられたら終わりである。……いやスキルを奪うスキルなんかもあるのかも知れないと思いあたる。
それこそ100pレベルのスキルな様な気がするが。
なんにせよ、恐らくかなり強力なスキルであると思われる。
期待と不安が入り混じる気持ちを落ち着け、何か自分の中に感じられないか集中してみるが、何も感じられなかった。
ウンウンと唸りながらステータス画面を弄っていると、文字化けしている項目が触れるようになっていることに気づいた。
試しに、スキル欄のそれに触れてみる。
頭の中でカチリと音がする。
すると、ステータス画面の方で電子音がして、別の小さなモニターが開いた。
********
***** *****
相変わらず読めないが、何か選択を迫られている様な気がする。
ええいままよ、と1つに触れてみる。
“復元に成功しました”
【スキル】
アクセスコード(1):レベルⅠの権限を付与。
お!? おお!! おおおおお!!
「読める!!直った!!」
思わず変な声を上げてしまった。
書いている内容はよくわからないが、急いで種族の方も試してみる。
“表示にエラーが発生しています。復元しますか?“
”実行“ ”キャンセル“
なるほど、この文字化けを修復したわけか。
【種族】
人族:魔力操作(小)
実行を選択すると、先程と同じメッセージの後、読めなかった項目が読めるようになった。
レベルⅠの権限……
これによって表示のエラーを修復できるようになったことを理解した。
他に何かないか、色々いじってみるが、これ以上わかることは無かった。
100pのスキルにしては地味な気がするが……(1)となっているのがこのスキルのレベルなら、徐々出来ることが増えていくのかもしれない。
無理矢理不安を押し込んで、思考を切り上げる。
問題がひとつ解決したが、現状の改善には役に立たないことが判明した。
ここでじっとしていても仕方がない。
そこからはひたすら歩いた。
遠くに見える山脈を右手に、太陽の動きから北と思われる方向に向かい、一直線に進んでいく。
日が落ちた後も、休める様な場所は見つからず、鞄に入っていた携帯食で空腹を誤魔化しながら、満月に照らされた草原の中で足を動かし続けた。
どれくらい歩いたのか。
車輪の跡が残る街道にたどり着いたのは、足の痛みをとうに感じなくなり、あたりが薄明るくなってきたころだった。
この道を辿っていけば街にたどり着ける。
そう思ったとき、希望が見えたことで気が緩んだのか、押さえ込んでいた疲労が一気に押し寄せてきた。
俺はその場に崩れ落ち、
そしてそのまま意識を失った。
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