SEVENTH HEAVEN
回転饅頭
第1章
宣告
あれはいつもよりも暑く、不快指数も半端じゃないくらいに高い蒸した日のことだった。
「先日行われた期末テストの答案を返す」
前から四番目の窓際の席で、俺は小さくため息をついた。数学が苦手な俺は、どうせ赤点だろうとたかをくくっている。
「雨宮…磯川…」
一人一人名前を呼びながら答案を手渡す先生。
今回は、いつもよりも芳しくない成績…まぁいつもと同じなんだが…
「…三杉」
先生の表情が軽く曇る。
なんとなく、わかっていた。
先生の前に立った俺に、先生は言った
「決まりだな」
そう言うと先生は答案を俺に手渡した。成績は…いつもと同じだ。
――ん?
それにしても、さっきの言葉の意味がわからない。
――なにが決まりなんだろうか…
席に戻ると、俺は答案を伏せて突っ伏した。
白い開襟シャツの背中にじりじりと照りつける夏の日差し
「これで、全員の答案が返ったな。それじゃ、今回のMBSを発表する」
…?
なんだそれは?俺は隣の席の女子生徒、松田の肩を叩いた。
「MBSってなんだ?」
「やだ三杉くん。ニュース見てないの?」
俺は頷いた。
内閣総理大臣、黒坂猪四郎(くろさかいのしろう)が提唱した新たな法律。永田町の国会議事堂のど真ん中で、でかい声で奴は言った。
「この国家の最大の問題であるという、青少年の学力低下。私はこれをどうにかしないことには、この国に未来はないと考えたわけであります」
黒坂のよく通る声に感化されたような政治家たちの拍手が鳴り響く。
『生徒仕分け法』
MBS(MOST BAD STUDENT)とされた生徒に、矯正プログラムを施し、優秀な生徒に仕上げるという。
事実、この国の学校環境は劣悪なものだ。小学校の頃から学級崩壊は珍しいことではない。
それに加え教師の指導力低下…モンスターペアレント……酷いという言葉だけでは表せないほどの劣悪さだ。
そういう俺も、そういう最中に生まれ、そういった環境が当たり前だと思ってたけれど…
MBSは、そのクラスの担任が指名することになっている。
大きな黒いバインダーを開くと、全員の名前に目を通す。そして…宣告するのだ。
「三杉和司。お前がMBSだ。何か言うことはないか?」
俺はむすっとした顔で言った。
「いや…別に…」
――どうせ、ビリな奴を皆で笑って、矯正プログラム受けて成績を上げる。そんな感じだろう。
「そうか、ならお願いします」
教室の入り口がガラッと開く。すると、黒ずくめの厳つい男が二人、教室に入ってきた。
「な…なんだ?」
隣のクラスでもうるさいほどの悲鳴が聞こえた。俺は、言い知れない恐怖を感じた。
黒ずくめは、俺に変なスプレーを吹き掛けた
――次の瞬間、俺は意識を失い、倒れてしまった
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