白の規律

野中りお

第1話

一つ、白いワンピースタイプの制服はひざ下きっちり10㎝。これ以上長くても、短くてもいけません。

一つ、髪は黒髪。長さの指定はありませんが、リボンやカチューシャなどの装飾品は禁止。ヘアゴムやヘアピンは黒のみ許可。

一つ、化粧は禁止。ただし、指定されたリップと日焼け止めだけは必ず毎日使用する事。


「本当に変な校則」

セーラー服のように大きな襟元からのびる細い赤のリボンを結んで、鏡の前でくるりと回れば、確かに校則に則った自分の姿がそこには映る。

今日から私が通う「私立華園はなぞの学園女子高等学校」は全寮制の高校だ。

真っ白な校舎、真っ白な寮、そして真っ白な制服。

白尽くしのこの学校を最初見た時は日の光に反射してキラキラ光っているように見えた。

「瑞樹ちゃん、準備はできた?」

ノック音の後に扉の向こうから可愛らしい声がする。

「うん、お待たせ」

白い手持ち鞄を持って声の方へと走る。扉を開ければ見慣れた彼女がいた。

「早くしないと遅れちゃう、少し急ごう?」

黒い髪は綺麗にハーフアップにされており、サイドの編み込みも綺麗にまとまっている。

少し心配そうな表情をして私を見る彼女の名前は牡丹。

この学園にきて初めてできた友達であり、寮では隣の部屋に住んでいる。

「もう。瑞樹ちゃん、右袖のボタンとまってないよ?」

「本当だ。ありがとね」

袖についているボタンをきちんと付ければ腕の布はふんわりと広がった。

「なんだかまだこの制服も、学校自体にも慣れないね」

「ほんとうだね。もう1ヵ月もたつのに」

この学校、少し変わっていて寮と学校は1本の長い廊下で繋がっている。

そのため、外に出ることなく教室へと行くことができる。

「雨に濡れないのは良い事だけど」

「でも、こんな建物じゃ天気なんてわからないよ」

「窓、無いものね、この学校」

学校の校舎へと続く廊下までくれば、他にも生徒が数名歩いていくのが見える。

コツコツと鳴る足元の指定されたローファーは5㎝のヒールが付いている。

フラットな靴ばかり履いていた私にとってこの5㎝は足が痛くなる高さだ。制服は可愛くて気に入っているが、この靴だけは慣れるまでに時間がかかりそうである。

二つに折られたこの短い靴下にも。

教室のドアを開ければすでにほとんどのクラスメイトがそろっており、談笑を楽しんでいた。

人数は17名。普通の学校よりも少ないこのクラスは、学年でこのクラスだけ。

2年生も、3年生もクラスは一つしかない。

(クラス替えが無いから上手に友好関係を保たなきゃね)

牡丹は違う子と話し始めたため、私は自分の席に座り鞄から必要な教科書を机の中に閉まっていると、前の席の子が私の机の前に椅子を持ってきた。

「おはよう、瑞樹ちゃん」

「紫苑ちゃん、おはよ」

「宿題やってきた?私、今日当てられそうなんだ…。あってるか確認してもいい?」

「もちろんいいよ!一緒に確認しよう」

白い肌にそばかすが目立つ彼女はノートを広げて確認を始める。

「私、こんな教科ばっかりだと思わなくて、ちょっと入学したの後悔してる」

「紫苑ちゃん理数系って言ってたもんね」

彼女がため息を付きたくなる気持ちもわかる。いま私たちが習っているものはただの国語や数学といったものではない。

マナーや言葉遣い、そして一般常識。部屋のどこが上座かなんて今まで考えた事なかったし、謙譲語も尊敬語も全部同じにしか感じられない。

中学で使わないだろうとあまり真剣に取り組まなかった結果がこれだ。

「入学試験にはこんなの無かったもんね」

「瑞樹ちゃんテスト受けて入ったの?」

「ううん。面接だけ」

「私も…というか、全員そうだと思うけど」

カチンと時計の針が動き、チャイムが鳴る。

紫苑ちゃんはお礼を言って席に戻ると、同時に前の扉が開き先生が入ってくる。

「皆さん、おはようございます」

教壇に付く先生の黒く真っすぐ伸びる髪が艶やかに光っている。

朝のホームルームが今日もまた始まる。

出席確認の後、ある程度今日の予定を伝えると先生は持っていたノートを閉じて私たちの方を向いた。

「いいですか。皆さんは選ばれた生徒です。今日もしっかり学びなさい」

(ここを卒業すれば、安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入るのですから)

「ここを卒業すれば、安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入るのですから」

一ヵ月間毎日聞かされているこの言葉はもう覚えてしまった。

この歳の少女に伝える言葉じゃないでしょ、なんて最初は思っていたけれど慣れてしまえば特に違和感なく耳をすり抜けていく。

厳しく指定された制服、変わった校則、そして気持ち悪いくらいに白で統一されている建物。

なんだか変わった学校に入学してしまったなと思うが、三年間ここで学ばなくてはいけない。慣れるしかないのだ。

窓ひとつない教室の天井を見上げれば、蛍光灯の人工的な光に目がくらんだ。

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