ただ僕は、キミの力になりたくて――8
最後のワンフレーズ、乙姫と目が合った。
胸に手を当てた乙姫の瞳は、まるで僕だけを見ているようで、まるで僕に語りかけているようで……僕は、
サビのメロディーをリフレインするように、ストリングを加えた最後の伴奏が行われている。
アウトロ――いよいよこの曲も終わりを迎えるんだ。
音子が作った、美しい音の世界。そのなかで、乙姫が微笑んでいる。
やさしく目を細め、口元を柔らかくほころばせて、手を差し伸べるみたいな表情をしていた。
ああ……キレイだ。かわいい。ステキで、美しくて、誰よりも愛おしい。
僕は乙姫が好きだ。堪らなく好きだ。
エレクトリックピアノのやさしい音色が、静かに静かに溶けていった。
僕は、録画停止ボタンを押す。
「――いやぁーっ! ええでーっ!」
直後、音子が絶賛の言葉と拍手を贈ってきた。
「もう、完璧やん! TAKE2、いらへんで! ウチ、泣きそうになったわ! 啄詩は我慢できひんかったみたいやけどなっ!」
「うん……そうだね」
「――啄詩?」
僕はホッとしていた。音子の皮肉にも冷静に対応できるくらい。
そして、ちょっとだけ悲しみを感じていた。
「――終わったね、乙姫?」
「うん――終わったね、啄詩くん?」
「うん」
終わったんだ。僕たち三人の曲作りが、終わった。
不思議だなあ。一足早く、夏休みが終わったような気分だ。
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