第4話〈膝枕って何?〉
「思ったんだが」
辰喰ロロはそう切り出した。
「……なんだよ、唐突に」
少し遅れて、長峡仁衛は彼女の言葉に答える。
「膝枕は、実際にやったら膝の部分で枕をする事になるだろ」
「……あぁ、まあ、膝って名前がついてるしな」
長峡仁衛は横になる。
黒ストッキングの枕カバーに、膝小僧が被せられている。
「……だな」
それを見ながら長峡仁衛は同意した。
「……つまりは、膝枕は太腿枕と言う名前に改めた方が良い」
「そんなに、気にする事か?」
辰喰ロロの言葉に長峡仁衛はそう答えた。
うつろの瞳は真横に視線を流す。
横向きになってくつろぐ長峡仁衛は彼女の顔を見ようとしたが。
其処には影が出来た胸の底しか見えない。
「気にするだろ。普通は」
長峡仁衛を猫の様に髪を撫ぜる辰喰ロロ。
彼女の指先は細くて、櫛の様に長峡仁衛の髪を梳いていく。
「お前は少し、髪が長いな」
「……あぁ、まあ、切る予定も無いしな」
「予定を作れ、スケジュールに入れておいてやる」
「いや予定を決めるなよ」
「そして切った髪は私にくれ」
「なんでだよ。俺の髪を貰ったって嬉しくないだろ」
「だって、うまそうだろ」
……一瞬だけ言葉が消えた。
長峡仁衛は何を言うべきか困っていた。
そして、はは、と乾いた笑い声が生まれる。
「冗談にしては面白くないぞ」
そういうと、長峡仁衛の髪を掻き分けて耳を出す辰喰ロロは、そのまま口を耳に近づけて囁いた。
「冗談に、聞こえるか?」
こそばゆい吐息交じりの言葉。
長峡仁衛は呆然としながらも、その言葉が脳裏に残っている。
「……だとしても、消化に悪い」
「いいさ別に。お前が私の中で、お前の一部が私に溶けていく。そう思うだけで、高鳴る」
それは、心臓が高鳴ると言いたかったのだろうか。
長峡仁衛は息を吐いて、膝枕から脱しようとする。
「待て、何処に行くつもりだ」
立ち上がろうとする長峡仁衛を背後から抱き締める辰喰ロロ。
「離せ捕食者。お前の傍に居ると心まで食われそうだ」
そう言って長峡仁衛はそっぽを向く。
心なしか長峡仁衛の顔は赤くなっていた。
「ん?ははぁ、お前、朴念仁の鈍感に見えて、案外な」
「な、なんだよ」
「いいや、案外敏感なんだな」
後ろから強く抱きしめて、彼女の頬が長峡仁衛の首筋に当たる。
灰色に近しい白髪から、甘い匂いが漂ってきた。
「あのな、そういうのは……」
「別に誰にでもするワケじゃない。お前が私を食いたいのなら、……私もお前を食うだけだ。据え膳、食わざること男の恥、と言うだろ?」
薄桜色の唇が舌先で濡れていた。
朱い瞳は情熱的で、長峡仁衛を映している。
長峡仁衛は、その瞳を綺麗だと思った。
その瞳の中に吸い込まれそうな程に……顔を近づけて。
「長峡仁衛、居るか」
保健室に入って来た学園関係者の声で意識が元に戻った。
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