崩れ遺跡

 んーやっぱり慣れない。

 探索するに辺り長袖長ズボン、もしくはそれに準ずる性能の衣類系の採古物を身につけるのは当たり前、とはいえ……


「こんなぴっちりしてなくても良くないか?」


 一応外見上は毛皮やら胸当なんかの装甲で体のラインなんかは隠れているものの、中身は手足以外をぴっちり覆う全身タイツのような感じになっているのだ。

 お陰で胸や尻、股といった……言うならば女になってしまったと自覚せざるを得ない場所の現状を痛感せざるを得ないのですよ。


 かといって現状この全身タイツと防具に勝る防具は無いし、仕方ないんだけどね。


「お、長耳。昨日と違って今日はふわふわだな」


 そんな事を思いながら門へと潜った僕が、身体能力に物を言わせ約30m程の高さから飛び降りた衝撃をものともせずに立ち上がると、初老のカエルじいさんにそう声をかけられる。


 そりゃあ毛並みは大事だからね。余裕がある時はきちんとするのが身だしなみってものなのだよ。


「お前さんは無口な割に表情豊かで、本当に何考えてるかわかりやすいねぇ。ま、ここは崩れ遺跡だ。そこまで危険なマモノやケモノは居ないが、巣には気をつけて探索するんじゃぞ」


 そんなわかりやすいかなぁ?

 でもまぁ、忠告は有難く頂いておきましょうか。


「ありがと、気をつけるね」


「おう、気をつけるんじゃぞ」


 カエルのじいさんにヒラヒラと手を振りながら、僕は正面にある底の見えない穴の壁から流れる水で出来た霧の中、壁面や宙吊りになっている足場を使い下に降りていく。

 ……細い足場なのに一段一段飛び降りる度にぽよんと跳ねるそれが非常に鬱陶しいものの、それでもしっかりと地上街と同じ黒いレンガや謎の絵がある壁面を伝い降りる。


 そして数日かけて辿り着きましたはここ、ただの横穴です。

 えぇ、ただの横穴ですよ。

 まぁ過去に何千何万も探索され尽くしたこの崩れ遺跡の浅い層なんて隅から隅まで調べ尽くされてる訳でして……

 そんな場所には採古物所かマモノやケモノすらおりません。

 ですが、誰かさんが作ったりした隠し通路なんかは、案外そのまま残ってたりするものなのです。


 僕はガラガラと前回の探索で見つけた隠し通路を掘り出した後、細い横穴を進み前回採古物を見つけた場所へと向かう。


 とはいえ、この遺跡がヒトで賑わったのなんて数年数十年前所じゃないし、こういうものがあってもなーんにもおかしくは無いんだけどね。


「んっ……くぅ……狭いなぁ」


 女になって前より細身になったけど、こういった所で尻とか胸がつっかえるのはなんとかならないものなのか……

 早く男に戻りたいもんです。

 っとよし、やっと広い所、前回来た所までこれました。

 とはいえこの先は未探索。

 改めて来てみると空気は淀んではいないけどホコリは積もってるし、少なくともここ数年は立ち入られてない場所だね。


 前回でも入口にあった崩れた一軒屋を漁った程度だし、様子見がてら一旦ここで休憩していこうと考えた僕は、薄らとホコリの積もった、崩れたり埋もれたりした街の遺跡の入口と思われる場所に荷物を下ろす。

 今更ながら縦穴を数日かけて降りたように、最上層たる崩れ遺跡でも相当な広さがあり、一回潜るだけで数週間、長ければ数ヶ月、数年もかかるその場所へ挑む為には沢山の資材が必要となる。


 そこで役に経つのがこちら、圧縮箱ー。

 その名の通り採古物の力で色んな道具や食料なんかを圧縮、小さく、手のひらサイズまで圧縮してくれます。

 しかもなんと上等な物だと劣化を防いだりする機能までついている。

 そんな便利な物だから冒険には必須な割にすっごく高くて……これが本当の序盤最大の壁ですね。

 と、言うわけで休憩用の圧縮箱を開けまして、いでよマイハウス。


 背負っていたバッグから取り出した「家」と書かれた圧縮箱をぽいっと投げ、それが地面に落ちるとぐぐぐいっと大きくなり、それが開くと中から大きなテントが出てくる。

 中に入るとそこには削りこそ荒いものの、この世界では上等といってもいい机や椅子といった家具と、調理道具や武器や探索道具の手入れ道具などが置いてある。


 何度見てもやっぱりこれは凄いなぁって思っちゃうね。

 よし、それじゃあ一休みして明日からの探索頑張りましょう。


「えいっ、えいっ、やー!」

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