水落つ遺跡の探跡者
こたつ
地上街・ディスモダルーク
僕の耳へと入ってくるカツン、コツン、ペシャ、ベチ、等々、そんな様々なヒトビトの足音ばかりで賑やかさのない街を、僕は珍しい物を見るような目を向けられる。
それもそのはず、今の僕はふさふさの毛並みも、ピンと後ろに流れる様に立っている長い耳も、そして尻尾や振袖のような毛もヌルヌルのベチョベチョになっているのだ。
まさか取ってきた採古物を起動したら無限にヌルヌルが出てくるとは思わなんだ。
あれか?昔の文明ではあーいったドッキリアイテムが流行ったのか?もしそうなら絶対碌な文明じゃないよ、あの一帯の文明。
まぁ、粘体系のヒトの文明なら正当な需要はありそうだけど。
内心そんな愚痴を言いながら、ペッチョペッチョと他の多種多様な足音にも負けない足音を鳴らしつつ、僕は自分の家としている廃屋の道中にある店へと向かう。
嫌がらせの意味も込めてあえてヌルベチョのまま店に上がると、ゴリマッチョで裸エプロン姿というインパクトの塊なそこの店主は、ギョッとした後に大笑いし始める。
「はっはっはっはっはっはっはっ!いやぁー本っ当に誰かと思ったぞ!あれはもうどう見ても獣の一種だったからな!「門」から出て無ければ今頃ケモノに間違われて襲われてたに違いない!はっはっはっはっはっ!ぐふぅっ!?」
そんな笑わなくてもいいだろうにっ!
ったくもう、こっちが帰り道の道中何度それで襲われたか……
「ん」
「おっと、せっかくの採古物を投げんじゃねぇよ。まぁ見た感じ、お前のその有様の原因がこいつなんだろうけどな」
うぐっ、流石にあからさま過ぎたか……せっかくこいつもドロベチョにしてやろうと思ったのに。
「なんだ?俺も同じザマにするつもりだったのか?ったく、仮にも採古物を他の場所に下ろしたりお前らに売ったりする俺が、そんな解析もせずに採古物を使う訳ねぇだろ」
なんで考えてる事分かったし!
さては貴様エスパーだな?
「そもそも使い切りの採古物が殆どなんだ、お前を女にしたこいつみたいにな。ほんと、危険を承知でコラビスに入って手に入れたせっかくの採古物をその場で使ってみたりする探跡者共の気が知れねぇぜ」
そう、店長が解析を始めた採古物という物は、この街の中央にある門と呼ばれる枠取りされた、大きめの部屋1つ分程度の穴の中で見つかる使う、もしくは解析するまでどんな事が起こるのかすら分からない、古代文明の道具なのだ。
そしてそれらが眠る門の先にある場所こそ、コラビスことコラビスイゼーシアと呼ばれる、どこからか水が流れ込み続ける数多もの崩壊した文明が積み重なった、全容不明の水に満ちた大遺跡である。
そして僕はこの街を訪れた際に、たまたまこの店で手に取った採古物が発動し女となってしまった挙句、その代金分をコラビスに潜り採古物を取る事で稼いでいる探跡者の1人だ。
ちなみに探跡者の拠点となっているこの街自体も遺跡の1部であり、地上の辛うじて家の形をしている所を様々なヒトが占拠し、暮らしたりしている。
「よし、解析終わりだ。上層の物は解析が簡単で助かる。ほれ、いつも通り代金代で半分抜いた残りだ」
うおぉ!お金を投げるでない!ってあれ?
「多い?」
てっきり良くて金貨1枚程度だと思ってたんだけど……
「この街だと水には困らんが、知っての通り外に水は余りない、だから蒸留なりなんなりしてヌメリさえ取れば飲料に出来る」
あ、やっぱりそういう事か。
「それに、実はこういったヌルヌルってのは意外と需要があるもんでな。女への入りを良くする為に使うやつが居るらしい」
入り?ヌルヌル?それって──────
「……帰る」
「おーう!だがその前に……ほれ、着替えだ。せっかく渡した女物の服もそれしか無いだろう?せいぜい襲われないようになぁー」
「余計なお世話っ!」
そう言って僕は次の探索の準備を進めるべく、貰った女性用の着替え一式とお金を収納袋にしまいながら、さっさと帰るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます