【完結】無能として追放されたポーター、基礎ステータス最強でした。辺境を飛び出して人生やり直します

ファンタスティック小説家

呪われた子


 マーヴィ・マントは能無しだ。

 100万人にひとりとも、1000万人にひとりとも言われる『知恵遅れの祝福』を生まれながらに受けてしまった者だからだ。


 言葉はつたない。

 声のトーンはいつも浮いている。

 宙空を見上げて独り言をつぶやく事も多い。


 周りの子たちとは変わっていた。


「ふざけるな……っ、俺が何したって言うんだ! こんな事って、ないだろう!」


 マーヴィが5歳になり、まわりの子供と明確に差がついてくると、父親は姿を消した。


 マーヴィは生まれつき脚も悪かった。

 歪に曲がった脚を見て母親は王都で腕利きの治癒院にマーヴィを連れて行った。


「検査の結果ですが……残念ながら、おたくのお子さんは歩けるようにはなりません」

「あなたは奇跡の術を学校で学んでいらしゃったのでしょう? お願いします、お願いします! どうかこの子を歩けるように……!」

「とは言われましても……歩行を補助するサポーターのようなものがあれば、あるいは──」


 小さな町で寂れた宿屋を営む母親に、高価な細工と仕掛けからなるサポーターは、値が張った。だが、母親は数ヶ月分の給料をはたいて、サポーターを買って与えた。


「ぼく、あるける?」

「ええ、もちろんよ、マーヴィ」

「でも、せんせいは、あるけない、って言ってたよ」

「やってみないとわからないわ」


 やってみないとわからない。

 母親の口癖だった。


「うん! わかった!」


 歩行サポーターを装着する事で、マーヴィはかろうじて歩けるようになった。


 10歳になり、マーヴィは女神の祝福を与えられる儀式に参加するため教会へと行った。


 同年代の子供たちが『癒しの祝福』『鍛治の祝福』『粉挽きの祝福』など、立派に社会の一部になれる女神の恩寵を受け取っていく。


「あ……もしかして、この子はあのマーヴィ・マントですか?」

「はい、それがどうかしましたか? うちの子にも祝福をお願いします」

「この子はもう祝福を持っていますので、新しい祝福を授かることができないんですよ」


 神父にそう言われ、母親は家に帰って泣き崩れた。


 女神の祝福だけが最後の望みだった。

 我が子の人生を救えるはずだった。


 何が祝福だ。

 呪いの間違いだろう。


「お母さん、どうして泣いてるの?」

「ぅぅ……いえ、何でもないわよ、マーヴィ。さあ、ご飯にしましょう。常連のお客さんが余ったパンを置いていってくれたのよ」


 マーヴィは母親がなんで悲しんでいるのか知りたかった。とはいえ、お腹いっぱいになれば、その事も忘れて幸せな気持ちになった。


 祝福儀式の翌日、マーヴィは物置で古い植物図鑑を見つけた。いろんな薬草が載っていた。


 バカを治す薬草があるのか、確かめるためマーヴィは、サポーターをカチャカチャ軋ませながら、森へ向かうことにした。

 

「おお! 見ろよバカがいるぞー!」

「バケモノだー! やっつけろー!」


 その声を聞くなり、マーヴィは走り出す。

 

 だけど、亀のように遅い、不恰好な逃走だ。

 すぐに子供たちに追いつかれた。転ばされ、立ち上がっては、転ばされ。また転ばされる。


 ひとしきりいじめられ、飽きられたら解放される。


 そんな日々が長く続いた。


「はは、またバケモノが現れたぞ!」

「やれやれー!」

「あ、あれ? なんかあいつ──走れてね?」


 マーヴィは、いじめっこから必死に逃げるなかで、なんと、走れるようになっていた。


 走れることが嬉しかった。

 その日から、マーヴィは、移動する時はいつだって全力疾走で駆けるようになった。


 足だけ人一倍速くなった。

 いじめっこたちは誰もマーヴィに追いつけなくなった。


 ある時、マーヴィが頭を良くする薬草を探していると、おとぎ話に出てくるような豪華な屋敷が見える原っぱに迷い込んでしまった。


「いや、いやっ! こっちに来ないで!」


 ちいさな野良犬が、女の子を襲っているのが見えた。


 「困ってる人がいたら助けてあげるのよ」

 母親はよく世の情けを説いてくれた。


 マーヴィは自慢の脚で駆け寄り、奇声をあげながら野良犬を追い払った。


 少女は呆然として、尻餅をついたまま、マーヴィを見上げている。


「あ、……あの、どちら様、ですか?」

 

 綺麗な声にマーヴィは振り返る。

 その時、彼の時間が止まった。


 海のように深い蒼瞳。

 太陽のように輝く金髪。

 

 まさしく宝石。神が丹精込めて作ったように整った顔だちの綺麗な女の子が目の前にいた。


 マーヴィは何分も言葉を発せられずに、その少女に魅入ってしまった。


 少女はすっかり泣き止んていた。

 

「えーと……あなた、その怪我、転んだの? 大丈夫?」

 マーヴィはよく転ぶので、いつも数だらけなのだ。


「僕は、ぼ、その……僕は……」

 何を話せば良いのか、わからなかった。


「僕は、僕は、ぼ、僕は……」

「いいよ。ちょっとだけ動かないで」


 美しい少女はマーヴィに近寄り、手をかざすと、白く光る淡い輝きで、あっという間に数を治してしまった。


 マーヴィは口を大きく開けて、傷があった場所と、少女の綺麗な顔を交互に見る。驚愕だった。


「君! すごいや!」

「えへへ、ありがと。奇跡の術は、ちいさな頃からずーっと教えられて来たから得意なの」

「君は頭がすごく良いんだね!」

 頭がバカな僕とは大違いだ。


「名前はなんて言うの?」

「僕、マーヴィ。マーヴィ・マントだ」

「マーヴィ……どこかで聞いたような」

「僕はポライトの町で有名人だよ! 『能無し』ってみんなに呼ばれてるんだ!」


 喋り方からなんとなく察していた少女は、「そう、あなたがマーヴィなのね」と言って、薄く微笑んだ。


「わたしはアリス、助けてくれてありがと、マーヴィ」


 美しい少女──アリスの天使のような笑顔を向けられて、マーヴィも笑顔になった。嬉しかった。


「また怪我をしたら、ここに来て。わたしが治してあげる」

「わかった! また怪我してくる!」

「あはは、わざと怪我しなくていいのよ」


 それから数日後。

 マーヴィは町中でアリスを見かけた。


 アリスの側には帯剣した男がいて、彼女のまわりの人たちは、皆、進んで道を空けていた。


 アリスは貴族家の令嬢だった。

 クドルフィ領を治めるクドルフィ家。

 マーヴィの住むポライトの町もクドルフィの領地のなかにあった。


「マーヴィ、どうしたの? 今日は元気がないのね」


 お屋敷の見える庭の隅っこで、またしても傷だらけでやってきたマーヴィにアリスは聞いていた。


「僕、僕……町で、アリスを見かけたよ」

 

 アリスは目を丸くする。


「……。あのお屋敷ね、わたしの家なの」

 アリスは屋敷を指差した。


「マーヴィ、私はクドルフィ家の三女なの。でも、あなたとわたしが友達なのは、何も変わらない。そうでしょ?」

「そうなの?」

「ええ、そうなの。わかった?」

「うん! うんうん! わかった!」


 難しいことは頭が良い人が考えれば良い。

 バカな自分にはわからないことも、アリスならわかる。だって彼女はすごく頭が良いから。


 マーヴィが笑顔になれば、アリスもまた笑顔になった。


 2人は友達になった。


 少し時が経ったある日、アリスは聞いてみた。


「マーヴィはどんな大人になりたいの?」

「僕はどんな大人になりたいんだろう?」

「わたしはね、でっかいドラゴンを倒すような凄い冒険者になりたいわ」

「わあ、すごい!」


 アリスは凄い!

 世界で一番綺麗で頭も良いのに、さらに冒険者になるだなんて!


「僕のお母さんは言ってたよ! 冒険者はすごい人がなる仕事だって」

「えへへ、ありがと。そう言われるとすこし照れちゃうかな」


 キラキラした笑顔だった。

 けれど、アリスの顔色が、ふと曇った。


「でも、お父様はダメだ、て言うの。貴族が冒険者なんかになっちゃいけないって」

「貴族様は冒険者になっちゃいけないの?」

「いけないらしいの」


 アリスは父に嫌われていた。

 姉妹の中でもとびきりの美人なのに、その顔が、死んだ母親を思い出させるからだった。


 アリスの両親は仲が悪かった。

 

「お父様はわたしのこと、どこか遠くへお嫁にだすことしか考えていないのよ」

「アリスはお嫁さんになるの?」

「さあ? でも、貴族だから、きっとそうなるんだと思うわ。全部はお父様次第よ」

「お母さんは言ってたよ。大事なことは声に出してお願いしないといけない、て」

「そうね。その通り。でも、わたしは弱いから、とてもお父様に逆らう勇気なんて……」


 マーヴィはアリスの悲しげで、すべてを諦めてしまったかのような横顔をじーっと見た。


 数日後、ポライトにやってきた領主に対して「アリスを冒険者にしてあげてください!」と叫ぶマーヴィの姿があった。


 権力者に噛み付く知恵遅れの平民。

 悲惨な未来を、野次馬全員が予期した。


「なんだ貴様は?!」

「アリスの友達です!」

「ええい、気持ち悪いガキめ! 近寄るな!」


 思い切り殴られた。

 こんなに痛いのは初めてだ、と口から血を流しながら、マーヴィは思った。


「汚らしいバケモノだ。この場でその呪われた命をかき消してやろう! どうせ誰も悲しまんことだしな!」

「お父様、やめて!! それ以上、わたしの友達を傷つけることは許さない!」


 野次馬たちをかき分けて、剣を手にしたアリスが飛び込んできた。


 卓越した身のこなしと、剣捌きで、マーヴィを斬ろうとする騎士たちを、アリスはあっという間に倒してしまう。


 蒼瞳には覚悟の炎が灯っていた。


「アリス……っ、なんだ、その力は……、はっ、もしや、祝福を覚醒させたな?! わしは剣を持つことなど許した覚えはないぞ!」

「お父様の言う事など聞きません! この身に宿る【剣姫の祝福】がわたしの道です!」


 封印された祝福を意志の力で覚醒させたアリスは、圧倒的な剣技で領主を追い払った。


 その日、アリスは家との縁を切った。

 アリスはただのアリスになったのだ。


「もう、こんなにボロボロになって」

「アリス、アリス、ごめん」

「ううん。あなたが謝る事なんてなにもないのよ。むしろ、ありがとね、マーヴィ。わたし、あなたのおかげでお父様に立ち向かえたわ」


 アリスはマント家で暮らすことになった。


「マーヴィ、立派な冒険者になるには身体をしっかり鍛えないといけないのよ!」

「わかった!」


 縁切りできて意気揚々としているアリスと一緒にマーヴィも冒険者を目指す事になった。

 

 アリスと一緒にいられれば、それでよかった。それで幸せだった。


「何回腕立てをすれば良いいの?」

「もうダメだって思うまで! 限界までやるの!」

「何回腹筋をすれば良いの?」

「それも限界までよ!」

「何回スクワットすれば良いの?」

「もちろん限界まで!」


 自分がバカだと知っていた。

 だから、自分にできる事は、目の前のことに全力を尽くすことだけだともわかっていた。


 それは、マーヴィだからこそできる出来る全力だった。

 

 しばらくして、1日中身体をみっちり鍛えてもマーヴィに限界は訪れなくなった。


 修行からしばらく経ったある日。

 アリスは初めてスキルを修得した。


「すごいスキルだね! すごいや、アリス」

 

 人は鍛錬や経験を通して、特別な能力──スキルを獲得することができる。スキルにちなんだ祝福を持っていると、修得も早く、より強力なスキルを覚えることができる。


 アリスが修得したスキルは、偉大な剣士が最初に覚えると言われる『二連斬り』だ。


「これで冒険者に近づいたわっ!」

「アリス、すごい! すごい、アリス!」

「えへへ、そ、そんな言われると照れる……って、マーヴィもスキル増えてるよ!」


 『基礎ステータスⅠ』

 

 マーヴィが最初に手に入れたスキルだった。


 ──7年後


 17歳になったマーヴィは冒険者ギルドで荷物持ち──ポーターをしていた。

 ポーターは、冒険に出かけるパーティの成果物や装備を、運搬する仕事だ。

 原則、冒険者ギルドに所属しており、パーティに所属するわけではない。


 他の町からやってきた冒険者たちは、ポライト冒険者ギルドの掲示板の、所属ポーター一覧を見て、必ず目を白黒させる。


「あれ? このポーターだけやばくね?」

「どれどれ?」


 掲示板にはポーターの顔と、最大運搬重量、速度、踏破可能な地形、料金が載っている。


 ポライト冒険者ギルドに所属している60名以上のポーターの能力が示されているなかで、一人だけ″明らかにおかしい奴″がいた。


 すべてのパラメータが天井をつき、あらゆる地形を踏破可能、料金も激安という、冗談みたいに都合の良い荷物運び。


「運搬重量200kg……? これって達人級のポーターが山を越えられる最高重量とかって話じゃなかったか? こんな田舎町にいるのか?」

「達人級のポーターかよ。しかもめちゃくちゃ安いじゃん! でも、実績もめちゃくちゃ少ないぞ? 人気ないのか……?」

 

 ポーターには実力に応じた階級がある。

 下から、『駆け出し』『中堅』『ベテラン』『達人』──そして『伝説』である。


 達人級ポーターより上は、特別体格が優れているなどの才能がないと難しい領域だ。


「う、うわあ……知恵遅れなのかよ……! 達人級なのにもったいねー!」

「じゃあ仕事頼まねえよ。なんでバカに荷物持たせなきゃなんねぇんだよ」


 マーヴィがバカだとわかると、達人級に騒いでいた者たちは仕事を頼むことはなかった。


 翌日もマーヴィは冒険者ギルドへ行った。

 誰か仕事を頼んでくれていないだろうか。


「あのさあ、お前がマーヴィ・マント?」

「はい! マーヴィ・マントです!」


 ギルドで話しかけて来たのは、マーヴィと歳の変わらない、青い髪の青年だった。


「あー、お前バカなんだって?」

「「能無し」って呼ばれてます!」

「あっははは! こりゃまじでバカじゃねえか。なんでこんな奴がギルドにいられるんだよ、あーははは──まじ、うっぜ」


 青年は冷たく吐き捨て、去っていった。


 ──数日後


「マーヴィ、はい、これが約束してた緑魔鉱石よ」


 遠征クエストから帰ってきたアリスは、帰ってくるやいなや、街中を爆走するマーヴィを捕まえて、お土産を見せてあげていた。


「わあ! 本で読んだやつだ! ありがとう! アリス!」

「えへへ、これくらい良いのよ。ちょっと鉱山に寄っただけだし、どうって事ないわ」


 マーヴィは「すこしでも頭が良くなったらいいな」という願いから、本を読むのが大好きだった。

 そのおかげ、本に出て来る綺麗な石や、カッコいい骨、良い香りの薬草を集めることが趣味となっていた。


 2人は久しぶりの時間を、存分な楽しんだ。


 ──数日後


 休暇を終えたアリスは、再び旅支度をしてポライトの町の正門に立っていた。


「アリスは今度はどこへいくの?」

「カーサスっていう町よ。炭鉱で栄える辺境の町なの。ポライトと良い勝負の田舎で、そこで暴れてるっていう黒い獣を倒すのよ」


 2人はしばらく話し込む。

 やがて夜が明けてきた。


「それじゃあ、マーヴィ。そろそろ行くね」

「うん! 頑張ってね、アリス!」

「うん。頑張る。……本当はいっしょに行けたら良いんだけど」


 祝福と呪いの管理法で『知恵遅れの祝福』を受けた者は呪詛をばら撒く危険性があるために、故郷近郊から出ることは許されなかった。


 冒険者になることも許されず、ちいさな町に閉じ込められるマーヴィ。楽しみは図書館の本を読破することと、走ることだけ。


 片や、アリスはデビューからわずか2年でA級冒険者になった。いろんな町へ行き、様々なダンジョンを制覇し、危険なモンスターを倒している。それもパーティを組まず、ソロでだ。


「……」


 アリスは悩む。出発の時はいつもそうだ。

 他人と少し違うだけで、こうも迫害されなくてはいけないなんて。こんなのおかしい。


「マーヴィ、やっぱり、わたし──」

「大丈夫だよ! 僕は大丈夫だよ! だから行ってきて、アリス!」


 精一杯の元気な声で言う。


 アリスが活動拠点を都会に移さず、こんな田舎町にいるのは、マーヴィがいるためである。

 

 それをバカながらマーヴィも察していた。

 というか周りの人に言われて気づいた。


 アリスは太陽だ。輝きそのものだ。

 バカな自分のせいで足を引っ張りたくない。


「……うん、すぐに帰ってくるからね」

「いってらっしゃい!」


 アリスは困っている人々を助ける為に、旅立った。


 お昼になった。ポライトの共同墓地にやってきた。マーヴィは週に1回必ずここへ来る。


 名前も知らない複数の人と、同じ墓で眠る母親の墓跡に、マーヴィは嬉しそうに緑鉱石を見せてあげた。


「アリスが持ってきてくれたんだ! すごいでしょ! 僕はあまりクエストに参加できないけど、アリスは何ヶ月の先の予定まで埋まってるくらいすごい冒険者なんだよ!」

「おい、なにひとりでべちゃくちゃ言ってやがる、能無し野郎」


 青い髪の青年と、取り巻きたちがいた。

 町の不良たちだ。手に棍棒を持っている。


「俺様さ、びっくりしたんだよね。お前みたいなバカがギルドに在籍してるって聞いてさ。どうせ、何にもできないから面倒見てもらうために寄生してるんだろ? 無能のくせに厚かましい野郎だぜ、まったくよ」


 水を掌る青い魔力が収束していく。

 青年は杖をマーヴィに突きつけていた。


「俺様が穀潰しの役立ずを始末してやる。そしたらみんな喜ぶだろーぜ。最大化──水弾」


 握り拳ほどの小さな水の玉が、マーヴィの顔を大きく弾いた。


 墓の前に倒れ込む。


「オラ、顔上げろよ。俺様は魔法学校の卒業生様だぞ? お前みたいな生まれながらの底辺クソカス野郎が話せるだけでもありがたいと思えよ」


 倒れるマーヴィを何度も、何度も蹴る。

 取り巻きたちも参戦し、棍棒を倒れたマーヴィに何度も叩きつけた。マーヴィは頭を押さえて、必死に丸くなる。


「はあ、はあ、はあ、まあ、こんなとこか」


 ふと、青年は墓石の前の緑魔鉱石を見つける。


「おお? こりゃ良質な魔鉱じゃねえか。どこから盗んできたんだ、ドブネズミ。バカにはわからねえだろが、これはただの綺麗な石じゃねぇーんだぜ」

「──それは僕のだ」


 マーヴィはいきなり立ちあがる。

 

「へ、散々やられ放題だったのに、なに今更イキって──」


 緑魔鉱石をふんだくるように取り返す。


 その拍子に青年を突き飛ばしてしまう。


 青年の身体が水平に飛んでいく。


 青年は墓石を三つほど破壊して、全身を強打し、気絶して墓地の土を舐めることになった。


「あ……なんつー馬鹿力だよ……っ?!」

「ば、パーシバルの兄貴ぃいい!」

「へ、へへ、きょ、今日のところはこれくらいで済ませてやる、覚えとけよ、知恵遅れ野郎!」


 取り巻きたちは、青年──パーシバルを抱えて慌てて逃げ去っていった。


「あ、アリスに暴力振るっちゃダメって言われてたのに。間違えた」


 マーヴィはしょんぼりとして、「ごめんなさい」と謝りながら、割れた墓石をパズルのように組み立て直すのだった。


 ──夜


 ポライト冒険者ギルドは、マーヴィに追放処分をくだした。


「マーヴィさん、すみません……っ、私、どうにもできなくて……!」


 彼のことを良く知るギルドの受付嬢は、泣きながら除名処分通達書をわたす。


「どうして僕は追放されるんですか?」

「あなたのポーターとしての成績不良を理由です。ギルド長はもう追放を決定してしまいました……でも、事前勧告もなくいきなり追放なんて、おかしいんです」


 実際の理由は、間違いくパーシバルに反撃をしてしまったことだろうと思われた。


「これだけじゃ終わりません。きっと、ギルド長は恨みを晴らすため、傷害罪でマーヴィさんを訴えるでしょう」


 噂が広がれば捕まえられたのち、マーヴィを忌み嫌う世論のままに処断されるだろう。


 多くの人間が、マーヴィを消す機会があれば、ぜひとも消してしまいたいと思ってるのだから。


「マーヴィさん、今すぐに逃げてください! この町にいちゃダメです! 殺されちゃいます!」

「でも、僕は町を出ちゃだめだってアリスが言ってたよ」

「緊急事態です! 殺されるのを待つつもりですか? 逃げてください! アリス様なら必ずあなたを助けてくれるはずです! さあ!」


 受付嬢の計らいで、馬を用意してもらったマーヴィは、その日の夜にポライトから脱出することになった。


「どうかお元気で……っ、マーヴィさん」


 小さくなるマーヴィの背中を見送る受付嬢は、呪われた人生に幸福がおとずれることを、ひたすらに祈るのだった。


 ──数日後


 黒塗りのボディを持つ、いかめしい馬車がポライトへやってきた。


 『知恵遅れの祝福』にはじまる様々な呪いや呪術を管理する組織──呪監査委員会のろいかんさいいんかいだ。


「貴様ら、バカを外に出したな?」


 馬車に乗っていた、文官らしき立派なヒゲの男は、パーシバルとギルド長を呼びだし、ギルドの前で尋問していた。


「マーヴィめ……っ、追い詰められて逃げ出しおったか……まさかそんな頭があるなんて」 

「親父、ここは任せろって。魔法学校を卒業した教養ある俺様がなんとかしてやるよ」

 父親に耳打ちする。


 パーシバルを胸を張り、ヒゲの文官に向き直った。


「はっはは、ご機嫌よろしく文官殿! 立派なヒゲですな! この度は、わざわざ王都からご足労いただきありが──」


 パーシバルの頭が水の弾丸で吹っ飛ばされる。白目を剥いて地面に転がった。


「貴様らの事情などどうでも良い。さっさと奴がどこへ行ったか教えろ」


 

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