第11話

所変わってガンバルー商会会長室


コンコンコンッ

「どなたかの?」

「エリアですロイド様。」

「入りなさい。」


会長室で仕事をしていたロイドの元にエリアが改めて訪ねて来ていた。


「ロイド様、国王様より伝言です。『例の件は了解した。一度その子を見て見たい。説明に来るときに一緒に連れてきて欲しい。』という事でした。」


それを聞いたロイドの顔が般若のように歪みエリアに牙を剥く。


「ほぅ、国に取り込むつもりか?そんな事になったらどうなるか解っておるのじゃろうな?」


商人と言えど百戦錬磨の強者、その武人と見紛うような強者ゆえの威圧に対して冷静にエリアは返答する。


「その様な意図はありません。ただ顔を見たいだけの様です。私に当たらないで下さいよもう。」


エリアにそう諭されロイドは一度深呼吸をしてからそばにあったお茶を飲んで一度落ち着く。


「見たいだけであれば連れていく必要はないじゃろ。あ奴がくればいいだけの話じゃ。よって連れて行かん!!そう言っておくのじゃ。全く考えている事が見え見えじゃ!!王城に入ってさえしまえばどうにかなると思いおって!!わしの目の黒いうちは絶対に王城になんぞ行かせんぞ!!」


一度落ち着いたロイドだったが王の思惑がわかってしまうだけにすぐにその怒りがぶり返し声を荒げてしまう。そんなロイドに対してエリアは宥める様な口調で返答する。


「落ち着いてください。ちゃんとそのように伝えますから。まぁ事前に連れて来ないと思いますと話していますから。大丈夫ですよ。」


エリアもロイドの気持ちはわかっているので前もって連れて来ないことを国王に伝えて対策していた。


「ふんっ!!あ奴の事じゃ!!あの手この手で連れて行こうとするじゃろ。そうじゃな、貴族への商品販売を絞るかの。理由は国王が私的な理由で商会の不利益になりそうな事をしたのでその制裁としようか。これなら貴族がこちらの味方になるじゃろ。」


ガンバルー商会には他国から輸入して独占販売している物が多数ある。その中には希少食材や各種趣向品、夏は涼しく冬は暖かくする魔道具等の商品があって貴族達はこぞってこれを使っている。


一度贅沢を知った人間は元の生活に戻れない。これらの独占商品の販売を絞ればその矛先は商会に向くが、理由が国王の私的な行動の結果であるならばその矛先は当然王に向く。


それを聞いたエリアはあわててロイドを止めに入る。


「ちょっ!!ちょっとお待ちください!!そんなことをされたら内乱が起きますよ!!」

「起きればいいじゃろが!!わしのかわいい孫を政治利用する国など滅べばいいのじゃ!!」


エリアもまさかロイドの思いがこれほど強いとは思わなかった。こんなことで内乱を起こされたら後世に笑われてしまう。これは国王に思い留まってもらわなければと気合を入れる。


「わかりました。国王様にはきつく申しあげておきます。それでご勘弁を。」

「最初からそうすればいいのじゃ。もしジークの思いに反してちょっかいを掛けるのであれば本当に起こすからの?内乱。」


ロイドの本気の目にエリアは冷や汗をかき急いで国王に報告に向かうことになるのだった。


国王執務室

アルデニア王国の国王であるアルデニア・フォン・アルバートは日夜業務に励んでいる。若くして王位を継いだ彼は未だ40代、公明正大で文武両道を地で行くその生き様は国民からも支持されている。しかしある問題が家臣団の頭を悩ませている。


コンコンコンッ


夜遅く、執務室のドアをノックする者が居た。この部屋は重要書類や国家機密が収められていて王城の隠された場所にある。その場所は王が信頼する一部の者にしか知らされていない。


「誰だ。」

「エリアにございます。ロイド様からの伝言を預かってまいりました。」

「少し待て・・・・・・。良し入れ。」


アルバートは執務の手を止め、見られてはまずい書類を引き出しに入れて入室の許可を出した。


「夜分遅くに失礼いたします。」

「挨拶は良い。それで伝言とは?」

「『孫に手を出したら内乱を起こして国を潰す。』以上です。」


その内容を聞いてアルバート王は顔をしかめる。


「それは真か?」

「はい。それはもう鬼のような形相でおっしゃられておりました。」

「はぁ・・・奴も変わっておらんな。あ奴にへそを曲げられたら本当に内乱になりかねん。おいっ!!」

「ここに。」


アルバート王がそう声を掛けるとそばに全身真っ黒な者が降り立った。対格からは男女の区別が付かず声だけで辛うじて女性だとわかる。


「どのようなご用件でしょうかわが王よ。」

「例の子の件全て白紙だ。監視にとどめて手を出すな。」

「御意。」


返事をした後その人物はすぐに消えていった。


「はぁ・・・やはり何か手を出そうとしていたのですね。」

「こんな面白そうな事に手を出さないわけにはいかないだろう?」


アルバートは日々の執務にきちんと責任を持って取り組んでいる。しかし、城に閉じこもり刺激のない毎日に飽き飽きしていた。よって思い付きで行動を起こして、それによって引き起こされる騒動を楽しむという周りからははた迷惑な行動をたびたび取っている。


家臣団は引き起こされる騒動をもみ消す為に苦心しており、たびたび王に騒動を起こすことを止めるように話をしていた。しかし、普段王が立派に政務をこなしており。国民の事を一番に考えている事、執務が忙しすぎて息抜きをする時間が取れていない事を加味して強く言えないでいるのだった。


今回も王の密偵からロイドの鑑定を弾く男の子が王都に来たことを知り、さらに当人のロイドから孫が来たから手を出すなよと言われて秘密裏に騒動を起こそうと画策していたのだった。


「ロイド様に殺されますよ。」

「だから手を出すことを止めたのだ。」

「でも監視は付けると?」

「こちらは守ってやる為だがな。」


いくら王とはいえ知らなければ約束を守ることは出来ない。宰相家裏切りの事件を受けてアルバートは民衆や貴族家の中に密偵を紛れ込ませ、国を脅かす不正や犯罪が無いかどうか監視をしていた。


今回の件ももし王の知らないうちに貴族達が手を出してしまえば、ロイドの怒りを買い取り返しのつかない事態になってしまう事も考えうる。その対策としてアルバートはジークの監視だけは続行することにした。


「あ奴にも話しておけ。監視が余計なちょっかいだと思われてはかなわん。」

「わかりました。失礼いたします。」


エリアが執務室を出て行った後、アルバートは大きなため息を吐く。


「はぁ・・・、やはりこうなったか。奴自慢の孫を使ってひと騒動起こそうと思っておったのだがなぁ・・・・・。あぁせっかくの気分転換が・・・・・。」


王には享楽主義なところがあり定期的に楽しい事をしたくなる欲求に駆られる。その都度騒動を起こして一通り遊んだ後、家臣団に小言を言われ事後処理を行うという流れが出来上がっていた。アルバートはその流れさえも楽しんでいた。


「うーむ、どうにかして城に呼ぶことは出来ないだろうか?例えば何かしらの手柄を挙げさせて呼ぶのはどうだろうか?そもそも奴の孫はどんなスキルを持っている?」


アルバートは今回の件をまったく諦めたつもりは無く、ジークをどうにかして自分の元に連れてきたいと思考を重ねる。手元にさえ来させることが出来れば鑑定が効かないと自分が認めるだけで騒動になる。その上で自分の庇護下に置き、ロイドに恩を売って国の為に働かせてしまおうと考えていた。


それがかのスキルによって既に知られており、本当に手を出されたら即座にアルバートが隠している秘密が白日の下にさらされ大恥を掻くと知らないままに。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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