転生したからハーレム目指すけど、男子校だから女子グループが全然分からない

32．関係ないことなんてない

「ちょっと待てオーミン。何だその言い方。人の少ない農村ならいいってのか」

「何よアーネック、そんなこと言ってないでしょ。ただ、より騒ぎが大きくなる——」

「人が少なくても農作物があるんだよ。ダメになったら育ててる人達は金がもらえないんだよ、食いっぱぐれて死ぬかもしれないんだよ！」

　オーミの話を遮るアーネックの叫びが木々に反響する。「じいちゃん達の野菜もイーグルの毒にやられたことがあるんだ！」と続ける彼女の目は、これまで溜めていたストレスが沸点に達したような怒りに満ちていた。

「落ち着いて、アーネック。嫌味に取りすぎよ。今の場所なら荒らしていいなんて一言も言ってない。イライラしてるのはこっちも一緒よ、一方的に当たらないで」

「じゃあそっちも言いたいこと言えばいいだろ。まあ学生のときもオーミン達はあっちにもこっちにも良い顔してたから難しいんだろうけど」

「ちょっと待ってオーミちゃん、グループの話出すのおかしくない？」

　カナザが眉をビッとつり上げる。始まった、また始まったよ……。

「しかも何、その言い方。別に八方美人に振舞ってたわけじゃないわ。普通に全部楽しんでただけよ。オシャレグループがどうかは知らないけどさ」

「カナちゃん、ちょっと言葉キツいよ～」

「何よナウリちゃん、アーネックちゃんの方が悪くても肩持つんだ？　同じグループだもんね」

「いや、肩とかじゃないけどさあ」

「大体、前回のクエストのときだってナウリちゃ——」

「おい、カナ！」

　途端、アーネックが怒号をあげた。

「やめろよ話蒸し返すの！　あれはみんな悪かっただろ。ナウリンだけ悪いなんてことは絶対にない。そもそも口論になったのだってカナが責めるようなこと言ったからだろ」

「だからそれは誤解だって言ってるでしょ！」

　リーダー同士が諍いになり、どんどん声が大きくなっていく。前回のことまで遡ったこの口論は、完全に着地点を見失ってしまった。

　イヤだ、俺はこんなのはイヤだぞ。じゃあどうしたい？　俺は、この状況をどうしたい？

　モテるとかモテないとか、今はもうどうでもいい。このパーティーで俺がしたいこと、俺だからできることが、きっと何かある。

「みんなギスギスしないでよ。聞いてるこっちまでイライラする」

「オーミンもそういう顔やめろよ」

「そんなに行儀よく仲介役しなくていいよ、オーミちゃん」

「私は別に——」

「はい、おしまいです！　お・し・ま・い！」

　パンパンパンと、ドラマで見る八百屋のおじさんのように威勢よく手を叩く。

「お前ら、一旦やめようぜ。今日は仲良くクエストやるぞ」

　そのまま口を挟むと、遮られたオーミとアーネックがキッと俺を睨みつけた。

「タック、ちょっと黙ってて」

「タクトには関係ないでしょ」

　いつもなら「お、おう……」と一歩引いてしまいそうなところだけど。

「俺のパーティーで、俺に関係のないことなんて一つもない！」

　めいっぱいの大声を出すと、カナザもナウリもギョッとこちらを見た。

「グループが違うとかね、対立とかね、色々あると思うけど、でもどっちが上とかないから！　俺から見たらどっちもすごい、みんなすごいよ。俺は元の世界で男子ばっかりで、そりゃたまにはケンカだってしたけど、もっとずっと気楽にバカにやってた。女子ってすげえなって思う！　なんというか、エラい！　オトナ！」

　怒ると見せかけて急に褒めだした俺に、みんなポカンとして黙っている。風に揺れる木々だけが、カサカサと葉を擦り合わせて無邪気に音を出して遊んでいた。

「だからこそね、前も言ったけどこういうのはイヤなわけ！　俺にとっちゃ夢にまで見た女子と触れ合える日々だから楽しくやりたいの！　悪いところが一つもなかったって自信持って言えるヤツはいないんだろ？　だったらこの話はここで手打ち！」

　アーネックが大きく溜息をついて答える。

「あのな、タック。ずっと女子と触れてなかったから分からないと思うけど——」

「分からないけど、それは今はいいんだ」

　伊達にこのパーティーで過ごしてないぜ。

「俺は、女子については素人だけど、場を収める方法と楽しく過ごす方法なら少しだけ知ってるよ。だから、俺は俺のやり方で女子グループを維持する！」

　その宣言に、女子全員は再びポカンとした後、肩の力を抜いた。少しだけリラックスしたような表情は、棘の網をかいくぐるようなこれまでの緊張が少しだけ解けた証。

「まあ、タクトの言う通り、争ってる場合じゃないのは本当だしね。探しに行かないと」

　オーミがふうっと息を吐いた、次の瞬間。

「キシャアアアアアアッ！」

　遠くの方から、聞いたことのない甲高い鳴き声が響いた。

「おい、この鳴き声って……」

「確かに言い合いどころじゃなさそうだね～」

「よし、急ぐぞ」

「ここからはほとんど一本道だよ。私が案内する」

　早足で歩きだしたカナザを先頭にし、５人で一列になって森を進んでいった。

　獣が踏み荒らしたのか、誰かが草花の採集でもしていたのか、一時期広くなっていた道幅は、森の奥へ奥へと分け入るごとにどんどん細くなっていく。そこから更に歩みを進めたところで、少年野球が出来るくらいの平原が現れ、そこで行き止まりになっていた。

「キシャアアア！　シャアアアアアアア！」

　けたたましい咆哮をあげる、全身が真っ黒の鷲、ポイズンイーグル。普通に立っているだけで俺より高い、２ｍはある巨躯だったが、威嚇のために両翼を広げると、俺達を５人まとめて包んでしまえそうな威圧感があった。

「総力戦になりそうだな……お前ら、全員で協力していくぞ」

　振り向かないまま、後ろの４人に声をかける。

「どうかしらね、うまく協力できるといいけど」

「オーミちゃん、自分からそういうネタにしちゃうの良くないよ～」

「そういうナウリちゃんもさっきから全然こっちに目合わせないじゃんね」

「お前らなあ、仕事は仕事だろ、協力しろよ」

　ううむ、どうしよう、さっきほど険悪じゃないけど全然うまくいく気がしない。男子校の文化祭の客引きくらいうまくいく気がしない。みんな女子高生にしか声かけないんだぜ、それナンパって言うんだよ。

「シャアアアアア…………」

　10ｍ以上離れた先で、敵が口を開きっぱなしにする。嫌な予感がぞわりと胸を刺した。

「来るぞ！」

「ガアアアアアッ！」

　叫びと共に口から放たれたその液体は、矢のような速さで飛んできた。避（よ）けきれずに当たったナウリの右腕から煙があがる。

「きゃあああああ！」

「ナウリ！」

　その場に崩れそうになる彼女をオーミが支え、症状を確認する。全身が痙攣して泡を吹くような、ミステリーでお馴染みの毒物ではない。しかし、どす黒く焦げた皮膚は爛（ただ）れ、動かすのも辛そう。どちらかというと強い酸のようなものだった。