Quest5:服飾生地 運搬
17.ひょんなことからデートもどき
「ここにしようぜ」
「へえ、ここ穴場って言われてるところよ。よく知ってたわね」
泊まっている安宿から少し歩いたところにあるレンガ造りのカフェ。俺の後ろに付いてきているのは、紫髪の肩上ミディアムヘアを揺らす女子。
ふっふっふ……そう! 今日はついに! オーミと! デートなのだ!
泊まってる安宿のおばさんにこのカフェのことを聞いて散歩してたらたまたま彼女に会ってお茶することになった、としても! これはデート!
「初めて入ったけど、結構良い所ね。内装もすごく綺麗で可愛い」
案内された椅子に座りながら、内装よりずっと綺麗で可愛い真向かいの彼女を見る。アーネックみたいな整いすぎている美人とはちょっと違う、なんていうか、自然体で一緒にいられる美少女、という感じ。
こんな彼女できたらスマホの待ち受けアップの写真に変えて用もないのに友達の見えるところで時間調べたりして「え、それ誰、可愛くね?」「だろ?」「彼女? やばくね?」「だろ?」「可愛いし美形だしやばくね?」「だろ?」って自尊心ぶんぶく膨らませるわ。俺「だろ」しか言ってないな。
「びっくりしたよ、クエスト休みの日に会うなんて。運命かな、って思うよな!」
テンションが上がりきって放ってしまったその言葉に、彼女は部屋で虫でも見たかのように顔を軽く歪ませる。
「転生してきた男は得てして、偶然の事象に運命めいたものを匂わせるのが好きだって、『転生男子のあしらい方マニュアル』に書いてあったわ。本当にその通りね」
「ねえその本ちょうだい」
ちゃんと勉強するから! 読みながら泣いちゃいそうだけど!
「まあそんなに大きな村じゃないから会うことはあるわよ。でも良い機会ね」
えっ……良い機会? どういうこと? 俺に会いたかったってこと? それって……
「オーミ、その、ひょっとして、俺に気がある……のか?」
「殺す気?」
「文脈を読んでくれよ」
あるって言われたらどうすりゃいいんだよ。
「私はコンダクターだから、担当した転生者のことは多少は面倒見ることになってるのよ」
出た! 世話焼き幼馴染ポジション! 俺が寝坊したら「仕方ないわね」って起こしに来てくれるやつだ!
「いい? 仕方なく面倒見るんだからね。本当に仕方なく。後で裏金ちょうだいね」
「公にした時点で裏金ではないのでは」
お金払うって、それもうレンタル幼馴染じゃん。レンタル幼馴染ってなんだよ。
「タクト、今困ってることある? 女子の生態以外のことで」
「それを除かれるとほぼないな」
「そう、なら良かった」
席について早速頼んだ、謎のフルーツの添えられたプリンを美味しそうに頬張りながら、オーミはムグムグと頷いた。
通りの犬がグデーッとうだるほどの暑さなので、彼女の恰好もドキッとするくらい露出が多い。程よくゆとりのあるブラウンのニットに、前をゴムで結べるラフな白のショートパンツ、足元はサンダル。編んであるカゴ型のバックも可愛い。
「それも冒険服なのか?」
首を振りながら溜息で返事する。
「あのね、冒険しないときに冒険服着るはずないでしょ? 料理しないときも頭にフライパン被る?」
「そもそも料理するときに被らないだろ」
例えの下手さは相変わらずだ。
「なあ、アーネックって学校でもやっぱり目立ってたのか?」
「もちろん。オシャレグループでリーダーだったしね。ナウリも同じグループだったわ。私とかニッカはどっちかっていうと何でもほどほどにやるタイプっていうか」
「なるほどなあ」
まあうちの学校でもグループあったけど、分かりやすく「リーダー!」みたいな感じのはなかったよなあ。あ、でも共学だといるのかも。男子リーダーとかモテそうだし。
「どうなったらオシャレグループに入れるんだ? 混―ぜーて、って言うのか?」
何気なく聞いたその質問。オーミは、寝かせると目を瞑るタイプの女の子向けドールみたいな張り付いた笑顔。
「無垢でいいわね、アナタ」
「だからその顔で憐れむのはやめてくれ!」
まだ罵倒の方がマシだよ!
「そんな簡単に入れるわけないでしょ? クラスで一目置かれてるグループなのよ?」
「そ、そんなに難しいのか?」
「まずすっごく可愛いし美人よね。それにみんなを注目させるくらい話が上手だったり、相手が寄ってくるくらい聞き上手」
「ううん、確かに当てはまってるな」
アーネックはポンポン話進めるし、ナウリも相槌が小気味いい。
「それに何よりオシャレよね。アーネック、冒険服もすごかったでしょ?」
「ああ、デザインとか凝ってた。ナウリもいつも、良さそうな生地の服着てるもんな」
「もちろん普通の服もステキなのたくさん持ってるわ。みんなが知らないような服屋をチェックして、馬車で買いに行くこともあるみたい。ヘアスタイルも、腕が良いって噂の人のところに足運んでるの。コスメだって、専門の人にお金払って習ったことあるって聞いたことある」
「結構お金もかかりそうだな」
感想をぼやくと、オーミは「そう!」と顔を近付けた。うおお、近い……!
「オシャレへの感度が高いだけじゃダメなの。あれを続けるのは、クエストのお金だけじゃ賄えないわ。だから結構裕福な家の子が多いわね。それだけ大変なのよ、あのトップグループにいるのは」
そうだよなあ。ナウリも最近はお父さんの仕事調子良くなってきたって言ってたし、自分で使えるお金も増えたかな。またステキな服をたくさん買うんだろう。
「環境と努力か……そう考えるとすごい人達とパーティ―組んでるんだな」
「そうよ、アナタみたいな人間が容易に近づける人達じゃないの」
「お前は俺を励ますつもりなのか、とどめを刺す気なのか」
優しさをくれよ。
「まあ、その分アーネックに気を遣うところはあるけど、ファッションの最新情報なんかも教えてくれるし、良いこともあるからね」
「うまくやっていけるならいいんだけどさ」
「やっていけないと困るわよ。リーダーと仲違いしたらとんでもないことになるわ」
それから、話はグループの話題を離れ、とりとめもない雑談に。格闘の修行の思い出、宿のベッドが固い時の対処法、綺麗な花を見られる散歩コース。オーミが趣味でパンを焼くと知り、食べてみたいとアピールしてみたものの、「結構高いわよ」と冗談を言ってお茶を濁された。
「うん、美味いなこれ」
プリンを食べ終える。口の中が甘ったるくなって添えられた謎の黄色フルーツを齧ると、柑橘系の酸味が沁み渡った。
「付き合ってくれてありがとな。よし、今日は俺の奢りだ」
「ホント? ありがと。私も結構楽しかったわ。今度はシフォンケーキご馳走になるの楽しみにしてるわね」
「奢り目当てじゃねーか」
「ふふっ。でも、楽しかったのはホントよ」
そう言いながらあむっとスプーンを咥えて微笑むオーミはやっぱり可愛くて、俺は何気なくメニューを開くフリをして、シフォンの値段を確認したのだった。
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