3章 目指すはハーレム、感じてヒエラルキー
Quest4:辛味草摘み
14.新たなメンバー
「さて、次はどんなクエストやろうか? また討伐でもいいぞ」
クエスト受付所の近くにある、子どもの遊び場。遊具のない公園といった感じのその場所に2つ置かれた、大樹の切り株の椅子に4人で分かれて座る。雲がわらわらと自己主張していて、大分爽やかさの薄れた朝。
「討伐でもいいって、タクト、まだ剣で戦えないじゃない」
「いやいや、甘く見てもらっちゃ困るぜ、オーミ。これでも毎日素振りしてるんだぜ。すぐに
「……羨ましいわね、その前向きさ」
指で弾いた赤べこのように大きく首を振る。こういう人形あったら可愛いな。
「私だったら他のメンバーに申し訳なくて、話しかけるときはいつも語尾に『こんな私だけど』って入れるわ」
「そんな卑屈なヤツ嫌だろ」
言われた方どうすりゃいいんだよ。
「あとお前な、話すときはマジトやめろよ」
魔法で他の女子と手書きのメッセージをやりとりできるマジックトーク、通称マジト。液晶代わりの水晶に、ぽこぽこと文字が浮かんでいる。
「しかもみんなで見てるし」
「あら、当然よ。この3人でやってるんだから」
「近くにいるのに!」
ナウリが口を手で隠し、悪戯っぽく顔を綻ばせる。
「タクトさんの寝ぐせをどう伝えるか相談してたの~」
「何だってええええ!」
バッと頭上に手を当て、ぴょんと跳ねていた横の髪を押さえる。くそう、赤っ恥だ……。
と、オーミがマジトを見て、「あっ」と小さな声をあげた。
「どした?」
「パーティ―登録所に来てくれって、担当のおばさんから」
あのソバージュの人か。クエスト受付所は何回も行ってるけど、パーティー登録所はナウリとニッカを選んでもらったとき以来行ってないな。
「何の用だろうな、急に」
綺麗な洋裁糸のような薄紫の髪を風に遊ばせながら、彼女は不穏なことを呟いた。
「パーティーメンバーの変更かもしれないわね」
「パーティ―メンバーの変更だよ」
「はああああああああ!」
キオスク並の小さな部屋で、登録所のおばさんに奇声をあげる。後ろの女子3人から、呆れたような溜息が聞こえた。
「なんっ……なんでですか! ちゃんとクエストもやってるし、別に悪いことしてないのに! 俺のハーレ……ハイレム王国での大活躍が!」
危ねえ。ハーレムって言いかけて軌道修正した。
「いや、アンタ達のパーティ―が悪いわけじゃないんだよ。問題は他のパーティーの方さ。女子だけのパーティーが幾つか内部分裂してね」
「出ました内部分裂!」
なんでそんなにコロコロ分かれるんだよ。アメーバかよ。
「どこも2対3とかで分かれて修復不可能だって言うから、他のパーティーの女子も異動させる必要があるのさ」
「で、その行き先がうちのパーティーになった、と」
「くじ引きで決まったんだ、すまないね。といっても、今の3人はそのままだよ。新しく1人追加になる。同じクラスの16歳だ」
「追加! メンバーの追加!」
それなら良かった。というかむしろかなり良いことじゃないか? ハーレム要員が1人増えるってことだよね?
「すぐ来るように連絡しておいたからね。急な増員で大変だと思うけど頼むよ」
恰幅の良い彼女が大口を開けてカップケーキを頬張る。人間あんなに縦に開くもんなんだな、と感心しながら、「任せてください!」と返事し、振り向いて3人に宣言した。
「というわけで、重大ニュースですが、メンバーが1人増えます!」
「増員なら私達の仕事も安泰だし、一安心だわ」
「増える人に拠りますけどね~」
オーミもナウリも、正体が蛙かと思うほどケロッとしている。
「タクト君、誰が来るか聞いてないんだよね? じゃあベンチで待ってよう」
「待って待って、ニッカ。脱退はないけど、この4人での活動はこれが最後なんだよ? もっと浸るところあるでしょ?」
「タクト君、仕事なんだし組み替えなんてよくあるんだから、あんまり気にしない方がいいよ。ね、オーミちゃん?」
「そうね。タクト、次のパーティーの邪魔になるから早く外のベンチに行きましょ」
「余韻は! 余韻ちょうだい!」
ホントに女子ってオトナ!
そこから外に出て、パーティーが待ち合わせに使うベンチでもう1人のメンバーを待つことにした。
「天気がいいし、メンバー追加日和って感じだな、オーミ」
「どんな日和よ……」
空を結構なスピードで泳ぐ雲をのんびり見る。
「タクト、ハーレム候補が増えるのよ、もっと喜んだら?」
「いや、でもさ……その分、1人1人と話す時間は減るだろ? オーミ達ともう少し仲良くなってからの方が良かったなあって」
その言葉を耳にし、彼女は目を丸くしてきょとんとした後、「何それ」と吹き出した。
「面白いわね、アナタって。でもありがと、なんか嬉しい」
そのまま口に手を当ててクスクスと声を漏らす。別にお礼がほしくて言ったことじゃないけど、そんな柔らかい表情で微笑んでくれるなら、こっちも嬉しい。
「まあ、仲良くなる前に女子のこと理解する必要あるけどね」
「うっせ」
上空は風が強そうだから、空飛ぶモンスターがいるなら今日は飛行にはうってつけの日だな、なんて思っていた、その時。
「来たね! そっか、またちょっとパーティーの雰囲気変わるね!」
「わっ、すごい追加メンバーだ~」
「タクト……アナタ、色んな意味でヒキが良いわね……」
全員の嘆きを耳に吸い込みながら、向こうから1人の女子が近づいてきた。
「やっほ、アンタがタクト?」
視線を釘付けにされた彼女の像が少しずつ大きくなっていく。やがて、びっくりするくらい目鼻立ちの整った美人が目の前に来た。
「ん、あ、ああ、そうだよ」
「アタシはアーネック。ランサー、槍使いだよ」
思わず緊張してしまうほど、大人っぽい顔。
身長は優に165を超え、俺に近いくらいの長身。ミルクのように真っ白な髪は、胸元の下まで伸びていて、綺麗にクルクルとカールしている。背中に差している槍と猫っぽくて少し強そうな目が、攻撃しているシーンを容易に想像させた。
服装も抜群にオシャレ。髪の色に合わせた白ブラウスは袖に細かいレースの飾りがついていて、その上からダボッとしたベージュのカーディガン。下は裾が大きく広がっている空色のパンツ。
元の世界でも十分通用するファッションだし、アーネック自身が長身美人だから読者モデルにもなれそう。冒険服の情報、色々集めてるんだろうなあ。
「タクトだから……じゃあタックって呼ばせてもらうね、よろしく」
「ん、こちらこそよろしくな」
握手すると、掌の皮膚が硬い。随分槍で修行してるんだろうな。
そしてこんな素敵な女子がハーレム要員候補! 「大人びて見えるかもしれないけど、タックの前じゃ喜んで懐く猫みたい……なものだニャン」とか言わせたいでしょ! これは妄想が捗る! 想像力が追いつかないくらい忙しい! 猫の手も借りたいニャン!
「アーネック、久しぶりね」
「アーネックちゃん、元気してた~?」
新入りの彼女を3人で取り囲み、キャピキャピとはしゃぐ。この感じ、ホントに女子校って雰囲気だな。
「オーミンもニカリンも卒業してから初めてだよね? ナウリンは何回か遊んだけど」
みんなに独特のあだ名つけてる……でもこれはこれで友達っぽくていいな。
「そうだね~、アーちゃんと一緒にお仕事なんて変な感じ~」
「それじゃ、5人で仲良くやろうな。早速クエスト申請しようぜ」
そのまま少し離れたクエスト受付所に向かう。小声でオーミが「仲良く、ね」と小さく漏らしていたものの、この時の俺はその意味を十分に理解していなかった。
「おばさん、こんにちは」
「ああ、アンタ達かい。おや、メンバー増えたんだね」
受付所では、相変わらず不健康そうに見える痩身なおばさんが、健康志向のお茶でも飲むかのように琥珀色の酒をジュルッと啜っていた。
「今日は良いクエストありますか?」
「そんなことより聞いてくれよ。あの丸眼鏡のババアがいんだろ?」
「先に愚痴から!」
せめて決めるもの決めてからでしょ!
「えっとね……幾つかあるよ。薬草摘み、荷物の運搬、あと鉱石の採集もあるね」
「そっか……ニッカ、どれがいい?」
「え、私? ううん……運搬とか楽、かなあ……」
なんだか歯切れの悪い答え。その理由は、彼女がアーネックに話を振ったことで、すぐに分かった。
「アーネックちゃんはどう?」
「アタシ? アタシは薬草摘みがいいなあ。ニカリンもロードガイドだから薬草詳しいと思うし。大体、運搬とか鉱石とか重そうじゃない?」
「だね。うん、それがいいかも」
え、いいの? そんな簡単に。
「ナウリンもオーミンも薬草で良い?」
ニッと口を曲げ、少し首を傾げてアーネックがナウリとオーミに視線を向けた。愛称で呼ばれた2人が、ほぼ同時に頷く。
「アーネックに賛成ね」
「ワタシもそれがいいと思うよ~。アーネックちゃん、終わったらみんなで冒険服でも見る?」
「んー、服は昨日見たから、アタシはカフェとか行きたいなあ」
「あ、じゃあそうしよ~」
みんなでワイワイ騒ぎながら、クエストを選ぶ。これまで4人組のときはそうだった。
違う、これは俺の知ってる「仲良し」とは少し違う。
俺はこの空気を、元の世界の噂で、女子校の噂で、知っている。
「タック、決まったわよ」
この4人、対等じゃない。リーダーがいる……っ!
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