第25話世界樹の図書館(ユグドラシル・ビブリオテーカ)と森の妖精

 ロイザ学園長、ラーナ第三王妃とアイリスが天空のアレース城で会談していた同時刻、アウラとルシオラはレリルール学園のフォルマ先生の魔法薬研究の教室前へ来ていた。


「「えっ」」

「カァ? カァ?」


 アウラとルシオラは教室のドアの貼り紙を見つめた。 クロロはアウラの頭にのってふたりの声に何? 何? と反応する。


「「 “ アルカヌム ” 選定試験にむけて対策するため、当分の間の授業は休止します?? フォルマ・バルセルムより???? 」」


 アウラとルシオラは困惑しながら貼り紙に書かれた文章を読み上げる。

 そんなふたりの元へ、ふわふわとイラストのような蝶々が飛んでくる。 教師と生徒の区別を付けるために生徒は【蝙蝠手紙】で、教師は【蝶々手紙】で授業に関係する連絡のやり取りをしている。


「今度は魔法薬のバニア先生からだ」

「ルシオラ、バニア先生なんて」

「ちょっと待っててね。 えっと『当分の間、 “ アルカヌム ” 選定試験の対策に集中するので、授業は中止よ。 よろしくね♪』 ……え?」

「バニア先生も参加するの?」

「そうみたいだけど、ええと……予定あいたけど、どうしようか?」

「どうしようね。 寮に帰っても早いし、取ってる授業はないし……学校ってこんな感じに授業が中止になるのかな?」

「さ、さぁ。 学園ここ以外の学校行ったことないから分からないけど……多分ちがうんじゃないかな。 ……僕達も図書館に行って勉強する?」

「う「カァーカァー」

「「そうだね。 クロロ」」


 アウラが「うん。 行こう」と返事する前にクロロが「行くー行くー」と返事して、アウラとルシオラはほのぼのと頷く。


「クロロ、たまには僕の上にも乗ってね」

「カァカァー」

「僕の上はいやか……」


 イヤイヤと頭を横に振るクロロに、ルシオラはがっくりとへこむ。 アウラはレリルール学園の地図を見ながら、


「図書館って東の離れにあるんだよね? それっぽい建物見たことある?」

「大樹しかなかったと思うけど、行ってみようか」

「うん」

「カァカァカァー」


 アウラはルシオラに手を差し出して、ルシオラはアウラの手をとり、ふたりは手を繋いで図書館へ歩いていく。 クロロはふたりの周りを飛び回っている。





 ーーーー




 アウラとルシオラは図書館がある付近の大樹の下で、大樹を見上げる。 遠目から見た時は普通の大樹に見えたが、近くで見ると幾つものうろが所々にあって、その虚が窓になっていた。 クロロは大樹の枝にちょこんと羽を休めている。


「この大樹が図書館だったんだね」

「だから図書館の名前が『世界樹の図書館ユグドラシル・ビブリオテーカ』だったんだね」


 アウラの言葉にルシオラは頷きながら、大樹の根元うろ部分にあるドアから世界樹の図書館ユグドラシル・ビブリオテーカの中へ入る。

 アウラとルシオラの目の前に100㎝程の身長の3匹の薄緑色の肌に深緑色の葉っぱのような髪の毛、少し尖った耳に光がない緑色の不思議な瞳、性別がないと有名な『森の妖精』が現れて、


「「「世界樹の図書館ユグドラシル・ビブリオテーカへようこそ~」」」

「わっ!」

「きゃ」

「しぃー、ダメだよ。 図書館では静かにしないと!」

「「ごめんなさい」」


 思わず声をあげてしまったルシオラとアウラに真ん中にいた森の妖精が注意するが、森の妖精達もワイワイと賑やかだった。


「ねぇねぇ。 何階に行くの?」

「何階?」

「あれ、知らないの。 もしかしてはじめて?」


 右側のツインテールにしてる森の妖精がルシオラの手を取って問いかけて、ルシオラとアウラがこくんと縦に頷くのを見て、


「えっとね。 世界樹の図書館ユグドラシル・ビブリオテーカは専門分野ごとに本が保管されてる場所が分かれてるんだよ」

「まずは1階はここ、受付だよ。 本の貸し出しや行きたい階数の部屋をボク達に言ってね」

「2階は火魔法に関する本がいっぱいあるよ! 生活魔法や攻撃魔法が多いよね」

「3階は水魔法の本だよ。 本の内容は火魔法と同じだよ!」

「4階は風魔法で、5階は土魔法、6階は雷で……7階が氷……で、8階は闇と光魔法だっけ?」


「そうだよ、忘れないでよね! 9階は魔法薬で、10階は【魔法の箒】をはじめとした飛行術、竜やユニコーンに乗るのも入るんだよね」

「11階が魔道具で、12階は召喚士や竜使いや占いの特殊魔法だよね」

「あれ? 竜使いは10階になかったけ?」

「そうだっけ?」

「そうだよ!」


 森の妖精はワイワイと説明を続け、3匹だった森の妖精が5匹と増えていた。 アウラとルシオラは森の妖精の勢いに置いてきぼりである。


「13階が国内の歴史や地理で、14階が国外の歴史なのよ。 15階がお伽噺や娯楽小説があるの」

「そうそう。 娯楽小説の悪役令嬢シリーズのザマァが素敵よねー」

「えー、男と女の恋愛って分かんなぁーい。 雌しべと雄しべとは違うんでしょ」

「ボクらと一緒にしたらダメだよ」


「「あ、あの……」」

「ん?」

「「えーと、9階の魔法薬までお願いします」」


 いつまでも続きそうな森の妖精の雑談? 説明をくぎるように、アウラとルシオラはハモりながら目的の階数を告げる。


「9階ね。 りょうかーい! 『世界樹の蔓ユグドラシル・ウィーティス』 !!」

「わぁ。 ルシ、上から蔓が」

「巻き付いてくる」

「大丈夫だよ。 この世界樹の蔓ユグドラシル・ウィーティスはふたりを目的の階まで運んでくれるのよ」


 アウラとルシオラの驚愕に左側の大人びた森の妖精が安心させるように微笑む。 ふたりに巻き付いた蔓は9階までアウラとルシオラを運び、魔法薬関連の本でぎっしり埋まった本棚へ連れてくると、しゅるしゅるとふたりから離れていき上へ戻っていく。


「「びっ、びっくりした」

           ね」

「そうそう。 説明を忘れていたけど、この階では読書出来なくてね。 わいらを通して最上階にある読書スペースに行ってね。 勉強も出来るから~」

「それからね。 ふたりは地下へ。 『世界樹の根ユグドラシル・ラーディクス』を使って “ 禁書 ” の階に行けないから気を付けてね。 用が出来たら呼んでね。 じゃあねぇ」


 一緒についてきた2匹の森の妖精は説明を終えるとパタパタと去っていく。 アウラとルシオラは呆然としながら、改めて図書館の中を見回して、アウラは本棚に触れる。


「なんか切り株の中みたいだね」

「うん。 外見と中に入ると全然違う……見た目より広いし空間魔法が使われてるのかな。 この大樹……本当の世界樹ユグドラシルじゃないよね」

「エルフが守ってる世界樹ユグドラシルはお伽噺の中だけだし、違うんじゃないかな。 本物の世界樹ユグドラシルなら森の妖精じゃなくてエルフが居るはずだよ」

「そうだよね」




 ーーー




「よい、しょっと」

「結構持ってきちゃったね」

「アウラ、これだけあるなら何階も往復しなくてすむかな」


 アウラとルシオラは魔法薬の製法や薬草の採取、育つ環境についてまとめられた5冊の本を、最上階にある読書スペースにある、蔓が巻き付く樹木のテーブルまで運んできた。

 本当は10冊程の本を運ぼうと考えていたが、一組が読書スペースや貸し出せる本は5冊までと決まっているらしい。

 アウラとルシオラは草がお生い茂るイスに座り、本を1冊1冊確認している時、アウラがピクッと止まる。


「あれ、この本って……。 ねぇ、ルシオラ。 これってのだよね?」

「え、そう……だね。 僕達はお婆様やお母様がって言っていたから、読んだことないけど……。 アウラ持ってきたの?」

「あれ、ルシオラじゃないの?」

「僕じゃないよ。 それにお伽噺なら15階って森の妖精が言っていたよね? どうして9階の魔法薬のところにまざっているんだろう……」


 じっとお伽噺の本を見つめてるアウラに気付いたルシオラは、


「読んでみる?」

「え。 でも、師匠がダメって言っていたし……」

「僕もずっと気になっていたんだ。 もう、お婆様も亡くなってしまったし、そろそろ言いつけを守らなくてもいいかなって思うんだ。 一緒に読んでみようよ」

「う、うん」


 アウラもずっと気になっていたお伽噺で、ルシオラに誘われるまま本をゆっくり開いていく。 お伽噺のタイトルは……――水の乙女と青年の恋物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る