第24話酒豪と竜達の動向

「そなたらの用件は? アニムスの “ アルカヌム ” 選定試験だけではなかろう」

「…………」

「レリルールの末裔が我の元へ訪れるのは、はじめてゆえ何かあると思っておったが、やはりそうか」


 ラーナ第三王妃の沈黙を肯定と受け取ったアイリスはワイングラスに深くて濃い赤紫色の山葡萄のワインを注ぐ。 くるくると揺らしてからアイリスら山葡萄のワインに口を付け、ゆっくりと味わいながら呑み込む。

 見た目が16歳ほどのアイリスの実年齢は不明だが5000歳は過ぎていると言われている。 お酒アルコールを飲んでも問題はないのだが、誰もアイリスに「実年齢ねんれいは何歳ですか?」と聞ける者はいない。


「分かっておると思うが、我が手出し出来るのは “ カエルム ” の管轄内テリトリーと “ 共存の竜種 ” のみだが良いのか?」

「……無理を承知で申し上げます。 “ 純血の竜種 ” の元へ赴くのは可能でしょうか?」

「ほぉ、 “ 純血の竜種 ” か……。 可か不可で答えるならば可であるが、あやつらはドラコニュート我らを人間と竜種の “ 混血 ” を嫌っておるからの。 余程のことがない以上、穏便には済まぬかもしれぬが良いか?」

「国王陛下の憶測通りならば、恐らく彼方もアイリス様の協力は必要なはずです……」


 協力が必要のうと口ずさみながら、アイリスは生ハムとハードタイプのチーズを摘まむ。

 10匹の風の妖精がワインやエール、ニホン酒の醸造酒、焼酎やウイスキーの蒸留酒、梅酒やリキュールの混成酒を小柄な体にひと瓶まるごと持って、ふよふよとアイリスのまわりを浮いている。

 摘まみもレモンが添えてある鳥の唐揚げや、小ネギとショウガがのった冷奴、マダイのカルパッチョなど、あらゆる摘まみも用意されている。

 既に呑みモードに入っているアイリスをラーナ第三王妃は無言で、ロイザ学園長はまたかと頭を抱えアイリスを見つめる。


「…………それは南海のカリドゥス孤島の “ ” が殺気だっておるのと関係あるか?」

「……ッ! 何が起きてるかご存知で?」

「いや、消去法よ。 我が城の “ 風竜 ” と、少数の “ 水竜 ” やドラコニュートは穏やかでなにも変わらぬ。 天界にある雷鳴に護られし、戦争と死を司る神オーディンが支配する “ 雷竜 ” が住まうヴァルハラは、現在いまもオーディンは眠りについておる。 オーディンが目覚めとった5000年前は戦争やら迫害やらで大変だったわ。 ここに変化がないことは良いことよ」


 真面目な話をしている間もアイリスはお酒アルコールを飲み続ける。

 今度はロックグラスに注がれたアマレットを、炭酸などで薄めずロックのままで飲んでいく。 アマレットの度数は34度とかなり高めなんだが……アイリスは顔色と口調も素面のままだ。


「 “ 水竜 ” はーー……オスらが雨乞い儀式の贄の乙女を娶るのは……変わらんな……まぁ、雨を降らす対価やし、こればっかりは口は出せぬ。 メスは……メスらを率いとるリヴァイアサンは大津波をおこさず我の約束を守っておるし問題なかろう」

((オス問題あるだろう!?))

「「…………」」


 ラーナ第三王妃とロイザ学園長は本音を隠しつつ沈黙を貫いた。

 第二王妃の故郷、サバラ王国とその周辺国は砂漠に覆われており、長年の日照りの末の水不足で悩んでいた。

 古来より日照りになると雨乞いの儀式が行われ、 “ 水竜 ” のオスが贄の乙女を気に入れば、乙女を対価に雨を降らしていた。 ……――理由は不明だが、サバラ王国だけどんなに雨乞いの儀式を行っても “ 水竜 ” は、日照りが続くばかりだった。

 第二王妃がレリルール王国に輿入れすることにより、レリルール王国から水魔法が得意な魔法使いや魔女が派遣され、水不足の問題はかろうじて凌いでいる。


「リヴァイアサンが大津波をおこしたのは、人間がリヴァイアサンの “ 番 ” を魔物と勘違いして殺してしまったからだろう」

「……そうじゃな、 “ 水竜 ” が竜種で1番、番への愛情深いゆえ仕方ないが、我が怒りを静めてからは海底にとどまって動かぬ……。 後味の悪いことだった……」


 ロイザ学園長の言葉にアイリスは当時を思いだし、しんみりしているが、お猪口に注いだニホン酒で喉を潤す。


((呑むか感傷にひたるかどちらかにして!)

 しろ!)

「「…………」」

「んん。 そなたらも呑むか?」

「いえ、帰りも【魔法の箒】なので、飲酒飛行になりますから」

「私も、まだ公務が残っておりますので……」

「そおか。 まぁ、竜の話は戻るが、 “ 土竜 ” は、見目が岩や崖と区別がつかぬし……こちらも相変わらず変わらんな」


 怒ると手は付けられぬがと、アイリスはぼやきながら日ノ島国の南にある離島でつくられた花酒はなさきを呑み、花チーズとサーモンの燻製を摘まむ。


「 “ 氷竜 ” は…………かの地で変わらず魔王の躯を守っておる……」

「魔王?」

「……の?」

「我が生まれる少し前か、かつて勇者と聖女……その仲間達に討たれた哀れな魔王よ。 我の母と同じ竜使いだったと聞く」

「アイリス様。 あのお伽噺は実際にあったことなのでしょうか?」

「ふう、悪いな。 我は面識がなく母に聞いた話ゆえ詳しいことは知らぬ。 オーディンが目覚めていた頃で、あまり思い出したくないんだ……」


 アイリスはロイザ学園長とラーナ第三王妃の疑問に淡々と答える。


「 “ 光竜 ” は我らが暮らす世界と天界へ通ずる門の門番をしとるし、 “ 黒竜 ” は冥界でケルベロスと戯れておる。 そのうち竜と番犬の混血も誕生するかもしれぬな……」


 なんかさらっと重大な内容を幾つも暴露しているアイリスに、ロイザ学園長とラーナ第三王妃は処理が追い付かない。 ラーナ第三王妃は悩んだ末に、


「えっと、つまり “ 火竜 ” にどのような変化が?」

「殺気だって動かんのじゃ」

「動かない、それは」

「いつもならカリドゥス孤島周辺を飛び回っておる “ 火竜 ” が、ここ15年ぐらいか。 孤島から1頭も出ておらん。 “ 土竜 ” や老竜が動かんのは珍しくないが、 “ 火竜 ” 、若い竜達も動かんのはおかしい。 それに

「……代替わりですか。 それは “ 竜王 ” の代替わりではなく、 “ 火竜 ” と共にあるでしょうか?」

「ディアトロの末裔の言うとおりよ。 我が生きておる限り、父竜は目覚めぬ。 今は我が “ 竜王 ” を代行しておるが、我は “ 代替わりの決闘 ” には負けぬし、父竜が目覚めても父竜以上の竜はおらぬから、 “ 竜王 ” の代替わりは先だろう」

「 “ 竜王 ” に決闘を挑んで、勝利した竜が次の “ 竜王 ” になる。 ……か、強さが全ての竜らしいわね」

「そうだろう」


 アイリスはラーナ第三王妃の言葉にうんうんと頷く。


「まぁ話は戻すが我はアネモスに命じて竜達の動向を調べさせておって、そろそろ火の精霊王の代替わりのなんだが……」


 アイリスは苺やレモン、ライムが浮かぶサングリアの赤に口をつけ、自分の傍らにいる風の精霊王アネモスをチラッと見やる。 アネモスはこくんと頷き、


「ここからは私が。 次代の火の精霊王の卵は生まれましたが孵化した気配がございません。 いえ、こうおっしゃったほうが分かりやすいかもしれません。 15にカリドゥス孤島に生まれた


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