一輪の幸福な愛

さち

一輪の幸福な愛

「ありがとうございます」


腰を落としお客様をお見送りする。

手を繋いで袋を持ち笑いながら歩いていく姿を見るとお幸せに!と心の中で叫ぶ。


ウェディングジュエリーで働いて早5年、いろんな方の接客をした。

サプライズでプロポーズするお客様。

幸せそうにこれから式場の打ち合わせなんです!と笑顔で指輪を選ぶお客様。

幸せの最初に携わる仕事だから失敗できない為、いつも緊張するが、それでも指輪をお渡しする瞬間は、ぁあこの仕事について良かったといつも思う。


私も早くお客様のように笑顔で指輪を受け取りたいと思っている。


そう、思っていたのだ


「どうしてよ」

誰もいない公園でビール片手にベンチに座る。



私には彼氏がいる。4年付き合ってるいるが最近は予定が合わず、どことなく彼氏が冷たくそれに加えマンネリ化していた。

今日彼氏に突然会いたいと言われ、デートかな?と仕事終わりにルンルンで会いに行けば何故か彼氏の横には知らない小柄で可愛らしい女性。

ファミレスに集合だった為、私の前に二人は座っていた。

しかも彼氏の腕によりかかる女性。


その方はだれ??何故くっついてるの??


頭の中でその言葉がぐるぐると回る


「美咲、悪いが俺には愛する女性ができた。君と別れたい。」

「・・・えっと、その方が翔の愛する人?」


チラッと女性をみるとビクッと体を動かし涙目で翔を見上げる。

「かけるぅー」


「やめろ!!愛理に手を出すな!」


何もしていないんだけど?

なんで、悲劇のヒロインとヒーローなんだよ


ぐっと、何かが込み上げようとするのを抑える。

「結婚しようねって話してたじゃない」

「あんなのはただその場を盛り上がる為の言葉だろ??婚約をしてる訳じゃないからいいだろ」


呆れた、女性にとって場を盛り上げる為に使う言葉にしていいはずなんてない


「その方にもその場のノリで伝えるの?」

「そんな訳ないだろ!!!俺たちは運命なんだ!そんな生半可な気持ちじゃない!!


ぁあ、面倒臭い。


「もういい、お互い合鍵を返しましょ。今もっているでしょ?」


お互い一人暮らしの為、行き来しやすい様に合鍵を交換していた。


「ほらよ、後から色々言われたくないから慰謝料としてやるよ」

ガシャ


茶封筒と鍵がゴミを捨てるかのように机の上に乱暴に置く。

その姿はもう付き合ってた頃の様な人じゃないんだと現実が突きつける


ここでこの封筒をもらわないと煩いだろうなと、思い封筒と鍵を受け取り、合鍵を渡し、席を立つ


「翔の部屋にあった私の荷物は捨てていいよ」

「ああ、俺のも捨てていいぞ、こんな可愛げのない女ともう二度と会うことも会いたくもないしな」


〝さよなら″そう呟いて目の前でイチャイチャしている二人から目を逸らしその場から去った。



今日の出来事を振り返り今に至る。

てかどうゆう事よ!!浮気したって事?!ありえない!!!

最初は悲しかったけどもう今じゃイライラしかしないわ!このお金使いたくない!!


言葉にしない様にビールを飲む

ふと後ろでドサっと何かが倒れる音が聞こえ音がし、その方向を見ると、公園の照明で微かに人が倒れている姿が見えた。


「ちょ!!嘘でしょ?!」


急いでその人の場所に行き声をかけようとすると〝グー″とお腹が鳴る音がした。

「もしかして、お腹すいてる?」

こくりと小さく頷くのを見て思わず笑ってしまった。

「ちょっと待ってて、私お弁当持っているから良かったらそれ食べて」

ビールを買うついでにお弁当も買ったけどビールに夢中で食べてなかったから丁度良かった。


ベンチに座らせ、お弁当を差し出せば少し躊躇いつつも夢中になって食べている。

がっついて食べるかなと思ったら凄い上品に食べるなこの人。


「あの、すいません」


私の視線に気づいたのか申し訳なさそうに俯く。

「え!ごめんごめん、じっと見すぎて食べにくいよね!お兄さんの食事姿が上品すぎて魅入ってた、ゆっくり食べてね」

「・・はい」


食べ切ったのかお水を渡し一息つくと私の方を向いて頭を下げるお兄さん

「あの、ありがとうございました。貴方は僕の命の恩人です。」

「いやだなぁー!大袈裟だよ流石に目の前に倒れている人いたらほっておくわけにはいかないよ」

「それでそのお礼をしたいんですが、生憎僕今一銭も持ってなくて」

「いいって本当に気にしないで」

「でも、、、」


割と粘るなこの人

どうしようかなー

「じゃあさ、私の今日最低な事があった話しきいてよ」

「そんなんでよければ」

「ありがとー!今日ね実は彼氏と別れたんだけど、そいつ浮気してたのよ!しかも女連れて愛し合ってるんだ宣言!ありえないよね!!!」

「それは、なんといいますか。凄い体験ですね」

「ほんとよ!!幸せになるのが私の夢だったのにー!!!」

ビール上に上げて叫ぶ


「それで、お兄さんはどうしたの?話たくなければそのままでいいし、話したらある程度はスッキリするんじゃない?」


お兄さんは目を左右に動かし躊躇いがちに口を開く。


「実は、家を追い出されまして。家族と住んでいたんですが、僕の母は幼い頃に亡くなり義理の母は前嫁の子供の僕が憎いのか嫌われておりまして、父は父で俺の方が凄いといった感じで無視されていて、僕がいる事自体不満な義母が何も持たせず突然僕を追い出し、在宅ワークをしていてほぼ軟禁状態だった為知り合いもおらず、どうしていいか分からずここ数日彷徨っていた次第です」


なかなかハードな内容だった・・・

でもとりあえずは


「お疲れ様、一人で頑張ったんだね」

「え」

「大丈夫、大丈夫だよ」


お兄さんの頭を抱え、優しく頭を撫でる


「ありがとう、、ご、ざいます」

静かに泣くその姿に何故だか無性に胸が締め付けられ、私は頭を撫でる手をやめなかった。


お兄さんが落ち着いたのを見計らって声をかける


「とりあえず、お腹も膨れた事だし私お風呂入りたいからついでに付き合ってくれない?銭湯にいこ!」

「そんな、そこまでしてもらう訳には!!」

「いいのいいの!さっき言った元彼から慰謝料としてお金もらったんだけど家に残しときたくないし!さぁ!いくよ!!」

遠慮するお兄さんを無理矢理ひっぱり銭湯に連れていき、

「1時間位銭湯でゆっくりしてて!私ちょっと出るけどすぐ戻るから!はいお金!」

手にお金を握らせ無理矢理銭湯に押し込む


さぁ、服を買いにいくか。

流石に風呂からでて、あの服は可哀想だしな


銭湯の近くにあるショッピングモールでお兄さんの体格に合うサイズをいくつか買い急いで銭湯に戻ると銭湯の外に人影が見えた。


あれ?!外で待ってた感じ?!


「中でゆっくりして良かったのに、湯冷めしちゃうよ」

「いえ、申し訳なくて」

私の方に振り返った瞬間に固まってしまった


綺麗な二重にぱっちりとした灰色がかった瞳

髪はアッシュで落ち着いた色

鼻は高く小さめな顔はかっここいいより美少年といった方がピッタリ合う位に顔が整いすぎていた。


髪が無造作になってて顔がよく見えなかったから全然気づかなかったけど!!


「あの・・?」

「はっ!いや、あのお兄さん瞳が灰色なんですね、、?

「あ、僕ハーフなんです」

「なるほど、、。あっ!これ服買ってきたから着替えて」

「ここまでしてもらって申し訳ないです。ありがたく頂戴致しますね。」

「私もお風呂ちゃちゃっと入ってくるから、少し待っててもらってもいい?

ついでだから私のストレス発散に付き合ってもらってもいいかな?そこで着替えよ。」

「はぁ、、わかりました?」




「あの、ここって、、」

「そう、聖地ゲームセンターです」

「僕、ゲームセンターに来たことがなくて」


困った様な顔をしているけど、とても目がキラキラしてる。


「そうなんだ!今からこの楽しさを分かるってとても素晴らしいね!」

腕を組み頷く私を不思議そうに見つめるお兄さん


「とりあえず、着替えたら沢山遊ぼっか」

「はい!」


お兄さんはゲームでほとんど遊んだ事なかったのか全ての機械をオドオドしながら触ってた。

段々慣れたのか、楽しそうにゲームをする姿は少年のようだった。


「いやー、遊んだね」

「はい!とても楽しかったです!」

ゲームセンターで遊び倒した私達は近くの公園のベンチで休憩している。


お兄さんの両手には袋に入ったぬいぐるみで塞がれている。

あのゲームが楽しかっただ、このぬいぐるみよく見かけますだの興奮が冷めない様だった。


思わずくすっと笑ったしまった。

翔はゲームセンターなんて論外だ!って言ってたから一緒に行けなかったけど、お兄さんのお陰で凄く楽しかったな。

ゲームをクリアすると褒めてと言わんばかりに私の顔見るからとっても可愛かったなー、しっぽが見えたもん。


「あの、もしよろしければお名前聞いてもいいですか?」

顔を赤くし俯きながら目でチラチラ見るお兄さん

「ぁあ!美咲だよー!美しく咲くに美咲。素敵な名前でしょ?」

冗談の様に笑いながら伝えると

「はい、花の様に美しく笑う美咲さんの名前にピッタリです」

ふわりと笑う綺麗に笑う顔に自分の顔が熱くなるのを感じた。

「あ、ありがとう・・・お、お兄さんはなんて名前なの?」

「・・・・リョウですね」

「かっこいい名前だね」

だめだ、あんなに褒めてくれたのに私はありきたりな言葉しかでてこない。

もっとあるだろ!

んーんーと一人唸っていると


「最初の僕をみんな汚い様な目で見てたんです、それはそうですよね、だってこんな僕に近づきたくないって普通思いますよね。

でも美咲さんは躊躇わずに手を伸ばして抱きしめてくれて何も知らない僕を呆れずいい事だよっていって色んな事を教えてくれた。」

「リョウ君?」

真剣な表情で私を見る

「美咲さんは優しくて綺麗で可愛くて素敵な人だよ」


鼻がツーンとする

この言葉が欲しかったんだ、素敵だよって言われたかったんだ。

涙がぽたぽたと溢れる

「ありがと、ごめんね、ごめんねリョウ君」

「美咲さんが謝る必要なんてないんだよ」

膝に置いてた私の手をリョウ君の温かい手が触れる。

泣く私を今度はリョウ君が泣き止むまで待ってくれた。




「なんか泣いたらスッキリした」

明日は丁度仕事が休みだからこの泣き腫らしてパンパンであろう目を誰にも見られなくてすむ


さて、そろそろこの美少年君ともお別れかな


「リョウ君これ」

茶封筒をリョウ君の手に渡す

翔に慰謝料として渡されたお金は20万円程あったが、リョウ君と一緒なのにこのお金で使いたくなくて、なんやかんや自分のお金で今日の分は払っていた。


「これって確か慰謝料って言ってたお金じゃ?」

「んー、あいつのお金は持ちたくなくて。良かったらさリョウ君貰ったよ。これで少しは凌げると思うし」

「僕は美咲さんから貰ってしかいないのに」

「そんな事ないよ、リョウ君のお陰で今日嫌な思い出だったはずが、楽しい思い出に上書きされたもん、だからもうお別れ」

「っ・・・美咲さん!」


そんな泣きそうな顔されたら別れるのが惜しくなる。


「幸せになってね」


「迎えにいくから!」

後ろからリョウ君の声が聞こえるけど無視して全力で走る。





あれさら3ヶ月、私はまだ引きずっていた。

そう、リョウ君が忘れられない


そりゃあ、忘れられないよ

もう会えないと分かっていても、また、もしかしたら

とずっと考えてします。


今日は仕事が休みだから余計に考えてしまう。


気分転換に買い物でもしようかな。


電車を乗り継ぎ服屋さんに向かう


交差点で信号待ちをしている間にビルのテレビを何気なしに見ていると突然腕を掴まれた


「え?」

「美咲!やっと会えた!」


そこには少しやつれ、無精髭を生やした翔がいた。


「なんで、え?」

「美咲!やり直そう!やっぱり俺の運命の人はお前だった!」

掴まれた腕をギュッと握っている為、腕を解くことも出来ない。

「なにいってんの?!あの人はどうしたの?!」

「あいつ俺の他に男いたんだよ!!俺の子じゃないやつの子を妊娠したらしい!

本命の人落とせたからもういいってどっかいったんだよ!!考えられるか?!」

「その事と私関係ないよね?今更なんなの?」

「よくよく考えたら美咲はいつも俺の事を思ってくれたここで会えたのも運命なんだ。

俺の事まだ好きだろ?今度こそ結婚しよう!」


腕の力が強まってく


「離して!!」


思いっきり腕を離すと同時に翔の顔に当たった


「ってぇな!」

「頭おかしいんじゃないの?!ここに来たのも偶然だし、

なによりあれから3ヶ月も経ったのよ?!

あの日こっぴどく振っといたくせに

私があんたをまだ好きなはずないでしょ!そんなんだから彼女さんにも振られるのよ!」

「調子こいてんじゃねぇぞ!!」

私の言葉に顔を赤くした翔は腕を振り上げ、殴ろうとする。


思わず目を瞑り、この後にくる痛みに身構えるがなかなか来ない


ん?来ない??


目を開けて様子を見ると、翔は腕を後ろ回され拘束されていた。


拘束している人物をみると


え、なんでここに?


「大丈夫だった?」


黒のスーツをビシッと着こなしたリョウ君がいた。


「いってぇな!!誰だてめぇ!はなせよ!」

「離さないよ、とりあえず君は一旦どっかに行こうか」

そう言い、後ろで待機していたこれまた黒のスーツの人に翔を引き渡す。

大声を出し引きずられながら翔は車の中に押し込まれそのままどっかにいった。



「久しぶりだね、美咲さん」

「え、なんでリョウ君。てかスーツ?就活中??」

「あはは!!違う違う、仕事着だよ」

「そっか、今お仕事してるんだね。良かった無事で」

その言葉に顔を下げ安堵する。

「やっぱり優しいね」

「え?」

「どうしても、美咲さんに会いたくて必死に頑張ったよ。少し時間がかかったけど、でももう僕を否定する人はいない。


だから


迎えにきたよ美咲さん」


その言葉にリョウ君の顔をじっとみる

「〜続いては、最近急上昇中の伊佐美グループ社長 伊佐美 涼真さんの話しを〜」

私の前に立つリョウ君の後でビルのテレビからニュースが流れている


テレビに映し出されている動画はどうみてもリョウ君で


「あれ?テレビ??リョウ君??社長?いや、てか涼真君?」

何回もテレビ画面と目の前のリョウ君を交互に見る。

バレちゃったといった表情をするリョウ君


「内緒にしててごめんね」

そんな事ある?!

まだ状況を把握してない私は一人あわあわとするしかない


「突然で追いつかないよね、とりあえずこれだけは言わせて欲しい。


美咲さん好きです。


僕と一緒に幸せになりませんか?」


そういうと一本のブルースターが目の前に現れた。


驚いた顔で涼真君の顔を見ると相変わらず綺麗な顔で優しく微笑んでいて


ぁあ、好きだと


この人と一緒に幸せになりたいとそう願いを込めて

私はそっと手を伸ばし花に触る



金木犀の匂いが二人を包む様に漂う。


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