失われる大地(SW2.5リプレイ)

たぬき

失われる大地

本作は「グループSNE」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の、二次創作です。

(C)GROUPSNE

(C)KADOKAWA



 数多の若者たちの血を飲み込みながら、今もなお争いの絶えない混沌の大地、アルフレイム大陸。

 ここは大陸西部、内陸に位置するツール地方。

 地域の中核とされるケブルの街。

 カロッソ・ケブル公爵により統治されるこの街は田舎ながらも活気に溢れ、冒険者たちを迎え入れる。


 戦士のヴァン。

 神官のトト。

 グラスランナーで吟遊詩人のルノ。

 交易馬車に相乗りさせてもらいながら旅を重ね、3人はケブルの街にたどり着いた。


 荷台の揺れの中。

 戦士のヴァンは、短く刈り揃えた青髪の間から時折滴る汗を無造作に拭いつつ、戦槌と鎧の手入れに余念がない。

 それらは命を預けるモノ言わぬ大切な相棒だ。

 キュッ、キュッと皮布で錆止めを塗られるモールもプレートアーマーも、彼のために充分な性能を発揮してくれるだろう。

 装備への執着は彼の育ちが大きく影響している。

 ナイトメアでありながらドワーフへの感情移入の度合いが人一倍なのは、ドワーフの里で育てられたためだろう。


 神官のトトは、聖印を胸に抱きブラウンの短髪と聖衣をそよ風になびかせながらウトウトと居眠りをしている。

 生き別れとなった姉と同じ澄んだ空色の瞳は女性を虜にする魅力に充分だが、今はうららかな春の日差しのせいで閉じられている。

 もっとも、異性への興味が希薄な彼は年頃に成ってからも恋人の1人も作らず、これといった人生の目標も持たず、ただ賢神キルヒアに祈りを捧げては満足する毎日を過ごすだけなのだが。


 グラスランナーのルノは、見慣れぬ土地の景色にライトグリーンの円らな瞳を輝かせ、瞳の色と同系色の吟遊背広、そして切り揃えられたブロンドの髪を風にはためかせる。

 持って産まれた彼女の好奇心と天真爛漫さは種族特有のものだが、それは人々の顔を度々ほころばせるものだ。

「好奇心がグラスランナーを殺す」とは頻繁に言われる格言だが、ここまでの道中でも心の赴くまま、珍しい事物を見ては喜び、時には得意のフルートを奏で、仲間たちの心を温めることに成功してきたことも事実だ。



ルノ「ここがケブルかー! どんな面白いことがあるのかなぁ!?」


 街の中心には人通りがあり、賑わっている。


ルノ「お城に行ってみたい!」

ヴァン「いや、まずは冒険者の店に挨拶かな」

ルノ「そうだね! 挨拶は大切だよね!」冒険者の店に行きましょう!

ヴァン「駆け出し戦士と吟遊詩人…需要在るかなぁ。トトはまぁ、神官だから引く手数多だろうけど」

ルノ「大丈夫だよ! なんとかなるって!」

ヴァン「ハハ…そうだな」冒険者の店へ行きましょう。

ルノ:はーい。

トト:同意します。居眠りしながら(笑)



 === 冒険者ギルド ===


 老舗の冒険者ギルド兼居酒屋「空飛ぶクジラ亭」。

 これから、どのような冒険が待ち受けるのか?

 どのような試練が待ち受けるのか?

 それはまだ誰も知らない。

 それぞれの志を胸に抱き、ギルドの扉を開いたプレイヤーたちは駆け出し冒険者として今日この日、この時、歩み始める。


ルノ「着いた! お店!」好奇心旺盛なので、さっさと入っちゃいます、

ヴァン:追いかけて入ります。

トト「ふあぁ…。ルノは今日も元気だなぁ」欠伸しながらのんびりとした足取りで入ります。

 老舗なのだろう。

 歴史を感じさせる古さが漂うこの酒場には10人程度の先客がおり、そろそろ昼食時のためか賑わい始めていた。

酒場の女将「客かい」

 女将は入店して来たルノたちをジロリと睨みつけた。

 50代くらいだろうか、海千山千を乗り越えて来た人生経験の迫力を持つ人物だ。

ルノ「ひえっ。こ、こんにちはー!」(汗)女将さんの眼光にうろたえちゃいます。

ヴァン「こんにちは」

酒場の女将「客ならさっさと注文おし。…そのナリ、冒険者かい?」

ルノ「そ、そうなんです!」

トト「はい、一応は」

ヴァン「俺たちは駆け出しですよ。仕事探しと…あとエール」同じく女将さんにビビりつつ、入口近くのテーブルに座り注文。

ルノ「ボクも一つ!」着席!

トト「僕も晴れて冒険者か…」ヴァンとルノと、一緒に座ります。

酒場の女将「ロッカ! エールだとさ! さっさと運びな!」

ドワーフ給仕ロッカ「はいはい、エールですね」パタパタと慌ただしく動いている。

ヴァン「それで仕事とかあれば紹介して欲しいんですけど…」

酒場の女将「冒険者なんてのは碌なもんじゃない」

ヴァン「え?」

酒場の女将「ツケで散々飲み食いしといて、そのまま二度と戻ってこない。…そんな連中ばかりさね」ひそめた眉間の皺の中に、ふと哀しげな表情を浮かべた。

トト「はは… 耳が痛いですね」

ヴァン「ツケは良くないですね。うん」ドワーフの給仕さんがちょっと気になる。

ルノ「ヴァン、どうしたの?」ヴァンの視線が泳いでるのに気が付いて。

ドワーフ給仕ロッカ「はいどーぞ、エールね」ヴァンの前にジョッキをゴトン。

ヴァン「ありがとう」代金をドワーフ女性に払います。

ドワーフ給仕ロッカ「毎度どうも♪」

ヴァン:あ、あとチップに5G渡しときます。久しぶりにドワーフに会えて嬉しいから。

ドワーフ給仕ロッカ「まあ! ありがとう♡」ニッコリ。

ヴァン:ではドワーフ式にエールを一気飲み。「プフッ… この店ってドワーフのコが多いの?」

ドワーフ給仕ロッカ「ええ、ドワーフの店員ばかりですよ。いい飲みっぷりね♪」

 言われて見渡してみれば、店内で忙しなく動き回る給仕は全員ドワーフ女性だ。

 ドワーフの里で育ったヴァンにはそれが直ぐに分かる。

酒場の女将「なんだい。ドワーフが珍しいのかい」

ヴァン「ええまぁ。前はよくドワーフと顔合わせてたから」

酒場の女将「ドワーフの娘に知り合いはいるかい? いるなら紹介しとくれ」

ルノ「ここの店員さんはドワーフじゃなきゃダメなの?」

酒場の女将「いーや、そんなこたぁないね。そもそも、あたしゃあドワーフなんて雇いたかぁないのさね」

ヴァン「ではなぜ?」

酒場の女将「ドワーフを集めるように頼まれてるのさ」

ルノ「ふーん…?」

酒場の女将「ったく、ドワーフなんてもんは融通が利かない頑固者ばかりだからね。おまけにエルフのお客は減っちまうし。良い事なんてないさ」

ドワーフ給仕ロッカ「…」

ヴァン「いい連中だと思うけどな。ドワーフは」

ルノ「ザ! 職人さんって感じだよね! ドワーフって!」

ヴァン「頑固なところも慣れれば接し方が分かってくるし」

酒場の女将「ふん。どうだかね」

ドワーフ給仕ロッカ「女将さんの方がよっぽど頑固…」(小声)

酒場の女将「なんか言ったかい」ジロリ。

ドワーフ給仕ロッカ「い、いえ! 別に何も!」(汗)

酒場の女将「あんたら3人組かい。仕事が欲しいって言ってたね。仕事の紹介の前に名前と、何が出来るのかお言いな」

ルノ「自己紹介だね! 分かった! ボクの名前はルノ! 吟遊詩人なんだ! あと見張りしたり鍵開けとかもちょっとなら出来るよ」

酒場の女将「ボク? あんたは男の子かい」

ルノ「えぇ? 女だよぉ、一応」


 ルノの能力。

 種族:グラスランナー

 技能【バード4】【スカウト1】

 戦闘特技【呪歌追加Ⅰ】【終律増強】

 呪歌【モラル】【バラード】【レジスタンス】【レクイエム】【終律:春の強風】

 装備【明音のフルート】【クロースアーマー】


酒場の女将「グラスランナーってのは、みんな子供みたいなもんだからねぇ。見分けが難しいさね」

トト「次は私ですね。トトと申します。しがない神官でして、多少の癒しの術なら覚えています。それと、自然を愛しています」90度の礼をします。


 トトの能力。

 種族:人間

 技能【プリースト3/キルヒア】【レンジャー1】【セージ1】

 戦闘特技【魔法拡大/数】【ターゲッティング】

 装備【ハードレザー】【ラウンドシールド】


ヴァン「トリは俺か。俺はヴァン・ジャンス。駆け出しの戦士だ。自分を鍛え直すために冒険者になったんだ、多少だけど自然(レンジャー)についても知識があるよ。よろしく」


 ヴァンの能力。

 種族:ナイトメア

 技能【ファイター3】【エンハンサー2】【レンジャー1】

 練技【キャッツアイ】【マッスルベアー】

 戦闘特技【全力攻撃Ⅰ】【薙ぎ払いⅠ】

 装備【モール】【プレートアーマー】


酒場の女将「ま、大丈夫そうだね。仕事の依頼があるんだがね、聞くかい?」

ヴァン「早速だな」

ルノ「聞きたいな!」

酒場の女将「詳しい話は依頼主本人から聞いた方が早いね。どうやら内密な要件らしいから直接聞きな。あたしは席を外すよ。店の奥に座ってるのが依頼主さ」

トト「店の奥に?」

 3人の視線が店の奥へ注ぎ込まれる。そこにはさっぱりと小奇麗なスーツを着た若者が大人しく座っていた。

 金色の細い髪は優雅にまとめられ、透き通るように白い肌。座る姿勢にもどこか気品を感じさせる。女装しても簡単には見破られないだろうとも思えるほど華奢な体躯だ。一般人ではないだろうことは容易に察しがつく。

 3人は若者の元へと足を運んだ。

ルノ「お仕事があるって聞いたの!」

依頼主の若者「キミたちは冒険者かな?」

 彼は一瞬、カウンターにいる女将に目配せする。彼女が頷いたことを確認してから、再び3人に視線を戻した。

依頼主の若者「では、仕事の話をしても?」

ヴァン「もちろん」

ルノ「はーい! どんな話なのかなぁ」

トト「キルヒアに代わり、お力に成りましょう」

依頼主の若者「似てるな…」ルノを見つめつつ。

ルノ「?」

依頼主の若者「いや、なんでもありません。出来るだけシンプルに話しましょう。ある場所に行き、ある人物に会い、ある薬を手に入れる事。報酬は前金で500G。成功報酬として、さらに500G」

ルノ「駆け出しの仕事なのに、いっぱい貰えるなぁ」

トト「悪くないお話ではないでしょうか」

ヴァン「薬とは、どんな?」

依頼主の若者「それは…」言い淀んでいる。

トト「それは?」

依頼主の若者「……ホ」

トト「ほ?」

依頼主の若者「いや…やはり、伏せておきたいな」

ヴァン「そうですか。目的の場所について詳しく聞きたいけど」ホで、なんか察した(笑)

ルノ:同じく(笑)

依頼主の若者「引き受けてもらえるでしょうか」

ルノ「オッケー! 任せて! ボクは早く依頼を受けて冒険したいんだ♪」安請け合い。

ヴァン「2人がいいなら問題ないよ」

トト「お引き受けするつもりです。まずは一通り教えてください」

依頼主の若者「そうだね。場所は…地図を出そう。この辺りのはず」

 若者が地図上で指差したのは郊外の、街道から外れた山麓。

ルノ「森の中なの?」

依頼主の若者「ええ、人里離れた森の中ですよ。目的地までは馬車で2日くらいかな。幻の賢者が滞在しているらしいのです」

ルノ「幻の?」

依頼主の若者「神出鬼没な賢者様。前触れもなくいきなり現れたかと思えば、いつの間にかどこへともなく去ってしまう。そういう人物ですよ」

ヴァン「厄介な賢者様だな。その人に会いに行くと?」

依頼主の若者「上手く会えるといいけど…。キミたちには往復の間の警護役をお願いします。目的地までは馬車を手配してあります。道中、もしも魔物に出くわした時は、頼りにさせてもらいたいですね」

ヴァン「最大限努力しますよ」

依頼主の若者「では正式にお願いします。そうそう、まだ名乗っていなかった。僕の名は……ロイ、うん、ロイだ」

ヴァン「ロイさんね。俺はヴァン。よろしく」偽名かな?

ルノ「ルノだよ! これからよろしくね!」ちょっと考えてたから偽名っぽい。

トト「トトと申します。よろしくお願いいたします」偽名使う理由ってなんだろう。

ロイ「うん、よろしく。受けてくれて助かります。直ぐにでも出発したいけど、いいかな? あ…」

ヴァン「?」

黒ずくめの若い騎士「こんなところで、くだらん連中を集めて何を企んでいるのか」

 いつの間にか近くに来ていた若い騎士は、しっとりした銀髪の間から時折覗かせる褐色の瞳に鋭い光を宿らせている。ただ者ではない雰囲気を周囲に漂わせていた。光沢を抑えた漆黒の鎧も上等なもので、身分の高さを窺わせる。

ヴァン「知り合い?」

ロイ「え、ああ…うん」

黒ずくめの若い騎士「どいつもこいつも役に立ちそうもない、ザコにしか見えん」

 若い騎士は忌々し気に目の前の冒険者たちを順に睨みつける。その視線はルノを捉え、静止した。

黒ずくめの若い騎士「グラスランナーか…」

ルノ「…?」

ヴァン「ルノ、ご指名みたいだよ?」

黒ずくめの若い騎士「ちっ、目が穢れる。さっさとこの街から出て行け」

ルノ「失礼だなぁ」

 若い騎士はしかめっ面のまま、ズカズカと乱暴な足取りで店から出て行った。

ヴァン(感じの悪いヤツだな)と、見送る。

トト「気にすることはありませんよ」と、ルノに笑顔。

ルノ「だいじょぶ! ボク、嫌なことは寝たら忘れるんだ」

ロイ「気を悪くさせたかな」

ヴァン「どこにでもいるんじゃないかな。ああいうガラの悪いヤツは」

ロイ「弟の無礼を謝ります」

ヴァン「え…」

ロイ「悪く思わないでやって欲しい。色々と難しい年頃だから」

ヴァン「ま、まぁ、人それぞれ。色々事情はあるし」

トト(プライバシーを詮索するのは無粋ですね)弟くんについてはスルー。

ロイ「直ぐに出発出来ますか?」

ヴァン「いつでも」

ルノ「それじゃあ、しゅっぱーつ!」

酒場の女将「仕事の話は終わったかい?」

 話が終わるのを待っていたらしい女将が声をかけて来た。

酒場の女将「一つ頼まれちゃくれないかい?」

トト「なんでしょうか」

酒場の女将「もしドワーフ娘を見かけたらこの店を紹介しとくれ。ドワーフ娘を集めてるモンがいてね。仲介料を払ってもらえるのさ。あんたらにもいくらかは入るよ」

ヴァン「構わないけど、なんでドワーフの娘ばかり?」

酒場の女将「ドワーフの村を復興するって話さ。ここから北西に行った山奥に蛮族に襲われて滅んじまったドワーフの鉱山村があるからね」

ヴァン「ドワーフの村か。上手く復興出来るといいな」

酒場の女将「ああ、ちょうど噂をすれば。ドワーフを集めてるのが入って来たよ」

 女将の言葉に一行は酒場入り口へ振り返った。

 そこには暗灰色のフード付きローブに身を包んだ人物が立っている。顔は見えない。魔術師風の全身を覆いつくすローブはそこはかとなく妖しい雰囲気を漂わせつつ、体のラインも確認できないため種族も、性別すらも分からない。

 分かることと言えば身長くらいだ。丁度、170センチのトトと同じくらいだろうか。

謎の人物「…」

ヴァン「はぁ、この人が…」クソ怪しいな。それとなく風体は覚えておこう。

ロイ「それじゃあ、出発しよう」

ヴァン「ええ。行きましょうか」

ルノ「行こう! 楽しみだなぁ」

トト:ローブの人物ををチラ見しつつ「ええ、行きましょう」と同意します。怪しいですねー(笑)

 テーブル脇に旅慣れた格好の男が寄って来て一行に声をかける。

運送ギルドの御者「薬を取りに行く話はまとまったんですかい? 俺もこの人に…ロイでいいんですかね。雇われたんだ。オイラの馬車で移動だ。御者のアシベってんだ。よろしくな」

ヴァン「よろしくお願いするよ」

ルノ「アシベさんだね! よろしく!」

トト「お世話に成ります」


 依頼人のロイ、御者のアシベと共に賢者の滞在地を目指すこととなった。

 ロイの希望に従い速やかに出発する。

 小春日和の爽やかな空気の中を馬車は進む。


御者アシベ「さあ、頑張って走れよユリア! ヒャッハー!」

ルノ「ヒャッハー!」楽しい♪

ヴァン:ユリア馬か(笑)

トト:ユリアあぁっ!(笑)

ヴァン(個性的な御者だなぁ)と、馬車に揺られながらのんびり。

ルノ:景色にくぎ付けです。

トト:その横で一緒にうららかな景色を眺めてます。

ヴァン:誰も周りを警戒しない(笑)


 ルノは気付いた。街道脇の茂みに、何かいる。

ルノ「なんだろ、あれ」

御者アシベ「ん? どうした?」

ヴァン「どうかしたかい?」武器構え。

トト「ふぁあ…。どうかしましたか」眠たそうにルノの指さす方を向きます。

 停止した馬車の行く手を阻むように、蛮族たちが姿を現した。大柄のものが1体、小柄のものが4体。

ヴァン:いっぱい出てきた。

トト:5匹とは凄いですねぇ。

ルノ:なんか槍持ったのいる。

ヴァン:弓持ちもいるのか、全力攻撃とか言ったら蜂の巣にされそうだ。

ロイ「蛮族ですね。街道に現れた魔物を放っておいては市民に犠牲が出かねません。頼めますか?」

ルノ「うん!」

トト「仕事の時間のようですね」

ヴァン:はーい。

トト:行きましょう。

ヴァン「お仕事お仕事」


 魔物知識判定結果。

 【ゴブリン】2体 弱点判明

 魔物レベル2

 言わずと知れたファンタジー世界のザコキャラ筆頭。

 駆け出し冒険者にとって鴨だが、常に集団で行動するため舐めてかかると痛い目に遭う。


 【ゴブリンアーチャー】2体 弱点判明

 魔物レベル2

 弓を装備したゴブリン。

 弱いけど遠間からチクチク攻撃してくるいやらしい相手。


 【ボルグ】1体 弱点判明

 魔物レベル3

 腕っぷしが強い大柄な蛮族で、ゴブリンやコボルドなど、自分より格下の蛮族たちを率いて冒険者の前に立ちはだかる。

 初期シナリオではボスとなることが多い。

 特殊能力の「痛恨撃」は、当たると痛い(笑)


 戦闘開始。

 相手の数の多さに苦戦が予想されたが、ヴァンの薙ぎ払いでゴブリンを一網打尽に。

 リーダーのボルグもトトの神聖攻撃魔法とルノの呪歌攻撃で敢え無く沈黙。

 残ったゴブリンアーチャーたちもヴァンの奮うモールの前に打ちのめされた。

 冒険者たちのデビュー戦は快勝で終わった。

ヴァン「悪く思うな。襲ってきたのはそっちだからな」モールに付いた血糊を振るい落としながら。

ルノ「やった! 勝ったね!」

トト「ヴァンさんお見事です。ルノもお疲れ様でした」

ロイ「良かった。君たちに依頼して正解だったようだね」

御者アシベ「はっはっは! オイラは全然心配してなかったぜ!」

ロイ「急げば日が落ちる前に着けると思うよ」

ヴァン「じゃあ、ちょっとスピードあげてもらおうか。野営するにしても出来るだけ賢者様の近くが良いだろうしね」

ルノ「暗くなる前に着きたいね」

御者アシベ「急げ! ユリア!」

運送ギルドの馬「ヒヒーン!」

トト:ユリアに毎回笑ってしまう(笑)

ヴァン:慈母星が…(笑)


 幻の賢者滞在地に向かい街道を急ぐ一行。

 数時間、馬(ユリア)を急がせ、陽が傾き始めたタイミングで休憩をとる事にした。近くには小川が流れ、水も確保できる。周囲の森からは小鳥の囀りが聞こえる穏やかな雰囲気の中、トトは気付いた。茂みの奥から、奇妙な空気の流れを感じる。周辺の長閑な環境に似つかわしくない、生臭い風。

トト「なんでしょう。嫌な空気ですね」

ロイ「空気の? そう言われれば、湿ったような風を感じますね」

ヴァン「嫌な空気? そっちに何かあるのかな? 賢者様が秘伝の薬でも調合してる臭いとか?」(笑)

ロイ「いえ、賢者様の隠れ家はまだ先のはず」

トト「探索してみますか?」

ルノ「なんだろうね?」ワクワク。

ロイ「気にはなりますが、先を急ぎたいですね」

ヴァン「なにか危険があってもいけないし、ちょっと調べてみるのは良いんじゃない?」

ロイ「…分かりました。では1時間以内に戻る約束をしてもらえますか? 街道で待っています」

ルノ「1時間だね! オッケー!」

トト「ご配慮感謝いたします」

ヴァン「依頼は護衛だしね。その辺は弁えますよ」


 相談の結果、ヴァンとルノが臭いの元を確認しに行くことに。

ロイ「ルノさんも行くんですね」

ルノ「うん! 探検するの好きだし!」

ロイ「グラスランナーは無茶をしがち。そんな印象があります」

ルノ「だーいじょうぶだって!」

トト「依頼人の護衛はお任せください」

ロイ「くれぐれも気を付けて。危険があったらすぐに戻ってください」沈痛な面持ちだ。

ルノ「はーい!」

ロイ「弟の悲しむ顔は、もう…」

ヴァン:…あの人にも色々あるのかな。今回の依頼、色々と縁が絡んでそう。

 2人は臭いを辿り森の奥へ足を踏み入れた。ヴァンのレンジャー技能が発揮され、順調に臭いを辿る。

 やがて、怪し気な雰囲気の洞窟を発見。

ルノ「見て見て! こんなところに洞窟!」

 奥からは湿った空気が流れ出てくる。生臭く、イヤな匂いだ。

ルノ「…なんか臭うね」

 ルノは複数の足跡に気付いた。かなりの人数が出入りしているようだ。

 靴の形から察して全て人族のもののように思える。おそらく、10~20人は出入りしているだろう。

ルノ「ヴァン、足跡がいっぱいあるよ」

ヴァン「妙だな。こんな人里離れた場所に」

 足跡を入念に調べるルノは気付いた。

 普通の歩き方をしているのは一組のみ。他の足跡は、足裏を引きづるように、だらしなく歩いているように思われる。足跡は少し時間が経過しているらしく、消えかかっているものがほとんどだ。

 今のところこの場に怪しい気配はない。

ルノ「足跡、一組以外は引きずったみたいな歩き方だね。誰が出入りしてるんだろ?」

ヴァン:いきなり大ボスとかだと、やばいな。

ルノ「トトも呼んだ方がいいかな?」

ヴァン「だな、2人じゃヤバイ気がする。トトも呼んで来よう。10分くらいで戻るから待っててくれ」

ルノ「分かった。待ってるね」

ヴァン:それが彼女を見た最後の姿でした…。

ルノ:ありそう(笑)

ヴァン:やばかったらフルート吹きながら全力ダッシュ逃げとか。

ルノ:息めっちゃ辛そう(笑)

GM:腹式呼吸!(笑)

ルノ:すー! はー!

ヴァン:常識的にはグラスランナーに単独で見張り任せるのは無しだよね。

ルノ:グラランへの圧倒的不信感(笑)

ヴァン:だってグラランだから(笑)


 トトを呼びに戻ったヴァン。

 洞窟近くの茂みに身を隠し、周囲の様子を警戒するルノだったが…。

ルノ「ちょっとだけ、中覗いてみよっかな」

トト:安定のグララン!(笑)

ヴァン:好奇心に殺される!(笑)

GM:洞窟に入りますね?(笑)

トト:ルノがんばっておくれー。

ルノ:松明とか要ります?

GM:入ってみないと分かりません。

ルノ:なるほど。入ってみます!

 グララン根性を発揮し、独りで探検するルノ。中は暗く、足元もよく見えない。

 洞窟は奥へ奥へと続いている。松明を片手に、好奇心に誘われるまま先を進む。

ルノ「暗いな~」能天気。

 ルノは気付いた。

 何かの、うめき声が…。

ルノ(何の声だろ?)

ヴァン:ヤバイかも。

ルノ(どうしよっかな。戻ろうかな…。でも、誰か困ってる人がいるかも知れない! 進もうっと!)

ヴァン:え、進むの!? 大丈夫?

ルノ:ヴァンさんがめっちゃ心配してくれてる(笑)

ヴァン:そこで死ぬと回収できない。

トト:自分は割かし、進んでみても良いかと思ってます。

GM:このまま進みますか?

ルノ:はーい。進みますー。

 洞窟は更に続いているが、奥がわずかに明るい。

 同時に生臭さが強くなってきた。

トト:ドキドキですねー。

 やがて、洞窟の奥へと行きついたルノは大きな空間を目の当たりにする。

 方々の穴からフラフラと歩み出てくる人影…いや、人であったもの。

 肌の端々は腐れ落ち、何を見ているのか視線が定まらない虚ろな瞳はすべからく濁っている。

 10体、20体…その数は膨らんでいく。

 更に驚くべきことは、それらの人影が全てドワーフであることだ。

トト:ドワーフのゾンビ工場!?

ルノ(ヤバ、い…)

 生ける屍の群れの中に一人だけ、正気を、いや狂気を身に纏った人物が佇んでいる。まるでこの狂った空間の、王のように。

謎の人物「ふ…。どうやらお前も仲間に成りたいようだな」

ヴァン:はい、後ろ向いて! ダッシュで逃げて!

ルノ:猛ダッシュで逃げます!!

 逃走したルノは、這う這うの体で洞窟から飛び出した。

ルノ「何あれー! 怖かったー!」

GM:馬車へ向かいますか?

ルノ:そのままダッシュで向かいます。

ヴァン:尾行に気をつけてね!


 === 街道・仲間がいる馬車 ===


ルノ「うわあああん! みんなー!」

御者アシベ「おー、戻ったなー」呑気。

ヴァン「あれ? 今、トトとそっちに向かおうとしてたんだけど」

トト「息を切らせてどうしました? ただ事ではないようですね」

御者アシベ「なんか美味そうなもんでもあったのか?」

ルノ「洞窟の奥にお化けが!!」

ロイ「魔物がいたのですか?」

ヴァン「1人で入ったのか…」

ルノ「生きてる死体だらけだった! 早く逃げなきゃ!」

ヴァン「よく分かんないけど、ここから離れた方がいいか」

ロイ「そうですね。アシベさん、お願いします」

御者アシベ「しゃーねーなー。ユリア! 行け!」

トト:ルノの様子からただ事ではないと判断。後方を警戒しておきます。

 急ぎ馬車を走らせるアシベ。ガタガタと揺れ動く車内で、ルノは水筒を受け取り息を整える。

ロイ「何があったのですか?」

ルノ:かくかくしかじか。全部話します。

ロイ「そんなことが…」

ルノ「もー。怖かったよー!」

ロイ「アンデット以外にも誰かいたのですね?」

ヴァン「時間があれば退治したいけど、今は依頼があるから後回しかな」

ロイ「大量のアンデット…見過ごすワケにはいかないですね」

ヴァン「なんとかしろと言うなら、努力はしますよ?」ドワーフばかりだったのは、かなり引っかかる。

ロイ「そうですね。このことは一刻も早く父う…お父さんに知らせなくては。一般市民に犠牲が広がる前に対処するべきです」

ルノ「そういえば、酒場で見た人に似てたなぁ、そのフードの人」

ヴァン「酒場の? あぁ、あの怪しいヤツか」

トト「邪悪な存在なのでしょうか…感心しませんね。ロイさん、依頼の件はアンデットへの対処より重要ですか?」

ロイ「どちらも…。では、こうしましょう。アシベさんは馬車で急ぎ街に戻り、ルノさんの話を城に報告してください。このブローチを持って行けば門を通れるでしょう。僕はこのまま、皆さんと幻の賢者の家を目指します」

トト「二手に分かれるのですね?」

御者アシベ「オイラはかまわねーけど。いいんですかい?」

トト「余程の事情がおありの様子。無論、私たちはロイさんの護衛を継続しますが…」

御者アシベ「帰りが大変じゃねーんですかい?」

ロイ「大丈夫ですよ、彼らがいてくれます。それより帰路の途中で襲われたりしないよう注意を払ってください」

ルノ「だよね。さっきの怖いのと出くわしたら大変だもんね」

御者アシベ「分かった。そんじゃ、オイラは街に戻りますぜ」

ヴァン:ユリアとお別れか。

ルノ:ばいばいユリア。

 馬車を降りた4人にアシベは手を振った。

御者アシベ「じゃーな。気を付けるんだぜ」

トト「そちらもお気をつけて」

ヴァン「くれぐれも気をつけて」

ルノ「ほんとに気を付けてね!」

御者アシベ「おう! 行くぞユリア!」

 馬車は元来た道を急ぎ戻って行った。

ロイ「大事に成らなければいいけど」

ヴァン「もう大事になり始めてる予感はしますがね」

ロイ「大事になったとしても、ケブルとプレンが協力すれば…」



 アシベと別れてから丸1日。

 野宿で一夜を明かし、さらに半日歩き、ようやく目的の場所へ到着。

ロイ「あった! 本当にありましたよ! 賢者の隠遁所が!」

トト「着いたようですね」

ロイ「こんな山奥に…さっそく訪ねましょう」

ヴァン「一息つけそうだな」

ルノ「ここで薬をもらえるのかぁ。幻の賢者様ってどんな人だろ?」ワクワク。

トト「キルヒアの信徒として、賢者様の知識には興味がありますね」


 森の奥の一軒家。

 石造りのその邸宅はさほど大きなものではないが、良い建材で建てられているのだろう、質実剛健のしっかりした佇まいだ。賢者の隠れ家にはもってこいの物件だろう。

ロイ:ドアをノック。「コンコン」

男の子の声「どちらさまかの?」

トト「子供?」

ヴァン「魔法で化けてるとか?」小声。

トト「声だけで判断してはいけませんよ」と、笑顔。

ロイ「不躾な訪問をお赦しください。私はロイ…いや。ケブル公爵家第一公子、ステイン・ケブルです。お願いがあって参りました」

ヴァン:そんな気はしてたから驚かない(笑)

ルノ:貴族だとは思ってた。

トト:ケブルの街から来たから、領主の息子か。

男の子の声「待たれよ」カチャカチャと鍵を外す音がする。

 開かれたドア。

 室内から4人を見上げているのは木製の人形。

木の人形「はるばる、ご足労じゃな」

ヴァン「人形、だな」どう反応すればいい?(笑)

ヴァン「…あなたが、幻の賢者様?」

木の人形「そうでもあり、違ってもいる。どうやら邪悪な気配は持たぬようじゃな」

トト「お初にお目にかかります」と礼をします。

 木の人形はゆっくりと全員を見渡す。

木の人形「ふむ… しかし、そこなグラスランナー」

ルノ「はい!」

木の人形「かすかに負の魂の瘴気を感じる。近く、負の存在と関わったか?」

ルノ「えっと…。実はちょっと前にアンデッドと出くわしたんです」洞窟に入ったことをかくかくしかじかします。

ヴァン「うじゃうじゃ居たみたいですよ」

木の人形「ふむ、そうか。ともかく入りなさい。話を聞こう。こっちじゃ。久しぶりの客人じゃな」

 こじんまりとした台所とリビングを通り、奥の書斎まで招かれる。

 書斎は数えきれないほどの本が陳列され、部屋の中心には立派な設えの机と椅子。その椅子に座っていたのは、人。確かに人族ではある。

 だが、その肌は硬質な水晶のようであり、どこに目鼻が在るのかも定かに確認できない。

 アルフレイムではほとんど見かけない特殊な種族、フロウライトだ。

謎の人物「よく参られたの。ステイン・ケブルと、率いているのは冒険者のようじゃな」

ルノ「ルノだよ! あなたが幻の賢者さま?」

謎の人物「そのような大仰なものではないが、そう呼ばれることもあるな」

トト「神官を担っております。トトと申します」礼をする。

ヴァン「戦士をやってるヴァンです」

幻の賢者「ふむ。神官の若者と、…戦士のキミはナイトメアじゃな? 苦労も多かろう」

ヴァン「分かるんですか。でもまぁ、最近までは苦労知らずでしたよ」妙に明るく。

ステイン公子「ヴァンさん、ナイトメアなのか」

ヴァン「ん、まぁ…」

ステイン公子「そうか。では、その素性は隠しておいた方がいい。穢れを持つ者を差別する人は多いですから」

ヴァン「ですね。色々言われるし」

ステイン公子「頭の角は隠れてますね。不自由させてすまないけど」

幻の賢者「して、ステイン公子。頼みとは?」

ステイン公子「はい、実は…」

 ステインは逡巡したが、気持ちを固めて口を開いた。

ステイン公子「伝説の薬、アウォンチューアニージューをいただきたいのです」

ヴァン(これは笑うところなのか?)割と真剣に悩みつつ。

ルノ:(なんか怪しい名前だ)

トト:興味だけ向けてます。

幻の賢者「あの薬か。手に入れてなんとする」

ステイン公子「使います」

幻の賢者「であろうが、見たところお前さんは身分が高そうだ。器量も良いように思える。女性に困るとも思えんが?」

ヴァン「…その薬の効能って、教えてもらえますか?」念のため確認しておきたい。

幻の賢者「惚れ薬じゃよ」

ルノ:最初に会った時「ホ」って言ってたから、そうかなとは思ってた。

幻の賢者「飲ませた異性から圧倒的に愛される。半月の期限付きじゃがな」

ステイン公子「どうしても必要なのです」

ヴァン:場合によっては良心が咎めるから、聞かない方が良かったかなぁ。

ステイン公子「私情ではありません。ケブル家とプレン家、わだかまりの多い両家が団結すれば蛮族も恐れるに足りません。万民の暮らしの安寧につながります」

ヴァン「それって半月で時間足りるんですか? 薬切れた後で関係が悪化しそうだけど」

ステイン公子「既成事実さえ作ってしまえば…」

 ここ、ツール地方に領地を有するのはケブル公爵家とプレン侯爵家。両家は、時に手を取り合い、時にいがみ合ってきた歴史がある。領内を流れるリドル川を境界として対峙する両家の関係は、現在は微妙な緊張状態が続いていた。

ヴァン:水利権とかでめっちゃ揉めそう。

ステイン公子「両家が結ばれれば地域が安定します。そのことは我がケブル家も、プレン家も承知していること」

ルノ「でも仲が悪いんでしょ? 結婚して大丈夫なの?」

ステイン公子「…関係を修復しようと、先月プレン家の方々を招待して舞踏会を催しました」

トト「それは良いことですね」

ヴァン:コネ大事(笑)

ステイン公子「侯爵令嬢をダンスに誘った…までは良かったのですが」

ヴァン「?」

ステイン公子「ダンスの最中、彼女は躓き、転倒してしまい…」

ルノ「ありゃ」

ステイン公子「私は慌てて助け起こしたのですが、彼女から…無礼者と罵られ、平手打ちを受けました」

ルノ:気の強いお嬢さんなんだねぇ。

ヴァン:公衆の面前でそれやる彼女も中々だなぁ。

ステイン公子「両家の関係が絶望的な状況なのです。どうか、アウォンチューアニージューを譲っていただけませんか? 謝礼はいたします」

幻の賢者「金など要らん。事情は分かったが…」

ルノ「ねぇねぇ、公子様はその人と結婚したいの?」

トト「確かに、政略結婚といえども愛情は大切かと思います」

ヴァン「その人のこと、どう思ってるんです?」

ステイン公子「それは……」

 ステイン公子はうつむき、頬を赤らめている。

ルノ「好きなんだ!」

ヴァン「ホントに好きなら薬に頼らなくてもいいと思うけど…」

幻の賢者「そうじゃな。彼らの言う通りじゃろう。まず謝罪をし、見染めたため交際して欲しいと真摯に申し込むべきではないのかね?」

ステイン公子「それが出来れば…」

トト「平手打ちされても嫌われたとは限らないと思います。ご自身の気持ちを伝えることが大事かと」

ルノ「そうだよ! ボク応援する!」

ステイン公子「…」

トト「諦めるのは早いのではありませんか?」

幻の賢者「ふむ。どうやら不純な動機ではなさそうじゃな。よかろう、薬を渡そう」

ヴァン:え、渡すの?

幻の賢者「じゃが半月後。薬の効果が消え失せた時、感情の反動が大きいことは覚悟しなさい」

ステイン公子「はい…」

木の人形「持っていくがよい」

 賢者と声がシンクロしている木の人形が、戸棚からポーションを取り出し運んできた。

ルノ「惚れ薬から始まる恋もあるかもだよね♪」少女漫画みた~い。

ヴァン(薬を使うのもアリなのかな。結婚してすぐ別れたら貴族じゃ世間体がキツイだろうし)静かにしてる。

幻の賢者「謝礼の代わりに条件がある。ワシも同道させてもらおう」

ヴァン「賢者様が?」

幻の賢者「と言っても、ワシはこの屋敷から出られぬ身。このオークが付いて行く。ワシの目となり耳となるゴーレムじゃ。かまわんかな?」

ヴァン「それはかまいませんが」

ルノ「屋敷から出られないの?」

幻の賢者「呪いじゃよ。この屋敷に、この椅子に束縛されておる。そして、この屋敷は時期が来れば別の場所へ転移する。次はどこへ行くのかはワシにも分からん」

ヴァン「随分と念入りな呪いだな」

トト「そこまでの呪いを受けているとは…。あなたは一体何者ですか?」

幻の賢者「ワシか? ただの老いぼれフロウライトじゃよ。ところでグラスランナーの娘よ」

ルノ「ん?」

幻の賢者「負の瘴気と関わったとのことじゃな。詳しく聞かせてくれぬか」

ルノ「うん! 聞いて聞いて!」かくかくしかじか、全部話します。

トト:便利な呪文(笑)

ヴァン:圧縮言語(笑)

幻の賢者「ふむ…」

 一通りルノの話を聞いた幻の賢者は考えを巡らせた。

幻の賢者「ドワーフばかりのアンデットか…。そのフードの者は気になるのう。ラーリスか、ツァイデスか、それとも狂った操霊術師か。いずれにせよ捨ておけぬじゃろう。無辜の民が死に追いやられることはワシも望まぬ」

ステイン公子「そうですね」

ヴァン「アンデッドは放置できないよな」なんでドワーフばかりなんだろ。

幻の賢者「今日は間もなく日が暮れる。今夜はここで過ごし、明朝発つがよかろう」

ルノ「うん! 夜は危ないもんね!」

トト「ご厚意感謝します」

ステイン公子「ありがとうございます」

幻の賢者「今宵はゆるりとするがよかろう」


 賢者の家で一泊した冒険者たちとステイン公子は、翌朝ケブルの街へ引き返す。

 運良く、街道を進む行商人の馬車に相乗りさせてもらい、順調な帰路となった。馬車の中で一泊し、街に到着。


ルノ「ひえー。体が痛い」馬車の中って毛布敷いてても固いし。

ヴァン「まぁ、その分早く着いたわけだ」

ステイン公子「皆さんありがとう。約束の残り報酬500Gと、例の洞窟の危機を察知してくれた働きに500Gを渡します」

ルノ「ふとっぱらー!」

トト「これは、ありがとうございます」

ステイン公子「それに見合う以上の重要な働きでしたよ」

ヴァン「ありがとう。頑張ってくださいね」

ステイン公子「うん。僕は一刻も早く父上の元に戻ります。では、皆さんの道のりに幸あらんことを」

 ステインは立ち去って行った。

ルノ「またねー♪」



 === 冒険者ギルド ===


 依頼達成報告のため、ギルド酒場に戻った冒険者たち。出迎えたのは、やっぱり眼光鋭い女将さん。

ルノ「ただいまー! はーお腹すいたー!」

酒場の女将「戻ったのかい。仕事はどうだったんだい?」

ヴァン「終わりましたよ」

トト「任務達成です」

酒場の女将「おや? なんだいその人形は」

トト「ああ、こちらは幻の…」

木の人形「ただのゴーレムじゃよ、マダム」

酒場の女将「ただのゴーレムがしゃべるのかい?」

木の人形「はっはっは、害はないから気にされなくて良い。それにしても冒険者ギルドか。懐かしい…」

ヴァン「懐かしい? 賢者様って冒険者だったとか?」

木の人形「遥か昔じゃがな」

ルノ「すごーい!」

トト「大先輩というワケですね」

ヴァン「ところで、ドワーフ集めてる人はいます?」女将さんに。

酒場の女将「ドワーフ集めてるやつかい? 入れ違いだったね、少し前に出てったよ」

ヴァン「どこへ行ったか分かりますか?」

酒場の女将「さぁねぇ、ドワーフ集落の跡地じゃないのかい? けど、ふらっと現れちゃあ給仕の誰かを見繕って1人ずつ連れて行っちまう。いい金は落としてくけど、その度にまた新しい子を雇って仕事を教えなくちゃならない。こっちは大変さぁね」

ヴァン「北西の炭鉱村ですか…」

 女将は酒場の隅でエールを仰ぐ若者に声をかける。

酒場の女将「ほら、例の連中が戻ったよ。グラスランナーの子も無事みたいだ。待ってたんだろ?」

黒ずくめの若い騎士「うるさい。そんなもの待ってなどいない…」少し酔っているようだ。

 若い騎士はルノをじっと睨んでいる。

ルノ「ボクの顔に何かついてる?」

黒ずくめの若い騎士「グラスランナーなど、クズだ」

ヴァン「そいつは過激なご意見だな」

ルノ「ひどいなぁ。確かにフルート吹くくらいしかできないけど…」

黒ずくめの若い騎士「昔、ある冒険者が冒険に出かけた。グラスランナーを連れてな。全く役に立たん。つまらん種族だ」

トト「あまり他人を否定するものではありませんよ」

黒ずくめの若い騎士「いーや。お前たちは役立たずだ。冒険に出るなど、無謀な行いで命を落とすだけの…」

ルノ「ひどいよ! みんなのことまで!」

ヴァン「俺も自分のことは否定する気はないな。で、結局何が言いたい?」

 黒ずくめの若い騎士はルノを睨み続ける。頭の先から爪先まで視線を這わせ、憎々し気に舌打ちし、顔をしかめたまま店から出て行った。

ルノ「はぁ…。さすがにあれだけ言われると落ち込むなぁ」

トト「気にすることはありませんよ」とルノを気遣う。

木の人形「あの若者。悪しき瘴気を纏っておったな…」

ヴァン「でしょうね、人を不愉快にするのが得意みたいだし。ま、気にすることないか。石を投げてこないだけマシだし」

酒場の女将「さっきの子は飲みながら何かぶつぶつ言ってたね。グラスランナーは真っ先に死ぬとかなんとか… とにかく全員戻ったんだ、祝杯でも挙げるんだね」

ルノ「そうだった! お腹ペコペコなんだ!」

ドワーフ給仕ロッカ「食事にする?」

ルノ「ボク、パンケーキとサラダにしようかな~」パンケーキリアルで食べたい(笑)

ドワーフ給仕ロッカ「パンケーキね? 一緒にコーヒーはいかが?」

トト「いただきましょう」甘い物がたべたくなりますね。夜中の甘いもの…ジュルリ。

ドワーフ給仕ロッカ「はいど~ぞ。召し上がれ」

ルノ「わーい! おいしそう。いただきま~す!」

トト:カップラーメンに継ぐ禁断の味ですね。

ヴァン「…あまり食欲ないな」ドワーフレブナントの件が気になっている。

酒場の女将「若いもんがそんなんでどうすんだい。戦士なんだろう?」

トト「そうですよ。食べれば元気も出ます。何か軽いものだけでも口に入れては?」

ヴァン「…じゃあ、何か軽食を」

ドワーフ給仕ロッカ「軽食ね? サンドイッチでいい?」

ヴァン「ん、じゃあそれで。あと紅茶を」

ドワーフ給仕ロッカ「紅茶ね」

ヴァン「ありがとう」

ドワーフ給仕ロッカ「あなた、ドワーフ訛りがあるのね」

ヴァン「うん、まぁ」

ドワーフ給仕ロッカ「髭、生やさないの?」

ヴァン「髭か、よく言われてたな」

ドワーフ給仕ロッカ「美味しいの運ぶから、待っててね」ニッコリ。

 ドワーフ給仕ロッカは微かに頬を染め厨房に向かう。

 パクパクと美味しそうに食事を摂るルノとトト。

 なんとなく元気が湧かないヴァンは先に届いた紅茶をすする。

 一仕事終えた後の食事に舌鼓を打つ3人に女将が振って来た話しは、ネクストクエスト。

酒場の女将「あんたら、もう一件仕事の依頼が入ってるんだけどさ。どうだい?」

ルノ「え! お仕事!」

トト「それはまた、大入りですね」

ヴァン「…話だけ聞かせてもらおうかな」

酒場の女将「依頼人は店の奥にいるよ。直接話してごらんな」

トト:「そうですね。話してみましょう」

ルノ「食べ終わったら向かうね」

ドワーフ給仕ロッカ「はい、サンドイッチお待たせ。しっかり食べて元気出してね♪」

ヴァン:「ん…」サンドイッチを紅茶で無理やり流し込みます。


 急ぎ気味に食事を済ませ、店の奥に向かう。

 そこには整った身なりの人物。女剣士と、見るからにしとやかな女性の、2人。

女剣士「冒険者か?」

 腰に剣を携えた、いかにも気の強そうな女剣士が声をかけて来た。

 立ち姿はキリリとしている。ややウェーブの効いたブロンドの髪はミディアムに整えられ、赤い革鎧と後ろ髪を束ねたリボンが艶やかさを引き立てている。

 だが、そうした愛らしい雰囲気の外見を霞ませる印象を与えるのは、抜け目無く周囲を値踏みする切れ長の青い瞳だ。最初の印象通り、厳しい性格の持ち主なのだろう。

トト「私たち3人がそうなります」

ヴァン「あなたたちが依頼人?」

しとやかな女性「私です。ギルドに依頼したのですが、頼めますか?」

 女剣士の隣でテーブル越しに話しかけて来たしとやかな女性は、市民が好んで着るゆったりした服に身を包んでいるが、その気品は隠せない。

 薄紫色の長髪は腰までの長さを超えている。愁いを帯びた琥珀色の瞳と、小さく整った唇には微かに化粧が成されているが、彼女の素の美しさには不要かもしれない。まるでマカジャハット産の高級人形のようにきめ細かく透き通った色合いの肌も、その優美さに拍車をかけている。身分を隠すために着用しているであろう平民の普段着とのギャップが際立ち、却って目立ってしまっている。

ルノ(なんか、凄い雰囲気…)

トト(どこかの貴族様でしょうね)ヒソヒソとルノに耳打ち。

ヴァン「依頼とはどのような?」綺麗な人なんだろうな、人間の尺度だと。

しとやかな女性「…ある場所に向かい」

トト「ふむ」

しとやかな女性「ある人物から」

ヴァン「うんうん」

しとやかな女性「あるものを受け取りたいのです」

ヴァン(すっごい、聞いたことある依頼内容だ)小声。

トト(ですね)と、小声でうなずく。

ヴァン「あのぉ…。そのある人物って、賢者様かな?」

しとやかな女性「!?」

トト「あるものとは、薬なのでは?」

女剣士「貴様…」剣の柄に手を当てた。

ルノ「きっと惚れ薬が欲しいんだね!」

しとやかな女性「なぜ…」驚いている。

ヴァン「ちなみに、その賢者様ならここに居ますけど」

木の人形「うむ、おるな。本体ではないが」

女剣士「は?」目が点。

しとやかな女性「は?」目が点。

ルノ:そうなるよねー(笑)

女剣士「何をどう受け取ればそのような話しに成るのか!」険しい表情。

ヴァン「冒険者としての守秘義務があるんで詳しくは言えないですが。そちらから話せる部分だけお願いできませんか?」

女剣士「お嬢様、この者たちは怪しい、信用しかねます。この場に幻の賢者がいるなどと世迷いごとを…」露骨に訝しんでいる。

トト:幻の、とまでは言ってないんですけど…(笑)

しとやかな女性「カレリア、市井について私たちは不慣れ。頭ごなしに人を疑うのは良くありません。構えを解いてください」

カレリア「は…」不承不承、剣の柄から手を放した。

しとやかな女性「話を漏らさないと誓っていただけますか?」

トト「話さないと誓いましょう」ニッコリ微笑みながら。

カレリア「その誓い、違えた時は斬る。たとえ神官と言えどもだ。いいな?」トトを睨んでいる。

トト「恐いですね… キルヒアに誓って」聖印をかかげながら。

ルノ「大丈夫! 任せてよ!」

ヴァン「話すなと言われたことは話さない。そのくらいの矜持はありますよ」

しとやかな女性「ありがとう。では、順を追って話します」

 女性は昂る女剣士を隣に座らせ、一呼吸置いてから話し始めた。

しとやかな女性「あれは… そう、村祭りのダンス会で。私はある殿方からダンスに誘われ、お受けしたのですが」

ヴァン:舞踏会じゃないの?

しとやかな女性「私はつまずいて転んでしまい、そのお方がすぐに支え起こしてくださったのですが」

ルノ:知ってる。

しとやかな女性「その… あまりにお顔が近くて… 私、どうすれば良いか分からなくなってしまい… 思わずそのお方に、酷い仕打ちを…」

トト:引っぱたいたワケだ。

ヴァン:向こうもズルい手段考えてるから、トントンかなぁ。

トト:すれ違ってるだけな気がしますねぇ。

カレリア「これは個人的な依頼ではない。この国、否。ツール地方全体の命運を左右すること」

しとやかな女性「これ以上詳細には、お話しできませんが…」

カレリア「率直に言う。惚れ薬が必要だ」

ヴァン:だと思った。

ルノ:はっきりしたいからお嬢様に訊いてみます。

 前に歩み出たルノは、無邪気で真っ直ぐな瞳を女性に向けた。

ルノ「薬でその人に好きになってもらうの? それでいいの?」

しとやかな女性「あの様子では薬でも使わねば、とても…」

ルノ「ボクは素直に謝った方がいいと思うなぁ。今からでも遅くないと思うよ?」

カレリア「謝る? 我らに頭を下げよと? お前たちの意見など求めていない。依頼を受けるか否か。イエスかノーかだ」

ルノ「…ちょっとボクたちで相談してもいい?」

しとやかな女性「どうぞ…」


 女性たちから距離を置き、3人+人形は卓を囲んだ。

ヴァン「幸せになれるかもしれない2人だから手は貸したいな」

トト「素直な謝罪を勧めるべきかと思います」

ルノ「見守りたいなぁ。2人ともこんなんだし」

トト「そうですね。そっと応援したい」

ヴァン「賢者様だけ置いて我々は下がるとか」(笑)

ルノ「出来れば依頼より、2人が仲直り出来ればそれでいいんだけど」

木の人形「どうするかね。仕事を引き受けるならばこの場で達成じゃ。薬の予備がここにあるからな」胸の引き出しから薬をもう1本取り出した。

ヴァン:引き出し(笑)

トト:便利(笑)

ルノ:ドラ〇もんみたい(笑)

木の人形「渡すべきか、せざるべきか。君たちの意見を重んじよう。世捨てが永いワシには惚れた腫れたは難しくてな」

トト「分かりました…」うーん、難しい。

ヴァン「薬は渡していいかも」ステインさんも薬盛る気だから、お互い様ではある。

ルノ:それなぁ。

トト「薬は薬として、まずはステインさんと話し合うのをお勧めしたいですね」

ルノ「私もステインさんに謝りに行くのがいいと思う」

トト「彼が何処にいるかは察しがついてます。訪ねてみましょうか?」

ヴァン「だな」一緒にステイン公子に会いに行くのがいいと思います。

ルノ:同じくです。

ヴァン:女性たちの素性分かったら、後はローププレイでゴリ押しするくらいしか思いつかない。

ヴァン:入力ミス、ロールプレイです。

GM:ローププレイ…。

ルノ:それはまずい。

GM:いや~ん♡

ヴァン:(笑)

トト:(笑)

木の人形「うむ、皆の意見がまとまったようじゃな。さて… そこな娘よ」

カレリア「なんだこの人形は」

木の人形「お探しの賢者とやらは、このワシじゃ」

しとやかな女性「は?」

カレリア「は?」

ヴァン「魔法でこの人形を操ってるんですよ」

木の人形「幻の賢者、と呼ばれておる。そのような大層な者でもないがな」

しとやかな女性「…証拠は」

木の人形「名を名乗るがよろしいか?」

 しとやかな女性はコクリと頷いた。

木の人形「ワシの名はル・テネット。フロウライトの老いぼれじゃ。名は伝わっておったかな?」

カレリア「…」

しとやかな女性「伝承の通りですね。その名を知る者は少ないと聞き及びます。賢者様にいきなりお会いするとは思っていませんでしたが。そのお言葉、信じましょう」

木の人形「ふむ、助かる。求めておる薬はこれじゃ」

しとやかな女性「まさか、アウォンチュー…」

木の人形「アニージューじゃ。差し上げよう。提案じゃが、お目当ての御仁に会って行かれてはどうか。直接話せば弾む話もあろう」

カレリア「お嬢様、いかがなさいますか」

しとやかな女性「…分かりました。お目通りを願いましょう。ただし謝罪に行くのではありません」

木の人形「貴族とやらは難しいものじゃな。では依頼達成じゃ。こちらの者たちに報酬を支払ってあげなさい」

しとやかな女性「では、薬の代金としてお支払いします」

ヴァン:報酬もらえるんだ! ラッキー♪

ルノ:やったー!

トト:何もしてない気がしますが(笑)

しとやかな女性「そこな冒険者たち。追加の依頼をいたします。私はこれからケブル城へ参ります。皆さんには護衛として同道していただきたいのです。女だけでは甘くみられますから」

ルノ「わかったよ!」にこにこ。

トト「お心のままに」

ヴァン「OK、引き受けます」

カレリア「心外です! 男どもが何人束になってかかろうとも、私は姫様をお守りします!」

しとやかな女性「カレリア。私は姫ではありません」

カレリア「そ、そうだ! お嬢様を… です」

しとやかな女性「では、参りましょう」

トト:お腹減ったな。

ヴァン:お城でお菓子くらい出るんじゃ?

トト:リアルで、です(笑)

ルノ:あー(笑)

カレリア「どうした、困り顔だな?」トトに。

トト「どうも食事が足りないようで…」

カレリア「空腹か、軟弱なヤツめ!」

ルノ:スパルタだった(笑)

しとやかな女性「カレリア、無理を強いてはいけません。お食事がまだですのね。女将、皆さんに食事を、出来るだけ上等なものを」

酒場の女将「おや、食事かい。直ぐに支度をするよ」

ヴァン「腹が減っては戦はできぬともいいますからね」

 お嬢様のおごりで冒険者たちは食事にありつく。

ヴァン:折角なのでシチューくらいは貰っておきます。

トト:自分は串焼き肉、BBQでお願いします。

ヴァン:おごりなのでホームメイドシチューいっちゃいましょう。

ルノ:じゃあ、果物いただきます。一番高いパイナポーで!

ヴァン:発音いいですね(笑)

ドワーフ給仕ロッカ「どんどん食べてね♪」

ルノ「ありがとう!」

ドワーフ給仕ロッカ「…」ヴァンの前にピザを置いた。

ヴァン「これは頼んでないけど?」

ドワーフ給仕ロッカ「ここの看板メニューなの。味見してみて」頬を赤らめている。

ヴァン「ありがとう」ニコッと。

ドワーフ給仕ロッカ「……」更に赤面してしまった。カールのかかったブラウンの髪を小刻みに揺らしながら、慌てて厨房に逃げ込んでいく。

ルノ:ヴァンさん、罪な男や。

ヴァン:まあ、PL的に美味しいですが(笑)

トト:いいなー、モテモテ(笑)

 食事を済ませた冒険者たちは賢者と、女性たちと共に街の南にそびえ建つ白亜の城へ赴いた。



 === ケブル城、城門 ===


衛兵A「止まれ、何者か」

しとやかな女性「ケブル公に目通り賜りたい。9年ぶりにクロロ・プレンが訪ねて来たと、そう申し伝えよ」

衛兵A「!?」


 間もなく城内の応接室に通された一行。

 天井は高く、広々としたその部屋は豪華な調度品に囲まれている。

ルノ「うわー、立派なお部屋だなぁ」

ヴァン「さすがお貴族様だな」

トト:物珍し気にきょろきょろとあたりを見回してます。


 ノックと共にゴシック調白亜のドアが開かれる。

 冒険者たちとは馴染んだ人物が正装に身を包み、微笑んでいた。

 背後には逞しい体躯の執事を1人、従えている。

ルノ「あ、ロイさん!」

ステイン公子「元気でしたか?」

トト:静かに礼しておきます。

ステイン公子「よ、よよ…よく、訪ねてこら、れれ…」緊張しているようだ。

侯爵令嬢クロロ「あ、改まらないで、ください。御父上は息才、ですか…」緊張している。

ステイン公子「僕は、元気…。すまないが、父はお会いに成れない。最近、体調を崩していて…。僕では、ご不満かな」

侯爵令嬢クロロ「い、いえ…」

 2人は差し向いにソファへ腰を降ろし、互いに顔を伏せている。

 ステインは所在無く目を泳がせ、クロロは薄紅色に染まる頬に手を添え、隠そうとしている。

ルノ:これもう、薬は要らないんじゃ…(笑)

ヴァン:それな!(笑)

ステイン公子「君たちが一緒に来るとは意外、だったな」救いを求めるかのうように冒険者たちに話を振っている。

侯爵令嬢クロロ「お知り合い?」

ヴァン「少し前に護衛を頼まれまして」

ルノ「ソーダヨー」棒読み。

トト「そう言う事です」笑顔。

ステイン公子「その節は…」

侯爵令嬢クロロ「…」

ステイン公子「そ、そうだ! お茶の用意を! お茶も出さないとは、気が利かなくて申し訳ありません! トッキ、お茶を」

執事トッキ「はっ、只今」

トト:執事さんをトッキって呼ぶの、なぜだか笑ってしまう(笑)

ヴァン「きっと高級なお茶なんだろうなぁ」ニコっと微笑もう。

トト:お茶に薬ガガガ…。

侯爵令嬢クロロ「そうですわ。お茶と言えば! 私も用意がありますの。カレリア、あれを」

カレリア「はっ」

ヴァン:お?

 いつの間に用意したのか、剣士カレリアはガラス瓶に入れられた液体を取り出し、そっとテーブルに置いた。

カレリア「カップをお借りしても?」

執事トッキ「…どうぞ」訝し気な表情を浮かべつつ、カレリアにカップを手渡す。冒険者たちにもそれぞれお茶を淹れてくれた。

ヴァン:俺たちにも薬を飲ませるの!?

GM:それはないでしょう。皆さんの分は別のティーポットから注がれたものです。

ルノ:ホッ。

トト:そりゃそうか。

カレリア「どうぞお召し上がりを。冷めても美味なプレンのお茶ですわ」優雅な所作で、ステインの前にティーカップを置いた。

ステイン公子「…」出されたお茶に視線を落とし、戸惑っている。

侯爵令嬢クロロ「いかがされましたの?」

ステイン公子「これは…」木の人形に視線を移した。

木の人形「…」知らんぷりしている。

ルノ:(笑)

ヴァン:意地悪賢者(笑)

トト:因果応報(笑)

侯爵令嬢クロロ「私の心ばかりのご挨拶を… 嗜んではいただけませんの?」

ヴァン:お嬢様は攻めていくスタイルか(笑)

執事トッキ「何故それほどまでに勧められるのか。そもそも、このような場で客側から唐突に出される飲料とは、不自然」

トト:この執事、出来る。

執事トッキ「何か含まれていると疑いたくもなりますな」

カレリア「なに!? 聞き捨てならん! 毒を盛ったとでも言われるおつもりか!」

ヴァン:当たらずしも遠からず。お互い様だけど。

執事トッキ「そうではないと?」

カレリア「無論だ! クロロ様を疑うなど言語道断!」剣の柄に手をかけている。

トト「まぁまぁ、落ち着いて…」

 そっと肩に置かれたトトの手を乱暴に振り払ったカレリアは、忌々し気にトッキを睨みつける。

執事トッキ「では、毒ではないと証明いただきたい。その後、伏して謝罪いたしましょう」

カレリア「証明すれば良いのだな!」ステインの前に置かれたカップを掴み取り。

侯爵令嬢クロロ「あ…」焦っている。

カレリア「両の眼でとっくりと見るがいい!」一息にお茶を飲み干した。

ルノ:飲み干すんかーい!

カレリア「どうだ。これで分かっただろう。なんの細工も…」

ヴァン:やっちまったなぁ。

カレリア「……」顔色が見る見る変わって行く。

トト:あ~ぁ…。

カレリア「何故… 今まで気付かなかったの…」

ヴァン:生命抵抗失敗したか(笑)

カレリア「こんな、素敵な… おい! 気様!」

トト:誰の事でしょうね(笑)

ヴァン:止める準備しておこう。立ち上がり。

カレリア「貴様だ!」

ルノ:あちゃーって顔してます。

GM:クロロも、あちゃーって顔しています。

トト:とりあえず笑っときましょうか(笑)

カレリア「何を笑うか! そこな神官! お前だ! 名を言え!」トトに向かって。

ヴァン:トトだった。

ルノ:だった♪(笑)

トト:ええええええええ…。「私ですか?」

カレリア「さっさと名乗らんか!」

トト「トトと申しますが…」

ヴァン:ある意味平和なとこ行ったか。座り直す。

カレリア「ト、トトか… トト、さま…」

トト「そうですが…」

カレリア「歳は!」

トト「21、です」ひきつった笑顔で。

カレリア「す、好きな、食べ物は…」

トト「えっと、何でしょうね。肉かな」

カレリア「好きな、曲は…」頬を染めながらモジモジしている。

トト「静かめな曲を少々、ですかね」

侯爵令嬢クロロ「カレリア…」困り顔。

ステイン公子「まさか…」

カレリア「趣味は… 子供は… 好き?」とってもモジモジしている。

ステイン公子「トッキ、この状況は…」

執事トッキ「はい、おそらく」

ステイン公子「レディクロロとお話がしたい。全員、席を外してもらえるかな」

執事トッキ「別室に下がるがいい。カレリア殿も、な」

ルノ「うん! 分かった!」最初からそうしておけば良かったのにね。

ヴァン「あとはお若い2人で、ってやつですね」笑っちゃうね~(笑)

トト:いや、笑い事じゃないし。

執事トッキ「茶は片付けておかねば。どちらも…」

トト:しょうがない。「僕たちも席を外しましょう」カレリアを外へ促します。

カレリア「どこへ行くの? 待って…」楚々と、トトに付き従う。

ルノ「ボクお城の中探検しよっかなー」

GM:ルノは城内をうろつきますか? 行動は自由です。

ルノ:うろつきまーす。

ヴァン:別室でクロロさんを待ってますかね、一応護衛役だし。

トト:私も別室でカレリアと大人しく会話しておきます。あやしておく、かな。(汗)

GM:ではルノ。通路を奥に行くか、右に行くか、選んでください。

ルノ:奥に行ってみます。


 ルノはケブル城内を自由気ままにうろつく。目的は一つ、面白いものを見つける事。

 大理石の柱を幾本も行き過ぎ、ルノはキョロキョロ辺りを見回す。いつの間にか城の最奥に位置する広間までやって来たようだ。

 広間には1人、物憂げに窓越しの空を見つめる初老の偉丈夫が玉座に腰を降ろしていた。


ルノ「こんにちは!」

偉丈夫「…誰か?」

ヴァン:まさかのグラランワントップで領主と面会(笑)

偉丈夫「お前は、グラスランナー…」

ルノ「うん! ボクはグラスランナーの冒険者。このお城のお客さんの護衛に来たんだ」

偉丈夫「まさか… ノエル、か?」

ルノ「ノエル? 違うよ。ボクの名前はルノ!」

偉丈夫「…そうか、人違いであるか。だが、グラスランナーに会うは久しきこと

ルノ「前にもグラスランナーに会ったの?」

偉丈夫「似ておるが、空似であろうな。ノエルはすでに…」

 やや苦し気に咳込んだ後、偉丈夫はルノの顔をじっと見つめる。何かを懐かしむように。

偉丈夫「ルノと、申したな」

ルノ「はい!」

偉丈夫「教えてはくれぬか。グラスランナーは、人間を愛することがあるか?」

ルノ「愛する?」

偉丈夫「周囲に反対されようとも、命懸けで人間を愛する。そのようなグラスランナーは、おるか?」

ルノ「いると思うよ。ボクにはまだないけど」

偉丈夫「左様か。…かつて、グラスランナーを愛した者がいた。子が出来る間柄ではなかったが、その者はグラスランナーを連れて逃げた」

ルノ「…」

偉丈夫「だが、当のグラスランナーは旅の途中で命を落とした。詮無い事… なぜ… あの時…」

ルノ「ボクたち好奇心いっぱいだから、たくさん迷惑かけちゃうかもしれない。だけど愛情は人と変わらないよ」

衛兵B「む!」城内を巡回中の衛兵がルノの姿を発見。「こいつめ! どこから入った!」

ルノ「ありゃ」

偉丈夫「よい、障りない。ゴホゴホ…」衛兵の動きを手で制し、再び咳き込んだ。

衛兵B「閣下! ただいま御典医を呼びます。しばしお待ちを」慌ただしく立ち去って行った。

偉丈夫「ゴホ… ノエル… いや、違う名であったな。くれぐれも命を、粗末に、せぬ、よう。ゴホッ! ゴホッ!」

ルノ「うん、仲間がいるからね!」

ヴァン:弟君の過去がバレたねぇ。

トト:ルノのお手柄?

 幾人もの男たちが通路を通る足音が響き伝わってきた。

 衛兵たちと典医を連れ、上流貴族らしい男が足早に現れる。

尊大な貴族「閣下、いけませんな。この場の空気は冷たい。お体に障りますぞ。ささ、寝室へ。いつもの御薬を用意いたします」

トト:また、怪しそうな。

偉丈夫「すまぬな。任せるぞ、ラギル」

ルノ「じゃあね、おじいちゃん。お話しできて楽しかったよ」

偉丈夫「うむ。息才でな」

 偉丈夫、カロッソ・ケブル公爵は衛兵に肩を預けて下がって行った。

尊大な貴族「…して、この薄汚い小人はどこから入った」

ルノ「薄汚い? そうかなぁ」自分の背広に視線を落として。

尊大な貴族「閣下の第一の臣であるこのラギル・ソノーチ。決して悪事は見逃さん」

トト:そのうち裏切りそうな人だ(笑)

ルノ「悪事はしてないよ? はいはい、帰ります帰りまーす」素直に退散します。



 === 客間別室 ===


ルノ「戻ったよ」

カレリア「ねぇ、子供は何人欲しい?」

トト「2人くらいですね」吹っ切れた笑顔で。もうどうにでも成れ(笑)

ヴァン「トト、半月の我慢だよ」(苦笑)

執事トッキ「その女が奇妙なのは一時の事。深く関わらぬが互いの為だろう」

トト「ですね。ほどほどにしておきます」

ヴァン:惚れ薬って効果中の記憶は残るんだっけ。

ルノ:なにか反動があった気がするけど、記憶については言及されてなかった気がする。

ヴァン(カレリアさんってファイターっぽいから、力づくで来られたら勝てないかも…)(汗)

衛兵C「トッキ殿! 一大事です!」慌てて室内に走り込んできた。

執事トッキ「何事だ?」

衛兵C「地下が何者かに荒らされ! 封印庫の! あの剣が無くなっています!」

執事トッキ「なにっ!!」

ヴァン「やっかいごとっぽいなぁ」見てる。

執事トッキ「急ぎ兵を集めよ! 必ず探し出すのだ!」

衛兵C「はっ!」

執事トッキ「冒険者よ、力を借りたい」

ルノ「もちろん!」

トト「必要とあらば。しかしクロロお嬢様の許可は要りますね」

ヴァン「今はお嬢様の護衛任務中で、曲者が城内にいる可能性があるからな。クロロさんが許可してくれるなら協力しますよ」

執事トッキ「緊急事態だ。レディクロロには私から許可を得ておく。剣を見つけるのだ。呪われし毒婦たる女神の加護が注がれた。ブラグザバスの剣」

トト「毒と病気と腐敗を司る女神ですね」

ヴァン「具体的な剣の性質はどのような?」

執事トッキ「対象の生命力を吸い、所持者の力とする。命の炎を奪われ続けた者は穢れ、やがて負の存在と化す」

ヴァン「一大事ですね」

執事トッキ「先ずは城内をくまなく探す」

木の人形「いや、すでに城外に持ち去られておるようじゃ。邪神の気配… ワシの住まいへ近付いて来ている」

トト:おおっと。

ヴァン:悪党は賢者様狙いか?

ルノ「もうケブルの街から出ちゃったの?」

木の人形「うむ、持ち手は駿馬に乗っておるようじゃな。並みの馬では追い付けまい」

ヴァン:厄介な…。

木の人形「方角はワシの住まいへじゃが、目的地もそうとは限らん。あるいは…」

ヴァン「あの辺りに例の洞窟もありますね」

木の人形「そうじゃな」

執事トッキ「アンデットが湧いて出た洞窟のことだな? あそこはすでに100の兵を遣わし入り口を固く塞いである。盗人がそこへ向かうなど、無謀」

トト:執事トッキ有能。仕事が早い。

ヴァン「じゃあその兵隊さんたちに賢者様を守ってもらえばいいかな? 伝達方法さえあればここからよりも近いし」

木の人形「あるいは… 全く別の目的地へ向かっているのやもしれん」

ヴァン「あの辺りにまだ何かあるんですかね?」

木の人形「うむ。あるな」トッキとやらは存じておるか? フゥ・ラゥの遺跡を」

執事トッキ「魔動期文明の遺跡が北の山麓に在るとは聞き及んでおりますな」

木の人形「ブラグザバスの剣は邪神の爪の垢を煎じて作った剣と聞く。毒と呪詛がたっぷり詰まった爪の垢をな」

ルノ:爪の垢なんだ(笑)

ヴァン:少なくとも絶対斬られたくない(笑)

木の人形「かの剣の効果を打ち消し、中和させる事が出来るものがその地には眠っておる。それが件の遺跡に眠ると伝わる」

トト「どのようなものなのでしょうか」

木の人形「ユニコーンの剣じゃ。盗人はそれを手に入れようと目論んでおるのやもしれぬ。癒し、回復させる力。呪い、腐敗させる力。相反する事物で対抗するしかないじゃろうからの」

ルノ「何とかして先回りできないのかな?」

ヴァン「問題はどうやってそこに行くかだな」

木の人形「まともな方法では追い付くことは叶うまいが。一つ、手がある」

ルノ「ほんと!?」

木の人形「テレポーターとしての力がワシの住まいに備わっておる。限られた人数を一息に誘うことが可能じゃ。多大な魔力を消費するがの」

ヴァン「おおっ!」

木の人形「ただし、実行した後のワシは当分の間、魔力をふるえなくなるじゃろう。役立たずの木偶と成るわけじゃが、他に手はあるまいて」

トト「後はこちらでなんとかする、ということですね」

ヴァン「ゴーレムなども使えなくなるので?」

木の人形「この身体も動かなくなるじゃろうな。覚悟が出来たならば、城の表に出よ」

執事トッキ「私と精鋭の兵10人ほどで参りましょう」

木の人形「残念じゃが重量オーバーじゃ。役割は遺跡の探索。冒険者こそ適任じゃろう」


 相談の結果、冒険者の3人がテレポートすることとなった。

カレリア「私も一緒に行くわ!」

木の人形「4人は無理じゃな」

トト「ということです。ここで待っていていただけますか?」

カレリア「イヤよ!」

ヴァン:がっつり薬が効いてるな。

トト:正直言って有難迷惑。

ルノ:そうなの? 綺麗な人だよ?

トト:薬無しで好きになってくれるなら嬉しいけど。半月後には嫌われてるかもだし。

ヴァン:それなー。

執事トッキ「カレリア殿。貴殿は姫様の警護として職務を果たすべきでは?」

カレリア「…」トトの腕をギュっと掴んでいる。

トト「お仕事も大事ですよ」とにっこり。

カレリア「トトから離れるなんて… いや」

ヴァン(すごい効き目だな)

トト「大丈夫。必ずあなたの元へ帰って来ます。いい子で待っていてください」完全にあやしてるみたいになってきた。

カレリア「…」

トト「職務を全うするカレリアさんは素敵ですよ」と、送り出す。

カレリア「約束よ…」トトの腕を渋々放した。寂しそうな顔をしながら、クロロ侯爵令嬢のいる部屋に戻って行った。

トト:笑顔で手を振って見送ります。

幻の賢者「遺跡の奥の泉に囲まれた薔薇の紋章が彫られた石扉を探すのじゃ」

ルノ「うん! 分かった!」


 城の中庭へ出た冒険者たちを前に、木の人形が古代語の詠唱を始めた。

 ゴーレムを中心にまばゆい光が立ち込め、周囲を照らす。

 光球はやがて、冒険者たちをも呑み込んだ。



 === 賢者の隠遁所 ===


 眩しさが過ぎ去った冒険者たち。

 そっと瞼を開けたの目に飛び込んできたのは、書斎の机に突っ伏した状態の老フロウライトの姿だった。


幻の賢者「…」

トト「お体は大丈夫ですか?」

 幻の賢者ル・テネットは、震える指を伸ばして地図を指し示し、そのまま動かなくなった。

 鉱物の身体を持つフロウライトのため、息をしているのか、それとも死んでしまったのか、判断が難しい。

ヴァン「ここが例の遺跡ってことか。盗人よりも先にユニコーンの剣を手に入れないとな」

トト「お疲れさまです」賢者様をベッドまで運びます。

 トトは賢者を運ぼうとしたが、賢者の足はまるで木の根が伸びるように床に密着したまま離れない。

 家の一部と一体化している。どうやらこの場から一切移動できないようだ

トト「これが呪いですか。お労しい。今はこのままにするしかないみたいですね」

ヴァン「さらわれる危険はないって思えるだけましか」

ルノ「動けないんだね。きっとボクだったら退屈で死んじゃうよ」

ヴァン「だからオークゴーレムで一緒に行動したかったんだろうな。偉い賢者様って言っても、やっぱ寂しかったんじゃないか?」

トト「そう思います」毛布を探してきて賢者様にそっとかけておきます。


 賢者は行動不能となったが、力を絞り目的地を示した。

 迷うことは無いだろう。

 冒険者たちは勇んで歩を進める。

 目指すはツール地方北部山麓の奥深く、「フゥ・ラゥの遺跡」

 4時間ほど歩けば到着できるだろう。



 === フゥ・ラゥの遺跡 ===


 人々に忘れ去られてから300年以上。

 ごく一部の崩壊しかけた魔動機文明期の廃墟が散見される。

 かつては貴族の避暑地として賑わっていたこの場所は野生動物の住処と成り果てている。

 途中で蛮族のものらしい集団の足跡を発見した冒険者たちは警戒しながら泉を探す。

 

ヴァン「先を越されちゃってるかな」

トト「盗人は蛮族だったのでしょうか。人に化ける者もいると聞きますし、注意して進みましょう」

GM:足跡は裸足で複数。数は4~5体程度。遺跡奥へと移動したようです。

ヴァン:馬蹄の跡はあります?

GM:見当たりません

ヴァン「もしかして別口のお客さん?」

ルノ「前みたいにアンデットだったら嫌だなぁ」

ヴァン「ここに居ても仕方ないし、足跡を追ってみようか」


 遺跡の奥。

 水に囲まれた石造りの扉があり、薔薇の紋章が彫られている。

 先ほど発見した足跡が遺跡内部に侵入したらしいことが分かった。

トト「急いだほうがよさそうですね」

ヴァン「追っかけよっか」

ルノ「間に合うかなぁ」

 扉は開かなかったが、壁が崩れた隙間から内部に進入可能だった。

 内部は祭壇のような作りで思いのほか広く、奥に大きめの石扉、右側に通路があり、そちらも石扉で塞がっている。

 奥の扉へ続く階段の両脇には大型魔動機が3体並んでいるが、動き出す様子はない。

 煌々と炎が揺らめき視界は悪くない。

ヴァン「わあ。凄いお出迎えだねぇ」大型魔動機を見ながら。

ルノ「さすが魔道文明期の遺跡だね」

トト「大型のものは威圧感がすごいですね。どうやら古すぎて動かないようですが」


  魔物知識判定結果

 【ザーレイ】×3体

 魔物レベル3、弱点判明。

 やや大型の魔動機。人型に近いフォルムだが背中にはエネルギー光弾を射出する砲を装備。

 魔法耐性のある装甲を持つ。


トト「燭台に炎が灯されていますね」

ヴァン「盗人が先に来て火を灯した?」

トト「もしくは、この場に何かが棲みついているのか」

ルノ「そっかー! 何がいるんだろうね!」ワクワク。

ルノ:「やっぱこの辺に剣らしいのは見当たらないな。簡単には見つからないか」

ヴァン「先客も見当たらないし奥行こうか」

ルノ「どっちから行こう?」

ヴァン「右側からかな? 奥が本命なら」

トト:足跡とかも特にない感じでしょうか

GM:人工の床となったため判別が難しい。難易度は上昇していますが判定は可能です。


 判定の結果、足跡を発見。

 屋外で見つけたものと同じ、蛮族たちのものと思われた。蛮族たちは2か所の石扉の前で行ったり来たりした後、出入り口に戻って行ったらしい。状況から察して扉を開けられず、諦めてこの場を去ったように見受けられる。

ヴァン:扉は両方開かない?

 扉は正面も右通路奥も、両方とも固く閉ざされ開きそうにない。

トト「何か条件があるのでしょうか」

ヴァン「開ける方法がないか調べてみようか」

ルノ「探索~! 任せて!」ウキウキ。

 探索した結果、扉の脇に何かを差し込むような小さなスリットがあることに気付いた。

トト:細い隙間? 剣が必要なのか?

ヴァン:賽銭箱の可能性が(笑)

 1mmほどの細いスリットのためガメルコインや剣は厚みがあって入りそうにない。

トト「鍵のような物が必要かもしれませんね」

ヴァン:ぶっちゃけ、カードキーかな?(笑)

トト:カードキーっぽいですね(笑)

ルノ「カードみたいなのを入れるのかなぁ。蛮族は何か差し込むもの探しに行ったのかな? 他にも何か調べる?」

ヴァン「他に調べられそうなのは、そこに並んでる魔動機くらいしかないな」調べてみます?

ルノ:それくらいしか思いつかないですね。調べてる途中で動き出さないかが心配(笑)


 3体の魔動機を調べると、古びたボロボロの羊皮紙をそれぞれ3枚発見。

 更に、カードらしきものを魔動機の制御装置の隙間から見つけた。

ルノ「カード! これで入れるかも!」

ヴァン「こんなのもあったな」羊皮紙をしげしげ。

 魔道文明期の言語で何やら書かれているが、ボロボロで文字はところどころかすれている。

ヴァン:読めない(笑)

ルノ「さっぱり分かんない~」

トト「読めませんね」

 羊皮紙を回収し、正面扉脇のスリットにトトがカードを挿入した。

 「チチチチ…」と、かすかに何かが作動する音が聞こえるが、扉は開かない

ヴァン:もう一枚要るのかな。

GM:スリットは一か所のみですね。

トト「開きそうで、開きませんね」

ヴァン「専門家が居ないしねぇ」

トト:「右の通路を行ってみましょうか」

 右の通路を通り同様に行く手を遮る扉の前に立つ。

 やはりここにもスリットがある。

 再びトトがカードを挿入すると。

「チチチ… カチャ」という、機械音が小さく響いた。

ルノ「なんか開いた音がしたね!」

トト「進んでみましょう」


 扉の奥の部屋も石造りの古い造りだ。

 崩落した岩盤に遮られ、これ以上奥には進めそうにないが、幾本かのケーブルが床を這い、片隅に設置されたカプセルに繋がっている。カプセルの中には液体が満たされ、人影が…。

ヴァン「怪しい雰囲気だな」

トト「魔動機文明期の設備? すごいですね」

ルノ「カプセルの中って、人? 女の子に見えるけど…」

ヴァン「ルーンフォークかな」

GM:カプセルを調べることは可能ですが詳細な機能についてはマギテック技能が必要でしょう。スカウトかセージ技能でおおまかに調べることは可能です。

トト「ひとまず調べてみましょう」この子を起こしても良いのかな?

 カプセル内には十代後半程度に見える少女の姿。

 セミロングの銀髪を保護液内にたゆたわせている。小気味良く上品な形の形の唇に綺麗に生えそろったまつ毛。瞳の色は瞼に隠されて見えない。全裸のため、小ぶりで形の良い乳房も見て取れる。

 調査した結果、カプセルがまだ機能しており、脇のコンソールで制御可能であるだろうと見当がついた。

 コンソールの一部にカードを挿入するらしいスリットがある。

トト「これ動きそうですよ」

ヴァン「手がかりが無いならいじってみるしかないかもな」

ルノ:カード差したい(笑)

ヴァン:差して良いんじゃないですかね。

トト「ば差してみましょう」カード挿入しまーす。


 意見が一致しカードを挿入する3人。

 するとコンソールが明滅し「ジジジ… ゴポゴポゴポ」カプセルの内部溶液が徐々に抜けて行く。

ヴァン:動いた!

ルーンフォーク『…」ゆっくりと目を見開いた。

 カプセルケースが作動し開く。

 外気に触れたルーンフォークは周囲を見渡した。

ルーンフォーク『מי אתם חבר'ה』(魔動機文明語)

ヴァン:魔動機文明語は誰も分からないんだよなぁ。

トト「裸のままはまずいでしょう…」荷物袋から毛布と着替えを出す。

ルノ「ボクが着せるよ。体も拭いてあげなくちゃ」

トト「よろしくお願いします」

ヴァン:女性はルノしかいないしねぇ。視線を外しておきます。

 トトの予備の着替え着用のため、かなりゆったり目に見える。

ルノ「これでばっちり! こんにちは! 具合はどう?」

ルーンフォーク『…תודה』(魔動機文明語)

ヴァン「いきなり起こされて混乱してるのか?」

ルーンフォーク『נראה שישנתי הרבה זמן תודה』(魔動機文明語)

トト:魔道文明語取っておけばよかったなぁ。

ヴァン「共通語で話せないかのか」

ルーンフォーク『…』

トト「身振り手振りでなんとか」

ヴァン:賢者様に今こそ助けを求めたい(笑)

ルノ「ボク、魔動機文明語の勉強しようかな」

GM:今現在、カードを持っているのは誰ですか?

トト:私ですね。

ルーンフォーク『אנא הזמין, מאסטר』(魔動機文明語)トトの前に跪き頭を垂れた。

トト「カードを持っているから、でしょうか」

ヴァン「かな?」

ルノ「そうじゃないかな?」

 ルーンフォークは口を閉ざし、じっとしている。

ヴァン「自意識があまりないのかな?」

トト「目覚めたばかりというのもあるかもしれませんね」

ヴァン「この子に扉開けられないか頼んでみるか?」奥の扉を見てもらうとか。

トト「彼女に見てもらいましょうか」


 ルーンフォークを連れて祭壇の部屋まで戻る。

 部屋の移動に躊躇していたルーンフォークだったが、トトの笑顔と手招きに応じた。

ルーンフォーク『…האחורי כאן הוא גן. האם אתה רוצה להיכנס』(魔動機文明語)

 ルーンフォークは扉に近付く。取っ手を握ると「カコン」と、音が響く。

 振り返り、トトの持つカードに視線を送っている。

ルノ「分かった! 入れればいいんだね!」

トト「やってみましょう」

 カードの挿入と同時に扉が開いた。

ルノ「開いたね♪」ワクワク。

ヴァン「この子も鍵の役割なのかな?」

トト「扉が彼女を認識していたようです。魔道文明期の技術は不思議ですね。行きましょうか」

ヴァン:GOGO。


 扉の奥は屋外。目の前には爽やかな花園が広がっている。

 色とりどりの草花が生い茂り、ミツバチや蝶が春の日差しを受けながら自然の美しさを彩る。芝生は整えられ、今にも優美な衣装を纏ったウッドエルフか精霊が現れるのではないかと思われるほどの穏やかな風景だ。

ヴァン「綺麗な場所だなぁ」ほのぼの。

 この平穏な場所でも観察力に優れたルノは気付いた。

ルノ「何かいるよ!」

トト「何か来ますね」警戒しておきます。

 魔動機が二体近付いてくる。


  魔物知識判定結果

 【ドルン】

 魔物レベル2、弱点判明

 魔動機文明時代に大量生産された小型の警護用魔動機。

 体長1mほどでずんぐりした子供のような姿を金属が覆っている。

 片腕に近接戦用ハンマー装備が一般的だが、この機体は両手がマニュピレーターとなっている。

 脚は車輪で俊敏に動く。


 【ザーレイ】

 祭壇の間に並んでいた3体と同じもの。


トト「やはりここも魔動機文明遺跡ということですね」

ヴァン「戦う必要はあるか? 彼女が説得出来ないかな?」

ドルン「ピピ…」

ザーレイ「ジジジ…」ゆっくりした動作で近付いてきた。徐々に迫って来る

ルーンフォーク『…』

 ザーレイはルーンフォークの少女の前まで来ると姿勢を低くし、忠誠を示す緑色の明滅をカメラアイに繰り返した。

 ドルンも同様に彼女の前で頭を垂れている。

ヴァン「従ってる?」

ルノ「みたいだね」

トト「どうやら戦う必要はなさそうですね」

ルーンフォーク『האם יש עדיין טקס תה?』(魔動機文明語)

 ルーンフォークの言葉を受けたザーレイは振り返り、花園の奥へ向かって歩き出した。しばらく移動し、振り返り、こちらを見ている。

ヴァン「ついてこい、ってことかなぁ」

ルノ「きっとそうだね!」

トト「行きましょうか」


 庭園を移動の途中、小道の脇にいくつもの魔動機の残骸が草木に埋もれている。

トト:ラピ〇タのロボットを思い出すなぁ。壊れてる?

GM:壊れたというより、古くなって停止した感じです。

ヴァン「古い遺跡らしいからねぇ」

 魔動機たちは大理石造りの天蓋付きテラスに移動し、散らかっているテーブルと椅子を綺麗に整えだした。

ルノ:お片付け?

 ザーレイはボディ内部から茶器セットを取り出し、細いマニュピレーターを使ってテーブルに並べ始めた

 ルーンフォークはテラスの椅子に腰を降ろし冒険者たちを見ている

トト「お茶会の準備でしょうか?」

ヴァン「ここまで歓迎されるとは」

ルノ「わーい! ありがとう!」

 並べられた茶器の中身は空っぽ。

トト:でしょうねぇ。

ヴァン:接待お茶汲みロボか。

トト「ひとまず落ち着いて状況整理でもしますか?」座ります。

ヴァン「ま、少しだけ休もうか」椅子に座る。

ルノ「昨日からドタバタだったもんね」着席。

 二体の魔動機はテラスの傍でじっとしている。

ルーンフォーク『למה באת לכאן?』何か訊いてきたがさっぱり分からない。

ヴァン:ジャスチャーでなんとかならないかな。

GM:どうやら何が目的でここに来たのかを訊ねているようです。

ルノ:ジェスチャーで剣を表現します。

ルーンフォーク『…』考え込んでいる。

ヴァン:対の魔剣が盗まれた、とかも伝えたほうが良いのかな。

ルーンフォーク『האם אתה מחפש את החרב הקדושה?』

ドルン「ピピピ…」少女の言葉に反応し移動し始めた。ついていきますか?

ルノ「あ、待ってー!」ついていきます。

ヴァン:行きます。

トト:行きますか。


 木々に囲まれ、守られるように小さな祠がある。大型魔動機は入っていけないようだ。

ルーンフォーク:祠の前で立ち止まり、振り返ってこちらを見ている。

ヴァン「ここが、そうなのかな」

トト「雰囲気がさきほどとは違いますね」

ルノ「ありがとう!」祠に入ります。

 控えめながらしっかりとした調度の祠だ

ヴァン「この中に?」祠見つめ

ルノ「ここに剣があるのかな」

トト「調べてみますか」

 祠の一部が動きそうだ。

 ルノが動かしてみると、厳重に封じられた状態の、蒼く輝く剣を見つけた。

GM:ユニコーンの剣を入手! 立派な剣だ。

ヴァン「手に入ったね」

ルノ:剣きれいですねー。

トト「目的の物みたいですね」キラっとしてて、これはかっこいい剣。


 見識判定結果。

 ユニコーンの剣

 知名度12 ランクA

 1H必筋15 威力25 CLT10

 回復の意思による打撃でHP50点回復。

 アンデットは目標17で抵抗失敗時50点魔法ダメージ。

 または達成値17未満の毒、病気、呪い、石化を完治させる。

 7500G+(6000G×使用回数)


トト:強いですね。

ヴァン:ランクAかぁ…。

ルノ:武器習熟取らなきゃね。

ヴァン:使えてもセッション後半とかなんじゃ(笑)

GM:武器習熟が無くても使えなくはないですが、命中とダメージにマイナスが付きます。

ルノ「呪いの剣も取り返さないとね」

ヴァン「さて、どうする? 急いで帰ろうか?」遺跡から出て城に帰るかな。剣を持ち出して魔動機が怒らないかちょっと心配(笑)

GM:魔動機は花園に留まっていますね。ルーンフォークは皆さんに付いて来ます。

ヴァン:ついて来てくれるならいいか。ここにいても生活出来そうにないし。

ルノ:賢者様なら魔動機文明語が分かる気がするね。

トト:どのくらい眠っていたのか知らないけど、目覚めさせた責任は私たちにある気がしますね。

ヴァン:スタン公子に許可もらって、ケブルの街で暮らしてもらうのが無難かなぁ。


 4人で祭壇の間まで引き返す。

 そこにいたのは蛮族を率いる集団。

 ゴブリンが4匹、傭兵風の男が1人、そして、フードを被った謎の人物。

 まだ冒険者たちの存在に気付いていないようだ。

ヴァン:慌てて柱の陰に身を隠します。(最初にウロウロしてたのが帰って来たのか)小声。

トト(6人、多いですね)小声。

ルノ(あっ 洞窟の中にいた人!)フードを被った謎の人物に見覚えがっつり!

謎の人物「どうやら先を越されたな」

傭兵風の男「ふん… 人族風情が。言いなりになるのはシャクだが、例の剣とやらを手に入れれば、この地は…」

ヴァン「蛮族を連れてる時点で穏便に済ますつもりは無いみたいかなぁ」警戒。

トト:連中の誰かがブラグザバスの剣を持ってます?

GM:それらしい剣を持っている者はいないようです。

ルノ:盗人じゃない??

 相手に気付かれずに隠れていられるか、隠密判定。

 ヴァンの鎧が擦れ、金属音が…。

ヴァン:ごめん!

謎の人物「そこに潜んでいるようだな」気付いている。

トト「どうやら見過ごしてはもらえないようですね」

ヴァン:出ていきましょう。

トト:行きましょう。

謎の人物「…久しぶり、だな」

ヴァン「おや、知り合いかい?」

謎の人物「相変わらず、間の抜けた生活をしているのか? トト」

トト「?? 私、ですか?」

ヴァン:そっちの因縁かぁ。

謎の人物「私を覚えて… いるはずもない、か。どうやら神官には成れたようだが、まだまだのようだな」

トト「あなたにとやかく言われる筋合いはありませんね」

ヴァン「親戚か?」

謎の人物「情けない弟。せめて、楽に死なせてやれ」

ヴァン「弟? 仮に弟だとしても、いきなりだな」武器構える。

トト「昔兄弟がいたと両親からは聞いていますが…」

 謎の人物はフードの奥で含み笑いをこぼしながら立ち去って行った。

 残った傭兵風の男とゴブリンたちは武器を構える。

トト「…」敵が1人減ったと喜ぶべきか…。

ヴァン:多分あいつがラスボスか黒幕(笑)今、無理に戦うのは無謀な気がする。

トト「私にも何か関係あるみたいです。戦闘は避けられないようですし、ここは頑張って切り抜けましょうか」


 戦闘開始。

 傭兵風の男はムクムクと変貌し、大柄な蛮族へと姿を変えた。


  魔物知識判定結果

 【ゴブリン】×4 弱点判明。


 【レッサーオーガ】

 魔物レベル4、弱点不明。

 人肉を好む身長2mほどの蛮族。

 オーガ族の中では小柄だが、魔法も使う。

 特徴は人の姿に化けること。

 生来で持つ固定の一つの人族の姿に化けられ、更に人族の心臓を喰らえば、その個体の姿にも化けられるようになる。

 人間に似た性格や考え方を持つ者も一部にはいる。


ヴァン:レッサーオーガか。強敵。

 先制判定結果、冒険者の先行。

トト「みなさんに神のご加護を」フィールド・プロテクションいきます!

ルノ「任せて!」レジスタンス!

ヴァン:補助でキャッツアイ、主でモールでゴブリンに攻撃します!


 前衛をたった一人で務めるヴァンに対して、当然のごとく攻撃が集中。

 レッサーオーガの攻撃を避けたり、避けられなかったりを繰り返すヴァン。ダメージを負うごとにトトが回復魔法を飛ばし、辛うじて戦線を維持する。

 ルノの呪歌でなんとかゴブリンを減らしていくが、脅威はレッサーオーガの攻撃魔法。


レッサーオーガー:リープスラッシュ!

GM:抵抗成功!

ヴァン:ぐふう「さ、流石にきついや」

トト「すぐ回復します!」ヴァンさんにキュアウーンズ!

ヴァン「世話になるねぇ」


 ゴブリンを一掃し、レッサーオーガの魔法攻撃を耐え忍び、敵のMP枯渇と同時にギリギリ状態での反撃を開始。


ヴァン:補助キャッツアイからのオーガに全力攻撃!「今までの分、返すぜ!」血まみれの姿で血まみれのモールを振りかざす!

GM:命中!

レッサーオーガー:「ぐおお! ブラグザバスよ!」

 ダメージの蓄積で瀕死となったレッサーオーガに、止めの呪歌が襲い掛かる。

ルノ:終律! 春の強風!

レッサーオーガー:「ゲフッ!」バタリ。

 一匹だけ残ったゴブリンは逃げ出そうとしている。

ヴァン「ゼェハァ… なんとか勝った」

トト「辛勝ですね」

ルノ:汎用蛮族語でゴブリンと会話できます。

ヴァン:じゃあ捕虜にできますな。

ヴァン:逃げようとするゴブリンをとっ捕まえます。


 冒険者たちに捕獲され、ロープでグルグル巻きにされたゴブリン。

 ルノがにこやかに話しかけた。

ルノ『君たち、何のために剣を狙ってきたの?』汎用蛮族語

ゴブリンD『はなす、にがす』汎用蛮族語

ルノ「逃がしてくれるなら話すって。どうする?」

ヴァン「まあ、これから先おとなしく暮らすなら」と口では言っておこう。

トト「わたしは神のご意思に従います。ローブの男のことは気になりますね」

ゴブリンD『はなす。おれかえる』汎用蛮族語

ルノ『いいよ、見逃したげる。でもまた人を襲ったら分からないからね』

ゴブリンD『ユニコンのけん、こわす』汎用蛮族語

ルノ『それは、あのローブの男がやれって言ったの? あの最初に帰っちゃった人』汎用蛮族語

ゴブリンD『ローブ、おとこ、しらん』汎用蛮族語

ルノ『話さないなら見逃してあげないよ?』汎用蛮族語

ゴブリンD『しらん。ローブ、おとこ、そんなのいない』汎用蛮族語

ルノ『嘘でしょ。さっきいたじゃない』汎用蛮族語

ゴブリンD『いない。しらん』汎用蛮族語

ヴァン「話さないならしょうがない。悪く思うな。人の命を脅かすお前ら蛮族の排除は冒険者の使命だ」サクッと殺します。

トト「神の御許へ旅立ちなさい」

ゴブリンD『ぎゃああああああっ!!』ばたり。死んだ。


 蛮族を始末した冒険者たち。

 ルーンフォークが身を潜めていた柱の陰から出て来た。

ルーンフォーク『…גם עכשיו הברברים תוקפים」ゴブリンの死体を見つめながら、物憂げな表情だ。

トト「恐がらせてしまいましたか…」

ヴァン「蛮族と争ってるのは魔動機文明期でも同じじゃないのか? 平和を守るためには仕方ないんだ。理解して欲しいね」

ルノ「ゴブリン、剣を壊すしか言わなかったね」

トト「剣が目当てですか。先に入手出来て良かったですね。あのローブの人物…」

ヴァン「ほんとにトトの兄弟なのか?」

トト「分かりません。兄弟がいたらしいのですが、ほとんど記憶にないのです」

 首を傾げる冒険者たちの前に、遺跡の隙間をかいくぐった木の人形が現れた。

木の人形「やっと追い付いたようじゃな」

ヴァン「賢者様? 回復したんですか?」

木の人形「なんとかな。じゃが、ゴーレムを動かすので精一杯じゃ」

ルノ「とりあえず良かったね!」

 木の人形は大儀そうに腰を降ろし、辺りを見回した。

木の人形「うむ。蛮族と戦ったのじゃな」

ヴァン「魔剣の反応はここに向かっているか分かりますか?」

木の人形「ワシもそれを気にして気配を追っておる。ブラグザバスの剣はこの地域の北西に向かっておるようじゃ。滅んだドワーフ集落の辺りじゃな」

トト「廃村と魔剣の組み合わせ… 嫌な予感しかしませんね」

ヴァン「ろくでもないこと企んでそうだな」目が笑ってない笑顔で。

木の人形「ブラグザバスの剣はアンデットを生み出す。あの村のドワーフは蛮族どもに滅ぼされたと聞く。遺体も手に入り易かろう」

ルノ「洞窟のアンデットも全部ドワーフだったしね」

木の人形「ドワーフが元ならば炎に抵抗力のあるアンデットじゃろうな」

ヴァン「だよな…」

木の人形「なるほど、これが一角獣の… ん? そこな娘は?」

ヴァン「この遺跡で眠っていたルーンフォークですよ。剣の回収を同意してくれたようです」

木の人形「言葉は通じるのかね?」

ヴァン「残念ながら話せないや」

木の人形「魔動機文明語か。通訳をしてしんぜよう」

トト「これでジェスチャーから一歩前進ですね」

 以後、賢者が通訳してくれます。

ヴァン「まず、名前を知りたいな」

ルーンフォーク『私はムジカ・ラゥ』(魔動機文明語)

トト「何故、ここで眠っていたのですか?」

ムジカ『マスターの命により眠りました… ご命令を、マスター』(魔動機文明語)。哀し気にワイン色の瞳を潤ませ、トトの前に跪いた。

トト:私がマスター? カードを持ってるからかな?

ムジカ『マスターのお役に立ちます。お申し付けください』(魔動機文明語)

ルノ:ムジカちゃんかわいい。

トト:かわいいですね。

ヴァン:うん、可愛い。

ルノ:カードをトトさんから奪っちゃう? トトさんにはカレリアさんがいるし、いいよね?(笑)

トト:カレリアさんはイレギュラー案件。カードは大事に持ってます。(笑)

ヴァン「ムジカは何年くらい眠ってたんだ?」

ムジカ『…今は、ゴルト何年ですか?』(魔動機文明語)

木の人形『公歴320年じゃ。ゴルト歴に換算して1580年じゃろう』(魔動機文明語)

ムジカ『1580…』辛そうにしている。

木の人形「戦闘技能は無いようじゃな。そういった目的で組まれた存在ではないのじゃろう」

トト「ムジカさんに戦って欲しいとは思いません」

ヴァン:だね。

木の人形「ん? その羊皮紙は魔動文明語じゃな?」

トト「はい、ここで見つけたものです。私たちでは読めず… 読んでいただけますか?」

木の人形「よかろう。かなり文字が擦れておるな」


一枚目 薄明の月12日

『不思議な… 纏って… 穢れを知ら… 再び愛し… 甦え… 変わらな… 我が子の声… 笑顔… なにもか… に感謝… 魔剣を…』


2枚目 栽培の月5日

『妻も喜… 庭園でお茶を… まで通りの日々がこ… 魔剣を手に… 言って… だろうか… 一角獣… 使えぬこの子は、やはり…』


3枚目 収穫の月20日

『信用… 間違… やはりあの男… 娘を殺… の作り… 人形… たとえ偽物… じ顔… 再び死… しのびな… 角… 聖な… い壇… 収… 仕えるべき… 真に愛… の意思で生き…」


木の人形「ここまでじゃな」

トト「ありがとうございます」

木の人形「その娘が関係しているように思えるのう」

ルノ「きっとそうだね! ムジカのお父さんが書いたのかも!」

トト「この羊皮紙は、ムジカに渡しておくべきでしょうね」手渡します。

 木の人形の腹の引き出しに収められた水晶が淡く輝きだした。

木の人形「む! これは… アビスか?」

ルノ「どうしたの?」

木の人形「マナ水晶で一帯を監視していた。街道の中ほどに大穴が空いたようじゃ。ブラグザバスの剣と、関係があるのやもしれぬ」

ヴァン「魔域ってことか?」

トト「それは厄介ですね」

木の人形「…魔神が飛び出してくる気配はないな。ケブルに戻る道中じゃ。確認出来るじゃろう」

トト「なるべく早い対処が必要でしょうね」

木の人形「剣を持ち出した者との因果関係は分かりかねるが、時はそれほど待たぬであろう」

トト「フードの男は私を弟と呼びました。放ってはおけません」

木の人形「そうか。たとえお前さんの兄としても、悪事を働くならば倒さねばならぬじゃろう。覚悟はあるか?」

トト「……」

ヴァン「ま。そうそう割り切るものじゃないよな」

木の人形「ならばその者の行動を律っし、お前さん自身の行動も律する。その気構えだけは持ちなさい」

トト「…ありがとうございます。考えておきます」うつむき気味に。

ムジカ『マスター…』心配そうにしている。

トト「今は、ブラグザバスの剣を取り戻すのが先決。急ぎましょう」

ルノ「そうだね!」

ヴァン「行こうか」

GM:ムジカは置いていきますか?

トト:置いてくワケないですー。

GM:りょ(笑)



 === ケブル領、街道 ===


 フゥ・ラゥの遺跡から半日移動した場所にそれは出現していた。

 街道を遮るように出現した巨大アビス。

 街一つを飲み込むほどのそれは、空間を削り、地形を乱し、遥か地底の彼方に向かって虚空を穿っている。

 アビスの淵に立った冒険者たちは全てを飲み込むかのような暗黒に息を飲む。

ヴァン「かなりの大物だな」

木の人形「まさに、深淵じゃ。いつ魔神が飛び出してきてもおかしくはない」

ルノ「急いでケブルに知らせなきゃ!」

 アビスの確認後、冒険者たちはケブルの街に戻った。



 === ケブルの街 ===


 冒険者たちと共に街に着いたムジカは落ち着かない様子で周囲をキョロキョロしている。

ルノ『どうしたの?』(魔動機文明語)

ムジカ『建物の様子や、街の人の姿が違っていて…』(魔動機文明語)戸惑っている様子だ。

木の人形『無理も無かろうが、慣れてもらうしかないじゃろうな。これからどう生きていくかが問題じゃな』(魔動機文明語)

ヴァン「当てがない無いならと僕たちと一緒に来たらどうだい? いいよね、トト」

トト「私はかまいませんよ」ニッコリ。魔動機文明語覚えようかな…。

ムジカ『みなさんよろしくお願いします。マスター。なんなりとお申し付けください』(魔動機文明語)トトに向かって深々とお辞儀をした。

ルノ『こちらこそよろしくね!』(魔動機文明語)

ヴァン「よろしくな」

トト「マスターというのはいかがなものかと… 初めは友達から…」

ヴァン:はじめは友達からで、次のステップを目指すんですね?(笑)

木の人形「話はまとまったようじゃな。さて、あの大穴のことを然るべき場所に報告するべきと思うが?」

ヴァン「そうですね、ついでにユニコーンの剣も預けてきましょう」

ルノ「お城に急がなきゃ!」

トト「ひとまずは報告しに行きましょう」



 === ケブルの城、応接室 ===


ステイン公子「楽にしてくれるかな。今お茶を… 普通のお茶を用意するよ」(笑)

ヴァン「そう言ってもらえると助かるなぁ。もうヘトヘトで」

トト:礼をしてそっと椅子に腰かけます。お茶と聞いて目が少し死んでるかもしれません(笑)

ヴァン:いっそトトも薬飲んじゃえば解決なのでは(笑)

トト:薬のんだらムジカさんに一直線ですね…。

ルノ「ずいぶん久しぶりに落ち着けたね」

ステイン公子「色々あったようだね。その子は?」ムジカを見て。

ルノ:かくかくしかじか。

ステイン公子「そうか。では、彼女はそのユニコーンの剣と関りがあるみたいだね」

ヴァン「これが依頼の剣です。お収めください」一角獣の剣差し出し。

ルノ「確認してね♪」

ヴァン「武器というよりは癒やしのアイテムみたいな意味合いが強そうですが」

ステイン公子「ありがとう。かなり価値の高そうなものだね。お礼はさせてもらうよ。それと…」

 ステインは少し顔を伏せ、恥ずかし気な表情を浮かべた。

ステイン公子「公式の場以外での敬語は無しでお願いしたいな。君たちのことは、友人と思いたい」

トト「それは… 光栄です。いや、光栄だよ」

ヴァン「ああ、そいつはありがたいな」ニッコリ。

ルノ「うん! 分かった!」

ヴァン:ルノは最初からタメ口だったけど(笑)

ルノ:(笑)

ステイン公子「これがユニコーンの剣…。神々しさを感じるね」

トト「触れると解毒の作用があるようです」

木の人形「うむ。ブラグザバスの剣と対をなすものであろうな」

ルノ「そっちの剣も早く取り返さなくちゃならないんだよね?」

ヴァン「まあ。名前からでのヤバそうなのは伝わるね」

ステイン公子「ブラグザバスの剣… あれはとても危険なんだ。この国を建てる時に僕の先祖が使って魔神を滅ぼしたらしいけど、持っていると邪神に心を操られる性質がある。そして、周囲に毒をまき散らし、アンデットを使役出来るようになる」

ヴァン「アンデッドか、大迷惑だな」

トト「なかなかやっかいな代物ですね」

ステイン公子「危険だからと破壊しようとしても、どうしても壊れない。海底深くに投げ込んでも一昼夜のうちに元の持ち主の手元に勝手に帰って来る。呪われた剣なんだ」

ルノ「けっこう怖い剣なんだね」

ヴァン「帰ってこなくても海が汚れそうだな」

ステイン公子「だから城の地下に守りの剣で固めた部屋を作り、そこに封印していたんだけど。…いったい、誰が勝手に持ち出したのか」

トト「心正しい者が持ち去ったとは思えませんね」

ヴァン「まあ、アンデッドって言うと推定フードの男だけど」トトをチラッと見て。

トト:複雑な心境。

ステイン公子「君たちに仕事を依頼…いや、頼みがある。ブラグザバスの剣を取り戻し、封印するのを手伝ってもらえないだろうか。出来るだけのお礼はするよ」

ルノ「うん、いいよ。ほっといたら危ないもんね」

トト「話を聞いておいて見て見ぬふりは難しいですね」

ヴァン「引き受けるよ」

ステイン公子「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ」

ルノ:あと、アビスのことについても伝えます。

ステイン公子「アビス?」

ルノ:かくかくしかじか

ヴァン「ソレもかなりのやつが街道の辺りにできてたね」

ステイン公子「そんな大きなものが現れたなんて、この国では初めてだよ」

木の人形「そのアビス、例の剣とも関りがあるかもしれんな。推測の域を出んが」

トト「無関係とは思えませんね」

ヴァン「放っておくと魔神が出てくるかもだし」

ステイン公子「剣を探すために国中の兵士たちを各方面に派遣してあるんだ。きみたちには未だ手が回っていない場所を探索してもらいたい」

ルノ「了解!」

ヴァン「あぁ、OKだよ」

トト「承知しました」

ステイン公子「では、地図を見てもらおう。この街から北西に移動した山間にソケット村がある。ずいぶん昔に蛮族に襲われて滅んでしまったドワーフの村なんだ。道が整備されていないから部隊の行軍が難しい。少人数で向かった方が確認が速やかだろう。向かってくれるかな?」

ルノ「うん、分かった!」

ステイン公子「元々は炭鉱の村だったから、あちこちに坑道が開いていると思う。ひょっとしたら魔物の類が住み着いているかもしれないから、危険だと思ったら無理せず戻ってきて欲しい。命が大事だからね」

ルノ「気を付けるね!」

トト「ひとまず様子を見に行きましょうか」

ヴァン「坑道かぁ、暗視無いと辛いんだよなぁ。そういえば、賢者様はどうします?」

木の人形「ワシは冒険の類に関しては足手まといじゃろう。ただ、歩き、話すことしかできん。公子どのと今後の方針を相談して知恵を絞れるところは助けようかの」

ステイン公子「それはありがたいですね」

ヴァン「わかりました、じゃあそちらはお願いしますね」

ルノ「待っててね、賢者さん」

木の人形「うむ。気を付けてな。じゃが、人数的に心もとないじゃろう。もう1人仲間を加えてはどうじゃ?」

ヴァン「前衛が俺1人だしな。確かに不安はある」

トト「確かに前衛のヴァンさんの負担が大きいですね」

ステイン公子「ギルドで仲間を見つけてはどうかな」

ルノ「分かった! 仲間が多い方が楽しいよね!」



 === 冒険者ギルド、空飛ぶクジラ亭 ===


 支度金としてステインから3000G渡された冒険者たちは、パーティメンバーを増やすためギルドに立ち寄る。

 出迎えたのはいつもの女将と給仕だった。

ヴァン「ただいまー」

トト「戻りました」

酒場の女将「戻ったのかい」ジロリ。とても接客業とは思えないいつもの仏頂面。

ルノ「ひえっ、も、戻ったよ!」

ヴァン「次のお仕事が控えてるけどね」

ドワーフ給仕ロッカ「お帰りなさい」

ヴァン「ただいまー」手を振る。

ドワーフ給仕ロッカ「お帰りなさい…」ヴァンを前にし、持っているトレイで顔を隠している。

ルノ:ドワーフの女の子超好き。

トト:かわいいですねー。

ヴァン「誰か暇してる冒険者いませんか?」女将さんに。

酒場の女将「なんだい、仲間を増やすつもりかい?」

トト「先日の依頼人からの仕事を継続してます。少々手が足りないものですから」

ルノ「前衛1人だと危ないからね!」

酒場の女将「前衛の冒険者かい。そう都合よくはいかないねぇ…」

 女将さんは腕組みしながら難しい顔をしている。

 仲間を募る望みは絶たれたかと思われた時、店の扉がそっと開いた。

カレリア「…」

ルノ:来た!

カレリア:キョロキョロ

 何か(誰か)を探しているようだ。

ヴァン:なるほど(なるほど)(笑)

トト:…。

ルノ:めっちゃわろた♪

トト:意を決して、カレリアさんに笑顔で話しかけます。

ヴァン:おぉ。男らしい。

ルノ:おぉ、優しい。

トト「こんにちは、カレリアさん」

カレリア「ト、トト! 探した… ぞ」たちまち頬が朱に染まる。

トト「私を?」

カレリア「これからステイン公子の依頼で出発するそうだな!」

トト「公子様から聞いたのですね?」

カレリア「ああ… そ、そうだ」

トト「今日もお綺麗ですね」笑顔で。

カレリア「な、に!! ……」もじもじしている。嬉し恥ずかしそうだ。

ヴァン:罪作りやで…。

トト「そうですね。依頼で遠出をするところです」ニッコリ。

ルノ:トトさん楽しそうで何より(笑)

カレリア「遠出? どこまでだ」

ヴァン:カレリアさん来るならスカウト無しでも良いかな(笑)

ルノ:カレリアさん強そうだしね。

トト「蛮族に襲われた廃村までですね」会話が大変(笑)

カレリア「そ、そうか… お、お前たちは… 怪しい!」

ヴァン「はい?」

トト「怪しい? いきなりどうしましたか」

ルノ「どうしたの、急に」

カレリア「そうだ! 怪しい! まったくもって怪しい! ちゃんと見張っておかなくては! わ、私が… 責任をもって見張っておく」

ルノ:ははぁ…。

カレリア「他の女に誘… いや、悪さをしないようにな! 分かったか!」

ヴァン「一緒に来たいなら構わないけど、お嬢様の方は良いのかな?」

トト「カレリアさんには警護の仕事がありますでしょう」

カレリア「それは大丈夫だ。お嬢様は城で快適に過ごされている。許可ももらった」

ヴァン:人を増やしたいのは変わりないし、カレリアさんについて来てもらっていいかな。

トト:戦力としては当てになるかもですが、薬のせいなので微妙に罪悪感が…。「ではカレリアさん、一緒に参りましょうか」

カレリア「ト。トトがそう言うなら… しょうがない、ついて行って、やる…♡」とても嬉しそうだ!

ルノ:モテる男は大変だねぇ。

トト:素直に惚れられてるならいいけど、薬のあれなので微妙。


 カレリアの能力。

 種族:人間

 技能【フェンサー3】【エンハンサー1】【セージ1】

 練技【ガゼルフット】

 戦闘特技【斬り返しⅠ】【挑発攻撃Ⅰ】

 装備【エペ】【ソフトレザー】


カレリア「では、みな。トトが不審なことをしないか見張らせてもらう」

トト:そうですねー(棒)

ヴァン「うん、よろしく」

ルノ「よろしくね!」

ムジカ『マスター…、この人は誰ですか?』(魔動機文明語)カレリアを指差して。

トト「え… と…」

ヴァン:こうなるわな。

カレリア「ルーンフォーク? トト、こいつは何者か」

 カレリアに睨まれたムジカは、トトの背後に隠れた。

カレリア「なんだその女は! トト!」

ルノ:面倒なことに…。

トト「探索の途中で知り合って、保護したルーンフォークの女性です」

カレリア「保護? なんでもいい! トトから離れろ!」

ムジカ『…』トトの腕をギュッと掴みながら怯えている。

カレリア「ムキーッ!」怒り心頭だ。


 この後、カレリアをなだめすかすのに30分かかった。

 急場しのぎでトトはヴァンにカードを手渡し、ムジカにはヴァンの傍にいるように話した。

ムジカ『マスター…』(魔動機文明語)寂しそうにしている。

トト:カードを他の人に渡しても変わらないんですねぇ。胸が痛む…。

ヴァン「出発前に、飯でも食べよう」

ルノ「さんせー♪」

ドワーフ給仕ロッカ「…ご注文どーぞ」ぶっきらぼうにヴァンの前にメニューを置いた。なぜか不機嫌。

ヴァン:ん?

ルノ:ムジカが傍にいるからかな? にやにや。

GM:ドワーフ給仕ロッカが何故不機嫌なのかは、謎です!(笑)

ヴァン:謎だった!

トト「ヴァンさん好かれてますねぇ」と、小声で逆襲。

ヴァン「トトほどじゃないだろ」小声。

トト:クスリ ノ コウカ ダカラー。

ヴァン「ムジカもなにか食べなよ」

ムジカ『はい…』(魔動機文明語)

ドワーフ給仕ロッカ「…」ムスッとしている。

ルノ「ムジカ。お代はボクが持つよ」

ムジカ『私は大丈夫です。お金を持っています。給仕さん』(魔動機文明語)ドワーフ給仕ロッカを呼んだ。

ドワーフ給仕ロッカ「…」

ルノ「給仕さーん」通訳します。

ドワーフ給仕ロッカ「ご注文どーぞ…」不機嫌だ。

ムジカ『マスターと同じものを、支払いは、これで』(魔動機文明語)リストバンドをはめた右腕を軽く掲げた。

ヴァン:カプセルとかじゃなくてよかった(笑)

ムジカ:給仕の彼女の腕に近づける。

ドワーフ給仕ロッカ「??」

ムジカ『終了です』(魔動機文明語)

ドワーフ給仕ロッカ「あの、お金は?」

ムジカ『支払いました。ガメルチャージで振り込まれています』(魔動機文明語)

トト:Suicaかな?

ヴァン:電子マネーの時代に生きてやがる!

ルノ「ねぇ店員さん、ガメルチャージって、このお店で使える?」

ドワーフ給仕ロッカ:首を横にふるふる。「初めて聞きいたけど」

ヴァン「多分魔動機文明のやつだと思うけど、今の時代じゃ使われてないよな」

ルノ『ムジカ、そのリストバンド、今の時代では使えないみたい』(魔動機文明語)

ムジカ『え? そうなんですか?』(魔動機文明語)

ルノ『ボクが払っておくよ。いっぱい食べてね』(魔動機文明語)

ムジカ『では私は… 一文無しです』がっくりしている。

ルノ『魔動機文明時代はそんな便利なのがあったんだね。どうして無くなっちゃったんだろ』(魔動機文明語)

ムジカ『…ルノさんに迷惑をかけました』(魔動機文明語)

ルノ『そんなことないよ!みんなで食べるとおいしいし』(魔動機文明語)

ムジカ『…』しょぼ~ん。


 カレリアをなだめ、ムジカを励まし、街で必要な装備を買い揃えた冒険者たちはギルド酒場を出ようとする。

ヴァン「じゃあ出発かな」

 全員がテーブル席から立ちあがる。

ドワーフ給仕ロッカ「…一緒に行くのね」

ヴァン:ん?

ドワーフ給仕ロッカ「…」しょんぼりしている

ヴァン「ああ、全員で行くよ。人手は多いほうが良いから。どうかした?」

ドワーフ給仕ロッカ「なんでもありません!」プイッ!

ヴァン:怒らせちゃった。

トト「いいんですか、挨拶していかなくて」とヴァンに小声で。

ヴァン:「なはは、できれば笑って見送ってほしいんだけど、ダメかな?」

ドワーフ給仕ロッカ「あの… ヴァン、あなたって…」

ヴァン「なにかな?」

ドワーフ給仕ロッカ「ルーンフォークに、興味あるの?」

ルノ:ラブコメ第2弾。よいぞよいぞ~♪

トト:よいぞよいぞー♪

ヴァン「ルーンフォークに? 頼りになる連中だとは思うけど、取り立てて興味とかは無いな」

ドワーフ給仕ロッカ「そうなの?」

ヴァン「うん」

ドワーフ給仕ロッカ「そうなのね…」にっこり微笑む。何故か機嫌が戻った。

ヴァン:なんでだろう(ラノベ感)

ルノ:分かりやすいなぁ。


 いざ出発。

 冒険者ギルドを後にする。

GM:ドワーフ給仕ロッカが全員の分のお弁当を持たせてくれました。

トト:ありがたい。

ルノ:サンドイッチ、美味しそう♪

GM:何故か、ヴァンのサンドイッチだけ、ハム、レタス、玉子ソースが倍の量。おまけにチキンまで付いている!

ルノ:いいですね~♪

ヴァン:サービスが上がっていく…リアルで食べたい(笑)

GM:なぜ、ヴァンの分だけが違うのかは、謎です!

トト:謎ですね!

ルノ:謎ダナー。

ヴァン:最後は刺される気がしてきた。



 冒険者たちが立ち去った後。

ドワーフ給仕ロッカ「~♪」

酒場の女将「ロッカ、あんまり冒険者に肩入れするもんじゃないよ」

ドワーフ給仕ロッカ「え? そんなんじゃ…」

酒場の女将「ま、いいけどね… おっと、お客が来たよ」

ドワーフ給仕ロッカ「いらっしゃいませ~♪」

 ギルド酒場に入店して来たのは、ローブを纏った正体不明の人物。

謎の人物「女将。今日も1人、身受けさせてもらう」

酒場の女将「またかい…。ホントにドワーフの村を復興させてるんだろうね?」

謎の人物「勿論」フードの奥。妖しく光る深紅の瞳を細め、目の前のドワーフの娘に視線を這わせた。




 冒険者たちは街の厩舎で馬車をレンタルし、全員で鉱山跡地のドワーフ廃村を目指す。

 馬車でも片道で丸1日。



 === 鉱山跡地 ===


GM:鉱山跡に到着。所々に崩れかけた足場が残る崖を登り、そこから坑道を抜ければ村への近道です。鉱山上部を目指しますか?

ヴァン:GOで。

トト「では、行きましょうか」

ルノ:行こう!


 冒険者たちは鉱山上部を目指して崖を登る。

 崖の上には清水が湧いているらしく、細く長い滝を数本作り出している。

 飛沫から反射した陽光が控えめな大きさの虹を作り、周囲の森の緑と調和した美しい景観を構築していた。

 だが、今は景色に見惚れる余裕はない。

 不安定な足場に四苦八苦しつつ、ゆっくりと、確実に歩みを進める。

カレリア「このくらいの崖、全然平気よ」ひょいひょいと登って行く。敏捷性に優れているようだ。「トト~、遅いわよ~♪」先に到着した崖の上から手を振っている。

トト「カレリアさんが素早いのですよ。今行きますね」

ヴァン「よく僕たちを追い越せたねぇ」

 カレリアに追い付こうと上部を目指して歩き続ける冒険者たち。

 いきなり、黒ずくめの若い騎士がカレリアの目の前に現れた。

カレリア「あなたは! グリ…」

黒ずくめの若い騎士「邪魔はさせん」

カレリア「うっ!」

 黒ずくめの若い騎士の持つ怪しげな剣が、カレリアの腹を貫いた!

ルノ「カレリアさん!」

トト「カレ…!」走り出します!

ヴァン:急いで登ります!

黒ずくめの若い騎士「…ふん、ザコが」ズルリと、妖しい光沢を発する漆黒の剣をカレリアの腹から引き抜いた。

ルノ「あの剣は!?」

ヴァン「これは一体どういうことだ!」

黒ずくめの若い騎士「冒険者風情に何ができる。おおかた、あのバカ兄貴に依頼されたといったところか」

トト「あなたは今、何をしたか分かっているのですか!」

黒ずくめの若い騎士「ウハハハハハ! この剣さえあれば俺様がこの国の王だ! 誰にも、邪魔は…」

ヴァン「そういうことかい!」

黒ずくめの若い騎士「う… に、げ… ろ…」

ルノ「!?」

黒ずくめの若い騎士「この、剣、は… 危険…」

ルノ:人格が戻った?

黒ずくめの若い騎士「なんとか、処分を… 兄上に… 伝え…」

ヴァン「剣に操られてんのか? ってことはあの剣は!」

黒ずくめの若い騎士「剣は、命に代え… 破壊…」

トト「公子殿! 気を確かに!」

黒ずくめの若い騎士「…ク、ハハハハッ! 愚かな人間どもよ! このメス猿の命が惜しいか! まだ毒は全身に回っていない、辛うじて生きているようだ! 救いたくば上がって来るがいい! ハハハハッ!」

 黒ずくめの若い騎士、グリス・ケブル公子はマントを翻し坑道の中に姿を消した。

トト「どうやら選択肢はないようです」

ヴァン「言われなくても行くさ」

カレリア「…来 …ダ、メ」

ルノ「急いで追いかけなきゃ! カレリアさんの手当も!」

ムジカ『החרב שהייתה לו הייתה ...』(魔動機文明語)悲壮な表情を浮かべている。

 崖の上までたどり着いた4人。

 そこで待ち構えていたのは…。

ルノ「みんな気を付けて! 何かいるよ!」

 4体のスケルトンが行く手を阻んでいる。

トト「カレリアさん今行きます!」戦います!

ルノ:戦います!

ヴァン「まずはコイツラの相手をしろってことか!」

トト「そのようです」少し焦りながら。

ルノ「さっさと片付けなきゃ!」

 崖の上には地割れが走り、カレリアとスケルトン、そして冒険者たちとを隔てている。

 湧き水の影響で地面はぬかるみ、素早い動きは制限されるだろう。

GM:ぬかるみも進入可能ですが行動に-2の修正を受けます。


 魔物知識判定結果。


 【スケルトン】2体 弱点判明

 魔物レベル1

 死体の骨にマナが宿り動き出したアンデット。

 一般的な兵士の装備で武装している。

 古戦場、粗雑な埋葬の墓場、地下墓地などに現れ、近づく者を襲う。


 【スケルトンアーチャー】1体 弱点判明

 魔物レベル4

 弓矢で武装したスケルトン。

 通常のスケルトンより格段に強力な攻撃力且つ、遠距離攻撃をしてくる。

 初級冒険者を何度も窮地に追い詰めて来た厄介なアンデット。


 【スケルトンソルジャー】1体 弱点判明

 魔物レベル5

 大きな武器と頑丈な甲冑を装備した大柄のスケルトン。

 全力攻撃が可能な打撃力、7点の防護力は初級パーティにとって正に脅威。

 相手をするのはかなりのリスクが伴う。

 逆に、この魔物に勝てれば戦士として一級の腕前。



 戦闘開始。

 足場がぬかるみ回避判定に-1の修正がかかるが、それは相手にも同じことが言える。

 先制判定の結果、冒険者の先攻。


トト:フィールド・プロテクションいきます。「皆様に神のご加護を。前線はよろしくお願いします」

ヴァン「任せろ!」

ルノ:アンデット相手だからレクイエムを演奏します!

 呪歌でアンデットの全ての行為判定が-2。

ヴァン:じゃあキャッツアイいらないな。補助は無し、薙ぎ払いを宣言して攻撃!


 ヴァンの薙ぎ払いで前衛のスケルトン2体は瞬殺!

 難敵のスケルトンソルジャーとアーチャーを残すのみ!

 ルノのレクイエムが効果を発揮。

 セッション開始時よりも成長している冒険者たちは魔物レベル5の相手と互角以上の勝負を繰り広げる!

ヴァン:ソルジャーにキュアウーンズは効果的なはず!

トト:弱点抜いてるから更に効果的ですね! ソルジャーにキュアウーンズ! >15点!ダメ!

ヴァン「今までで一番効いてるぜ!」

ルノ「神聖魔法ってすごい!」

トト「これも神のご加護! とどめを!」

ヴァン「よっしゃ!」補助無し、全力攻撃でソルジャー攻撃! 命中!

 スケルトンソルジャーはトトの神聖魔法とヴァンの全力攻撃の連携をまともに喰らい、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

トト「お見事です」

 残るはアーチャーのみ。

ルノ「あとちょっとだよ!」

 勝ち筋が見えた冒険者たち。

 勢いのまま勝負を決めようとしたその時、ローブを目深に被った謎の人物が坑道から姿を現した。

謎の人物「ザコは潰しておくか」マントを脱ぎ捨てると同時にヴァンに向かってフォース!

ヴァン「うおっ!」HP:16→6

謎の人物「ふっ、他愛ない」

 胸元にはブラグザバスの聖印。

 短めに整えられた瑠璃色の髪を春風にたなびかせている。

 ダークパープルに染められたローブのスリットからはしなやかな太腿が垣間見えていた。

ヴァン:女性だった。

ルノ:お姉ちゃんだった。トトにそっくりの。

トト:お姉さんだったのか…。

謎の女性「トト。出来の悪い弟…」

トト「あなたに出来を批評されたいと思いません」お話、聞かせてもらいますよ。倒してからですが」

謎の女性「全く、見るに堪えない。何も覚えてないのね。フ… あなた、頭悪いものね」

トト「私の価値は私がを決めます」

謎の女性「昔からそう。ホントにバカだから、ブラグザバスの涙なんか拾うのよ」

トト「ブラグザバスの、涙?」

ヴァン「なんだそれ?」ツンデレな気がしてきた。

謎の女性「覚えてない…な。くく… 覚えてはおるまい」

トト「私が… 私のせいだと!?」うつむき、茫然として震える。

謎の女性「愚かな弟をかばい、我が呪縛の虜となった姉のことなど。覚えてはおるまい。ククク… ハハハハハッ!」

ヴァン「よく分かんないけど、クソ神と因縁があるみたいだな」

ルノ「何か元に戻る方法があるかもしれないよ、とりあえず今は戦わなきゃ!」

トト「そうですね何か方法があるかもしれません」と前を向き直ります。

謎の女性「この土地で、ゆっくりと死… ト、ト… 逃げ… フハハハハハッ!」

トト「!」今行くから!

ヴァン「話聞く限り姉弟みたいだけど」突っ込むッ! 回復を!

トト:頼みます! キュアウーンズをヴァンさんに!

ヴァンHP:6→15

トト「キルヒアのご加護を…」

ヴァン「とりあえずシバく!」補助でキャッツアイ、薙ぎ払いを宣言、攻撃!

 謎の女性はヴァンの狙いすました攻撃をヒラリとかわした。

ヴァン:素早い!

謎の女性「ふ… 遊びはここまでか」

 謎の女性は坑道に入って行く。

トト「く、待ちなさい!」

 スケルトンアーチャーが行く手を阻む。

 3人の連携でそれを打ち倒したが、結局謎の女性は取り逃がしてしまった。


ルノ「やっつけたね! 二人ともケガはない?」

ヴァン「かすり傷だ。レクイエム、マジで助かったよ。…トト?」

トト「必ず取り戻す!」坑道へ目を向かって叫ぶ。

ヴァン「カレリアさんは大丈夫そうか?」

ルノ「そうだ! カレリアさん!」と走り出します。

トト「カレリアさん大丈夫ですか?」駆け寄ります。

 カレリアはピクリとも動かない。

 彼女は腹の深い刺し傷から止めどなく血を流し、その傷口を中心に肌の色がどす黒く染まっている。

トト:まず、キュア・ポイズンで毒を解除します。

 毒解除魔法行使。失敗。

トト「かなり強力な毒ですね」

ルノ「助からないの?」

ヴァン「ユニコーンの剣があれば…」

 冒険者が絶望感に打ちひしがれたその時。

鷹:ばさっ! ばさっ!

 一匹の鷹が2人の近くにとまり、様子をじっと見た後、カレリアの近くに舞い降りた。

ヴァン「鷹? 人に慣れてるのか?」

 鷹の足に羊皮紙と小袋が括り付けてある。

 ヴァンとトトを見つめ、じっとしている。

トト「ずいぶん大人しいですね」カレリアさんの容態を見ながら鷹の様子を見ます。逃げませんか?

GM:逃げません。

ヴァン「なんだろう?」羊皮紙を取って読んでみます。


 ~~ 念のためユニコーンの剣の断片を送る。無事の帰還を祈る。ル・テネット ~~


 包み紙の中に水晶片が入っている。

 鷹は変わらずじっとしている

ヴァン「賢者様か。話をすれば剣が来た。欠片だけどな」水晶片を見せる。キュアポしちゃいなよ!

トト「とりあえずカレリアさんに触れさせましょう」

GM:では、カレリアに持たせますね?

ヴァン「こうかな」カレリアに持たせる(使用する)してみます。

カレリア「う…」

 カレリアの傷口が見る見る塞がっていく。

 ぶす色の肌に赤みが差してきたと同時に、マナが枯渇した欠片は色褪せ、ただの水晶となった。

カレリア「こ、こは… 私は、いったい…」

ルノ「気が付いたみたい! 良かった!」

トト「大丈夫ですか、カレリアさん」

カレリア「お前は、確か…」

ヴァン「さすがの効き目だな。念の為回収しとくか」水晶を。

カレリア「トト、だったな…」

トト「ええ、そうです。気は確かでしょうか」

カレリア「はっ! お嬢様は! 大切な使命を忘れ私は何をやっているのだ! すぐに戻らなくては!」

ヴァン「おっと、まとめて解毒したのか」

ルノ「惚れ薬もなんだね」がっかり(笑)

ムジカ『ではもう、カレリアさんはマスターを好きではないのですか?』(魔動機文明語)

ルノ『うん、そうだよ』(魔動機文明語)

ムジカ『そうですか…』(魔動機文明語)安心したようだ。

カレリア「…ここはどこだ?」

トト:かくかくしかじかで説明します。

カレリア「そうか、分かった。私のことは構うな。お前たちは任務の遂行に専念しろ。目的を果たせ」

トト「貴方も怪我をされていたのでお気をつけて、下に馬車を待たせてあります」

カレリア「いらぬ世話だ」仏頂面。

トト「いつものカレリアさんですね」ホッと一安心。いや、二安心(笑)

 カレリアは立ち上がろうとしたが、フラフラとよろけている。

トト「無理をしてはいけません。さっきまで瀕死だったのですから。今は一度、崖下に避難して休息しましょう。私のマナも底を尽き回復魔法が使えないのです」手を差し出してカレリアさんを支えます。

カレリア「要らん世話だ」トトの手を払いのけた。

トト「崖は急です。今の貴女が1人で降りるのは無謀ですよ。どうぞお手を」

カレリア「…」


 崖下まで降り、近くの森へ移動する。

 HPMP回復のため休息をとらなくてはならない。

 敵に襲われるリスクが少なそうな場所を探し、森を歩く一行。

カレリア「…トトと言ったな」

トト「はい、なんでしょう」

カレリア「いや、なんでもない。さっさと歩け」

ヴァン:薬なしで惚れたりしないよね?

ルノ:まさかねぇ…。

トト「あそこに坑道がありますね」

ヴァン「おっ、そうだな」

トト「崖からの坑道とは逆向きですから、繋がってはいない気がします。安全であればあそこに身を寄せるのはいかがでしょう」

ヴァン「安全かどうか、だよな…」

ルノ「ボク、中の様子を見て来るよ!」

トト「お願いします。何かあったら戻ってくるのですよ」

ヴァン「気をつけるんだぜ」

ルノ「うん! だーいじょうぶだって!」

ムジカ『私は何のお役にも立てません…』(魔動機文明語)心配そうに見ている

ルノ『そんなことないよ! ムジカも、みんなと一緒に待っててね』(魔動機文明語)

ムジカ『…はい』(魔動機文明語)

ヴァン:ではルノさんの結果待ちで。

GM:では、ルノは坑道へ。


 ルノは薄暗い坑道を進む。

 ジメジメした空気の中、ネズミが足元を駆け抜け、コウモリが頭上を舞う。

 敵の気配が無いか、松明を片手に注意深く歩みを進めていた。

ルノ:誰かいる!「誰!?」

グリス公子「お前は…」

ルノ「あっ!」

グリス公子「……ノエル!」

 駆け寄って来た。

 腰には漆黒の剣が携えられている。

ルノ「え?」

グリス公子「帰って来たのか! 今までどこへ行ってたんだ! みんな心配してたんだぞ! まぁ、俺も… 少しは心配してやったが…」

ルノ「ノエルじゃなくてルノだよ」

グリス公子「ハハハ… やっと帰って来たと思えばまたいつもの冗談か」

ルノ:まともじゃなさそう…。

グリス公子「ほら、お前の好きなの、とっといてやった」懐から石炭を取り出し手渡してきた。

ルノ「これは…?」

グリス公子「どうした? 食べろよ。好きだろ?」

ルノ「…」

トト:仲良かったんだな。

ルノ:ブラグザバスの剣、この人が持ってます?

GM:持ってますね。

グリス公子「ん? ああ、この剣か? 黒くって不気味だろ?」(笑)

ルノ「…」

グリス公子「呪われた魔剣だ。城の地下に封印されてたけど、ラギルに手伝ってもらって持ち出したんだ」

ルノ「なんでそんなことしたの?」

グリス公子「こんな物騒な剣が城に眠っているなんて我慢できない。将来、兄上にどんな災いが降りかかるか…」

ルノ「でも…」

グリス公子「まったく、一人で突っ込んでいった時はヒヤヒヤしたぞ」

ルノ「…よく聞いて。ノエルはもう、この世からいなくなっちゃったんだ」石炭に目を落としながら言います。

グリス公子「ノエル…?」

 訝し気にルノの顔を覗き込んだ。

グリス公子「バカ、冗談はもういい。まだ怒ってるのか? 父上はああいう人だ、気にするな」

ルノ「…」

グリス公子「お前が望むなら、俺はケブルを捨てる。冒険者の仲間入りだ。お前と同じだな」

ルノ「ねえ、ボクの顔をよく見て」

グリス公子「顔?」

 グリスは跪き、ルノと同じ視線になった。

グリス公子「ばか… ちゃんと聞けよ。真面目な話だ。いつか、お前の故郷に行く。グラスランナーとは子供が作れないのは分かってる。でも…」

ルノ「ボクはノエルじゃない」

グリス公子「…ち、がう? ノエルは… あの、時…」

ルノ「いなくなって辛いのはわかるけど、前を向かなきゃ」

グリス公子「ノエル! ダメだ! 行くな! そっちはトラップが! ああ…!」

 頭を抱え、そのまま地面に這いつくばった。

グリス公子「うう……」

ルノ「…」

グリス公子「…グラスランナーか。冒険者の一行に混じっていたな」

ルノ「やっと分かった?」

グリス公子「くく… どこから潜り込んだ? ちょうど良い、そろそろこのブラグザバスの剣が新たな血を吸いたがっていたところだ。つまらぬ種族だが多少は潤うだろう」

 グリス公子は剣を引き抜いた。

ルノ「正気に戻れ!」

グリス公子「くく… ハハっ! ハハ、ハ…… うう… に、げ… はや… く… く、る… な」

 グリス公子は苦し気に、フラフラとルノから遠ざかっていく。

ルノ「どうしてそんな剣、盗んだんだよ」

グリス公子「うう…」苦しそうだ。

ルノ:今のうちに走って逃げます。

GM:では逃げられます。グリスは苦しみ続けているだけで追って来ません


 ルノは坑道から飛び出す。

トト「おや、ルノさんお帰りなさい」

ヴァン「中の様子はどうだった?」

ルノ「みんな! 中にグリスがいて、剣の力に飲まれそうになってる!」息を切らせて。

ヴァン「グリス? あの黒いヤツか! じゃあ、ここもヤバイな」

カレリア「…」両腕で自身を抱き、身震いしている。恐怖心にさいなまれているようだ。

トト「もっと移動しなければ。カレリアさん、大丈夫ですよ、みんながついています」

カレリア「…そうね」トトの腕をギュッと掴んだ。

ムジカ『…』

ルノ「グリスさんと剣を引き離さなきゃ」

ヴァン「そうしたいけどな。今は無理だ。トトも魔力が足りてない」

トト「やはりあの、手にしていた剣が… 気が狂っていたのなら、彼を倒さなくてはいけないかもしれませんね」

ルノ「そんなことは… ないと、思う。剣を封印するって言ってたよね」

ヴァン「…助けるのは無理じゃないか? あの剣はヤバイって」

カレリア「ブラグザバスは悪質な神だ。救出は難しいのではないか」

トト「…私の姉とグリス公子。どちらも鍵となるのはブラグザバスみたいですね」

ヴァン「彼を倒して、剣は直接触れないように城へ持って帰るのが一番確実か…」

ルノ「倒す… 殺すの?」

トト「殺すのは本意ではありませんが、状況次第ですね」

ルノ「…」

鷹:「あ… あ、あー… テス、テス… テスト中… 聞こえておるか?」

ルノ「うわぁ! 誰?」

ヴァン「わぁ、聞こえますよ? 賢者様か?」

鷹:「うむ。聞こえてい… じゃな。ザ… ザザ…」

トト「びっくりしましたね」

鷹:「多少… 雑お… なんとか聞こえ… 距離が遠… きみたちの働きは見てい… どうやら剣を持ち去ら…」

トト:耳をそばだてます。

ヴァン:傾注します。

鷹:「兵… 編成… 公子が向か… 無理は… るな」

ヴァン「ステイン公子が兵士を連れて来るってことかな?」

鷹:「そ… 休… が、いい…」

 そこまで話し、鷹は静かになった。

ヴァン:こっちの状況は分かってるのか。休めって言ってたと思う。

トト:安全な場所で休息ですね。GM、現在時刻は?

GM:夕方です。間もなく日が暮れます。

ルノ:キャンプします? 魔香草も焚かなきゃだし。

ヴァン:そうしますか。馬車を繋いである場所まで戻るか。

ルノ:でも、グリスが頑張ってるから早めに助けに行ったほうが良いのかなとも思う。

トト:今乗り込むのは危険と思いますね。無理は禁物かと。


 馬車を繋いである森の入り口まで移動した一行は、交代で見張りを立てつつ、一夜を明かすこととなった。

 やがて日が暮れ始める。

ヴァン「テント張って、女性陣に使ってもらおう。ちょっと狭いかもだけどな。俺とトトは馬車の荷台で寝るか」

トト「手伝いましょう」

ルノ「女子テント、ボクが小さいからなんとか入ると思うよ!」

カレリア「男女別か。当然だな」

トト「はい、当然です」

ムジカ『…』

GM:トトがカレリアと話している時、ムジカは寂しそうです。何故なのかは… 謎です(笑)

ヴァン:ヤキモチ?

トト:ムジカを誘えとの神(GM)のお導きですか?(笑)

ルノ:(笑)

ヴァン「疲れたから寝ようぜ」ワクワク。

トト「そうですね。少しでも回復しておかなければ」

ヴァン「じゃあ僕は火の番してるからある程度立ったら交代してくれな」

ルノ「りょうかい!」

トト「ありがとうございます。では先に休みます」

カレリア「交代で見張りか。1人で大丈夫か?」

ヴァン「大丈夫だと思うけど、心配なら組分けするかい?」

トト「負担もへりますし、ペアでしますか?」

ルノ「その方が安全だね」

カレリア「勝手にするがいい」

トト:見張りの編成はどうします?

ルノ:組み分けしましょう。

ヴァン:ムジカさんは除外かな。一般人だし。

ルノ:冒険者技能無いからなぁ。

トト:カレリアさんは病み上がりなので、単純に冒険者組で3交代にします?

ヴァン:面白さで言うならトト、ムジカ、カレリアの3人で組んじゃうのもアリだけど、流石に偏りが(笑)

ルノ:3人でもいいっちゃいいのかな(笑)

ヴァン:最初は俺、次にルノ。トトの時はお任せの3交代で。

ルノ:りょうかいです!

GM:ではそれで、3交代の見張りですね。

トト:ムジカに心配いらないよって言ってあげようかな。でも自意識過剰っぽくなるし。う~ん…。

ヴァン:見張りのローテーションをカレリアとムジカに説明しますー。

カレリア「トト、お前は明け方に1人で見張りをするのか?」

トト「はい、そうなります」

ムジカ『私も見張ります。マスターをお手伝いします』(魔動機文明語)

ルノ『気を遣わなくていいよ。無理しないでね』(魔動機文明語)

 ムジカはトトから離れようとしない。

トト:セージ技能伸ばして早く魔動機文明語覚えなきゃ…。


 深夜。

 ヴァン、ルノが順に見張り、最後にトトが警戒を始める。

 睡眠時間を確保したため魔力は回復している。

ムジカ『マスター…』(魔動機文明語)

 ムジカはこっそりテントから出て来たようだ。

トト「ん? ムジカさん、休まなくていいのですか?」

ムジカ『…』何も言わず、トトの隣に腰を降ろした。

トト「手伝うとのことでしたね。無理はしないでください」

ムジカ『少し、お話ししたいの』(魔動機文明語)

トト「…」ルノ不在で通訳無しだから言葉が分からないんですよね。

ムジカ『ユニコーンの剣には邪悪を封じる効果があります。私はユニコーンの剣とブラグザバスの剣の、所持するに値する人物を探すように父…以前のマスターから申し渡されています』(魔動機文明語)

トト:言葉を理解できないけど、黙って聞いてます。

ムジカ『特にブラグザバスの剣は、悪しき者の手に渡るなら、無限の彼方に封印せよとオーダーを受けています。マスターも皆さんも、悪しき者ではないと思います』(魔動機文明語)

トト:真剣に話していることは理解してます。

ムジカ『…お役に立てるのであれば、この身を捧げる覚悟は出来ています。でも私は… 皆さんと共にいたい』(魔動機文明語)

ルノ:ムジカちゃん、超重要な役目を背負ってたんだね。

ムジカ『マスター…』(魔動機文明語)

 ムジカは満天の星空を見上げた。

ムジカ『月が、綺麗ですね』(魔動機文明語)

トト「ムジカさんがいてくれて、心強いですよ」

GM:トトの隣から女性特有の素敵な香りが漂ってくる。何もせず見張りを続けますか?

トト:何もしません(笑)

GM:では精神抵抗をどうぞ。目標値は11。失敗すると…。

トト:2d+3+2 精神抵抗(冒険者+精神)> 14 成功。

 ムジカはルノの言葉を聞いてそっと微笑み、テントに戻って行った。

トト(理解してあげたいのに… 歯がゆい)

GM:トトは紳士ですね。

ルノ:テントで待ってました。お帰り~。

ヴァン:出会って間もないからね、しょうがないよね(笑)


カレリア「何を話していた」

トト:おっと!

 いつの間にか、トトの傍にカレリアが立っている。

カレリア「お前の務めは見張りだろう。女に現を抜かす暇があるのか?」

トト「これは手厳しい。すみません、その通りですね」

カレリア「ふん、軟弱者め」

 トトの近くに腰を降ろした。

カレリア「お前のようなヤワな男に見張りが務まるものか」

トト「頑張ってはいますよ」

カレリア「仕方ない、私も見張っていてやる。足を引っ張るなよ」

トト「申し訳ないです」申し訳なさそうに。

カレリア「女に守られるとは情けないやつめ」

トト「カレリアさんのような剣技は持ちませんから。心強いですよ」

カレリア「焚火はしないのだな」

トト「ええ、火を灯して敵に感ずかれるワケにはいきませんから」

カレリア「…寒く、ないか?」

トト「そうですね。初春ですし少し寒いですね」

カレリア「…少しだけ」

トト「?」

カレリア「背中だけ、つけておけ。背中だけだ」

トト「は、はぁ…。こう、ですか?」

カレリア「もしも尻などに触れたら、どうなるか分かっているだろうな」

トト「ええ、決して触れないと誓いましょう」苦笑しつつ。

 トトとカレリアは互いに背中を預け合い、見張りを続ける。

カレリア「少しは、暖かい?」

トト「はい、とても」

カレリア「ん…」そのまま黙りこくってしまった。

ヴァン:これで良かったのだろうかという気が(笑)

GM:トトの背後から女性特有の素敵な香りが漂ってくる。何もせず見張りを続けますか?

トト:何もしません(笑)

GM:では精神抵抗をどうぞ。目標値は11。失敗すると…。

トト:2d+3+2 精神抵抗(冒険者+精神)> 12 成功。

ヴァン:また耐えちゃったか(笑)

GM:トトは理性的だ! 紳士的だ! そしてGMはがっかりだ!

ルノ:GMぅ!(笑)

トト:ダイスのお導きです(笑)



 翌朝。

 今現在起こっている事件とは裏腹の、清々しく暖かい朝日に包まれ、冒険者たちは活動を再開する。

カレリア「…」何故か不機嫌。露骨にトトを無視している。怒っているようだが、なぜ怒っているのかは、謎です!

ヴァン:手ぇ出さないから(笑)

ルノ:薬の影響って、もうないんだよね?(笑)

カレリア:ふくれっ面のままカレリアは装備を整えている。

トト:病み上がりで野外だったので、さすがに自重しました。

GM:流石の神官(笑)ムジカは同行させますか?

ルノ:どうしよう…。

GM:戦闘能力はありませんね。

ヴァン:ファイターかフェンサーに目覚めるのを期待して、連れてっていいかとは思う。

ルノ:じゃあ連れていくか~。


 全員気付いた。

 小さな人影がヨロヨロと近付いて来る。

木の人形「探したぞ…」ウッドゴーレムの体が半分砕けている。足を引き摺りながら冒険者たちに近付いてきた。

ルノ「賢者さん!」

トト「賢者さま!?」と走り寄ります。

木の人形「この体はもう、もたん。伝えねば…」

カレリア「一体何が?」

木の人形「謀反が起きた。首謀者は、ラギル・ソノーチ伯爵。王は今朝、死んだ。第一公子のステイン・ケブルは囚われている」

ルノ「!!」

ヴァン「このタイミングで謀反かよ!」

木の人形「このタイミングだからこそじゃ」

トト「全ての黒幕はラギル卿ということですね?」

木の人形「ブラグザバスの剣をグリス公子に持ち出すよう唆したのはラギルじゃろう。邪剣を所持する謀反人。その立場を王の後継ぎである2人の公子に擦り付けるつもりじゃろうな」

ヴァン「また手の込んだことを」

木の人形「ラギルはかねがね王に対して不満を抱いていたようじゃ。近年、王が体調を崩していたのも偶然ではなかろう」

トト「毒でも盛られていたのでしょうか。剣以上に邪悪な…」聖印を握り締めます。

木の人形「ユニコーンの剣を君たちに託す。武器として使いこなすことは難しかろうが、要は接触さえさせればよい。邪悪を払う力がある」

ルノ「これでグリス公子が助かるんだね♪」

木の人形「そうじゃな。ただし、効果を発揮するのは3回じゃ」

ヴァン:回数制限付きか… 使いどころを考えないと。

木の人形「呪いをで操られている者は2人。グリス公子と神官の女じゃ。彼らを正気に戻すために2回。最後の3回目で直接ブラグザバスの剣とユニコーンの剣を打ち合わせ、相反する力で消滅させるのじゃ」

ヴァン「神官の女性っていうと」トト見て。

トト「…」

ヴァン「失敗できないってことだな」

木の人形「頼んだぞ…」ゴーレムの体は砕け、動かなくなった。

ルノ「ありがとう、賢者さん」

トト「ヴァンさん、剣の扱いは?」

ヴァン「一応使えるけど、得意とまでは言えないな」武器習熟はモールなんだよなぁ。

カレリア「ならば私が…」

ヴァン「いや、ユニコーンの剣はそれなりに重量がある。カレリアさんのフェンサースタイルには合わないと思うよ」

カレリア「…」ヴァンの言葉が正論だと理解しているようだ。

トト「やはりヴァンさんに使ってもらいましょう。この剣は決して無駄に出来ない。頼みます」少し硬い表情をしている。

ヴァン「分かった」覚悟を決めます。

カレリア「ラギル伯爵が兵を率いて向かっているのならば、鉢合わせないよう注意しなければな。お嬢様がご無事なら良いのだが…」

トト「今、この国を救えるのは僕たちだけでしょうね」

ルノ「すごーい! 英雄物語みたい!」

トト「そうですね」ルノの言葉に苦笑しながら。

ヴァン「決まりだな。行こう」

GM:ドワーフの廃村に向かう場合、鉱山跡から村への侵入を試みるか、あるいは街道側から正面突破するか、ルートはその二つです。

ヴァン「まずはグリス公子の開放を目指すか。確か鉱山に居たんだよね?」

ルノ「うん! 昨日はフラフラだったよ。簡単に戻せるかも!」

トト「あの神官は気がかりですが… まずは居場所の見当がついているグリス公子を追いましょうか」

ヴァン「じゃあ鉱山跡だな。俺達が通れるような場所があればだけど」

トト:昨日、ルノさんがグリス公子と出会った坑道へ移動します。



 === 密やかな坑道 ===


 グリス公子の姿を求めて侵入したその場所には、意に反した人物が待ち構えていた。

謎の女性「ほお、また性懲りもなく。何をしに来た?」

トト「貴方たちを助けに」

謎の女性「まぁ! 私たちを助けに!? だったら、さっそく助けてもらおうかしら。死んでちょうだい」

トト「それは出来ないお願いですね」

謎の女性「なーんだ、残念ね。でも、もう遅いわ」

 女性の背後から、生ける屍たちがワラワラと姿を現した。

 その数は7体。

 冒険者たちの行く手を遮っている。

ヴァン:気付いたら魔物がいっぱい(笑)

トト:人数差がちょい辛そうですね。

謎の女性「紹介するわ。出来立てほやほやのレブナントよ」

 驚いたことに、アンデットの群れは全てドワーフだ。

ヴァン「何のつもりだ! ドワーフばっか集めやがって!」

謎の女性「だって便利なんですもの。彼らはどんなに熱い場所でも黙々とトンネルを掘るわ。瘴気を大陸中に伝えるための、大切なトンネルをね♪」

ヴァン「そんなことのために… クソ野郎!」

謎の女性「あら恐い。怒ったのね? トト、怒りっぽい友達なんか作っちゃダメじゃない。今からこんなのと一緒に死ぬなんて無様過ぎよ?」(笑)

 謎の女性は嘲笑い、坑道の奥へ姿を消した。

トト「まずは目の前の脅威から対処しないとですね」

ルノ「やっつけよう!」

ムジカ『呪われた存在… 清浄な世界に送ってあげるべきと思います』(魔動機文明語)

ルノ『うん! 任せて!』(魔動機文明語)

 戦闘に備え身構え、アンデットたちの様子を窺う。

 ドワーフレブナントの集団、その中に…。

ルノ:なんか見覚えがある人が…。

トト:見覚え、ありますね。

ムジカ『あの人は…』(魔動機文明語)

カレリア「ギルド酒場にいたな」

ヴァン:…。


 健康的で張りのあった肌はどす黒くただれ。微笑みを湛える愛嬌のあった唇からは、だらしなく涎を垂らし。無邪気さを滲ませていた円らな茶色の瞳は暗く濁っている。見る影もない。

 だが、間違いなく彼女だ。

 冒険者ギルドで皆に食事を運び、ヴァンのためにスペシャルサンドイッチを用意したドワーフ女性。


ヴァン「…あの子なのか」

ドワーフ給仕ロッカ「ヴァ…」

ヴァン「いったい何が、あった」

トト「…」

 ヴァンたちの躊躇いを他所に、レブナントたちは前進してくる。

トト「ヴァンさん、覚悟を決めねば…」フィールド・プロテクションしておきます。

ヴァン「間違いない、給仕のあの子だ…」

ルノ:レクイエムを演奏します。アンデットにマイナス修正。

カレリア「友人か… だがもう生きてはいない。安らかに送ってやるべき」

ヴァン「そんなこと分かってる! けど、死んでても、あの子はあの子だ!」

ムジカ『ユニコーンの剣なら間に合うかも…』(魔動機文明語)

トト:剣を使えば戻る?

ムジカ『穢れなき魂が残っていれば、ユニコーンの剣はアンデットすら蘇生させます』(魔動機文明語)

ルノ『ホント!?』(魔動機文明語)通訳します。

ヴァン「でもこれは3回しか…」

ルノ「ヴァン! しっかりして!」

トト「迷ってる暇はありません!」

ヴァン:GM、向こうの顔、はっきり見えてて良いんでしょうか。

GM:見えます。

ヴァン:この剣、使って良いんでしょうか。

GM:任意です。

ドワーフ給仕ロッカ「あ゛… あ゛あ゛…」一歩ずつ、近付いて来る。

ヴァン:グリス公子、トトの姉さん、ブラグザバスの剣。計3回使わなきゃだから、回数の余裕は無いね。

トト:そうですね。

ルノ:…今、ユニコーンの剣を持ってるのはヴァンさんだから。

ヴァン:迷うべきじゃない。だよな…。

ヴァン「うわああああぁっ!」ドワーフ女性に向かって、ユニコーンの剣を突き出します。

GM:命中。

ヴァン「…やっちまった」

トト:仕方ないかと。

ルノ:だね。

ムジカ『…』

ドワーフ給仕ロッカ「ぐ… ご…」

 毒色の体が、ユニコーンの剣に貫かれた腹部を中心に変色していく。

 肌に艶が戻り、濁り切っていた瞳に生命の輝きが浮かぶ。

ドワーフ給仕ロッカ「あ…」バタリと、その場に倒れた。

ヴァン「戻った、のか?」

ムジカ『生命力の逆流で気を失っただけです』(魔動機文明語)

ルノ「そっか、よかったー」

トト「気を抜いてはいけません! まだ彼女以外のドワーフレブナントがいます!」

ヴァン「そうだな…」モールを構えます。


 ルノのレクイエムと、トトの神聖魔法の効果が発揮され、さほど時間を取らずにドワーフレブナントたちを滅ぼした。

ヴァン(あの子だけ救った。ゴメン、俺のエゴだ)他のドワーフレブナントたちの骸を見ながら。

トト「なんとかなりましたね」

ルノ「給仕さん気絶したままだね。どうする?」

ヴァン:どうしよう…。一般人だし、連れてくのは無理かな。

ルノ:うん。

トト:ですね。

ムジカ『この人は私が運びます。賢者様の鷹と一緒に隠れています』(魔動機文明語)

ヴァン:それが安全策か。

トト:ちょっと心配ですが、今はそれが安パイでしょうかね。

ルノ:ですかねー。『ムジカ、お願いできる?』(魔動機文明語)


 ロッカをムジカに託し、冒険者たちは4人で坑道の奥を突き進む。

 グリス公子と、神官女性。

 彼らを救うことはまだ出来る。

 問題はブラグザバスの剣にどう対処するか、だ。


GM:坑道は奥へと続き、暗くジメジメしています。進みますか?

トト:行きましょう。

ルノ:GOGO。

ヴァン:行きます。感情で行動した責任を取らなくちゃいけない。


 やがて坑道の奥へ行きつく。

 施錠されていたボロボロの木製扉を蹴破り、屋外に達した。

 そこは惨めにうらぶれた廃屋がいくつも並ぶ、滅ぼされたドワーフ集落。

 村の広場であったらしい開けた場所には数メートルの高さの奇妙な形の祭壇が構築されていた。

 まるで髑髏がぽっかりと口を開いているかのようなその祭壇の上には、あの謎の女性が腰を降ろし、冒険者たちを見降ろしながらほくそ笑む。

 祭壇を取り囲むように、ドワーフレブナントたちが数十体。

 ゆらゆらと這いまわるその様は、彼女を護るようにも、襲おうとしているにも見える。

 祭壇の前でアンデットたちを率い祈りを捧げていたのは、外ならぬグリス・ケブル第二公子だった。


トト:さて、大一番ですね。

謎の女性「来たわね。死にに」(笑)

ヴァン「ああ、来た。だが俺たちは死なない」

グリス公子「なんだお前たちは。儀式の邪魔をする気か」

ルノ「グリスさん!」

トト「儀式?」

謎の女性「そう、生贄の儀式よ。ありがとう、ユニコーンの剣を持ってきてくれて。お陰で儀式は完遂するわ」

ヴァン「生贄… 俺たちを、ってことか」

謎の女性「はぁ? バカなの? 信徒でもないお前たちはせいぜいレブナントが関の山。生贄は敬虔なブラグザバス信徒の処女でなければならない」女性はクスクスと笑う。

トト「では、生贄とは…」

謎の女性「私、この私よ」

トト「…」

謎の女性「この身体、この女はまさにうってつけ。クク… ハハハハッ!」

カレリア「狂ってる…」

トト「決着をつけましょう」

グリス公子「ノエルをさらったのはお前たちか! 還してもらう!」ブラグザバスの剣を腰から引き抜いた。

ルノ「正気に戻ってもらうよ!」

トト「これ以上の悲劇は増やさせません」

ヴァン「殺すくらいじゃ飽きたらないが、色んな人が困るから半殺しで済ませてやる」

グリス公子「ゴチャゴチャと… お前は口から産まれたのか。戦士ならば戦いで語れ」

GM:戦いますか?

トト:戦います。ペネトレイトで魔物知識判定。(賢神キルヒア神聖魔法、魔物知識判定に+2)


 魔物知識判定結果。

 【謎の女性】

 正体不明。


 【ドワーフレブナント・一般人】18体 弱点判明。

 魔物レベル2

 無念の死を遂げ弔われなかった死体に穢れが憑依した動く死体。生者へ強い怨念を抱き、見境なく殺そうとする。生前の記憶はほとんどなく、覚えていても歪んでいる。傷ついても負の力により時間経過で肉体が再生する。


 【グリス公子】

 種族:人間

 技能【ファイター3】【セージ2】【エンハンサー1】

 戦闘特技【かばうⅠ】【全力攻撃Ⅰ】

 練技【キャッツアイ】

 装備【ブラグザバスの剣】【スプリントアーマー】


 先制判定結果。

 冒険者の先攻。


トト:フィールド・プロテクション!

ルノ:モラルを演奏します!

ヴァン:前に出てキャッツアイ、マッスルベアー、全力攻撃!

GM:カレリアはガゼルフット使用。


 戦闘開始。

 前衛に進み出たヴァンとカレリア。

 ルノとトトの援護を受け、行く手を阻むドワーフレブナントの群れを打ち倒しながら、ヴァンとカレリアは一歩、また一歩と祭壇に近付く。

 グリスはブラグザバスの剣を振りかざし、カレリアに向かって振り下ろす。

カレリア「ひっ…!」恐怖に表情を強張らせ、必死に回避した。

トト「カレリアさん…」無理も無いか。

グリス公子「どうやら毒の味を覚えているようだな。もう一度喰らわせてやろう」

ヴァン「女をいたぶるってのは趣味が悪いぜ! 公子さんよぉっ!」

謎の女性「趣味が悪いのはどっちかしら。あなたたち、今まで何人のアンデットをねじ伏せて来たの?」

トト「…」

謎の女性「彼らの苦しみを生み出しているのは生者。生者の存在があるから、彼らは報われない」

ルノ「知らないよ! そんなヘンな理屈!」

トト「あなたも生者ではないですか!」

謎の女性「今日までは、ね。トト、安心なさい、直ぐにあなたもブラグザバスの抱擁を受けさせてあげる。あの時みたいに」魔法拡大でフォースを放つ!

ヴァン「ぐうっ!」HP:28 → 19

カレリア「きゃあ!」HP:23 → 14

トト「さすがに強い! 皆さんお気をつけて」キュア・ウーンズを2人に!

ヴァンHP:19 → 25

カレリアHP:17 → 21

ヴァン「くっそ、後衛から攻撃魔法撃って来るのは厄介だな」薙ぎ払いでドワーフレブナントを攻撃!

ルノ:早くユニコーンの剣で正気に戻さなきゃ。

グリス公子「装甲の薄い者から、死ね」1回転クリティカル! 渾身の一撃がカレリアを襲う! プラス毒の効果!

カレリア「か、は…」HP:24 → 4

トト「カレリアさん!」

ルノ:うわぁ。

ヴァン:ヤバいな。まだアンデットは半分残ってる。

謎の女性「さっさと死になさい。トトに色目を使うあなたは目障りよ」カレリアに追撃のフォース! 1回転クリティカル!

トト「やめろぉっ!」

カレリア「ト…」傷口から多量の血飛沫を散らし、倒れた。

カレリアHP:4 → -7

ヴァン:本気でやばい…。

ルノ:カレリアさんが死んじゃう。「ヴァン! 剣を!」

トト「ヴァンさん、グリス公子に! 当てさえすれば!」

ヴァン:残り回数は2回…ここで使ったら、トト姉を救うか剣を滅ぼすかの二択になる。

トト:彼をなんとかしないと状況を打破できないかと。お願いします。

ヴァン:…了解。モールを捨ててユニコーンの剣を構えて、キャッツアイ使用!「ルノ! モラルをくれ! 当てる!」

ルノ「分かった!」モラル奏でます! 敵の命中も+1だけど気にしてる時じゃない!

グリス公子「面白い! 命の剣か!」

ヴァン「俺の全てを賭ける!」グリス公子に攻撃!


 グリス回避判定 2d+4+4(戦士4+敏捷4)> 16

 ヴァン命中判定 2d+3+3+1+1-1(戦士3+器用3+キャッツアイ+モラル-武器未習熟)> 18


GM:命中!

ヴァン「こいつでどうだ!」

トト:やった!

ルノ:戻って!

グリス公子「う… うう… お、おれは… 何を…」頭を抱え、ブラグザバスの剣を地面に落とした。

ヴァン「グリス・ケブル! 思い出に逃げ込むな!」

グリス公子「なぜ、こんな… 不浄な存在を…」バタリと倒れ、気を失った。

 グリスが倒れると同時にドワーフレブナントはバラバラと崩れ落ちていく。

謎の女性「情けない奴。所詮は貴族の小倅か」

トト「残っているのはあなただけだ」姉に。

謎の女性「そう… そんなに私の邪魔をしたいの」

トト「させてもらいます。今度は私が助ける」

謎の女性「いいわ。もっと近くにいらっしゃい。クク… 血を分けた者が神の元へ召される姿を、目に焼き付けておくがいい」手にした呪詛のダガーを己の胸に当てがった。

トト「姉さん!」

謎の女性「姉さん? はははっ! 笑わせる! 出来損ないの弟など、持った覚えは…」

ヴァン「やらせるかよ!」もう選んでる暇はない。ユニコーンの剣をトト姉に使います。

 ヴァン命中判定 2d+3+3+1+1-1(戦士3+器用3+キャッツアイ+モラル-武器未習熟)> 9

ヴァン:出目が…。

ルノ:まずいっしょ。

トト:絶望感が…。

GM:命中!

ヴァン:え? 達成値9で命中?

 女性は身じろぎもせず、ヴァンの一撃を受け止めた。

謎の女性「ぎゃああああっ! バカな! まだ、抵抗、を…」

 魔力を使い切ったユニコーンの剣はボロボロと崩れ去る。

 謎の女性は祭壇から転がり落ちた。

 ドサッ…。

トト「姉さん!」駆け寄ります。

トトの姉「う… ト、トト? あなたはトト!?」

トト「ケガは…」抱き起して無事を確かめます。

GM:ユニコーンの剣に貫かれた傷口がありますが、それは徐々に塞がり、出血も治まっていきます。

トトの姉「いけない! 私に触れては呪いが!」

トト「それはもう、終わったんだよ。…カレリアさんは!?」


 カレリア生死判定。

 2d+3+2 > 8

 生存。


ルノ「良かった~」

トト:ヒヤヒヤですね。

ヴァン:アウェイクンしてあげなきゃ。

トトの姉「私はまた、人を死なせたのね」周囲を見渡し、幾人ものドワーフの亡骸を見つめ唇を震わせている。

ヴァン「あんたがやったワケじゃない。操られてただけだ」

トトの姉「トト、手を放して」

トト「?」とりあえず抱擁を解きます。

トトの姉「私は穢れている。多くの罪を犯したわ。トト、あなたは私のようには成っては、ダメ」懐からナイフを取り出した。自身の首に突き立てる。

トト「ダメだ!」

ヴァン「冗談じゃない!!」ぶん殴って止めます。

GM:命中判定どうぞ。

ヴァン:2d6+6 > 12

GM:命中! 威力1CLT13でダメージをどうぞ。

ヴァン:威力まで出すのか、GM容赦ないな(笑)ダメージ > 6

GM:威力6-防護3=ダメージ3点!

トトの姉「あうっ!」ばたり。

ヴァン「アンタの気持ちなんて知るもんか! 意地でも生きてもらうからな!」


グリス公子「うう…」ふらふらと立ち上がった。「俺は… そうだ! 剣が! ブラグザバスの剣を!」地面に突き刺さっている剣に手を伸ばした。

ルノ「触っちゃだめ!!」

ヴァン「そうだ! もう対の聖剣はない!」

グリス公子「剣の力があれば、国を平和に出来る!」

ルノ「誰がそんなこと言ったの!」

グリス公子「ラギルだ。彼の助言があればこそ、この国に平穏を… そうすれば、兄上も安心して結婚出来る」

ヴァン「平和にしたいのに邪神に頼ってんじゃねぇよ!」ストレスゲージ真っ赤。

ルノ「まだそんなこと言ってるの!」

グリス公子「危険なのは分かってる。だから俺が…」剣の柄に手を伸ばした。

ルノ:体当たりして止めます! すてみたっくる!

グリス公子「!?」

GM:命中判定どうぞ!

ルノ:命中判定(平目)2d6 > 4

 ルノの体当たりは達成値4。全然命中しない… はずだったが、グリスはルノを抱き止めた。もう剣を見てはいない。

グリス公子「ノエル… いや、違うのか」

ルノ「ルノだってば」勝手に動かないようにしがみついてます。

グリス公子「俺は、ラギルと共にこの剣を処分しようと… うう…」苦し気に頭を抱えている。

ルノ「無理しちゃダメだよ」


ラギル伯爵「これは、困った事に成りましたな」

ヴァン「貴様は!!」

 冒険者たちが気付かぬ間に、ドワーフ廃村全てがケブル兵団によって包囲されていた。

 ざっと見渡しても200人を超える重武装の兵士たちが構えを見せ、その矛先は冒険者たちに向いている。

 近衛騎士断を率いるラギル・ソノーチ伯爵は馬上から見下ろし、満足げに口髭を歪ませる。

トト「…黒幕のお出ましですね」

グリス公子「ラギル! 気様!」

ラギル伯爵「ふむ… どうやら失敗」

ヴァン「ステイン公子を返してもらう!」

ラギル伯爵「兵どもよ! 叛逆したグリス公子とあの者たちを捉えよ!」

ルノ「ボクたちが叛逆!?」

トト「吐き気がしますね」

ヴァン「貴様! 何が狙いだ!」

ラギル伯爵「我が目的は、カロッソ・ケブル公のご無念を晴らすこと。謀反人である2人の公子と下賤なる冒険者どもを捕らえ、裁きを与える」

トト:謀反人から謀反人と呼ばれるとは。

ヴァン:う~ん、殺したい。

ラギル伯爵「者ども、かかれ!」兵士たちに号令を下した。

ヴァン:どうする。戦ってもこの数相手じゃ勝ち目無し。

トト:ルノさんと姉さんだけでも脱出させられないか…。

ルノ:希望捨てないで~。

兵士A「…」構えを降ろした。

兵士B「ラギル卿、従えません」

ラギル伯爵「…」

兵士C「公子様お2人が謀反などと、我々には到底信じられません」

ヴァン:だよねー。

トト:日頃の行いが出たか。

ルノ:名前でどっちが裏切り者か分かるし(笑)

ラギル伯爵「…そうか」

ステイン公子「ラギル!」

 兵士たちの間を必死にかいくぐり、ステインが飛び出してきた。

グリス公子「兄上!」

ヴァン:ステイン無事か!

ルノ:良かった!

ステイン公子「なぜなんだラギル!」

ラギル伯爵「戒めを解かれたか。ふ… どうやら…」

ステイン公子「僕には分からない! 父上に対するあなたの忠誠心はすべてウソだったと言うのか!?」

トト:ウソだったんだろうねぇ。

ラギル伯爵「その通り。嘘だ。私はもとより大公への忠誠心など微塵も抱いておらん」

ヴァン:こいつ、開き直りやがった。

ステイン公子「…あなたの祖父も、父も、父上に忠誠を誓い命がけで守ってくれた忠臣だったのに。なぜ!」

ラギル伯爵「だからなのだよ」ラギルは薄く笑う。

トト:そのうち裏切りそうな名前だし。

ラギル伯爵「なぜ私の祖父と父は、あの老いぼれを守るために死なねばならなかったのか」

ステイン公子「それは…」

ラギル伯爵「なぜ私は、生まれついた時から貴様ら一族に頭を下げて生きねばならぬのか。全く納得がいかぬ。それだけの、単純な話だ」

ステイン公子「それでも、僕には信じられない。幼かった僕たちに剣術を指導し、学問の道を示してくれたのはあなただ…」

ラギル伯爵「忠臣として振る舞ったまでのこと」

ステイン公子「あなたを、兄のように、思っていたんだ…」唇を噛みしめ、涙をこぼし震えた。

ラギル伯爵「それはお前が若く、浅はかで、愚かだということだ」

グリス公子「ラギル、お前…」

ラギル伯爵「権力を持つ者は腹芸を身に付けねばならん。微笑みながら人を刺すことを覚えるがいい。でなければ一人前の領主には成れん」

ステイン公子「…」

ラギル伯爵「残念ながら我が野望もここまで。してやられたよ、想定外の冒険者どもに」ラギルは持っていた短剣を自分の首元にあてがう。

ステイン公子「ラギル! やめるんだ!」

ラギル伯爵「権謀術数。敗れるとはこういうことだと、覚えておきなさい」ステインに向かいそっと微笑み、己が喉を突いた。




 ステイン公子の指示でラギルの亡骸は丁重に扱われ、馬車に載せられた。

ヴァン「とんでもな野郎だったけど。ステインにとっては、か…」

トト「世は単純な二元論ではないということでしょう」

ルノ「あのさぁ、あの剣、どうするの?」

トトの姉「処分は難しいでしょうね」

トト「ユニコーンの剣が無い今、破壊は不能。破棄しても勝手に戻って来る。とんでもなく悪質ですね」

ムジカ『邪神の剣…』(魔動機文明語)

ルノ「どうしよっか、触れるのはダメだから何かで挟む?」

グリス「無駄だ。俺も最初はそうやって運んだが、この始末だ」

ヴァン「どうすりゃいいんだ…」

ムジカ『…』トコトコと剣に歩み寄り、手に取った。

ルノ「ムジカ!?」

ヴァン:ちょ、ちょちょっと!

トト「なんてことを!」

ムジカ『私が運びます』(魔動機文明語)

ヴァン「何普通に持ってるんだよ! …って、大丈夫なのか?」

ムジカ『私はルーンフォーク。神の声が届きません。それが邪神であっても』(魔動機文明語)

ルノ『そっか、良かった。とりあえず運べるんだね… なんかちょっとムジカが心配だけど』(魔動機文明語)

ムジカ『アビスへ向かいましょう』(魔動機文明語)

ヴァン「街道のど真ん中にでっかいのが開いてるよな」

ムジカ『はい、そこへ破棄します。行きましょう』(魔動機文明語)トトを見て微笑んだ。

トト:ニッコリと微笑み返します。一件落着目前ですね。

ヴァン:アビスにGO!



 === 街道途中のアビス ===


 以前訪れた時より直径が広がっている。

 全てを飲み込む虚空。

 どれほどの深さなのか、奥に何が潜むのか。

 誰にも分からない。


ムジカ『ここなら大丈夫』(魔動機文明語)剣を持ったまま穴の近くまで歩いた。

ヴァン「最大級のアビスじゃないのか?」

ルノ『その剣、どうするの?』(魔動機文明語)

トト「落ちたりしないように気をつけてください」ムジカさんを支える準備。

 トトの支えを振り払うように、ムジカは穴の淵に佇んだ。

ムジカ『…とても、楽しかった。この時代に目覚めることが出来て良かった』(魔動機文明語)

ヴァン:え? え? なんで?

ムジカ『手を放せばこの剣は勝手に移動してしまいます。最後にお役に立てて良かった。みなさん…』(魔動機文明語)

ルノ「ムジカ…」

ムジカ「優しくしてくれて、ありがとう。また、会いたいな」

ルノ:目に涙を溜めて聞いています。

 ムジカは不気味に蠢く剣を抱えたままアビスの奥底に身を投げた。

ヴァン:しがみついて止めます!

GM:その場合、新たにヴァンに呪いがかかり、グリスと同じ状態になります。それでも実行しますか?

ヴァン:…。

トトの姉「せめて、正常な輪廻に…」

トト「僕は、無力だ…」そっと姉さんの手を握ります。

ヴァン「だから! どいつもこいつも! 命を無駄にする!」地面でも殴ってよう。

ルノ「きっと、また会えるよ!」穴に向かって叫びます。

トト「ええ、きっと」

GM:ルノのその言葉は、届いていたと思います。


 ムジカがいなくなった後、アビスは消滅した。

 まるで全ての役目を終えたかのように。




 翌日。

 ケブルの街。

 冒険者ギルド、空飛ぶクジラ亭。


酒場の女将「おや、戻ったのかい」

トト「戻りました…」ムジカ…。

酒場の女将「なーんにも手柄が無かったそうだね。まったく、どこで油売ってたんだか」

ヴァン「駆け出しの冒険者なんてそんなもんだよ」ムジカ…。

酒場の女将「大公様はお隠れんなっちまうし、町中大騒ぎさ…。けどまあ、公子様が婚約したのは良かったけどね」

ルノ「ふーん…」ムジカ…。

トトの姉「…」

 沈痛な面持ちの冒険者たちは酒場のテーブルに着いた。

 依頼を果たせなかったため落ち込んでいるのだろうと女将は思ったらしい、慰めにエールをサービスしてくれた。

 運んで来たドワーフの給仕女性は、いつものあの子ではない。冒険者たちによって助けられたドワーフ女性「ロッカ」は、経過を診るためフルシル神殿に預けられている。

酒場の女将「ったく、情けない顔だね。あんたらにお客が来てるよ。店の奥に行きな」

ヴァン「客?」

酒場の女将「顔見知りだから会えば察するはず、って言ってたね。あの身なりは上客かも知れない。待たせるんじゃないよ」

 女将の言葉に従い、酒場の奥へ向かう。


執事トッキ「元気そう… ではないな」

トト「友人を失って間が無いので…」

執事トッキ「理解しよう。キミたちに話がある」

 冒険者たちをテーブルに招き話し始めた。

執事トッキ「キミたちの働きは公にできん。グリス殿下の今後に関わる。理解して欲しい」

ヴァン「お好きにどーぞ」やさぐれモード。

トト「それは仕方がないでしょうね」

執事トッキ「これはせめて、だ」冒険者それぞれに小袋を手渡してきた。ひとりにつき、1万Gの金貨が入っている。

ヴァン:口止め料込みとはいえ凄い報酬。

執事トッキ「納得してもらえるかな?」

ヴァン「構いませんよー」投げやり。

ルノ「はは… 今度はお咎め無しでお城を探検したいけど、いいかなぁ」

執事トッキ「公子様、いや。閣下に伺っておこう。…一つキミたちに提案がある」

ヴァン「なんです?」

執事トッキ「この度の一件、閣下はお前たちに大変感謝している。直臣として今後も傍にいて欲しいとのことだ。城で働く気はないか?」

ルノ「え… どうしよう?」

ヴァン「折角だけど、俺は辞退。今回の事で冒険者になった理由を思い出したんだ。まだやらなきゃならない事がある」

執事トッキ「分かった。無理強いはせん。トトくんと、後ろにいる女性は…」

トト「姉さんの面倒を一緒に見てもらえるならば。僕は応じます」

執事トッキ「そうか、閣下も喜ばれる。グリス様から話は聞いている。そちらの女性、名はテトだな?」

 トトの姉、テトは黙ってうなずいた。

執事トッキ「やはり姉弟か。そっくりだな」

ヴァン「ああ、そっくりだよな」

執事トッキ「うつくしい…」見惚れている。

ヴァン:トト姉さんに春が!?

トト:まさかの(笑)

執事トッキ「おほん!」慌てて咳払い。「姉弟そろって城に来るのは大いにけっこう。ルノにはグリス殿下に仕えてもらいたい」

ルノ「考えてみるよ。お城の演奏家を目指してみるのも悪くないかもね」

執事トッキ「よい返事を期待しよう。ではトト、そしてテト。キルヒアの信仰は差し支えないが、この街にキルヒア教会はない。領内に祠を設けることを許可する。そこで布教活動するがいい」

トト「ありがとうございます」

執事トッキ「それ以外の時間は閣下の話し相手や公務の取次などを担当し、必要とあらば様々に働いてもらう。生活費は姉弟で当たり前に暮らせる分は用意する」

ヴァン:この人、かなり高位の役職っぽい。

執事トッキ「ラギルがいなくなり臣下同士の権力争いが起こりかねん。トトには、そうした災いの種を摘む役回りを期待する」

トト「…出来ることはさせていただきます」と苦笑します。めんどくさい立場に成っちゃうかな(笑)

ヴァン:御庭番!

トト:ニンジャ神官!

執事トッキ「ルノ、一つ話しておく」

ルノ「なに?」

執事トッキ「グリス公子にはかつて、グラスランナーの恋人がいた。キミによく似ている。私が言えるのはそれだけだ」

ルノ「あはは。言っとくけど、ボクの名前はルノだからね?」

執事トッキ「最後にステイン閣下のお言葉を伝える。ヴァン、トト、ルノ、働き見事であった。努々忘れぬ」

ヴァン「ありがとうございます」一礼。

ルノ「うん!」

トト「光栄です」

執事トッキ「では、これにて」ニコリと笑みを見せ、トッキは立ち去って行った。


トト「祠が出来たら、最初にムジカを弔いたいと思います」

ルノ「それがいいね」

ヴァン「もっと、色々なものを見せてやりたかったな…」

トト「…」やはりムジカ不在はPL的にも辛いですね。

カレリア「何を塞ぎ込んでいる」トッキと入れ替わるように、冒険者たちの前に姿を現した。

ヴァン:おっと。

ルノ「カレリアさん! ケガはいいの?」

カレリア「この通りだ」腕をクルリと回して見せる。

トト「元気なよう、ですね…」

カレリア「トト… 好きだったのだな?」

トト「え?」

カレリア「ムジカのことだ」

トト「…たぶん。そうだったと思います。はっきり自覚する前にあんな事になってしまいましたが」

カレリア「賢者様が言っていたが。ムジカはアビス内部の圧力に潰され、体はバラバラになり、死んだそうだ」

ルノ「!」

トト「そんな…」

ヴァン「そんなことをワザワザ伝えに来たのか?」カレリアにイラっとします。

カレリア「最後まで聞け。ムジカの魂は召されたらしい。キルヒアの手でな」

トト「キルヒアに? なぜ?」

カレリア「知らん。賢者様も見届けるのが精いっぱいだったそうだが、おそらく…」

トト「おそらく?」

カレリア「いずれキルヒアの導きで転生するのではとのことだ。推測だがな」

ルノ「生まれ変わるの?」

カレリア「縁の在る者の傍に、だそうだ。後は知らん」

ヴァン「そっか。そうなると良いな」俺の子として産まれるなら歓迎するわ。(笑)

トト「…カレリアさん」

カレリア「…」

トト「ありがとうございます」(泣)

カレリア「バカ。男のくせに泣く奴があるか」




GM:以上で失われる大地、セッション終了です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ヴァン:お疲れさまです。ありがとうございました!

トト:こちらこそありがとうございました。

ルノ:お疲れさまです!

GM:何か質問などがあれば可能な範囲でお答えします。

ルノ:それぞれの分岐点めっちゃ気になります。

GM:大きな分岐点としては、ユニコーンの剣を誰に使うかですね。グリスかテトのどちらかを救えない場合もありました。

ヴァン:グリス助けないと内乱になりそう(笑)

GM:グリスを助けない選択をした場合、国はラギルに乗っ取られます。

ルノ:ひええ、やっぱりそうなりますよねー。

GM:惚れ薬を飲んだのはカレリアでしたが、ヴァンか、トト、どちらを目にするかはダイス運です。

ルノ:なるほど(笑)

トト:そうだったのですね(笑)

ルノ:ムジカってどうしてもああなる運命だったんでしょうか?

ルノ:あ、ムジカのこと僕も気になってました。

GM:彼女を救うルートも存在しましたが、テト(トト姉)救出を諦めることになったでしょうね。

トト:まじですかー。

GM:テトを殺した場合、別の手段で剣を処分する方法が見つかります。その手段は伏せますね。

ルノ:なるほどー。まあ、あの状況でテトさんを助けない選択肢は選ばなかった気がします。

GM:選択肢としては厳しいですよね。ではでは、本日はこの辺で、お疲れさまでした。

ヴァン:お疲れさまでした。ありがとうございました。

トト:ありがとうございました。またの機会もお願いします。

ルノ:ありがとうございましたー! とっても楽しかったです!


 END

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失われる大地(SW2.5リプレイ) たぬき @racoon50

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