ラビリンスエモーション

@NIAzRON

第1話フルノミホノ

姉が犯された。

俺の目の前で……。

俺は何もする事が出来ず、ただ泣きじゃくる姉を見てる事しか出来なかった。



「姉さんおはよ」


布団に入ったまま動こうとしない姉にそう挨拶をする。


「ご飯テーブル置いてるから。俺仕事行ってくるよ」


こうして俺はバイトに行く。

アレから5年、姉さんは家から出ようとしない。



「いらっしゃいませ〜」

「ありがとうございました〜」


ありきたりな言葉を繰り返し時間が経つ。

気付けばコンビニのバイトが終わった。


「お先失礼します」


そう言って店を出る。時刻は15時だ。


「ただいま〜」

返事は無く虚しく家中に響くだけ。

リビングのテーブルを見ると朝用意したご飯が食べられていて食器も洗われていた。


「姉さん帰ったよ。お腹すいたよね?弁当貰ってきたよ」


姉さんからの返事はない。


「姉さん……食べたくなったら来てよ」

そう言ってリビングのテーブルに座り1人黙々と弁当を食べる。


俺が姉さんを守らないと…そんな思いで今まで頑張ってきた。

けど、そろそろ限界かも知れない。

毎日毎日同じ事の繰り返し。心を閉ざした姉さんに変化も無い。


「いっそ姉さんと一緒に…」

死のうかな…そう呟きそうになったが、グッと言葉を飲み込む。


言葉ってのは、言うと本当になるって昔聞いた事があった。だから最悪な言葉はいつも飲み込むんだ。


「ごちそうさま」

弁当のからをゴミ箱に捨てる。


「16時か…」

時計を見て呟く。


特に何もする事がなく俺はソファに寝っ転がる。

いつもの事だが、何もする事が無くなるとあの日の事を思い出す。

もう5年と言うべきか、まだ5年と言うべきかは分からないが俺も成人した。


当時16歳だった。

姉さんは18歳。

古野美帆乃ふるのみほのと言えば、彩月高校の中でもトップクラスの美女だ。

頭も良くて東大に入れるんじゃないかと噂されていて自慢の姉だった。


姉は誰にでも優しくて、ちょっと天然も入ってるのか悪意を悪意と認識出来なくて

姉に嫉妬した同級生の嫌がらせも臆する事がなかったほどだ。


そんな姉が壊れた。

あの日、姉が2人の男に犯された。

俺は、犯される姉を黙って見てるしか出来なかった。

怖かったんだ。まだ死にたくなかったんだ。


16歳のガキだったから仕方ないと世間は言うだろう。

母さんや父さんも仕方ないと許してくれるかも知れない。

でも自分が一番許せないんだ。

情けなくて悔しくて惨めで……。


事件の後、俺と姉は母さんの妹…つまり叔母夫婦に引き取られた。

叔母さんも叔父さんも優しくて2つ下の従姉妹の咲音さきねも妹みたいに仲良かった。



「叔母さん今までありがとう。叔父さんも色々ありがとね。」


優兎ゆうとお兄ちゃん本当に出て行くの?」


「あぁ…サキネも色々ありがとな?」


「ううん。私も楽しかったから!」


「そか、そう言ってくれると嬉しいよ」


「でもユウト、ミホノは置いていって良いんだよ?」


「叔母さん、気持ちは有難いけどダメだよ。姉さんは俺が面倒見る!また1から始めたいんだ」


「頑固な所は、お姉ちゃんソックリね…」


そんな会話を交わし俺は姉さんを連れ叔母さん達の所を出た。

それが去年の話だ。

姉さんと2人暮らしを始めて一年が経とうとしていた。


お金の事は母さんと父さんの遺産があるから当分大丈夫だろうけど、流石に俺1人のバイト代じゃヤバい。

姉さんにも頑張ってもらいたいんだが、それはまだ無理だ。


先に姉さんを復活させないと…。

でも無理はさせられない。


姉さんは俺の自慢だ。

こんな風に抜け殻になっている人生を送る人じゃないんだ!!

美人で頭も良い、芸能界だって入れるような人なんだ!!!


「よし!!」

そう言って{バン}っと頬を叩く。

俺はソファから立ち上がり姉さんの部屋に入る。

姉さんは布団の中にいた。


「姉さん、ご飯食べよ?お腹すいたでしょ?」


昔は長くて綺麗な髪だったのに今は手入れしてないのかボサボサだ。

顔だってやつれてて生気が無く、せっかくの美人が台無しだ。


「ほら姉さん立って?」

そう言って姉さんの手を取り引っ張る。

すると姉さんは、そのまま立ち上がってくれる。


「このままテーブルまで行くよ」

姉さんの手を掴み腰を支えて一緒にゆっくり歩く。

ウチは広くないので弁当が置いてあるテーブルまでは、すぐそこだ。


そして椅子を引いて座らせる。


「自分で食べれるよね?」

そう言うと{コクン}と頷き弁当の蓋を取る。



「いただきます…」

か細い声でそう言うと姉さんは弁当を食べ出す。


俺が姉さんを守らないと…。

あの時何も出来なかったからその分ちゃんとやらないと。

そんな気持ちが俺を動かすエネルギーになる。


「ねえ?ご飯食べたらお風呂入りなよ。ちょっと匂うよ」

そう言うと小さく{コクン}と頷く姉さん。


「よし!まだ夕方だけど風呂沸かすよ!俺も今日は早く入ろ!」


そして俺はお風呂のスイッチを入れる。


「い、一応聞くけど、1人で入れるよね?」


何故か胸が{ドキドキ}と脈を打つ。

相手は血を分けた姉さんだと分かっていても童貞の俺は意識をしてしまう。


そんな馬鹿な事を考えてたら姉さんが{コクン}と頷き、安心したような後悔したような変な感情が渦巻いた。


普通の兄弟なら弟は姉にパシリにされたり虐められたりで、ムカつく奴って認識になり異性として認識しなくなるんだろう。

実際従姉妹のサキネには、そんな認識があり最初こそ意識はしたが今はまったく異性としての意識は無い。


俺にとって姉さんは姉と言うより守らないといけない大切な人って認識が強くて彼女とまでは言わないが、とてもとても脆くて壊れやすい宝石のような存在になっている。


多分彼女が出来ても、子供が出来ても、それらより姉さんを優先にすると思う。

言葉では言い表せれないそんな存在なんだ。


こうして俺の1日は終わる。

姉さんを社会復帰させる!その目標を掲げ明日も頑張ろう。

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