彼女の名前は

バブみ道日丿宮組

お題:近いギャグ 制限時間:15分

彼女の名前は

「……?」

 駅に近づくと騒がしかった。

 駅員がしきりにメガホンで何かを叫んでる。まわりにいる人のやじが耳に入って情報が入ってこない。

 電車が止まってるのは間違いない。

 それがいつ終わって、いつ再開するのか。

 問題はそこだと思う。

「……はぁ」

 ついてないな。

 入学して、最初の日。

 軽い自己紹介があるはずなのに、それすらも間に合わないかもしれないなんて。

「どうかしたの?」

「電車が止まってるみたい?」

 声に反応して振り返れば、髪の毛が白いお人形さんみたいな少女がいた。

「ん? どうかした?」

「なんでも……ないです、はい」

 えっと……どうしよう。知らない人に声かけちゃった。しかも敬語なしで……。

 はわ、はわはわわわっわああああ。

 頭の中にクエスチョンとビックリマークが連呼した。

 ど、どうしよう。なにか話したほうがいいのかな……。

「じゃぁ歩いて行こう」

 ほらと、手を差し伸ばされた。

「えっと、はい?」

 思わず条件反射でその手を掴んでた。

「私、あなたと同じ大学」

「そうなんですか?」

 なんでわかったんだろう? 服は私服だし、学生っぽいといえばそうだけど、同じ学校ということはないだろう。

「えっと、○☓大学ですが、同じなんですか?」

 手をしっかりと包んだ少女は、

「そうだよ、○○」

 なぜかわたしの名前をいった。

「ど、どうしてわたしの名前を……?」

「約束したでしょ。あの日、あの時、あの場所で、再会しようって」

 その言葉にうっすらと記憶が重なった。

 確かに幼い頃、幼稚園に入って間もない頃にわたしは誰かと約束をした。

『ある大学の桜を一緒にまた見よう』と。

 その少女はすぐに引っ越していなくなってしまった。そのためわたしの記憶から消えるまでそう時間はかからなかった。

 今思い出せたのは、

「忘れてたなら、ギャグとして受け取ってあげる」

 彼女の特徴的な髪の色……が脳を刺激したから。

「ん」

 ほら、いこうと手を引かれたわたしは静かにその動きに従った。

「久しぶり」

「は、はい、お久しぶりです」

「どうして敬語?」

「え、えっとはじめましてだからじゃないですか?」

 それは違う。

「ん、じゃぁ学校着くまでに直して」

 彼女は肩越しに一度振り返ると、前を向き昔話を始めた。

 それはわたしがいる世界と、彼女がいた世界の話。


 そう……彼女はここではない異世界からやってきた旅行者であったのだった。

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彼女の名前は バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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