新しい経歴

バブみ道日丿宮組

お題:知らぬ間の経歴 制限時間:15分

新しい経歴

 よくわからないことはよくわからないままでいると、凄く苦悩する。

 それを知ったのは、新しい職場での出来事。


「ねぇ、新しいツールなのだけど」

 前の座席から声がかかる。

「僕ですか?」

「そう、あなた。だいたいあなた以外にこの区画にはいないじゃない」

 それもそうだ。周りを見渡しても僕以外に人間はいない。

 このフロアには2人しかいない。

 ここに配属された時、一番腑に落ちなかったことだ。

「そうなのですが、不思議じゃないですか?」

 この際質問に質問で返すのはあれだが聞いてしまおう。

「なにが?」

「どうして新人である僕がこのよくもわからないところに配属されたんですか? もっと研修とかっていうか人が多いところが普通じゃないですか?」

 前の職場はそうだった。

 数にして、20人がカタカタとキーボードを打鍵する退屈な場所だった。もちろん会話もない。それで精神を病んだ。僕と一緒にやめたのは会社の半分ほどの人数。いずれも精神疾患を診断された人ばかり。

「そうね、そうね」

 ここはといえば、14畳ほどのエリアに机が2つ……それも並べるのではなく向かい合わせて中央に置かれてる。ディスプレイで顔はほとんど見えないのは仕事をする上で圧迫感はないが……さすがに広すぎるのは身体に違和感がある。

「ここの会社はほとんどソロか、2人……多くて4人が1つのフロアを利用してるの」

「それは……またどうしてですか」

 コストがかかり過ぎだろう。

「嫌な上司ってのは数が増えれば当然出てくるし、好感を持てる同期も当然でてくる」

 前者は凄くわかるが、後者はどうだろう? 同期なのだから仲良くなって当たり前のことだろう。

「それにここは経歴として載せるにはあまりにも異端だからね」

「普通のプログラマーとして入ったんですが、違うんですか?」

 募集要項にもプログラマー募集と書かれてた。面接もその部分を聞かれたし、僕が扱える技術もそこらへんになる。

「死体処理とは書けないからね」

「えっ? なんですが、死体?」

「そう。私たちが扱ってるこのブロックってのは1人の人間の身体を示してるの」

 パソコンに目を向けると、1つのブロックが先輩からこちらに承認要求として提示されてた。

「これ人なんですか?」

「そうね。人を仕分けるソフトを私たちは扱ってるの」

 冗談で言ってるのかな、この人。

「だから、プログラマー(死体)が経歴になるの」

 それがいったいなぜ少人数にならなきゃいけないのか。

「近くにいる人物がもしこのブロックになってしまったら、怖くなったり、嫌になったりするでしょ」

 つまりはそういうことよと先輩は答えた。そして再度ツールについて僕に追求した。

 僕はといえば、応えることは答えたがなにがどうなのか理解する思考は一行に降りてこなかった。

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新しい経歴 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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