一人娘
バブみ道日丿宮組
お題:ドイツ式の葬式 制限時間:15分
一人娘
日本式の葬式すら殆ど知らないのに、ドイツ式の葬式なんてまるで知らない。
知らないことを知らないまま過ごすのは基本的には良くない。
ただ知ったところでとくに得をするようなこともない。
だったら、時間という労力をさけずにそのままでいるのが結果的にはいい。
そんな当たり前のようなことを知らない子供は今日もグーグルで検索をしてる。
「お父さん、葬式ってなんなの?」
テレビのCMで流れてたからか、同棲相手はそんなことを口にする。手元にはスマホがある。検索しないところをみると、大したものごとではないと認識してるようだ。
「学校で習わなかったか?」
「うーん、わかんない。だって、最近通うようになったんだもん」
そう。僕の同棲相手である娘は今まで学校に行ってなかった。それは彼女がいた孤児院全員が同じで、知識に関することは本棚にある本と、親代わりの先生からの話からしか知ることはなかったという。そんな場所で成年となったものたちがどんな未来をたどったかはここには書かない。
ただ酷いとだけいっておこう。
どこにもいない人間が、どこにいってもいない存在で、どこでも知らない。
孤児院でもかなり酷い部類のが娘がいたところだ。ちなみに今はもうなくなった。なくなったという事実が何を意味してるのか、考えたくもない。
僕はそんな不幸を思って、1人の子供を引き取った。
それが娘である彼女だ。
「そっか。そのうち習うと思うが、死んだ人を天に帰す儀式みたいなものかな」
ふーんと娘は納得してるような、納得してないような返答。
この娘は賢くて、よくわからないことはよくわからないままにして、わかることを非常にわかるようにする性格だ。おそらく彼女がこれまで生きてこれた処世術なのだろう。そんな彼女にとって、葬式はよくわからないことに設定されてたのかもしれない。
「……お姉ちゃんが動かなくなった時、先生が祈ってたんだ」
数分黙ってたと思ったら、娘はそんなことを喋り始めた。
それは孤児院ではよくあったことなのだろう。誰かがいなくなる、誰かが亡くなる。
「そうか。それはきっと違う葬式なのだろう」
頭を撫でると、嬉しそうに娘が笑った。
本当に幼馴染にそっくりだ。あまりにも瓜二つで僕の目がおかしくなってしまったんじゃないかと疑うほどだ。
幼馴染という存在がいなければ、おそらく娘を引き取ることはなく、ただ時間をつぶすという理由で孤児院の紹介を受けてただろう。
「あのね」
スマホを操作しながら、何かを娘は話しだそうと……。
一人娘 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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