車には確かにその痕跡が残っている。

 雨でも、雹でも、雪でもなく、フロントガラス一面を覆った鼠。


 歳をとると聞こえなくなるモスキート音のように、幽霊もある一定の年齢を超えるとまるで何も感じなくなる。

 しかし、何かを伝えたいというおもいが強ければ、強いほど、見えなくなっている人間にも突然見えたりするのだ。

 それがいわゆる心霊現象や怪奇現象の類。


 心霊スポットとされている場所は、そこに残されている念いや強く残っているため、より見えやすいのだが、今回事件が起きたアパートも、スーパーも特に心霊現象が起きやすいような場所ではない。

 ほとりの森公園の池周辺であれば確かに起こりやすいが、公衆トイレは少し離れていた。


 何か伝えたいことがあるからこそ、この三人の目撃者の前で起きているはずなのだが……一体、共通点はなんなのか。


「この目撃者の三人について、改めて少し整理してみた方が良さそうだね」


 占いの館に戻り、友野がそう言うと、広告のチラシと占いのメニュー表を貼っているだけになっていた会議用の大きなホワイトボードを、いつの間にか渚が引っ張り出してきて、貼られていた占いのメニュー表を無造作に外した。


「あぁ、ちょっと! ナギちゃん! もう少し丁寧に扱ってくれるかな? 一応内装の一部なんだから!」

「どうせこんなの全部偽物じゃないですか。四柱推命も占星術も手相も先生知らないでしょ? 憑いてる霊さえ見えれば全部わかるんだから」

「それはまぁ、そうだけども……一応俺、本職は占い師だからね?」


 友野は主に占う相手に憑いている守護霊を見ている。

 占い師として信用してもらうために、生年月日や手相などを見たりしているが、実際は伝えたいことがある霊から話を聞いて、それをあたかも占ったかのように見せているだけなのだ。

 たまに悪霊や生き霊が取り憑いていることもあるが、そういう時は供養する方法をさりげなく教えている。


 実家が霊媒師のため、よく学生時代から気持ち悪がられていた友野は、占い師の方がまだ気持ち悪がられずに済むからと、勘当されてまでこの職業を選んだのだ。


「そういえば、今度あの番組に出るって言ってましたけど、一体誰を占うんですか?」


 渚は占いは信じていないが、番組自体は人気のためたまに視聴している。

 結構有名な俳優やアーティストが登場することも多く、新たな一面を知れると占い好きの女子たちの間では話題の番組。


「それがさぁ、俺も驚いたんだけど、新コーナーなんだって。霊能力者と占い師の対決らしいんだ」

「なんですか、それ……」

「霊能力者を占ったらどうなるかっていう……ね。まぁ俺は直接本人を見ないとわからないから、一概にはいえないけど、テレビに出ているような奴は大抵なんの能力もない偽物だから……そうなんだろうと思うけど」


 番組側は知らないだろうが、エセ占い師とエセ霊能力者の戦いというおかしな構図になっているようだ。

 まぁ、エセ占い師の方が実は本物の霊能力者というややこしいことになっているが……


「でも、本物の可能性もなくはないですよね? 誰なんですか? その霊能力者って……」

「えーと……なんて名前だったかな? 短期間にいろんな人の名前聞いたからわからなくなっちゃったよ…………あの、ほら、ガタイが良くてちょっとヤクザっぽいサングラスの……」


 そこまで聞いて、察しの良い渚はそれが誰だかすぐにわかった。


「あぁ、あの人ですね……!! 龍雲斎りゅううんさい!!」

「龍雲斎!?」


 大人しく二人の会話をわからない世界の話だなぁ……と思いながら聞いていた隼人は、その言葉を聞いて急に大声を出した。


「え、どうしたの? 隼人くん……龍雲斎好きなの?」


 渚はてっきり、隼人も自分と同じく幽霊やオカルトが好きなのかと期待したが、隼人は大きく首を横に振って否定。


「いや、そうじゃなくて……」


 隼人はスマホで何かを調べると、友野と渚にその画面を見せた。


「ほら、例のほとりの森公園で死体が上がる前にやってた心霊番組……あれ、龍雲斎のやつです」


 隼人が見せたのは、違法アップロードされている番組の切り抜き動画だ。

 偽物ばかりの霊能力者の番組に期待していない友野は、初めて龍雲斎の霊視している姿を見て、眉間にシワを寄せる。


「やっぱり、偽物だね。ただの演出。ここが心霊スポットだというのは正解だけど、CGだよ、これ」


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