現実は自分のステータスが確認できないクソゲー

「別に学校にもプリンターくらいあると思うけど……。学校のならお金もかからないだろうし」


「なんでわざわざコンビニで……」と大助が不満そうな声をあげた。


 僕たちは近場のコンビニのプリンターで、大助が書いた台本のテキストデータをクラスの人数分コピーしていた。


「ぼくは学校抜け出して、お前は仮病だぞ?叱られて使わせてもらえなかったらどうするんだ。先に印刷して、みんなに配り終えてから叱られに行くんだよ」

「なるほど。頭良いんだね、佐藤くん」

「それほどでもない」


 ぼくはにやりと笑った。


「これは明らかに自分をそれほどだと思っている顔ですけどね」

「悪知恵が働くくせに、なぜそれを勉学や自分の人生で活かせなかったのか」


 やめろ閻魔ちゃん。痛いところを的確についてくるな。


「あ、そういえば春風さんがおまえの話、読みたかったなって残念がってたぞ」

「え!?ホント!?だ、だいじょうぶかなあ。ぼくの書いた台本、春風さんは気に入ってくれるかなあ」


 目の前でアホ面を晒しているお調子者を見ると、最初にこの話をしておけば、何の苦労もなく学校に引っ張り出せたんじゃないかと思えてきて、なんだか無性にそのアホ面を殴りたい衝動に駆られた。


「安心しろ西宮大助よ。この話は佐藤敬太の生涯の100倍面白いぞ!」

「そうですね。わたしも彼が書いた作品の中で、一番好きかもしれません」


 まるでつまらないものの例えみたいにぼくの生涯を使うな。


 鬼の感性は当てにならないが、この話がおもしろいと思うのがぼくだけではないということに少しホッとした。


 その後、予想通り二限の数学の鬼教師にガミガミと怒られたりしたものの、大助の書いた台本は無事クラスに行き渡った。


 まあ、読んだふりをしているだけのやつもいるだろうけど、そういうやつらはどうせ数が多い方に手をあげるだろうから、どうでもいい。


「それじゃあ、大助くんの話が面白いと思った人は手をあげてください」


 ぼくが教卓の前でそう促すと、数人がまっさきに勢いよく手をあげる。そしてそれを伺うようにしてから、他のほとんどの生徒の手があがった。


 ちなみに春風さんは、まっさきに手をあげた数人の中に入っていた。


「想像より面白くてびびった!」「すげー。絶対小説家になれるよ。サインもらっとこ」


 今朝とは打って変わって大助のことを褒める声が聞こえてくる。褒められている本人はといえば、恥ずかしいのか顔を赤くして頭を掻いていた。




 現実は、RPGみたいにステータスでレベルを確認できないクソゲーだ。こんな心臓に悪い方法でしか自分のレベルを測れない。ただ、「レベル、結構上がってたみたいだな」


 放課後になり、ぼくが大助にそう言うと、「うん!」と大助は力強く頷いた。


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