流転

鈴龍かぶと

流転

「よう。久しぶりだな」

「最後に会ったのは、あの時以来か」

「あれからも五年も経つのか」

「五年か……。全然実感わかないな」

「早いよな。時間の流れって」

「早すぎて流れてる感じが全然しないぜ」

「そう言えば聞いたか、あの話」

「……」

「マサトが自殺したって」

「マサトが……」

「ルイも大分精神的に参ってるみたいでさ」

「……ルイも」

「カイトはいいよな」

「俺は……」

「みんな、あの時を境に変わっちまったんだな」

「なぁ、ゴウ」

「お前なんだろ」

「……」

「お前が、皆をおかしくしたんだろ?」

「何言ってんだ」

「五年前、お前はここで自殺した」

 暗い山中で、木々を風が撫ぜる。

「次は俺だろ?」

 俺の前の木には、朽ちたわっか状のロープが揺れる。

「俺と、ルイと、マサト。俺達はお前をいじめてた。その復讐なんだろ?」

 俺は頭を地面に擦りつけた。土の上を蟲が這う。

「すまなかった。謝る。この通りだ‼」

 ぴたりと森が凪いだ。

「償いになるなら、どんなことでもする。だから、だから……!」

 月が雲に隠れる。

「結婚して、子供もいるんだ……。頼む、見逃してくれ――」

 月光が落とす影は、森を飲み込んだ。

 

「なぁ、ミナ。聞いたか? 裏山の話」

「裏山? あぁ。昔この学校でいじめられてた生徒が裏山で自殺したって話?」

「ソウマが言ってるのは、その裏山の呪いの話だろ? こえーよな」

「そう。そうだよ。山の中にそのいじめられてたヤツが首を吊ったロープがあってさ。夜中そこに行くと、道連れに行方不明になって、あとで死体になって見つかるって」

「ギンヤもソウマも、呪いとか信じるの?」

「違うよ。違うけど、他人事じゃねーだろ」

「まぁ、確かに」

 花が咲いたように笑い合う三人。

「な、ケイ君?」

 水浸しの青年は、夜の底のような目をしていた。

「お前がそこの山で自殺したら、今度は俺達が呪い殺されるかもな」

「ははは! やめなよソウマ! こいつに自殺する度胸なんてないって」

「じゃあ俺達は安泰だな!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

流転 鈴龍かぶと @suzukiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る