天界から追放された元神様は堕天した ~無敵の神様は人間の子どもの姿になっても無敵だったので追い出した神々共を後悔させてやる~

四悪

第1話 序章 追放された先で人間のお姉さんに出会った

俺は天上の存在であり、神だ。無敵、無頼、無心の三無を担っている。ただ人間の世界では名は知れてないだろう。災害は起こすが個人で下界に降りる事はない。人間と喋った事も無い。嫌いとか好きとかでは無く興味が無いのだ。ギリギリで楽しめるためには天界で追い出されない程度に暴れるのがミソなのだ。

 ただし、無頼と言っても群れるのが嫌いなわけではない。かくいう武神オノダクラや邪神セントダイバなんかは大親友だ。一緒に大地震や大津波なんかを起こしては下界にちょっかいを掛けている。神にとってはそんなの盤上の遊戯に等しい。


 人間が生まれてから始まった創世記から数百億年過ぎた下界で言うFH歴12年。天界ではある騒動が起きていた。それは人間に興味を持てなかった俺が初めて持ったせいだった。


「うがああああああ!?」


「オノダクラぁああ!?」


 天界で一番偉大な最高神ロムルジルの聖なる槍で貫かれたオノダクラの身体が下界に落ちていく。豊満な胸が素晴らしかったオノダクラ。もちろん戦えば百戦錬磨の彼女だが、最高神には勝てるはずも無かった。

 まずどうして俺たちが最高神に目を付けられてしまったかと言うと色々理由はあるが一つは禁断魔法を使用したせいだ。


 人間を制作するという禁術だ。


 俺たちは少女を作った。白い肌にクリーム色の髪をした少女は美しく可愛らしく正に神の理想である人間だった。しかし禁術がバレた結果少女は壊されてしまった。壊した神連中に追い込まれた俺たちは様々な神に土下座して、助けてもらおうとした。土下座の甲斐もあり、二神が同盟神として名乗りを上げたが、彼らは最高神ロムルジルの邪魔をされてしまい助けには来てくれなかった。


「アルグレイぃぃぃいい! もうダメですううううう!!」


 見てくれとは反して臆病者の邪神セントダイバはその小さい身体をどでかいフードコートで隠しているため顔が良く見えないが発狂しながら俺を見ているのだろうか。その断末魔は迫真だ。


「に、逃げるぞ! セントダイバ!」


 なんとか手を握って逃げようとしたが俺の手よりも早くロムルジルの槍がセントダイバを貫いてしまった。初めて見た彼女の顔は……何も無かった。無だった。


「うわあああああ!!」


「セントダイバァアアアア!!」


 遂にセントダイバまで。天からどんどん堕ちていく仲間たち。遂に最後である俺の番だ。背後にはロムルジルが屈強な肉体を揺らしながら近づいてきていた。


「観念しろ。アルグレイ」


「ロムルジル! 貴様だけは!」


 最早笑えない状況に昔からの友人を睨むことしかできない。ここで天界から追放されるわけにはいかない。俺にはやるべきことがあるのだ。


「はぁ。貴様には借りが無いわけではないゆえ、これまで見逃してきたがここまで天界を騒がせた罪は重いぞ」


 ため息を吐かれたのには腹が立つ。こんな静かでつまらない場所を騒がせた程度でこの仕打ちとはやはりつまらない場所だ。


「一生ここで既に滅んだ魔神に思いを馳せて無駄な時間を生きていれば良いさ」


 そりゃ裏切ったのは悪いとは思うが、神の間で裏切りなんて常だ。いちいち尻の穴の小さい男だ。そんな事を思いながら悪態を吐く。


「そうだな」


 こいつには悪態も嫌味も通用しない。最高神ロムルジルとは清潔で高潔で純潔を重んじる友人だったな。


「なあああああああああ!?」


 無慈悲に放たれた聖なる槍に貫かれた身体は身動き一つ取れない。動けない。自然と視界が真上へと持ち上がっていく。そうか、下界へ落ちるのか。光に包まれ溶けていく。意識と心、身体と頭がぐちゃぐちゃに溶け合う。もしかしたらあの少女のような人間に会えるかもな……。


 ―――――――――――――――


 目が覚めるとそこは廃墟になった教会だった。壊れた女神像と剥げた壁面の絵。どこの神が住んでいたのかは知らないが、神格の存在が今も居るとは思えない。けれどちょうど良いか。しばらくここで休ませてもらおう。


「頭が痛いな」


 頭が痛い? 神である俺が? 何かが変だ。酷い頭痛に苛まれた俺は床に砕けた硝子を覗き込む。するとそこには信じられないモノが映っていた。


「……なんだこの姿は!?」


 黒く艶やかだった天界と下界を行き来できる双翼、全ての生物の真意を見抜く天使の輪、どんな巨大な武器も持てた大腕。様々な権能が消えていた。写るのは美少年。しかも人間だ。


「これが俺だと……!」


 絶望した。これでは天界に戻れない。それにどう見てもただの人間の子どもだ。こんな姿で堕天するとはなんて運が無いんだ。

 堕天神とは神から下界の生物に格下げされる事だ。権能の全てを失ったと言ってもいいだろう。なのに子どもの姿とは。


「くっそ……」

「君、大丈夫?」

「……?」


 不意に声を掛けられ、振り向いた。そこには廃墟と化した教会には不釣り合いなほど綺麗な祭服を着た女がランタンを片手に困り眉で突っ立っていた。ここの修道女だろうか。まさかまだ管理している者が居ると言うのか。


「迷子かしら……君、大丈夫?」


 優しく語りかけてくる女にどう答えた方が良いのか。ここで大人しく引き下がったとしても帰る場所など無い。無神の権能があったなら話は別だが、今は無力な人間だ。


「帰る場所が無い」

「もしかして戦災孤児かしら……でもこの辺で最近戦争なんて起きてないのに」

「ここはどこなんだ?」

「え? ここは……なんだろう、この音」


 彼女の言葉は途中で遮られてしまう。教会の外から金属製の物がこすれ合い、ガシャガシャと言う音が聞こえてきたのだ。変な匂いがする。この匂いは獣だろうか。


「ここで静かにしててね。私、外見て来るから」


 恐怖に震えながら言う人間ほど頼りにならないものはない。


「俺も行こう」

「ダメ。危険かもしれないから」


 なぜこうも過保護にされているのか。子どもの姿だからだろうか。そういえば人間は幼少期の生物を可愛がるんだったか。そういえば俺が作ったあの子もよく可愛がられていたな。


「水を……水をくれ……」

「ど、どなたですか? 水ですか?」


 彼女が外に出る前に教会の中に獣が入り込んできてしまったようだ。

 いや、獣と言う表現は上品すぎるかもしれない。外見は壊れた鎧を着こんだ人間だが、人面獣心とはこの事だな。奴の心は既に下界から離れて深淵に飲み込まれているようだ。


「み、水……」

「水ですね! 待っててください!」

「お前の……血で良い……!」

「え、きゃあああ!?」


 水を汲みに行こうとした彼女を人面獣心の徒は何のためらいも無く襲い掛かる。理性も無い上に欲望には貪欲。まさにケダモノだな。

 彼女は持っていたランタンをケダモノに押し付け、噛まれないように防いでいるが時間の問題だろう。


「逃げて! 君!」


 この女は俺に向かって言っているのか。今まさに殺されかけているのは誰か。その把握すら出来ていないのか。それとも庇っているのか。……あの少女のような優しい人間か。


「まさか持てないなんて事は無いよな」


 教会の床に散乱している壊れた長椅子の足を片手で持ち上げる。少し重圧感を感じるか。ああ、苛立ってしまうな。


「ふんっ!」


 苛立つ気持ちを投げ捨てるよう、女に覆いかぶさるケダモノに投げつけてやった。長椅子は平凡な速度で獣に直撃する。


「んぎゃあっ!?」


 教会の壁と長椅子の間で血しぶきを上げ、圧死するケダモノ。そんな姿を見てもスッキリもしない。自然とため息が出る。

 目にも止まらぬ速度で隕石を下界に落としていた事のある俺が今はこんな平凡な速度しか出せないとは悔しいにもほどがある。


「……これからどうしたものか」

「あ、あの! 助けてくれてありがとうございます!」


 襲われていた女は身なりを整えるのも忘れて、頭を下げだした。急な態度の変化に自然と首が傾いてしまう。


「な、なんの真似だ?」

「も、もしかしてあなた様はこの教会を守っていた神様の生まれ変わりですか!?」


 急にそんな事を言われるが身に覚えのない事だ。それもそのはず、下界に俺を祀る物なんて無いはずだからだ。


「ふむ……」

「ユマロー様、ですよね?」


 何か勘違いされているようだ。どうやらあれだけの行動だけで超常の物だと理解したらしい。人間とは妄信が過ぎるな。

 しかしここで違うと言っても何も始まらない。俺は――――。


「ああ、そうだ。私はこの教会を司る神格だ」


 嘘を吐いた。

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