第17話 犯人らしき人物、捕縛
崚汰と鶩名は二人で東京の神楽坂の路地裏へとやってきていた。
靴でアスファルトを踏みながら、辺りを見渡す。
あまり、人混みは多くなく静かなものだ。
近くには居酒屋などがあり、落ち着いた空気を纏っている。
東京に訪れるようになって、スーパーは寄った経験を積んだが他の場所にはまだ慣れていない。
「緊張、しますね」
「助手君、慣れてもらわないと困るよ」
鶩名さんはケロッとした態度で笑う。
……彼女のことだから何か考えがあってのことなのは重々わかってはいるつもりだが。
やはりうまく読み取れない。おそらく犯人は絞り込み始めているんだろうが、自分の推理力は弟が見てるドラマ程度の知識だ。
ごくり、と生唾を飲む崚汰。
「……本当に犯人はいるんでしょうか?」
「いいや、必ずしもここにいるとは限らない。彼らが呼ばれることが多い場所と言うだけで実行者が一人だと断定できたわけじゃないしね」
彼女は後ろで腕を組んで歩く。
鼻歌を歌いながら、リズムよく歩く。
……鶩名さんの意見は最もだ。
しかし、来た意味はあるのだろうか。他の特定の場所の操作をする方が有意義にも感じられる。
ちらっと崚汰は縄が入った自分の鞄を見る。
「これ、本当に必要ありますか?」
「犯人なら動けないように捕まえるべきだろう? それに護身用としても使えるし至れり尽くせりだ。君は学生でもあるんだから放火魔に焼死させられないようにできるかもしれないだろ?」
「鶩名さんは、犯人は誰かわかっているんですか」
「今の所、選択肢は二つにまで絞り込めたよ。神楽坂の路地裏で彼が呼ばれているという点も、僕は思う点がある」
「もう二つですか!? ……すごい」
俺でもまだ特定しきれていないと言うのに……すごいな、流石は探偵だ。
ふふん、と鶩名さんは陽気に微笑んだ。
「小鳥ちゃんは言ってたけど、梓川さんは星宮麗羅さんの家まで君たちをストーキングしていたって話があったからね。もしかしたら……」
「……?」
鶩名さんは何を差して言っているんだろう。
梓川はあの事件以降、友人たちと前よりも仲が良くなった印象だ。
星宮さんも、大丈夫……? ストーカーの件は梓川だったとなっているが、解決したかどうかは本人からは聞いていない。
……もしかして、梓川か、星宮に関係している?
そんなわけ、ないよな。流石に。
「鶩名さん、あの、」
俺は自分の憶測を口にしようと彼女に声をかけた。
背後から何か殺気を感じた。
「この――――!! ぐあっ!!」
若い男の声が聞こえたのと同時に目の前にいたはずの鶩名さんが俺を横切り、右ストレートで男性を殴り飛ばした。
吹き飛んで尻もちを着く男性は痛みに悶えていた。
鶩名は男性に叱った。
「ダメじゃないか、いきなり人に斧を向けるなんて。木こりなら割る物を間違えてるよ」
「っぐ!! な、なんで神秘探偵がここに!?」
「おや……知ってるのか。なら、話は早い」
鶩名は俊敏な動きで男を首を絞める。
プロレス技っぽい動きで、男性が鶩名さんの腕を必死に掴む。
「ぐぐぐっ……が、っ」
男性はだらんと体を鶩名さんにもたれる。
気絶した、ってことか?
「……落ちたね」
「大丈夫なんですか?」
「こうみえて人生経験は豊富な方でね、体術の類は徹底的に習ってきたんだ。彼は死んでないよ」
「よ、よかったぁ……」
崚太は胸を撫で下ろす。
よかった、鶩名さんが手加減できる人で。
「小鳥ちゃん。僕のスマホからゴブ君に連絡を。僕の知人Sにって言えばいいから」
「は、はい!」
鶩名は男性の首を絞めつける腕を解かないまま崚汰に指示をする。
ファーコートの上着のポケットからスマホを取り出し、鶩名に指示されるがままゴブ先輩に通話した。
『もしもし、マスター? どうしたんです?』
「ゴブ先輩! 俺です、後輩です! 鶩名さんの知人Sさんに連絡してください! 犯人らしい人物を捕縛したので!」
『あ!? わ、わかった。ちょっと待ってろ!!』
プツ、と向こうが連絡を切ったのか、通話が終了した電子音が耳に残る。
「……手慣れてるね」
「こういうのはスピード重視でしょ? 下手にみんなの裏方回ってた側の人間じゃないですよ」
「流石は僕の助手だね」
「……ありがとうございます」
鶩名はふふんと自慢げに微笑んだ。
俺は溜息を零しつつ、鶩名さんに渡されていた縄で男性を拘束する。あんまり人を縛ったことがないから、感覚が解からないな。
隣から鶩名さんが犯人を捕縛中に隣から割り込んでくる。
「違うよ、小鳥ちゃん。縄のことをもっとうまく使わないと」
「え? 普通に腕を縛っていればいいんじゃ」
「それだけじゃ、駄目なんだよ。こういうタイプの人間には、屈辱的な手法がいい」
鶩名さんが縄を解くと、亀甲縛りめいた拘束を男性に施した。
……鶩名さん、SMの類の縛り方もできるんだな。
「それ、本当にいいんですか?」
「ああ、後は腕と靴に何か隠してないか調べておこう。後で隠しナイフを持っていて逃げられる可能性もあるから、服の袖とポケットは念入りに、靴は脱がしておこう」
「……徹底しているんですね」
「気絶したフリで脱走されたらたまらないからね。推理小説の知恵だよ」
まるで暗殺者とかそう言う類の徹底の仕方じゃないか?
探偵のやり方にはどうも見えない。
鶩名さんは立ち上がり屈伸する。
「後は崚汰君、君が彼を僕の探偵事務所まで運ぶだけだよ」
「この状態の人をですか!? 俺たち変人だと思われますよ!?」
「神秘探偵がどういうものか、君は知る必要があるかな……小鳥遊崚汰君。神秘という物はどこに潜んでいるかは、全てなんて悟れないんだよ?」
当然、と取れる言い回しで言う鶩名に崚汰は抗議した。
「い、いや、そういうことを言いたいんじゃなくっ」
「大丈夫大丈夫。ゴブ君が呼んでくれたならすぐに来るよ――――僕らの愛しき尋問のプロフェッショナルがね」
「尋問……? プロフェッショナルって、」
背後から、アスファルトが踏む音が鳴る。
革靴、っぽい音に振り返る。
「おー、おー……鶩名様ぁ、びっくりするじゃないですかぁい。急に呼び出しとはぁ、もしやぁ逢引ですかなぁ?」
「……貴方は、」
そこにはミステリアスな雰囲気のある華奢な男が立っていた。
年寄りみたいな低みのある声で、不思議な間を感じる話し方だ。
丸くて黒いサングラス、全体的にモノトーンの印象を受ける秋用の衣服は彼のスマートさが出ていた。同時に、胡散臭い男、というのが崚汰にとって強い印象でもある。
「やぁ、久しぶりだね。
鶩名さんは、笑顔で彼の名前を呼んだ。
……誰なんだ?
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