第27話

うちに自転車がないころ、


あなたとパパは、どこに行くにも徒歩だった。


(ママはどこに行くにも車だったけど。)


真夏の朝、ママが疲れて寝ていると、あなたはパパと朝のおさんぽにいく。


真夏のお昼、近くの川に、お魚さんに餌をあげるとパパと出かけて行く。


坂の上にある水天宮まで、歩いて行って、林の中で一休み。


帰りは、パパに抱っこされて、汗びっしょりになって帰ってくるの。


パパはよく言ってたわ。


「寝た子は重い」って。


遊びすぎると、熱を出したり、夕方、すごく機嫌が悪くなるから、


ママはまたパパに文句を言うの。


だけどね、どんなに疲れても、親はね、抱っこの重さを愛おしく思うのよ。


ママも、0歳のあなたの重さ、1歳の重さ。2歳の重さ、3歳の重さ、


どれもちゃんと覚えているわ。


あなたはだんだん重くなる。親は、だんだん歳をとるから、反比例で、


あなたの重さが辛くなる。


ママは、「抱っこグセがつくからすぐに抱っこしないで」って


パパにお願いしていたけど、パパはそれだけは絶対に聞いてくれなかった。


優しいパパにしては、珍しく、頑なにね。


理由は二つ。


「長い人生の中で、抱っこできる期間は子供が小さいうちだけなんだから、抱っこできる時期はできるだけ抱っこしてあげるべきなんだ。どうせ、思春期になったら、親なんてウザがれる存在になるのだから。」


もう一つは、

「肌の温もりが、人間の安心の、愛情の根源なんだ。親として、子供に与える愛情で、これ以上のものはない。どんなに贅沢で、環境が整っていても、口でいくら好きだ、大事だと言ってもダメ。温もりに勝る愛情はない。」


その信念が彼にはあるの。立派ね。あなたのお父さんはとても立派なのよ。


若いからかもしれないけど、なかなかそんなことを強く思える人はいない。


ママはいい人に巡り逢えたのよ。


パパは有言実行だったわ。結局、あなたは10歳になっても、人の目を気にせずにパパに抱っこされる子に成長するのだから…。笑

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