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今にも目を瞑りそうな眼を擦りながら、教科書を開いて駅までの道を歩く。
昨日はほぼ徹夜だったから死ぬほど眠い。
まあ勉強が捗ったかといえば別にそんなことはないのが逃れようのない苦しい現実で、結局昨日まともにやったのは今日の三科目の内一つだけだ。
……いやまあ誰が悪いと言えばそれはもう俺が悪いとしか言い様がないのが辛い所。
ここ最近掃除してなかったからちょっとだけ片付けようとしたら、まるで読んでと言わんばかりに顔を出してきた一冊の本。それを手に取ってしまったが最後、己の存在を誇示するかのように照りつける朝日が窓から拝めてしまっていたのだ。
……つくづく己の心の弱さが嫌になる。
まあ自分に正直じゃなきゃ
それなら早く登校して勉強しようかなとも思ったが、もしも
無駄に優秀だしなあいつ。無いとは言い切れないのが辛いところ。
そんなわけで今この瞬間に死にもの狂いで赤点ルートに抵抗しているのだ。
幸いにして今日は暗記科目で授業もそれなりに聞いてたし、このままやれば平均点くらいはいけるかもしれないな-。
「──あ、
ちょっとだけ前向きになったところで勉強を再開しようとすると、馴染みのある声が俺の名前を呼んだ気がする。
何となく声の主に想像を付けながら振り向くと、案の定そこには見知った顔の女性が笑顔でこちらに歩いてきていたのですぐさま教科書を鞄に仕舞う。
「
「うん、久しぶり」
白姉──
俺が一番知っているご近所さんで、小学校の頃とかはよく家で遊んでもらったりしていたこともあるくらいには付き合いのある人。
「最後に会ったの半年くらいかな? 中々会えなくて寂しかったよ?」
「そんな前だっけ?
「そうなの? でも私は光君の制服姿、今日が初めてなんだからね?」
……言われてみれば、確かにそうだった気がする。最後に見たときは確かぎりぎり
彼女の弟である竜兄──
「そっか。……そういえば、何か悩んでいたけど大丈夫だったの?」
「えっ?」
「ほら、何かやけにため息が多かったりしてさ? 大学で嫌なことでもあったのかなって」
前回会ったとき、白姉は失恋でもしたかのように上の空な感じがあった。
まあ白姉も大学生。大丈夫だよと話されなかったので、俺にはわからない面倒なしがらみでもあるんだろうなと適当に解釈していたが、もう半年だし少しは状況は良くなったりしたのだろう。
「……ん。ああ、あれならもう解決したから大丈夫だよ。心配掛けてごめんね?」
「そうなんだ。なら良かったよ」
少しだけ陰りを見せたような気もするが、それを気のせいだったかのようにすぐさま笑顔を見せてくる白姉。
……ちょっと気になるけど、話したくないみたいだしとりあえずは放置だな。心を覗いても良いけど、あんまり知り合いには使いたくないし。
歩きながら久しぶりの会話が弾んでいく。
白姉も大学三年にになってちょっとだけ時間に余裕が出来たとかバイトを始めたとか、後は竜兄が英雄協会の試験を受けようとしていることとか。
「へえ。竜兄そんなこと言ってなかったけど」
「……あ、聞かなかったことにして? 竜司ったら合格したら自慢するんだー言ってた気がするから」
「あはは……。オッケー了解」
相変わらずおっちょこちょいな所あるなぁ。よく知らない人間はそう思わないらしいが、これじゃあどこまで取り繕えているのか疑問ではある。
──まあ白姉がドジやったところで、よっぽどじゃなかったら愛嬌で済まされて終わりなんだろけどなぁ。
時間とは楽しい物ほど早いもので、そうこう雑談に花を咲かせているといつの間にか目的地の駅に到着してしまった。
「じゃあ私はあっちだから。今度はゆっくり話そうねー」
「うん。じゃあまたね」
白姉はこちらに手を振りながら、反対側のホームに上る階段に進んでいく。
あー楽しかった。それにしても、やっぱあの人は綺麗だなあ。だいぶ前から酷く忙しそうだったけど今はそんなこともなさそうだし、少しは安心したかな。
やっぱ俺が
それにしても竜兄が英雄協会かぁ。確か俺ほどじゃないけど頭良くなかった気がするし大丈夫なんだろうか。
正直かち合いたくはないが、もしもの時に対処できるよう考えておく必要があるかもしれないな。
……まあ竜兄が受かる確証はないし、とりあえず今は保留で良いか。
適当に考えていると電車が来たので乗り込むと、意外と席が空いていたので適当に座る。
……さて、楽しい時間は終わり。いよいよ死ぬほど嫌な現実のお時間だ。
(……とりあえずこれで良いか)
鞄に手を突っ込み、最初に触れた教科書を取り出す。
……歴史か。……はあっ、滅入るわあ。
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