かつての悪は愉しみたい
わさび醤油
ある悪の終演
無限に続く轟音と衝撃。
遙か彼方の地上にある体すら引き裂かれそうになる尋常の外が、何度も何度も空を揺らし振るわせる。
──もう何度目になるだろうか。
数えるのすら追いつかない速度で伝わる埒外の咆哮に誰もが終わりを願い、救いを求め空を見る。
その音が響く度、人々は疑問と恐怖──そして祈りを天に強く捧げ続けるのは、誰にも捉えることの出来ない遙か先。
『──はっ!! 楽しいなアっ!!!』
「──そうかいっ!? 私はまったくなんだが……ねっ!!」
何者も汚すことの許されない遙か空──地球の果てに反響するのは、本来は起きることのない異次元の衝突音。
無限に広がるキャンパスに染みた点のように小さい二人。──何者も汚すことのない黒と白が、幾度となく火花を散らしぶつかり合う。
『──っ、見事っ、見事だ
白──
「……本当に、自首してはくれないのかい? ……君がそんなに悪人じゃないのは私が誰よりも知っている。償って、それから一緒に──」
『くどい。最早その問答も飽いてきた故、これが最後の返答だと思え』
──刹那、現れるのは無限の黒。太陽すら遮る巨大な漆黒が空を覆い、
『──超えるが良い。さもなくば、これは地上を呑み込むぞ?』
覆うほどに広がる漆黒はやがて収束し、十メートルほどの球へと姿を変えるのを見ながら
──これで最後。もう道が交わることはない。
何度も共闘し、不思議と無二の絆を感じてしまう相手。
もし何かが違えば、もし出会いが異なれば、それこそ最高のコンビになれたと確信の持てる存在。少なくとも私にとってはそれくらいには心の比重を占める憎たらしい奴だ。
けれども、そうはならなかった。──なれなかった。
彼は世界を脅かし、私は世界を守りたい──私たちを象徴する色のように相反し手を取り合うことなど許されないその関係こそが、どうしようもないほどの現実なのだ。
それは人の輝き。これから先を生きたいと願い乞う──星のように美しく気高い、闇にすら抗う人間の可能性。──彼女が
『──堕ちよ』
「
同時に放たれる力と力。拮抗する白と黒は星を呑み込み、世界が悲鳴を上げる。
『──フハ、フハハハハッ!!!』
「ア、あああああああっっっっっ──!!!!」
嗚咽と咆哮は轟音に寄って掻き消され続ける。
だが表情は消えやしない。どうしてか、苦しそうに剣を握り続ける
──まるで、何も考えず全力で力を出し尽くすだけの幼子が空で遊んでいるかのよう。いつまでも遊んでいたいと走り回る子供が二人いるかのようだ。
だが、そんな拮抗も永遠ではない。──どんなことにも終わりは来るのだが摂理というもの。
徐々に黒球が押し上げられ、光は星にを目指すかのように空に駆け上がる。
光の柱はやがて黒球を呑み込み消失させ、勢いを殺すことなく
光も闇も消失し、やがて空はあるべき青に戻り変わっていく。
「……終わったんだ」
言葉に出して、ようやくそれを実感したかのように滲む目を拭いながら少しずつ決着を噛み締める。
だが、世界を救った達成感など微塵にも感じさせない物悲しそう表情。
……引退、だな。私の役目はここで終わりだ。
彼女は決意し空を降りる。
人々に勝利を示し安心させること。それが私の──
「……さよなら」
『──嗚呼、やっぱり綺麗だなぁ』
どこかで聞いたことのあるはずの耳に馴染む優しい声は空に溶け、もう確かめることすら出来なかった。
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