五万年の時間をはさんだシベリア

シベリア

 猫のお菓子屋さんにも、宅配できるお菓子があります。

 それが、シベリア。


 シベリアって、どんなお菓子?


 シベリアは、カステラの間に羊羹ようかんが挟んである明治大正のころからある日本のお菓子。

 カステラは、ポルトガルから伝わった南蛮菓子がルーツだけれど、日本で独自の形に発展しました。そのカステラに羊羹が挟んであるんだもの、日本生まれのお菓子なのは歴然としている。

 それが、どうしてシベリアという名前になったかには、いろんな説がある。

 真ん中の羊羹がシベリアの永久凍土みたいだからとか、シベリア鉄道みたいだからとか。




 シベリアの永久凍土っていえば、1万年前に絶滅したホラアナライオンの赤ちゃんが、その中から見付かったっていうニュース、知ってる?


 まるで今にも目を覚ましそうな、生きていたときそのままの姿で、約2万8000年の間、ずっと、ずっと、永久凍土の中にいたんだって。

 ニックネームは、スパルタちゃん。


 スパルタちゃんのすぐ近くに、ボリスちゃんがいたけれど、きょうだいではなかった。ボリスちゃんは、スパルタちゃんより約1万5000年も前から永久凍土の中にいたからね。4万年以上、凍たい土の中で眠っていたんだ。


 ホラアナライオンは、今のライオンより大きくて、たてがみのないライオンさん。いわば、おっきな猫さんだ。



  

 ホラアナライオンの赤ちゃんたち、ようこそ、地上に。

 何万年かぶりの地上の世界は、どうですか?


 猫のお菓子屋さんは、あなたたちに会えて、うれしい。

 どれだけ長い時間を隔てていたって、猫のお菓子屋さんはあなたたちの仲間だよ。


 けれど、あなたたちが永久凍土の中から地上に再び現れたことがいやだったり、寂しくて泣いていたら悲しい。

 

 だから、猫のお菓子屋さんは、あなたたちのために五万年の時間を挟んだシベリアを作りました。


 赤ちゃんたちが生きていたころ、おかあさんライオンやきょうだいたちと暮らしていたころの時間が流れているシベリアです。


 寂しくなったら、泣きたくなったら、いつでも、あなたたちのところに配達します。

 楽しい夢の続きが見られるように、眠りの精のオーレおじさんのミルクも持っていきますよ。

 

 5万年の時間を挟んだシベリアが届けば、2万年の時間なんて、たやすく越えられる。4万年の時間だって、難なく超えられる。


 シベリアの永久凍土が、あなたたちに会わせてくれたように、猫のお菓子屋さんのシベリアは、あなたたちに懐かしい日々を届けてあげる。

  

 だから、もう、泣かないでね。

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