第114話 紫


真冬の空に一匹の蝶

その羽の紫がやけに気になって

見るとはなしに見ていた


吹き付ける雪混じりの風

逆らうように飛ぶ蝶を

まるで嘲笑うみたいに

さらに凄みを増す風が

蝶の行く手を阻んだ  


ふらふら揺れる紫

風に押し戻されては先へ向かい

また流されては飛んでいく

その必死さが胸に痛くて


突風についにバランスを失い

力なく堕ちてくるその体を

右手に受け止めて

ひと思いに握りつぶした


この手に残るのは

バラバラの紫と

やり場のない虚しさで


血が流れるわけではないのに 

妙に生々しい殺害の感触が

いつまでも掌に残っていた

風はいつまでも吹いていた

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