第89話 WHITE

あたり一面、真っ暗闇だと思っていた

握りしめた手、立ちすくむ足すら見えない

ただ何となく、広がる闇の中立っていた

求めるでも諦めるでもなく、ただ裸のままで


そして、それに疑問さえ抱かなかった

それはそういうものだ、とひたすら事実を受け入れていたから

だから目の前でどれだけの闇が広がろうと、僕の存在が誰からも、自分自身でさえも見えないのであろうと、

それが現実なのだと思っていた。「知って」いたのだ


そんなことだから、目の前が白くなったときは本当に驚いた

自分に何かが「見えた」こと

黒以外の色が、眩しいばかりの「白」がここにあったということ


「ここで何してるの?」

白の中から声がする 

何をしていたのだろう?何をしているのだろう?

僕は知っていた。知っていたつもりだった

何もできず、何もしようとしなかった僕自身を

「行こう」

どこへ?

「もっと明るい場所へ」

白の中から声がする

僕を誘う声がする


闇を切り裂く白は光だ

目を灼くほどに目映く輝き、包み込むように優しく広がる

ひょっとすると、僕は動けるのかもしれない

闇の中ではなく、もっと白く眩しい場所へ


僕の回りの暗闇が、白く塗り替えられてゆく

細い腕、頼りなさそうな足、

それでもそれは僕だ

しっかりとこの目に映るのは僕自身だ 


そして僕は、震えながら一歩足を踏み出した

白に導かれながら、この先へと





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