第24話・ファフニール村
結果から言えば、それはFランク相当の危険度しか持たない依頼だった。
道中3匹のダイアウルフと戦闘になった以外、これといった戦闘はなく目的地の村にたどり着いてしまった。
その3匹のダイアウルフもAランクとSランクの冒険者にかかれば、赤子の手をひねるような話だった。
「旅人さんかい?」
村に着くと、出迎えてくれたのは門番を務めるひとりの青年だった。
「……お」
青年が話しかけたのはディランさんだった。僕たち風の旅人の中で最も貫禄に溢れるのはディランさんだ。初見であればまず彼がリーダーだと思うのだろう。
だが、そのディランさんは村の威容に圧倒されていた。
村落を囲う木の柵の代わりにあったのは高さ50メートルはあろうかという石レンガの外壁だった。門の奥に見えるのは、国王直轄領を凌駕する発展した町並みで、それを村と呼ぶには無理があった。
「どうしたんだい? 旅人さん」
そのくせ、門番には自分たちの住むその場所が村を超越している自覚がなかった。
「申し訳ない、僕もなんだが、彼は少し驚いてしまって」
そう言うレオさんだが、驚いていたのは彼も一緒だ。
それに、ミアさんや僕だって驚いていた。
「俺、なにか無礼でも働いちゃったかな?」
そう言って、不安そうな顔をする門番だったがそうではないのである。
「村と聞いてきたのですが……」
交渉事はレオさんに任せるのがいいと思っている。それは、レオさんが僕に比べて圧倒的に経験が深いからだ。
「あぁ、ここはファフニール村だよ!」
ファフニールは伝説に名高い龍の一匹である。財宝を好み、集める習性があるとされている。
だが、それはどうでもいい。村と聞いてきたのにこの有様だ。更には門番の青年は、ここを村と呼んでいる。彼らの文化では、これが村なのかもしれない。
「この村と交易ができないか、その調査のために派遣されました冒険者レオです」
そう言ってレオさんは頭を下げた。
「あ、頭なんて下げないでくれ。俺、田舎もんだし、偉いわけでもないから」
門番の青年は、わたわたと慌てた様子を見せた。
確かに、この青年は作法の面においては田舎者なのかもしれない。だが、その立ち姿に隙がない。下手をすればフィリップス王国の国王直轄騎士団の誰よりも強いかも知れない。
「とりあえず、交易の話だな。ついてきてくれ、村長のところへ行こう」
「はい」
レオさんが青年に答えて、僕たち風の旅人一行は彼のあとに続くことになった。
街の中を歩く道中、僕らは門番の青年と話をしていた。
「へぇ、じゃあ都会で有名な冒険者さんなんだな」
Aランク冒険者というのは嫌が応にも有名になる。
「都会、と、いうほどでもありませんが」
そうなのだ。ファフニール村は国王直轄領と同じくらい都会に見える。
「で、そっちの大鎌持ってる少年が一番強いと?」
青年の問いには僕が応えた。
「ステータスだけですよ。経験ではほかのみなさんのお荷物です」
僕より先にレオさんがダイアウルフの接近に気づいた。気づくのが遅れたとしても問題なかったとは言え、高ティア冒険者の貫禄を僕は感じたのだ。
「でも、痕跡を先に見つけたのはサイス君じゃん」
とミアさんが言う。
最初に痕跡を見つけられたのは、正直に言うとオリバーさんの話を覚えていたおかげだ。
「っと、ここが村長の家だよ」
それは余りにも大きな家だった。というより、スケールが違うのだ。これではまるで巨人の家だ。
「村長ー! お客さんだー!」
門番の青年が大きな声で呼びかけると、扉を開いたのは巨大な龍だった。
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