第17話・神の子
屍の巨人を五体倒した頃、ソフィア様が叫んだ。
「オスカー、オリバー! 1分だけ稼いでください!」
「応よ!」
「わかった」
それは、龍の霹靂にとって終わりの始まりだった。
「サイス君よく聞いてください。私のMPはまもなく尽きます。この最後のMPを、誰よりも魔力の強いあなたの魔法を覚醒させるために使います。だからあなたは戦わなくてはいけません。私たちが戦えなくなる分も、死んでいった兵士たちの分も。でも、あなたならできるはずです。だって、あなたは誰よりも強くなった」
屍の巨人五体の経験値は僕を育ててくれた。そのステータスがこうだった。
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レベル15
HP25076/25076
MP25076/25076
筋力25076
魔力25076
素早さ25076
器用さ25076
スキル:天賦の才(大鎌)
称号:絶望喰らい
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ソフィア様のジハードによりレベルが1上がり、ブレスによりステータスが500上がっている。他の細かい支援効果は既に消え失せたが、それでも尚僕はSランクすら超えるようなステータスを持っていた。
ここまで、守ってくれたのは龍の霹靂だ。僕が一撃も食らわないように守り、育ててくれた。だから、犬死するはずの僕が今や最強の刃になっている。
「わかりました。僕は、もうこれ以上誰も死なせはしません」
その龍の霹靂に報いるために、決意した。
「その意気です! 始めます。付け焼刃です。痛みますよ」
ソフィア様が僕の手を取る。
そして、ソフィア様の手は青白い魔力の光を帯びた。
魔力が、強制的に僕の体を駆け巡る。閉じていた魔力回路を無理やり押し広げ、それは僕の全身に激痛を走らせた。だが、懲罰紋は、心のない暴力はもっと痛かった。
「う……」
少しだけ声が漏れはする。だけど、耐えられる。痛くなんてない、これは僕を強くしてくれる光なのだ。
「強い子です、本当に。何も信じられないはずのあなたが、私たちに反抗してこの戦いについてくると言ったとき心の底からそう思いました。今だって、痛みに耐えて私たちを守ろうとしてくれている」
その声は痛みを和らげるほどに優しいものだった。
やがてソフィア様の手の光は収まり、逆に僕の周りに強い光が発生する。
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レベル15
状態:魔力オーバーロード
HP25076/25076
MP25077/25076
筋力25076
魔力25076
素早さ25076
器用さ25076
スキル:天賦の才(大鎌)・天賦の才(創造魔法)
称号:絶望喰らい
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手に持つ大鎌の魔法陣が起動し、左手に青い大鎌が出現する。
不思議と魔力をどう動かせばどんな効果が得られるのか、それが手に取るように分かった。
「行きます!」
僕はソフィア様にそう言うと、遥か高く宇宙へと舞い上がった。
僕が居る空だけが、寒く凍てつき凍った空気が太陽光を乱反射する。僕はその光に魔力を乗せ、一言小さく呟いた。
「レギオン」
その光は、倒れ付し息絶えようとしている者に再び立ち上がる力を与え、生きとし生けるもの全てに恵みとして降り注いだ。
絶望の象徴とも言われるドラゴンゾンビが土の下から這い上がり地上に顔を見せたが、それを凌ぐ遥かな希望に僕はなろう。
はるか天空から僕は舞い降り、その凍てつく刃でドラゴンゾンビの首を切り落とした。
<<<レベルが上昇しました>>>
さらに八倍のステータスを得て、僕はドラゴンゾンビの群れの中に突撃する。
死の象徴でもある腐食のブレスも今は頬を撫でる風だ。圧倒的な魔力が渦巻き、僕を守ってくれた。
ドラゴンゾンビを殺すたび僕のレベルは上がり続けもう何度聞いたかわからない。
世界が遅く、僕は速くなっていく。その中でただ、僕は一陣の風となって敵を葬り去った。
気が付けば死者たちの姿は無く、
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レベル26
状態:魔力オーバーロード
HP33554621/33554932
MP12423932/33554932
筋力33554932
魔力33554932
素早さ33554932
器用さ33554932
スキル:天賦の才(大鎌)・天賦の才(創造魔法)
称号:絶望喰らい
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これが、僕の今のステータスだった。ジハードの効果はまだ続いている。
そんな時に、僕のいる空に一人の人間が現れた。仮面で顔を隠し、体をマントで覆っている。性別も、年齢もわからない。ただ、体格は僕よりも少し小さかった。
「同類だな……」
声は高く、少女のような声だった。
「あなたは何者ですか?」
僕はその人物に訊ねた。
「言っただろう……同類だ。それと、今回の首謀者だよ」
それを聞いた瞬間、僕は斬りかかった。だが、このステータスを得ている僕よりその人物はなお速かった。
僕にピタリと背中を合わせその人物は問いかける。
「なぜ人間ごときの味方をする? さんざん蔑まれてきただろう? 忌子と呼ばれただろう?」
問いかけの言葉は、僕の過去を想起させた。孤児院の冒険者候補生であった頃を。
だけど、僕には……。
「それでも、僕には助けてくれる人がいました。僕を人として扱ってくれた人がいました」
それが過去の話でも構わない。僕がこの街を守る理由なんてそれで十分すぎた。
勝てないとわかっていてなお、飛び退いて刃を向ける。
「なぜ私に刃を向ける? 同じ神の子だろう?」
「知りません。ただ、あなたは僕の大切な人を殺そうとした!」
振り下ろした僕の刃は再び空を切った。
「再び逢い見えよう。その時までに私か、世界か、選んでおけ」
その人物は、僕が反応できないうちにどこかへと消え去ってしまった。
地上は、未だ歓喜の渦に包まれている。絶望の象徴が何体も襲ってきた、その戦いに勝ったのだ。それは無理からぬことだろう。
地上からは、僕を称える声も聞こえる。英雄や、龍の落し子、と僕を口々に呼んでいた。その声を聞いて、龍の霹靂は少しバツが悪そうにしていた。
僕は龍の霹靂の下に降りた。
「みな様、ご無事でしたか?」
僕が言うと、龍の霹靂の皆様は笑った。
「様なんてやめろよ、英雄様!」
最初に言ったのはオリバー様だった。
「そうだ、俺たちなんかよりサイス君、君はずっと偉くなる」
と、オスカー様。
「ええ、そうですよ! 空前絶後の最強冒険者になります。それに、世界の滅亡を救った英雄様ですよサイス君は!」
とソフィア様が言った。
「じゃあ、これからは皆さんとお呼びしてもよろしいですか?」
「「「もちろん!」」」
龍の霹靂の皆さんは、口を揃えてそう言った。
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