レイトキャリー、神をも超える(ゴミステータスだけど、レベル上限がなかった件)

本埜 詩織

第1話・十歳の誕生日に

 母親というのは、父親に比べ、子に対する愛情が深いものだ。

「はい、アルミラージです。縛っておきましたので剣で切りつけましょう」

 その愛情のおかげで、今こうして冒険者によるパワーレベリングができている。

 今、目の前には冒険者が縛り上げて連れてきたアルミラージというウサギ型の魔物がいる。とても弱く、魔物というよりは害獣としての扱いを受ける魔物だ。

 だが、今の僕にとってはとてつもない強敵だ。


 なぜなら、僕のステータスは……。

―――――――――――――――――

 レベル1

 HP1/1

 MP1/1

 筋力1

 魔力1

 素早さ1

 器用さ1

―――――――――――――――――

 これが、僕のステータスだ。

 父曰く、生まれるべきでなかった忌子らしい。


「わかりました!」

 そんな扱いを受けていたから、にこやかで優しい冒険者ですら怖かった。

 本当に怖い時は怯えることすら許されない。怯えられたら、自分だったら気を悪くすると思うから。

 ただ、言われるがまま何度も振り下ろした剣は、一撃一撃が革命へと向かう足音だった。

「レベル、上がりました!」

 そう、アルミラージが息絶えると同時にレベルがあがったのである。

「はやいですね! 早熟型かもしれません。とにかくステータスを見てみましょう」

 早熟型はレベルが上がるのが早く、レベル上限に達しやすい。こんなに初期能力値が低いんだ、早熟だとしても、レベルアップ時の能力成長が大きいはずだと僕は思っていた。


 だが、その期待はステータスを見て打ち砕かれた。

―――――――――――――――――

 レベル2

 HP2/2

 MP2/2

 筋力2

 魔力2

 素早さ2

 器用さ2

―――――――――――――――――

 全ての能力が1しか上がっていない。

 だがこうも考えた


 どんなに劣った生まれであっても、自分に期待を持たない人間などいないはずだ。僕だって、僕自身のことが大好きだ。どうしようもない人間ながら、自分語りをしてしまうのはそのせいだろう。だから、自分のことはいいように考えてしまう。

「そ、それではレベル2までの依頼ですのでこれにて終了とさせていただきますね」

 甘い話などない、冒険者は仕事をこなすだけ。善意で仕事を増やすことも、あるいは悪意で減らすこともしない。それが規則だから。特に、こんな、見てて惨めになるような相手とは出来るだけ一緒に居たくないはずだ。

「はい、ありがとうございました!」

 そう答えて、あとは特に話すこともなく僕は家に帰るのだった。



 家に帰ると、そこに待ち受けるのは半ば僕を見捨てたような父の顔だ。

「ステータスを見せてみろ」

 僕を無能と断じた父は、きっと僕の成長を悪い方にしか受け取らないだろう。

「わかりました。ステータス」

 僕は怯えることすら許されない。心の底では捨てられるとわかっていて、それを表に出さないように細心の注意を払いながらステータスを開示した。


「ふん、やはりな。貴様は屑だ、付けた名も返してもらおう。ロードルを名乗ることも当然許さん。どこへでも去るがいい」

 ロードルは僕のファミリーネームだった。こうなることもわかっていた。だから、肩を落とすこともなかった。

「はい」

 感情を殺して、殺し尽くして家を出るべく踵を返す。


「感情もなくしたか。気持ちの悪い奴だ」

 それを言う感情は理解できた。僕という塵芥ゴミに時間を割いた虚無感を埋めるためだ。だが、僕が泣きわめけば、きっと父は力尽くで僕を捨てに行くだろう。

 だから、僕はただ大人しく従った。

 これが、僕の十歳の誕生日に起きた出来事だ。

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