オムニバスホラー 短編集

@cotyacookie

第1話 クレーマー

これは、私が1年前に体験した話です。


私は当時、電化製品を扱っている会社のテレフォンオペレーターをやっていました。




電化製品を扱っていることもあり、毎日お客様からたくさんのお問い合わせの電話がかかってきます。


しかし、一人だけ何かと文句を言って執拗に返品しようとしてくるお客様がいらしたのです。




「お電話ありがとうございます。ヤマザキ電気の佐藤でございます。どのようなご用件でしょうか?」


「あのさ~、あんたんとこで買った掃除機なんだけど、全然動かないの!だから返品したいんですけど?」


40代くらいの女性の声で、かなり腹が立ってる様子でした。


「それは大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


「田中よ。」


「田中様ですね。この度は不愉快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません。掃除機の状態をお伺いしても宜しいでしょうか?」


「スイッチを押しても全く動かないの!こんな不良品買わされたの初めてなんだけど!」


「大変申し訳ございません。返品をお受けさせて頂きます。返品したい商品のレシートなどはお手元にありますでしょうか?」


「そんなものとっくの昔に捨てたわよ!!あるわけないじゃない!!」


「左様でございますね。大変申し訳ないのですが、返品につきましては、お手元にある商品とレシートがないと受付けできませんので・・・。」


「はああ!???なんで客のこっちがあんたの会社の都合にあわせないといけないのよ!さっさと返品させなさいよ!」


「誠に申し訳ございません。弊社の規定となっておりますので、ご了承下さいませ。」


「なんなの?人に大迷惑かけといてその態度は!?あなたオペレーター向いてないんじゃないの!?」


「いえ・・・。申し訳ございません・・・・。」


「あーーイラつくわねその喋り方!この仕事辞めたほうがいいんじゃないの!?」


このようなやり取りが延々と続きました。




そして、次の日も田中さんはクレームの電話をしてきました。


「もしもし~?ここにある動かない掃除機今日送っていかしら?」


「大変申し訳ございません。ご購入されたレシートがないと返品できませんので、送られてたとしても弊社では受け取ることができかねます。」


「あんたの会社が全部悪いんじゃないの!!!こんな対応されたの初めてなんですけど!?この詐欺会社!」


「大変申し訳ございません。それでは、商品をご購入されたお日にちは分かりますでしょうか?」


「最近買ったわ。」


「最近ですね。何日にお買い上げされましたでしょうか?」


「細かい日にちなんて覚えてないわよ!他にもたくさん買い物してるんだから!!」


「ご購入されたお日にちはご不明ということですね。返品はご購入日から8日以内となっておりますので、8日以上経ってしまった商品は返品不可となります。」


「8日以内には購入したわよ!あたしは今忙しいんだから、購入した日なんかいちいち覚えてないわよ!あんたは一週間自分が食べたものを全部覚えてるの!?」


「はあ・・・わかりました・・・。それでは、その掃除機の商品名を教えて頂けますでしょうか?」


「商品名なんて分からないわよ!外箱なんてすぐ捨てたし。」


「掃除機の本体にも商品名が記載されてるかと思いますので、お手数ですがご確認をお願いできますでしょうか?」


「本体に~?ちょっと見てくるわ。」


数分後。


「もしもし~?本体に商品名なんて書いてなかったわよ?」


「記載されてなかったのですね?え~ではそう致しましたら、お調べ致しますので、一度その掃除機を店頭までお持ち頂けますでしょうか?」


「はああ!?なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないのよ!そっちのミスのくせに私の時間と労力を使わせる気!?」


「弊社と致しましても、その掃除機をお調べさせて頂きたいので・・・。」


「だからスイッチを押しても動かないって言ったじゃないの!!!私の言ってることが信じられないの!??」


「いえ・・・。レシートがない以上、その掃除機が弊社の販売したものかもお調べさせて頂きたいのです。」


「ふ~ん。やっぱ私の言うこと信じてないんだ・・・。あいにくね、今車を修理に出してるの。だからお店には行けないわ。」


「かしこまりました・・・。では掃除機の写メを弊社にメールでお送り頂けますでしょうか?」


「写メですって?あのね、私のスマホも今修理に出してるの。だから写メなんて撮れないわ。」


「修理はいつぐらいに終わりますでしょうか?」


「そんなこと知らないわよ!!私はさっさとこの掃除機を返品したいの!!あ~もうあんたと話してるとストレス溜まるわあ・・・!!」


「誠に申し訳ございませんが、返品の条件を満たしておりませんので、今回は返品をできかねます・・・。」


「何だって!?このゴミ!!詐欺会社!!客に不良品を買わせて、さらに返品もさせてくれないっていうの!?電話対応も最悪だし

!!!このクズ女!!!!」


「あ・・・あの田中様・・・・。大変申し上げにくいのですが・・・、もう少しお言葉をお選び頂けると幸いです・・・。」


「もうお前じゃ話通じないわ!!!責任者呼びなさいよ!!!!!このバカ!!!!仕事辞めろ!!!!この無能!!!!」


「かしこまりました・・・。責任者に一度ご相談してみますので、再度こちらからお電話致します。」


「さっさとしてよ!あんたと話してたら頭がおかしくなる!!」


電話を切り終えると、すさまじい疲労感に襲われました。


「はあ・・・・・なんなのこの客・・・・。こんなに非常識で自己中なクレーマーは初めて・・・。」




私はこの田中様のことを上司に相談しました。


「なんかおかしいんですよ、この田中ってお客様。レシートも持ってないし、購入した日も商品名も分からないって言うんです。それに、なんか意図的に商品の情報を教えてくれない気がするんです。車もスマホも修理に出してて、商品は持ってこれないし、写メも撮れないって言うんですよ。暴言も言ってくるし・・・。ちょっと変な人じゃないですか?」


「それは困ったお客さんですね・・・。こういう仕事してると、日ごろの鬱憤を晴らすためにクレームを入れてくる人や、誰も話し相手がいない生活を送っていて、人にかまって欲しい為にクレームをいれてくる人ががたまにいるんですよ。まあ、その田中さんって人はちょっと異常な気もするから、今回は返品を受け付けて早く対応を終わらせましょう。田中さんのクレームにばかり時間を取られていたら業務に支障が出ますので。」


「わかりました。田中様には返品受け付けますって伝えておきます。」






こうして田中さんの返品要求を承諾したのです。


後日、田中さんから商品の入った段ボールが弊社に返品されてきました。


しかし、中身を開けてみると、中には確かに掃除機が入っていたのですが、その掃除機の型番は何年も前のもので、すでに廃盤となっているものでした。

当然弊社ではもう取り扱いはしていません。


「なんだこれ・・・。あきらかにうちで買ったものじゃないだろ・・・。」


上司がダンボールに入った掃除機を手に取って確かめていました。


「ん・・・?掃除機の中に何か入ってるな・・・。」


田中さんが送ってきた掃除機は、本体は透明になっていて中身が透けて見えるようになっていました。


上司が本体の透明部分に顔を近づけて中身を確かめていたら、


「う・・・うわああああっ!!!!!!!!」


いきなり手に持っていた掃除機を振り落としてしまったのです。


「どうしたんですか!?」


掃除機は床に落ちた衝撃で本体の透明カバーがはずれ、中身が飛び出していました。


「何が入って・・・きゃあああああっっっっ!!!!!!!!!!!!!」


掃除機の本体から飛び出したものは、血のついた人の指、砕けた骨、肉片などでした。


そのおぞましいものは悪臭を放っていて、周りの上司や社員達はみんな顔を背け、嘔吐する者までいました。


本当に恐ろしい体験でした。





その後、田中さんがいったい誰なのか、何のためにこんなものを弊社に送り付けたのか理由はわからずじまいでした。


しかし、今思えば、田中さんは返品をかなり急いでいたように思えました。


田中さんは、あの掃除機を弊社に返品することで、肉片の後始末をしたかったのでしょうか。


そして、あの肉片はいったい誰のものだったのだろうか・・・。


私はその後すぐに退職し、今は別のテレフォンオペレーターの会社で働いています。


今後はもう二度とクレーマーの無理な要求は受け付けないことに心に誓いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る