第9話
午後は体力測定だった。
俺は元々運動が得意ではなく、喧嘩などもあまり勝ったことはない。スポーツも好きではなかった。
しかし、レベルアップした今の俺の身体能力がどれくらいなのか試してみたいところもあった。
まず、50メートル走だ。
去年の俺なら8秒前半くらいだったと思うが、今年はどうであろうか。
順番に2人ずつタイムを計っていく。
前の奴は陸上部の中島で陸上部でも足が速くインハイにも出ているほど強者だ。
中島は5.7秒だった。
俺の番が来てスタートする。
あまり緩く走りすぎると先生から怒られるのでほどほどに走った。
結果は5.4秒だった。
自分でも驚きの結果だ。周りはもっと驚いている。
「佐藤君ってあんなに足速かったの?」
「佐藤君って意外と運動できるんだ…」
そんな声が女子サイドから聞こえてくる。
その後には投擲があった。
野球部の人はとんでもない距離を投げているが、さすがにそれには及ばないと思っていた。
そして自分の番が来た。俺はさすがに野球部の奴には勝てないだろうと思ったので、本気ではないが8割くらいの力でボールを放った。
するとボールは学校外へ消えてしまった。
今度は見ていた人全員が、驚きのあまり言葉を失っていた。
どうやら俺が思っているよりレベルアップの効果は凄まじいようだ。
俺は今日の体力測定で無駄に目立ってしまったので、教室に帰るときはそそくさと帰ろうとした。この学校で普段地味な奴が目立つとろくな事が起こらない。
俺は体力測定が終わった後、とっとと教室に戻ろうとしたが陸上部の中島から声をかけられた。
「佐藤、お前陸上部に入らないか?」
俺は丁重にお断りするとさっさとその場から逃げた。
その後、野球部やサッカー部の人からも勧誘されることになったが、すべて断った。
帰り道、女の子が3人組の不良に絡まれていた。
どうやらナンパをしていらしい。
人のことを言える立場ではないが、なぜこの町はこんなに不良が多いのだろうか!?
女の子は同じ高校の制服を着ている。
「や、やめてください…!」
「いいじゃん。俺らと一緒に遊ぼうよ」
俺は面倒に巻き込まれたくなかったので、そのまま別の道で家に帰ろうとした。
だが、しかし……。
以前の俺なら助けに行ってもボコボコにされるだけだが、今はおそらく勝てるのではないか。
助けられるかもしれないのに女の子を見捨てて帰るのは、絶対後で後悔するだろうと俺は思った。
「おい、嫌がってるだろ」
俺の口が勝手にしゃべった。以前なら絶対こんなこと言わなかった。
一体俺は何を言っているんだ?このまま帰れば無駄なトラブルに巻き込まれずに済むのに……。
「あ…?なんだてめぇ」
「やんのか?」
俺は朝に引き続きまた人を殴るのかと思った。
しかし、3人のうち1人が俺を見て何かに気付く。
「ちょっと待て!こいつ…藤堂をやったやつじゃないのか?」
「敵対するグループなんぞ知るか!!やっちまえ!!」
1人の男が早々と殴って来た。なぜこいつらはすぐに人を殴るのだろうか?
俺は相手のパンチを避け、相手の顔を軽くビンタした。するとその男はビンタした衝撃で空中で何回転かしながら、吹っ飛んでいった。これがフィギュアスケートなら、とんでもない得点をたたき出していたであろう。
一人が吹っ飛ばされたのをみて周りの二人の顔は青ざめていた。
「やっぱ、こいつやべぇって」
「いこうぜ……」
残りの二人は俺がビンタした男を抱えて帰っていった。
「ふぅ……」
なんとか大事になる前に帰ってくれた……。
「あの……、ありがとうございます」
「ああ、たまたま通りがかっただけだから、気にしないでくれ。それじゃあ」
そう言って俺もその場から離れようとしたが、その女の子はまだ俺にしゃべりかけてくる。
「あの…、お名前は?」
「俺は2年の佐藤琢磨。君は?」
「1年の進藤茜です。あの…先輩の家まで一緒に帰ってもいいですか?」
俺はとっさの質問に戸惑った。
「俺の家まで?別にいいけど……」
なぜ進藤茜が俺と一緒に帰ろうとしたのか、理由が分からなかったが、一緒に帰ることになった。
この進藤茜という子は非常に聞き上手で、俺が会話に困ってもすぐに話題を振るか、俺の話を深堀してくれる。
まさか普段あまり目立たない俺が女の子と一緒に家に帰るなってお夢にも思わなかったが、それも今日だけなのであろう。明日にはこの子も今日のことを忘れているだろう。
俺は進藤茜とたわいもない話をしているうちに俺の家についた。
「ここが先輩の家ですか…?」
「ああ。普通の家だろ?」
「いいえ、素敵な家だと思います。場所は覚えたのでまた明日の朝来ますね」
「ん?明日の朝?」
「明日から一緒に学校に行ってくさい。先輩も誰かと話しながら歩いたほうが楽しいでしょ?」
ずいぶん一方的に決められたものだ。
しかし、何か裏があるのではないか、と考えてしまう。俺と学校に行くメリットが果たしてあるのだろうか。
過去に心の傷を負っている俺は、なんとなく誰かと深くかかわりたいと思わないようになっていた。少なくとも現実のこの世界では。
やはり今回も誰かと一緒に学校に行くなど考えられなかった。
「来てもらうの申しわけないし、いいよ」
俺は軽い感じで断った。
「そうですか……」
進藤茜は寂しそうな顔で帰っていった。
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