第2話
生春巻きは、具を包みながら皮を破って悲惨な状態にしてしまったし……。
オムライスは、卵でふんわり包めず、お皿に盛った時には原形をなくしチャーハンっぽくなっていたし……。
サンドイッチは、具材を切って、パンに挟んで出来上がり……。これは上手に出来たな。って具材を切っただけか……。
サラダも、野菜を切っただけ……。
揚げ物も教えてもらいたかったけど『手を揚げそうで怖いからまだ教えない』と言われてしまった。
手なんて揚げる訳ないじゃん、と思っていると雅くんの声が飛んで来る。
「オーブンからグラタン出してー」
「はーい」
言われるがままにオーブンの扉を開けると小さな空間に籠っていた熱気が勢いよく飛び出してくる。
中に鎮座するグラタンの表面にあるチーズはきつね色に焼け、ホワイトソースがグツグツと煮えている。
あつあつのグラタン皿へ手を伸ばした時だった。
「彩葉っ! ミトン付けろ!」
はっ、として手を引っ込める。指先が火傷する寸前だ。
「危ないだろ、疲れてるなら帰った方がいいんじゃないか?」
「ごめん雅くん」
「ほら、俺がグラタン出すから」
そう言って雅くんは私を優しく押してキッチンの端に連れて行った。
駄目だな、こんな事で……、と自分に呆れる。
上手くやろうとし過ぎて、全てが空回り。歩くんに喜んでもらいたいと思って始めた料理だけど、それだって私の自己満足に過ぎない。
それなのに内緒になんてして、歩くんに不要な誤解を与えている。
カツン、とヒールが夜闇に響く。
前にも後ろにも人がいない静かな住宅街。
ふと、寂しくなった。
会いたい。どうしようもなく歩くんに会いたい。
そうだ。明日、歩くんの家に行こう。そして全てきちんと話そう。
早く明日にならないかな、と見上げた先にはまあるい月がぽかんと浮かんでいた。
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