第2話
「結城ちゃん大丈夫? 飲み過ぎだよ、ほら帰るよ?」
ワインを水のように飲んだ結城さんの目が半分座っている。
「松岡、結城ちゃん頼む。先に外の風に当たらせてやってくれ。俺は会計が済んだらすぐに行くから」
「分かりました。じゃあ結城さん、外に出ましょう」
「松岡はん! もう格好悪いれすよっ!」
「はいはい、分かりました。そうですね」
「聞いてるんれすか? らめれすよ、ちゃんと頑張ってくらはいね」
「はい、頑張ります」
軽く受け流しながら、結城さんは酔ったら絡むのであまり近付かないほうが良い、と今後のために脳内にメモを残しておく。きっと会社の飲み会で役立つはずだ。
外に出るが八月の夜の風は生ぬるく、というより昼間の蒸し暑さが残っているのか汗が出てシャツが服に張り付く。そんな不快感が高まる中、酔った結城さんが立ったまま寝ようとしていた。
「ちょっと結城さん、起きて」
「…………」
こんな所で勘弁してくれと思いながら、倒れないようにと支えるが、自分の汗か結城さんの汗か分からない不快感を感じて眉を顰めた。
ああ無理だムリムリ。これ以上ムリ! 川辺主任早く来てくれと眉を寄せながら願う。
そんな時だった。
道路を挟んで向かいの歩道を歩く月見里さんと例の元カレを見たのは。
そして、その月見里さんと、視線が交わる。
お互い時間が止まったように、視線をそらせなかった。いや、僕はそらしたくなかった。
彼女の隣にいるのがたとえ大事な人であるのだとしても、僕の想いは変わらない。
ゴウとかいう奴が、おい、と月見里さんの肩を叩くと、月見里さんは、はっとしたような顔をして何もなかったかのように歩き出してしまった。
「お待たせ結城ちゃん、松岡?」
店から出て来た川辺主任が僕のただならぬ視線をゆっくり追うのが分かった。
「月見里?」
気付いた川辺主任が寝ている結城さんを支えると、早く行け、と促してくれた。
「ありがとうございます」
「おう、頑張れ! 俺は松岡を応援してる! まあダメだったら俺がまたヤケ酒付き合ってやるからな!」
「そうならないことを祈っててください」
「祈っててやるから行ってこい!」
「はい」
僕は駆け出した。暑いのも汗が出るのも構わずに、彼女を追い掛ける。
これだけは手放したくないと強く思うものと、向き合うために。
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