第249話 妖精王復活計画

「これは何の冗談だよマドック爺さん!! どうして、というよりどうやって<オーベロン>を復元させたんだ。クラウスさんが残したデータを使ったにしても完成が早すぎる!」


「ハルト落ち着いて! 私が頼んだの。お爺さまの地下研究所の奥に<オーベロン>の予備パーツが残っていて、それをマドックさんに無理矢理お願いして組み上げてもらっているのよ」


 突然目の前に現れた<オーベロン>に対して頭に血が上っていた俺にティリアリアが事情を説明した。

 それを聞いて頭から冷水を掛けられたように熱が急速に治まっていく感じがした。

 少しずつ冷静さを取り戻す中、再びこの状況を説明してもらった。


「――つまり予備パーツは<オーベロン>一機を造れる分が残っていたけど核であるフェアリエナジスタルやコックピット周辺は欠損していて、そこに<ティターニア>を組み込む仕様にして組み立てている、と。つまりはそう言う事なんだよな。どうして何の相談も無く……」


「言ったら絶対反対したでしょう? でも今は少しでも戦力が欲しい。だからマドックさんを説得して秘密裏に改修作業と組み上げをしてもらっていたの」


 ティリアリアの目は真剣だった。俺の腕を掴む彼女の手にも力が入り、心なしか腕が痛い気が……いや、気のせいじゃないマジで痛い。何かみしみしいってる。


「あいたたたたたたた!! ティア、力入り過ぎてる。腕が折れるぅ!!」


 ハッと我に返ったティリアリアが「ごめんなさい」と言いながら手を離す。彼女の握力は一体どれくらいなのだろうか? 軽くクルミを割れるのは間違いないだろう。

 もはや素手が凶器のレベルに達している。彼女の平手打ち一発で失神した記憶が甦り首の辺りが疼く感じがした。


 血の気が引いて黙っていると、それを怒っていると勘違いしたシェリンドンが慌てて詰め寄って来た。


「ハルト君、<オーベロンアーマー>の開発には私も最初から関わっているわ。責めるのなら私を責めてちょうだい。それであなたの怒りが収まるとは思えないけれど……」


「え? いや、最初はちょっと取り乱したけど別に怒ってなんて――」


「怒るのなら言い出しっぺの私を怒って。マドックさんもシェリンドンさんも私の我儘に付き合ってくれただけなの!」


「いや、だから怒ってないって……」


 それから暫くこの問答は続きやっとのことで誤解は解けた。

 俺が気兼ねしていたのはティリアリアにとって<オーベロン>は忌むべき存在だと思ったからであって本人が問題無いと言うのならそれで構わないと思っている。


「ティアは本当にいいのか? <オーベロン>には色々と思うところがあるだろ?」


「お爺さまが残した記録を観て、その想いを知って<オーベロン>が本当は『アルヴィス王国』……ううん、『テラガイア』の平和を願って生み出されたものだと分かったから迷いはないわ。生まれ変わったこの子と<ティターニア>の力で未来への道を切り開いてみせる」


 未完成の<オーベロンアーマー>を見上げるティリアリアの目には迷いは無かった。言葉の一つ一つにも強い意志が感じられる。


「本当に強くなったなティア……腕力は出逢った頃から怪物じみていたけど」


「怪物とは失礼ね。訓練の賜物よ。とにかく『クロスオーバー』との本格的な戦いに備えて急いで調整してもらってるわ。この子が戦力に加わればかなり楽になるはずよ」


 まさか『竜機大戦ヴァンフレア』のルート別ラスボスの中でも最強と恐れられた<オーベロン>が仲間になるなんて夢にも思わなかった。

 劇中では世界に絶望したティリアリアの悲劇性と相まってかなりの鬱展開だった。

 しかし現在目の前に映っているのは、自信たっぷりに胸を張るティリアリアと清浄な雰囲気の白色にカラーリングが変更された<オーベロンアーマー>だ。


 あの悲劇がこんなにワクワクする展開に変わるなんて思いもしなかったな。

 それにコアブロックの代わりに<ティターニア>を組み込むプランも面白そうだ。悲劇性が皆無と分かれば、後は強力な味方機が完成するのを期待して待つだけ。


 カーメル三世や他の転生者たちも<オーベロンアーマー>に危険性が無いと分かると安心した様子で飛空艇へと戻って行った。


 それから間もなくして『ドルゼーバ帝国』を乗っ取った『クロスオーバー』はその戦力を利用し世界中に大部隊を送り込み始める。

 その暴挙に対抗すべく俺たち『聖竜部隊』は世界中を奔走して戦う事になり、あっという間に数ヶ月が経過した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る